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レイアース二次小説置き場 (Last One)

「魔法騎士レイアース」クレフ中心の長編小説を置いてます。

2020.01.24
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2012.11.12
もう一度、クレフに会いたい。

つづきはこちら からどうぞ。

――

雨は、いつまでも止むことがないように、降り続いていた。大理石に似た石でできた椅子に腰かけているせいで、全身がしんしんと冷える。外気はひんやりと冷たかった。風がこれを見たら、
―― 女の子は、腰を冷やしてはいけませんわ。
そう言って叱るだろう。海はひっそりと微笑んだ。もうすぐ、光も風も帰ってくる。こんな元気がない顔を見せたら、心配させてしまうに違いない。

プレセアの部屋を出てから、ずっとここに座っていた。掌には、クレフの瞳色の宝玉を握りしめていた。薄暗い夕暮れの光の中でも、鈍く青い輝きを放っているクレフの一欠片。今、自分とクレフを繋いでくれている唯一のものだ。

「――決めた」
海は、自分に言い聞かせるように、つぶやいた。気持ちを伝えるつもりなど、ずっとなかった。伝えずにいられると思っていた。でも、魔法が使えない、という形になって初めて、思い知らされた。自分の心を、ごまかすことはできない。一旦気持ちを自覚してしまったなら、もう何事もなかったかのように終わらせることはできないのだ。

クレフがどういう反応を返すのかは分からない。困らせてしまうのかもしれない。それを一番怖いと思っていた。
――「あなたは誰かを自由に愛していいし、気持ちを伝えてもいいし、望んだっていいのよ。」
プレセアの言葉が、強く海の背中を押してくれた。
「……ありがとう、プレセア」
海は、ゆっくりと立ちあがった。その時、うっそうとした茂みの奥で、何か巨大な影がうごめいた。

「……魔物? こんな城内まで」
一体だけじゃない。海は息を飲んだ。茂みの中で何匹もの魔物がうごめき、こちらを窺っているのが分かる。いくつもの輝く目が海を狙っていた。海はとっさに、背後の城内を意識した。まだ、光たちは戻って来ていない。この状態で、こんな何体もの魔物が城内に侵入したら、大事になることは間違いなかった。居住区にいる人々と鉢合わせたら、怪我人だけではすまないかもしれない。

魔物は、私を狙っている。海は覚悟を決めた。
「こっちに来なさい!」
叫ぶと、雨が降りしきる庭に駆けだした。冷たい雨はあっと言う間に海の全身をずぶぬれにしたが、そんなことにかまっていられない。魔物が体の向きを変え、海に向かってくるのを、目の端にとらえた。

**

ぱしゃん、と音を立てて、海のブーツの足が水たまりを踏んだ。はぁ、ぜぇ、と息がはずんでいる。呼吸する度に、喉の奥がずきずきと痛んだ。ずぶぬれになった制服が絡みつき、よけい体が重く感じる。振り返ると、セフィーロの城が遠くに見えた。

「!」
振り返った瞬間、魔物が振り下ろした腕に気づく。体を低くして、転がるように避けた。振り返りざまに、力の限り叫んだ。
「『水の龍』!!」
しかし、やはり全く反応はなかった。海はぎり、と唇を噛み、魔物を見上げた。5メートルはある巨体で、顔には10個を越える数の目がついている。全身は毛むくじゃらで、両腕がアンバランスに大きかった。爪の長さと太さは、短刀くらいある。あれに刺されたら、ただでは済まないだろう。

追って来ている魔物は、一体だけではない。いくつもの地響きを耳にとらえ、海は一瞬、絶望的な気持ちになる。どんどん、城から離されていく。このまま、誰も知らないところでやられてしまうのか?
「嫌」
瞼の裏に、佇む彼の後ろ姿が浮かんだ。銀色の髪、色白の頬、蒼い瞳が次々と思い出される。
――「どうした、ウミ」
少年にしては低い落ちついた声、やわらかな気配。
「死にたくない」
もう一度、クレフに会いたい。海は、諦めかけた気持ちを奮い立たせた。魔法が使えない今、戦って勝つことは不可能。であれば、なんとか魔物から逃げきらなければならない。じり、と背後に下がった時、ブーツのかかとが濡れた木の根を踏み、同時にずるりと滑って尻餅をついた。

痛い、などと言っている場合ではなかった。右足首がずきりと痛んだが、構わず立ちあがる。その時、右の掌から、何かが零れ落ちた。クレフがくれた宝玉だ、と思った時には、反射的に手を伸ばしていた。
「危ない……」
地面に落ちた宝玉を掴み取った時、頭上に黒い影が差した。はっとして見上げると、魔物が2・3メートルはある巨大な足を、海に向かって振りおろすところだった。

踏みつぶされる。スローモーションのように、ゆっくりと足が落ちてくる。心臓がどくん、と一度打つ音を、やたらと遅く感じた。しかし、身動きするにはあまりにも短い瞬間だった。
「クレフ!!」
押さえこんでいた名前が、悲鳴と同時に迸り出る。ぽぅ、と宝玉が青い輝きを放った。

「稲妻招来!」

「力ある言葉」を、雨音の中に海は聞いた。はっ、として顔を上げる。目の前に、法衣がはためいた。直後、その場に炸裂した閃光に、背中を向けた少年の輪郭がくっきりと浮かび上がる。耳をつんざく轟音が後を追いかける。海が目を開けた時、その場にいたはずの魔物は、跡形もなく消え去っていた。

「……クレフ」
どうしてここに。一瞬で目の前に彼が現れたことに信じられず、ただ目をしばたいた。くるりとクレフが振り向いた。その厳しい表情を見て、怒られる、と海は反射的に身を縮めた。しかしクレフの険しい表情は、海に留まると同時に崩れた。
「ウミ! 無事か」
まだ光芒を放っている杖を手に、クレフは海に駆け寄った。
「え……ええ」
「よかった。もう大丈夫だ」
安堵のため息を漏らし、クレフが海の肩に手をおいた。クレフも雨にぬれ、前髪が額に落ちてきている。でも、そんなことは気にも留めていないようだった。もう大丈夫だ、と言われた瞬間、自分でも理由の分からない涙が、どっと目からこぼれおちた。

クレフは、まるで大人が子供にするように、ぽん、と海の頭をたたいた。そして、背後にちらりと目をやる。
「すまない、ウミ。少し待っていてくれ」
追い掛けてきていた魔物は一体ではなかったのだ、と思い出す。クレフは、海を背中に庇って立ちあがった。再び光芒を宿した杖を、現れた魔物たちに突きつける。
「氷流切刃!」
唱えると同時に、地面を裂き、いくつもの氷の刃が現れた。ぎらりと冷たく輝く先端が、次々と魔物を貫いていく。貫かれた魔物たちは、一瞬全身が凍りついたかと思うと、次々と砕け散った。アルシオーネが使った魔法に似ている、と見ていた海は思った。しかしその威力は、彼女が使ったものとは比べ物にならないくらい強かった。

もう大丈夫だ、と思った海が立ちあがろうとした時、クレフが前を向いたまま制した。
「まだ一体いる。今の一撃が効いていなかったようだ」
その声が、さっきよりも緊張感を増していることに海は気づいた。茂みの奥から、ゆっくりと首をもたげた影。それを見て、海は思わず、声を上げた。
「セレス!?」
透き通るような青い体を持つ龍が、ゆっくりと全身を現した。その体長は4メートル程度で、目の所が赤く光っていた。
「なに?」
クレフが振り返る。その途端、龍が氷の塊をいくつもクレフに向かって吐き出した。
「殻円防除!」
間髪いれず、クレフが魔法を唱える。氷の塊は、クレフが出現させたバリアに弾かれ霧散した。

「あれがセレスだというのか? しかし、魔神はもういないはず……」
「違う……セレスじゃない。あれは……」
その気配は、セレスとまったく違うとは言い切れない。でも同じでもない。その本質に気づけるのは「私」だけだ。
「あれは……私……?」
なぜだか分からない。しかし海には、鏡に映った自分を見るように、目の前の化物が「自分」だということに直感的に気づいた。
セフィーロに現れる魔物は全て、セフィーロの者たちの「不安」が具現化したもの。迷い、恐れ、悩んでいた行き場のない自分自身の「思い」を今、海は目の前の魔物の中に見ていた。

「魔物」に杖を向けながらも、クレフが戸惑っているのが伝わってくる。
―― 見ないで。
そう言いそうになった自分の言葉を、海は飲みこんだ。「魔物」が発した甲高い悲鳴のような吠え声が、強く遠く響き渡ってゆく。自分自身が押し込めていた悲鳴を聞かされている気がした。クレフにだけは、見られたくなかった。

「!」
クレフが、杖を引き、「魔物」が吐いた氷の刃をかわす。ただの魔物だと分かっていても、あれが海から生まれたものだと思えば、攻撃できないのだろう。クレフは、そういう人間だ。――そういうところを、好きになったのだ。
「ウミ! 城に向かって走れ!」
クレフの声が耳に届く。海は、ゆらりと立ちあがった。右足首が、ずきりと痛んでよろめいた。

――力が欲しい。
クレフの宝玉を、強く握りしめる。力が欲しかった。目の前の弱い『自分』を、吹き飛ばせるような。大事な人をこの手で守れるような力が欲しい。海は頬を流れていた涙をぬぐい、魔物を睨みつけた。

「『水の龍』!!」

その途端、全身を襲った衝撃に、海は自分を支え切れず背後に倒れ込んだ。両腕がびりびりとしびれていた。海が放った一撃は、巨大な水の龍の姿となり「魔物」を呑み込んだ。そして音を立て、凍りついてゆく。そして氷にひびが入り、氷塊は無数のかけらとなって飛び散った。

クレフは油断なく周囲を見わたし、もう魔物がいないのを確認すると、海に向き直った。
「大丈夫か。魔法は使えないと思っていたぞ」
「ええ。使えるように……なった、みたい」
えへへ、と笑った時、右足に走った痛みに顔をしかめる。
「全く、そんなずぶ濡れになって……なぜ私を呼ばなかった! 死ぬところだったのだぞ、ウミ!」
思い出したように怒鳴られたが、いつものように「怖い」とは思わなかった。その前に、心から心配してくれた顔を見てしまっていたから。
「ごめんなさい。……ありがとう、クレフ。あなたもびしょ濡れよ」
いつもの威厳がある姿と同一人物とも思えない。
「笑っている場合か」
そう呆れたように言いながらも、クレフもやっと微笑んだ。

7 につづく。もう少し!

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