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レイアース二次小説置き場 (Last One)

「魔法騎士レイアース」クレフ中心の長編小説を置いてます。

2020.01.20
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2012.11.10
海は微笑んで首を横に振った。
「なんでもないの。行こ、アスコット」

つづきはこちら からどうぞ。

――

「本?」
導師クレフは、異世界から一カ月ぶりにやってきた三人娘に対して、どこか上の空だった。目の前に魔法で出現させた、セフィーロの立体地図を横目でにらんでいる。セフィーロもさっきまで雨だったようで、雨上がりの空から、薄明かりが差していて城の中は明るい。クレフがいつもいる城の中心部は、天井が高くて明るく、海にいつも教会を連想させる。

「ええ。先日お貸しした本の返却期限が迫ってまいりましたので、一度お戻しくださればと思いまして。よろしければ、一度持ち帰ってまた借りてまいりますわ」
「いつもすまんな、フウ」
いつの間に、二人はこんなに親しく言葉を交わすようになっていたのだろう、と海は思った。クレフは杖を持っていない左の掌を宙にかざす。すると、音もなく何冊かのハードカバーの本が現れた。

「何かあったのか? 誰もいないし」
風が礼を言いながらクレフから本を受け取るのを横目に、光がきょろきょろと辺りを見回した。クレフの周りには大概プレセアやフェリオや、誰かしらがいたが、今は誰もいない。城の中はしんと静まり返っていて、これほど人の気配がしないのは珍しかった。

クレフは応える前に、軽くため息を漏らした。
「……魔物の数が最近、増えているのだ」
「魔物? なんで? セフィーロはこんなに平和なのに」
海は思わず声を上げた。クレフは、隣に浮かんだ立体地図を見やる。それは、海たちが一番最初に訪れた時に見た、エメロード姫が治めていた『セフィーロ』とは全く異なっていた。まず、格段に広い。そして、山はより高く谷はより低く、自然が荒々しくなったような印象もあった。

「新しい『セフィーロ』に、まだ皆慣れていないだけなのだろう。変化に対する『不安』が魔物を生んでいるのだ。ランティスやラファーガを筆頭に、力ある者は皆、魔物退治に散った」
「それで閑散としてるのね……よく、クレフは残ってるわね。一番に出て行きそうだけれど」
海は思わず思ったことを口に出した。セフィーロが崩壊の危機にあった時こそ城にとどまっていたが、それはとどまるほかない理由があったからだ。セフィーロが再生してからクレフはしょっちゅう出歩いていたし、もしかして新生セフィーロの地理に一番詳しいのはクレフかもしれなかった。クレフは思わず、というように笑った。
「なかなか私のことを分かっているな、ウミ。出て行こうとしたが、ランティスに叱られたのだ。私がここを離れては駄目だそうだ」

クレフが「叱られる」という言い方をしたのがおかしくて、三人とも笑った。誰にも何にも断らずに、ふらりと出て行こうとしたクレフを、すかさず呼び止める無表情なランティスが目に浮かぶようだった。導師クレフは魔物に対しては無敵だろうが、国の最高責任者でもある。何かあった時にすぐに情報が入るよう、国の中心部にいた方がよいということなのだろう。

立体地図を見下ろす光の目が、何だかきらきらと輝いている。
「どうしたの? 光」
「冒険……魔物……」
「また新しいRPGにはまってるの、光?」
「私が行く! 魔物を退治したらいいんだな?」
光ほど乗せやすい、分かりやすい人種はそういないと海は思う。誰もキーを入れてもいないのに、勝手にエンジンをかけて一気にフルスピードで走りだす車のようなものだ。
「こんなこと言ってるけど!? 風!」
「でも確かに、猫の手も借りたい状況のようですし、私たちが魔法を使えるのも事実ですし。皆さまが困っていらっしゃるなら、お手伝いしたいですわ」
風はいつも通り、にこやかに返した。おっとりして見えるが、その場の流れをしっかり読んで、客観的な判断を下せるのは三人の中では彼女だけだと思う。
「――わかったわ!」
海が一瞬答えをためたのは、人を助けるためなら無鉄砲になれる光や、本当は魔物でも傷つけたくはない風のことが頭をよぎったからだった。でも、二人は結局セフィーロのために戦うだろうし、海だって力になれるなら何だってしたい。

クレフは、少し困ったような顔をしていた。
「私が動かぬのに、おまえたちに苦労をかけてすまないな。……止めはしないが、少し待て。実はおまえたちがやってきた気配を感じたとき、こうなるだろうと思って何人か城に呼び戻したところだ」
「呼び戻した……? 誰を」
光が首を傾げた時、四人の上に人影が差した。
「おまえたち、随分速かったな。ちょうどお前たちのことを話していたところだ」
クレフが笑顔で、現れた三人を見上げた。

身軽に、部屋の上部の窓から飛び降りてきたのはフェリオだった。中空には漆黒の馬に跨ったランティスと、魔獣を連れたアスコットの姿が見える。
「頼りないが、護衛くらいにはなるだろう」
「やっぱり手厳しいですね、導師クレフは」
冗談だということは分かっているだろう、フェリオは肩をすくめて笑う。

「クレフ」
海は、クレフに歩み寄った。海には、クレフがその時、小さく首を横に振ったように見えた。しかしすぐに、ふわりと笑みを浮かべる。
「ウミは、アスコットと行け」
なぜだか分からないが、頬がさあっと赤くなったのを感じた。クレフの背後で、アスコットが嬉しそうな表情を浮かべるのが見えた。

―― そう。
そうなのね。心で頷く。アスコットが、海に手放しの好意を持ってくれていることには気づいていた。周りもそう言うし、アスコットの言動が明らかにそれを示していた。クレフは、それを微笑ましく見守っているのだろうか。海とアスコットが、光とランティス、風とフェリオのようにペアになればいいと。だから、アスコットを呼んだのか。

アスコットはいい子だと思う。クレフに何の悪意も作為もないのも分かっている。海がアスコットと二人で行くのが一番自然だし、ためらったりしてその場の空気を乱したくはなかった。そのためには、今自分が感じている引っかかりは、感じなかったことにするほうが良いのだろう、と自分を納得させた。
「……海さん?」
風が海を見つめる。海は微笑んで首を横に振った。
「なんでもないの。行こ、アスコット」
うん、と笑ったアスコットの方に向き直る。背中に、クレフの視線を感じた。

3につづく

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