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レイアース二次小説置き場 (Last One)

「魔法騎士レイアース」クレフ中心の長編小説を置いてます。

2020.01.25
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2012.11.10
「ウミ! 大丈夫!?」
駆けてきたのは、アスコットだった。

つづきはこちら からどうぞ。

――

「すごいわね……これが、『セフィーロ』」
アスコットが召喚した魔獣の背に乗り、セフィーロ上空を飛びながら海は感嘆の声を漏らした。
「今までの『セフィーロ』とは全然違うよね」
傍らにいたアスコットがそう返す。エメロード姫の時代のセフィーロは、葉の緑も花の赤も空の青も、全体的に淡い色合いをしていた。今でもそういう場所は多いが、時折砂漠やジャングルのような荒々しい自然も視界に入る。前のセフィーロが微笑みながら眺められる国だとすれば、今のセフィーロは目を見開くような場面も多かった。

「……でも、美しいですわ」
風がそう言った。彼女はフェリオと一緒に、アスコットが呼びだした別の魔獣の背に乗っている。更に向こうには、精獣に跨ったランティスと光の姿が見えた。
「見ての通り、今のセフィーロは広い。三組に分かれよう」
フェリオが全員を見渡して言った。ランティスと光が頷く。
「危険を感じたら、『心』で皆を呼び集めるんだ。もしその時間もなかったら、俺たちにはこれがある」
フェリオの掌の中には、導師クレフの瞳の色を写し取ったような、淡い青の宝玉が輝いていた。

**

海とアスコットは、一番手前の森を目指して下りた。空は所々青空が覗いているが、雲が垂れこめてきている。また雨になるのかもしれない、と海は思った。掌に、フェリオが持っていたのと同じ青い宝玉を握っていた。無意識のうちに、見つめてしまう。
―― 「これを持って行け。いざとなったら、これがあれば、お前たちをこの場所へ戻してやれる」
そう言って、光とランティス、風とフェリオ、海とアスコットに一つずつ、魔法で出現させたこの宝玉を持たせてくれたのだ。
―― 「これは何ですの?」
―― 「私の力を結晶にしたものだ。この宝玉のある場所は、どこにあろうと簡単に特定できる。最近、しょっちゅう森に探検にでかけて行方不明になる、腕白な子供たちのために開発したものだが……」
お前たちにも使えそうだな。そう言ってクレフは悪戯っぽく笑った。700歳を越えるクレフにとっては、セフィーロの子供たちも、自分たちも同じくらい「子供」に見えるのかもしれない。

同じような魔法を、クレフは以前にも使ったことがあるから、どんなものかは想像がついた。他国がセフィーロに侵攻し海たちがはるか上空で戦っていた時、危機に陥った海や風たちを、クレフが一瞬で城に連れ戻したことがあったからだ。一瞬頭がくらりとして、目を開けたらもう城内に戻っていた。そして、床に倒れたクレフを見つけた時のことを思い出し、海は胸がズキリと痛んだ。

あの時は、この宝玉はなかった。これがあればもっと簡単に呼び戻せるのかもしれないが――それにしても、人を何人も移動させるのが、簡単な魔法だとは到底思えない。あの時、一時的にとは言え気を失って倒れたことを、彼は気にも留めていないのだろうか?
「……無茶ばっかり、するんだから」
「えっ? なに、ウミ?」
小耳にはさんだアスコットが聞き返してくる。
「ううん、なんでもない」
海は慌てて首を振った。

あの時のことは、海の中でふたつの意味でトラウマになっている。一つ目は、クレフだって強大な魔法を使えば倒れるのだ、ということ。二つ目は、弱っている時の彼が、海を一切よせつけなかったことだ。目を覚ましたクレフは、海に抱き起こされているのに気づくと、ふらつきながらもすぐに起き上がった。立ち上がったものの視線は定まっておらず、無理をしているのは明らかだった。
―― 「その体じゃ無理よ。部屋まで送るから」
―― 「かまうな、しばらく部屋で休めば治る。お前たちも疲れているはずだ、自分のことを考えろ」
―― 「でも……」
海がおずおずと差しだした手は、踵を返したクレフの目には止まらなかったのかもしれない。でも、意図的に気づかないふりをしたようにも見えた。

―― 「導師クレフ!」
凛とした声に、クレフだけではなく、その場の全員が振り返った。プレセアが眉を吊り上げ、大股でクレフに歩み寄るところだった。二人の間には相当な身長差がある。たぶん無意識に、クレフが退いた。
―― 「そんなお身体で、お一人にできるはずがないでしょう! お部屋までお送りします」
―― 「いや、だから構うなと」
―― 「『お送りします』」
それでも断るなら、無理やりについて行くと言いたそうな声音だった。結局クレフは、それ以上強くは拒絶しなかった。クレフの自室に下がったプレセアは、ずいぶん長い間、部屋から出て来ることはなかった。眠るクレフに、ずっと付き添っていたのだと思う。

海には、そこまで強くクレフに言えなかった。もしかしたら、プレセアよりも強く望んでいたにも関わらずだ。「自分は、セフィーロの住人ではなくて、ただの『通りすがり』にすぎない」ということが、原因だとあの時は思っていた。でも違う、と今は海は認めざるを得なかった。セフィーロの住人であるとかそうでないとかは、どうだっていい。本当はただ、クレフに強くはねつけられるのが、怖かっただけなのだ。

今だって同じだ。

近くにいたくても、それを否定されるのが怖い。クレフと自分は「違う」のだということを、越えられない境界線を目にするのが怖い。だから、自分の思いすらも、なにひとつ口にできない。海は、自分の中でどんどん大きくなる「思い」に、自分でとまどっていた。

**

「……ウミ、大丈夫?」
しっとりと濡れた台地に降り立った時、気遣わしげなアスコットの視線を感じた。
「大丈夫よ! 元気、元気!?」
ぶんぶんと腕を振って、にっこりと笑って見せる。
「ううん、そういう意味じゃなくて、」
アスコットは、海が物思いにふけっていたことに気づいていたに違いない。でも、こんなことをアスコットに言えるはずはなかった。海はレイピアを手の甲の飾りから呼び出す。肩に担ぐと、アスコットを見上げた。
「手早くすませちゃいましょ。行くわよ」
そう言うなり、森に向かって駆けだした。雨に冷やされて少しひんやりとした空気は頬に心地よく、もやもやとした気持ちを吹き払ってくれる。ウミ! とアスコットが背後で呼びかけ、慌ててついてくる気配を感じた。

草が足元に茂っているが、走るのを邪魔するほどではない。数メートルから十メートルを越える樹木がうっそうと茂っている森の中に、海は踏み込んだ。ウサギのような生き物が慌てて飛んで逃げるのを目の端に捕える。森は、うっすらと霧に覆われていた。

地響きのような低い音が聞こえるのに、海は耳を澄ませた。魔物の唸り声だ、と何度か戦ったことのある海には直感的に分かる。ためらわず、レイピアを構えながら、そっちに走った。草むらが切れて岩場になり、数メートルの崖が目に入る。その前に、一匹の魔物の姿を捕えた。熊のようにずんぐりした体つきで、色も焦げ茶色だ。でも、口が異様に大きく、尖った牙がぎらりと光るのが見えた。魔物は、海の接近があらかじめ分かっていたようにこちらに向き直っている。
―― 大きいわね。
接近戦では不利だ。レイピアでは、あの巨体にぶつかって来られたら折れる危険もあった。海はその場に立ち止まった。そして、右手の指先を魔物に向けた。

「『水の龍』!」

何度も使ったことがある、海の最も得意とする魔法だった。竜巻状に渦を巻いた水流が噴き出し、一気に相手を押し流すものだ。しかし、いつも感じる、指先があたたかくなる感覚はまったくなかった。
「え……?」
海は自分の右手を愕然として見下ろした。力を、感じない。全く変化はなく、まるで「沈黙の森」にいるかのようだった。
「そんな……『水の龍』!」
ここでは、魔法は使えないのか? とすれば、いっこくも早くこの森を脱出しなければ。そう思った時、目の前に影が差した。
「しまった――」
ショックを受けていたせいで、魔物の接近に近づくのが遅れた。魔物が、飛びかかる前の肉食獣のように体を折り曲げるのが見えた。まずい、と思った時、
「迅風招来!」
一陣の風が、魔物を襲った。その風は鋭く鳴り、魔物の体を切り刻んだ。低い悲鳴を上げ、魔物は一瞬で姿を消した。

「ウミ! 大丈夫!?」
駆けてきたのは、アスコットだった。襲われているところが見えたのだろう、顔は蒼白になっている。
「え、ええ……、大丈夫よ。アスコット、今の魔法……?」
「うん。最近、教えていただいたんだ」
「そ、う」
とすれば、この場所で魔法が使えないわけではないようだ。とすれば、自分だけが使えないということか? 
「……ウミ?」
「いいえ。助けてくれて、ありがとう」
混乱しながらも、礼を言った。
「魔法、使わなかったの?」
「……久し振りで、うまく言葉がでてこなかったの。大丈夫よ」
海はとっさにごまかして、微笑んだ。しかし心の中は、不安でいっぱいになっていた。

4につづく

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