忍者ブログ

レイアース二次小説置き場 (Last One)

「魔法騎士レイアース」クレフ中心の長編小説を置いてます。

2020.01.19
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

2013.01.04
「……あなたが悪いのよ。……クレフ」

本文は、「つづきはこちら」からどうぞ。

――――――――――――――

「クレフ!」
立ち上がった時にがたん、と音を立てて椅子が倒れそうになったけど、そんなことに気を配っている余裕はなかった。こめかみをガンと殴られたように――殴られたことなんかないけど――頭がくらりとした。口をぱくぱくさせながら、光と風に視線を戻す。
「え?」
そこで、二人ともがきょとんとしているのに気づいた。
「『え?』 じゃなくて。クレフにすっごく似てない!?」
「似てないと思うよ、海ちゃん」
「似ていらっしゃいませんわ」
「え?」
今度は私が、きょとんとする番だった。あと何年か若ければ、「な、な、なんですってぇぇえ!」と叫んで二人に詰め寄っていたかもしれない。二人は、綺麗にそろった動きで、目の前に立つ男性の頭からつま先まで、視線を移した。光が躊躇いがちに言った。
「だって海ちゃん、クレフは子供の格好だったよ。この人、身長180センチ近くありそうだし」

それは、そうなのだ。この人の身長は、170センチ台の後半はある。体型は華奢ですらりとしていて、頭とか肩幅とか、手とか足とか、体のひとつひとつのパーツが小さくて、まるで鹿のようなイメージだ。手足は細いせいか、やたらと長く見える。その、プラチナブロンドというには白すぎて、白というには影がある髪は確かに銀色で、瞳はスカイブルーだった。肌は白くて、白いシャツに黒いエプロンの格好が似合っている。店員に違いないが、ウエイターとは服装が違う。そこまで考えて、やや冷静になった私はやっと思い当った。こっちが恥ずかしくなるみたいな色彩をもつ、南の島のビーチでスキップしていてほしいくらいな美形の男。かの人気のショコラティエは、この人ではないのか。
「で、でも。クレフが成長したら、ああなると思うの!」
ぱっと見た時、身長が違うにも関わらず、「クレフが成長して現れたのだ」としか思えなかったのだ。確かに少しでも冷静になってみると、そんなのありえないことは分かるけれど、どうしても認めたくない気持ちだった。
「う、うーん、そうかな。確かに似てる気はするけど、大人になったらどうかとか、想像つかないな」
光はじーっとその男を見上げながら、真剣に首をひねった。一方、彼はにこにこしている。その表情を見て、はっとした。壁に掛けられた絵じゃあるまいし、本人を前にして誰に似ているとか似ていないとか、相当失礼だったかもしれない。

「あ、あの」
ごめんなさい、と海が言おうとした時、間髪いれず風が口を挟んだ。
「申し訳ありません、ご本人を前に失礼いたしました。つかぬことをお伺いしますが、あなたの名前は何とおっしゃいますの?」
「ス……」
ストレートすぎよ風! 三人だけだったら、そう盛大に突っ込んでいただろう。
風の問いかけに、男の人がわずかに首を傾ける。それを、私は固唾を飲んで見守った。
「申し訳ありません。プライベートな内容は、店の規則によりお話できません……が、私の名前は『クレフ』ではありませんよ」
フライトアテンダントの女の人みたいに、完璧な笑みを浮かべて、彼はそう言った。
「それでは」風も笑みを消さずに答える。「このお店のチョコレートを作っていらっしゃるショコラティエは、貴方ですか?」
「ええ、それは私です」男の人は即座に頷いた。「初めてこの店にいらっしゃるお客さまの接客は、私がすることになっています。直接、感想などお伺いしたいですから」
「そうなんですのね」
聞かなくても、彼に向けられる周囲の熱い視線はビシビシと感じる。よく平然と笑っていられると思うくらいだ。

―― クレフじゃない、のね。
当たり前じゃないの。そう自分に言い聞かせながらも、思いがけないくらい落ち込んでいた。セフィーロにいるはずのクレフが、こんなところでチョコレート職人をしていて、しかも大人の姿になっているなんてありえない。そもそもこの人の印象はクレフとは違う。相手を立てる言い方、女性のように柔らかな物腰、どれもクレフではありえなかった。クレフは、745歳という年齢もあるのだろうけど指導者らしい威厳のある話し方をしたし、言動は子供の外見に似合わず男らしかった。

それにしても、この人はいつから私たちの後ろに立っていたのだろう。もしかすると、セフィーロの話をしていたころからいたのかもしれない。冷静になって来ると、いったいどう思われただろうと心配になってくる。しかしショコラティエの彼は、そんな心配を吹き飛ばすような綺麗な笑みを浮かべて、こう言った。
「ご注文は、いかがなさいますか?」

**

なにか、あたたまるものを。そう言っておすすめされたのは、ホットチョコレートとフォンダンショコラだった。光はホットチョコレートを、風と私はフォンダンショコラと紅茶を頼んだ。
「おいしい!」
光は、大きなマグカップを両手でそっと抱えるように持って、大事そうに飲んでいる。ほんわりと上がった湯気があたたかそうだった。
フォークでフォンダンショコラを真中から切ると、とろりと濃厚なチョコレートが流れ出す。香ばしさと甘さが混ざったチョコレートの香りが流れ出す。
「あら」
風と私は一口、口にして目を見合わせた。
「美味しいですわね」
「ほんと……」
一口食べただけで、甘いだけのチョコレートとは全然違うのが分かる。濃厚な味わいで、甘さと苦さが絶妙なところで混ざりあっている。スポンジの部分もしっとりしていて、口の中でチョコレートと絡み合って溶ける。フォンダンショコラは甘くて苦手だった私でも、これならいくつでも食べられそうだった。そして、こんな絶妙なバランスのフォンダンショコラは、私にはきっと作れない。
「いかがですか」
八割がた食べ終わったところで、背後からあのショコラティエに声を掛けられた。
「チョコレートって、こんなにおいしかったのね」
素直な感想が言葉になった。ショコラティエはにっこりと笑った。
「ありがとうございます。そう言っていただけると本当にうれしいです。……失礼ですが、甘いものはお嫌いですか?」
「え、どうして?」
「なんとなく、お客さまの顔を見ると分かってしまうんです」
甘いのが好きそうな顔とか、嫌いそうな顔と言うのがあるのだろうか? 分からないが、一流のショコラティエが言うのだからそういうものなかもしれない。
「もし本当にそうなら、あなたのような人には、あのコンフィズリーがお勧めですよ」
彼はそう言って、カウンターに置かれたお菓子を手で示した。瓶詰めになっているのは、ナッツだろうか。チョコレートが絡めてあるように見える。
「3種類のナッツをキャラメリゼし、チョコレートでコーティングしたものです。隠し味もあって刺激的な味です。コーヒーや、」
そこで彼は一旦言葉を切り、私の顔を見下ろした。
「……お酒にも合いますよ。よろしければぜひ」
どうしてだか分からない。私はろくに話も聞かないまま、コクリと頷いてしまった。きっとこれが別の説明でも、私は同じように頷いていたと思う。

***

その夜。私は、自分の部屋に閉じこもって、何とはなしに考えにふけっていた。あのショコラティエのことが頭から離れない。日本人でないことは間違いないが、どこの国の出身なのだろう。何歳なのだろう。そして名前は――

灯りを落とした部屋の中で、壁側に置かれた1メートルはある大きな水槽が、ひとつの生き物のように淡く光っている。その中には数多くの熱帯魚が泳いでいる。机に頬杖をつき、私は水槽を眺めていた。勝手にため息が漏れた。机の上にはコーヒーカップ。そして、あのナッツショコラの瓶を置いている。お酒と一緒にでも、とあのショコラティエは言っていたが、私はお酒に弱いのだ。一杯飲むだけでふらつくし、たった三杯のワインで記憶を飛ばしたことさえある。
「結局、うまく売りつけられたテイよね……」
そう独り言をいいながら、ひとつめを口に放り込んだ。

カリ、と音を立てて噛んだ途端、何とも言えない辛みが口の中に広がった。甘さ七割、苦み三割、辛みがほんの少し。それなのに辛さが際立ったのは、きっと舌が驚いたからだろう。
―― チョコレートと、キャラメルと……それから、これは、胡椒かしら?
チョコに胡椒を組み合わせるなんて面白い感覚だと思う。ブラックコーヒーと合わせると、バランスは更に絶妙だった。アルコールは入っていないはずなのに、なぜか酔ったような気持ちになる。

甘いと思っていたら苦い。苦いと思っていたら辛くて……でもやっぱり、とろけるように甘い。
食べ物で、こんな官能的な気持ちにさせられるのは初めてだった。胸の奥がじんと熱くなる。
――「『あなたのような人には』、あのコンフィズリーがお勧めですよ」
無意識のうちに、あの人の言葉を心の中でなぞっていた。そしていきなり我に返って、赤面する。

「……やだ」
私はいったい、何を考えていたんだろう。……官能的だなんて、いやらしい。
――「海さん」
別れ際に、さりげなく風に言われた言葉が頭をよぎる。
――「あの方、執事のようにマナーも言葉づかいも表情も完璧でしたが、ひと癖あると思いますわよ」
一体どうして、彼の物腰からそんなことを思ったのか、私には想像もつかなかった。

そして、それにもまして分からないのが、どうして私が気にかけているのを風が知ったのかということ。そう言われた時、柄にもなく狼狽したのに気づかれてしまったに違いない。
「……あなたが悪いのよ。……クレフ」
私は、水槽を眺めながら、ひとりごちた。
「あなたがいたら、あなたに似た人にこんなびっくりしないわよ」
クレフ。その名前はやっぱり甘く苦くピリリと辛くて、あのナッツショコラみたいだった。

3につづく

拍手[87回]

PR
Post your Comment
Name
Title
Mail
URL
Select Color
Comment
pass  emoji Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
  BackHOME : Next 
ブログ内検索
忍者アナライズ

レイアース二次小説置き場 (Last One) wrote all articles.
Powered by Ninja.blog / TemplateDesign by TMP  

忍者ブログ[PR]