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レイアース二次小説置き場 (Last One)

「魔法騎士レイアース」クレフ中心の長編小説を置いてます。

2020.01.19
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2013.01.12
「エメロードを殺したのは、お前か」

本文は、「つづきはこちら」からどうぞ。

――――――――――――――――――――

―― 後に遺すようなものではあるまい。
ザガートがそう言っているのを聞いたのは、あれはいつのことだっただろうか。とある絵師が、ザガートとランティスの絵を描きたいと申し出た時のことだ。ランティスは好きにすればいいと言ったが、かたくなにザガートが拒んだため実現はしなかった。結局ランティスは、兄の面影を残すものは何も持っていない。後にして思えばザガートは、自分が「罪人」としてこの世を去ることを、あの時からもう分かっていたのかもしれない。

「……似てる」
ゆっくりと歩みよってくるザガートの姿を見て、光が動揺を隠しきれない声で呟いた。確かに、久し振りに見る兄は、これほど似ていたかとランティス自身が驚くほどほどよく似ていた。目鼻立ち、肌の色、肩幅、そして雰囲気まで。

目の前にいるのが、死んだはずの兄だということ。彼が「魔法」を自分たちに向かって放ち、そして今も抜き身の剣を持っているということ。目の前に起きていることが映像として認識できても、理解できない。感情をうまく感じることができない。心のキャパシティをオーバーする出来事が、目の前で起こっている。ランティスは立ちつくしたまま、何を思うことも、言葉にすることもできなかった。

「……エメロードは、もうどこにもいない」
ランティスの問いに、ぽつりとザガートは呟いた。その声があまりに生前と変わらないことに、却ってランティスはぞっとした。まるで昨日会って、別れたばかりのようだった。
「それなのに、この世界に再び、現れる理由などない。私はただ、『呼ばれた』だけだ」
「呼ばれた……誰にだ?」
「直に分かる。そして、私は求められた。おまえたちとい戦えと」
「……え」
「……許せ。ランティス」
ゆっくりと、ザガートの剣が持ち上がり、まっすぐにランティスに向けられた。ランティスは一瞬、子供のようにその場に立ちつくした。特に馴れあうこともなく、心のうちを明かし合ったこともない兄弟であっても、兄の心を疑ったことは、一度もなかった。自分たちは兄弟なのだと、その絆は確かめるまでもないと思っていた。

「なぜだ……俺にはわからない! なぜ、俺たちが戦わなければならないんだ?」
何度尋ねても、きっともう、ランティスが納得する答えは返ってこないのだ。呆然としながら、ランティスはそれだけを悟った。ザガートの紫紺の瞳が光に向けられ、すぐにランティスに戻った。
「……ランティス」
「……なんだ」
「なぜ、その魔法騎士と共にいるのだ?」
その言葉には、何の感情もこもっていないように聞こえた。しかしランティスと光は、同時に立ちすくんだ。片や、兄を殺された男。片や、その兄を殺した女。どうして共にいることを選んだのか――無言の幾千もの針に貫かれるような思いだった。

スッ、とザガートの背後から、アルシオーネが現れた。その頬は歓喜に紅潮している。
「一度目は、あなたは勝利した。でも次は……どうでしょうね。お兄様に勝てて? ランティス」
まだ脳は、状況を咀嚼しきれていない。しかしランティスの戦士としての本能が、この戦いに勝ち目は薄いと告げている。ランティスが深い傷を負っている上に、二人ともこの数日の強行軍で消耗している。一方でザガートとアルシオーネの力は充実しているように見える上、普通の人間では致命傷となるような傷を負っても、すぐに回復する事が分かっている。そもそも、「倒せる」のかも判然としない。劣勢は明らかだった。

―― しかし……
ランティスは、ぎり、と唇を噛んだ。このまま、二人の目の前から逃げる気には、どうしてもなれなかった。どうしてザガートが自分に剣を向けるのか、一体何があったのか確かめなければ、いてもたってもいられないような気持ちだった。しかしそのまま黙っていれば、攻撃の的になるばかりだ。ランティスはためらいながらも、ゆっくりと剣を抜こうとした。しかしその手を、横から伸びてきた光の手が止めた。
「駄目……」
青ざめた顔で、光はランティスを見上げた。目が合うと、必死の表情でランティスの胸に手を当てた。
「こんなの、絶対に駄目だ! ザガートは、ランティスの兄様なんだろ? きょうだいで戦うなんて、そんなの悲しすぎる」
「! ヒカル!」
その瞬間、ザガートが剣を振り下ろすのを、ランティスは光の体の向こうに見た。考えるよりも先に、体が動いた。光を抱き上げ、その場から飛び離れる。ついさっきまで二人がいた場所を、衝撃波が奔り抜けた。激しい地鳴りと共に地面が割れ、数十メートル先まで亀裂が入る。光が、ごくりと息を飲んだ。それは、頭で考えていれば、到底かわすことのできないスピードだった。生きている時と、寸分力は変わっていない。手加減など、できるはずもない。逃げることすら難しいのをランティスは一瞬で悟った。
「分かってくれ、ヒカル。他に手段がないんだ」
剣を握った自分の手に、現実感がなかった。ずっと悪い夢を見続けているとしか思えない。
「でも!」
「それに、なぜ死者が再び現れたのか、原因を確かめねばならないだろう。『黒幕』は必ずいる」
「……ランティス」
その言葉と共に、光は思いがけず、抱きあげられた体勢のままランティスに抱きついてきた。兄と戦わなければならないランティスの苦痛を、少しでも和らげようとしているかのようだった。その温もりに、ランティスは一瞬、胸を衝くような切なさに襲われた。この温もりを絶対に、誰の手によってでも奪われたくはない。守るためなら、誰とでも戦えると思った。例え自分の中でどれだけ強固な常識が覆ろうとも、この娘と一緒にいたいと願う自分の気持ちは「本物」だ。
「共に『セフィーロ』に帰るぞ」
「うん」
―― ランティスは、覚悟を決めた。


「……精獣召喚」
剣を体の前にかざし、魔法を唱える。怪我を負った状態で、自分の足で奔るには限界があった。精悍な漆黒の馬が目の前に現れる。堂々とした体躯でランティスと光を守るように立ち、ザガートと向き合った。
「精獣召喚」
ザガートもまた、同じように剣を体の前に立て、魔法を唱えた。現れたのは、深い蒼色の被毛を持つ、美しいユニコーンだった。額には銀色の角が生え、瞳の色は主人と同じ紫紺だった。

ランティスは駿馬に跨った。ランティスと手綱の間に、光が身を滑り込ませた。一方、ザガートとアルシオーネがユニコーンに飛び乗る。駿馬は、ランティスの怪我にちらりと視線を走らせると、上空に舞い上がった。接近戦は不利だと状況から判断したようだった。しかしその行く手を阻むように、ザガートが一瞬で現れる。その巨大な剣を、上空から一気に振り下ろした。
「……っ」
ランティスはとっさに剣を抜き、ザガートの剣を受け止めた。痺れるような感覚が腕から上半身に奔り、脇腹が鋭く痛んだ。血がじわり、と傷口から染みだすのが分かる。ランティスは馬と共に退がったが、ザガートはそれよりも早く距離を詰めた。激しく何度も打ちこまれ、ランティスは痛みで目がくらんだ。冷徹とも言える、一分の情もない戦い方が、分かってはいたものの体以上に心に堪えた。これは完全に、「敵」を倒そうとする戦い方だ。このままでは守りきれない、そう思った瞬間、
「『炎の矢!』」
光が魔法を唱えた。飛び下がったユニコーンをよそに、ランティスは馬を高く空に向かって駆った。すると光は、馬の腹を蹴って馬から飛び降りた。

「ヒカル!」
思いがけない行動に、ランティスは驚いた。しかし光は空中で体勢を整え、大きく剣を振りかぶって、一気にザガートに斬りつけた。ザガートは剣を自分の体の前にかざして光の剣を受けた。光は自分の体重を使い押し込んだが、元々光は軽量だ。ザガートに分がある、そうランティスが思った時、
「『炎の稲妻』!」
光は立て続けに魔法を唱えた。アルシオーネが悲鳴を上げ、ユニコーンは空中で大きくバランスを崩した。ランティスは間髪入れず馬を駆り、急降下する。そして馬ごと、ユニコーンに体当たりした。ザガートとアルシオーネは、ユニコーンの背中から落ちるように飛び降りた。一方で光はランティスの馬に飛び移った。
「大丈夫? ランティス」
「ああ。無茶をするな、ヒカル」
「大丈夫」
そう言いながらも、光の息は弾んでいる。剣を振るいながらも、魔法を次々と放っているのだから消耗して当然だった。共に、長期戦になれば持たない。できることなら後一撃で決着をつけなければ―― 思っていることは一緒だった。

地上に降りたザガートとアルシオーネが、二人を見上げている。再び降下しようとした時、ランティスはハッとした。
「どうしたの?」
いぶかる光の言葉をよそに、上空を見上げた。どくん、と何かが鼓動を刻んだような気がしたのだ。同じ方向を見上げた光が、上空の『扉』に目をやった。
「……動いてる?」
確かに、扉はわずかに動いているように見えた。というよりも、どくん、どくん、と打つ脈動に合わせて、わずかに収縮を繰り返している。異変を察知したのはザガートとアルシオーネも同時だったらしく、『扉』を見上げている。その気配を追ったランティスは、『扉』に何か、異質な何かが溶け込んだ瞬間を見逃さなかった。まるで、熱湯の中に氷を落としたような、違和感。
「……誰かが、『扉』の中に入った」
「……え」
光がランティスを見た。

一体何が起こっていると言うのか、これが吉兆なのか凶兆なのかさえ分からなかった。鎧が擦れ合う金属音が響き、ランティスと光は同時に前方のザガートをにらんだ。駿馬はゆっくりと地上に降りる。カッ、と蹄が鳴った。戦いの最中というのが違和感を感じるほど、静寂を意識する。
「……あなたとちゃんと話すのは初めてだね、ザガート。一度、話してみたかったと、ずっと思ってた」
馬から降りた光が、ザガートをまっすぐに見て言った。ザガートは無言だったが、彼の目は光をとらえている。
「あなたはセフィーロの皆を苦しめたけど、今、あなたを責める人はいない」
「……だから、私達もあなた方を憎むなと、そう言うつもりなの?」
「違う」アルシオーネの声に、光はきっぱりと答えた。「ザガート、あなたを責める人がいないのは、ランティスのおかげでもある。ランティスは、ザガートのことを知らずに非難する人を決して許さず、誤解を解こうと努力してきた」
ザガートの視線が一瞬動き、ランティスに向けられた。しかし彼は、やはり何も言わなかった。
「あなたが今、何を思ってるのかは私には分からない。でも、ランティスに剣を向けるのは絶対に間違ってる。剣を納められないのなら、私に向けて。このままじゃ、取り返しがつかないことになる」
「あなた一人で、私たちの相手をするつもり?」
アルシオーネが嘲笑ったが、光は身動きせず、言い放った。
「黙ってて。これは、かつて命のやり取りをした……ザガートと私の問題なんだ」
「ヒカル」
「ランティスも。お願い」
余人が割って入れないような緊迫した空気が、ザガートと光の間に流れた。傍に立っていても、じりじりと消耗していくのが分かるような沈黙が流れた。人を殺すということ、殺されるということがこれほど、重い沈黙を生むものなのか。

「……魔法騎士よ」
沈黙がこのまま続くかと思われた時、ザガートが不意に口を開いた。
「エメロードはもうこの世界にはいない。気配を感じない。……エメロードを殺したのは、お前か」
「ザガート、それは……」
とても、黙っていられなかった。ランティスは光の前に出たが、光が一瞬早く答えた。
「……そうだ」
そうではないだろう、とランティスは言いたかった。確かに彼女を貫いたのは魔法騎士たちであっても、それはエメロード姫がそうしてほしいと懇願したからだ。死んで、ザガートの傍にいくことが自分の『願い』だと訴えたからだ。エメロード姫が己の死を望まなければ、おそらく命を落としていたのは魔法騎士の方だろう。

「……そうか」
ザガートの言葉は、静かに返された。しかしその次の刹那、ザガートの足元の地面が雷のような音を立て、次々と割れた。その全身にみなぎる「怒り」を、肌にビリビリと響くほどに感じた。光はその中で、揺らぐことなく立っていた。その細い小さな体の中に、どれほどそんな力があるのかとランティスは改めて驚いた。

ザガートは、剣の柄を両手で握り、天に切っ先をかざした。その先に、闇が集まってゆく。それは力を孕んだ光球となり、振り下ろされると同時に、地面を割りながら真っ直ぐに光へと突き進んだ。
「『闇衝招撃』!」
「『緋焔の舞』」
それに対して光が唱えた魔法は、ランティスも耳にしたことがなかった。ふわ、と一瞬起こった風が、一瞬のうちに炎を巻き込んだ赤い竜巻となった。それは、恐ろしいほどの熱量を放ちながらも、夢のように美しい光景だった。

闇と炎が正面からぶつかり、せめぎ合う。ランティスが息を飲んだ瞬間、闇が炎に吹き散らされた。
「あきらめろ、ザガート!」
光が叫ぶ。ザガートが唇を噛んだ。その表情に初めて現れた「感情」だった。
―― ザガート!
なぜか自分でも分からない。ランティスは反射的に、ザガートに手を伸ばそうとした。

しかしその手を遮るように、行く手にもう一人の影が現れた。
―― 『もう一人』だと?
ランティスが目を疑った瞬間。その人物が、巨大な杖をランティスと光の前に向けた。その杖に取りつけられた宝玉は、青い輝きを放っていた。
「……『殻円防除』」
突然現れた半透明の円形の壁が、ザガートに迫ろうとした炎をあっさりと霧散させた。

「……え」
光が、ザガートに向けていた腕を下ろした。そのまま、ふらりとよろめき、地面に座り込んだ。ランティスはそれを目の端でとらえながらも、動くことができなかった。
ザガートとアルシオーネが同時に膝を折った。二人の間に佇んだ人物をはっきりと目にした時の衝撃を、何と顕そう?
「……やはりなのか。やはり、あなたが『黒幕』なのか」
ランティスの声が震えた。
「あなたが『禁術』で二人を蘇らせたというのか? これがあなたの意志なのか。答えろ、導師クレフ!」
青いまなざしが、まっすぐにランティスと光を射た。

63. につづく

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