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レイアース二次小説置き場 (Last One)

「魔法騎士レイアース」クレフ中心の長編小説を置いてます。

2020.01.19
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2013.01.21
「……なぜ、何も言わないのだ、導師クレフ」


本文は「つづきはこちら」からどうぞ。

――――――――――――――

普段、薄紫色にも見えるクレフの銀髪は、周囲の炎の照り返しを受けて薄朱く染まっていた。それはランティスに、初めて会った時のことを遠く思い出させた。肌の色はあくまで白く、瞳はランティスよりも一段階明るい、輝くばかりの青だった。『セフィーロ』を凝縮したような、透明感に満ちた色彩をもつ人物。最高位の導師。彼が今、異国の赤茶けた大地に佇んでいることが、ランティスの目には違和感以外のなにものでもなかった。いるはずのない人物、いてはいけない人物が、今目の前にいる。我知らず、鼓動が早くなるのを感じていた。

――「やはり、あなたが『黒幕』なのか」
ランティスが先ほど口にした言葉に、クレフにとっさに駆け寄ろうとした光が足を止める。まじまじと見つめてくる視線を感じたが、今ランティスは、どんな顔をして光を見返していいのか分からなかった。それほどまでに、混乱していた。

クレフは、ランティスの問いには答えなかった。代わりに、ランティスに向けていた杖の先を天に向けた。いつものような微笑みも、優しい声もそこにはなかった。今初めてランティスと光に会うかのように、その目は無関心に見えた。その脇にザガートが恭しく膝をついている姿は、ランティスには見慣れたものだった。その隣には、ランティスの妹弟子に当たるアルシオーネが控えている。かつては、普通の風景だったのだ。ただし今は、決定的に違う。その二人は、もう死んでいるのだ。
―― 俺が狂っているのか?
その瞬間、ランティスは自分の記憶の全てを疑った。二人が死んだ、それは事実の筈だ。しかしそれなら、なぜクレフは当然のように二人と共にいるのだ? やはり……指し示す「事実」はひとつしかないのか。

「……ランティス」光が口を開いた。「今言った、『禁術』っていうのは何なんだ?」
光は構えていた剣の切っ先を、クレフが現れた瞬間に地面に向けていた。しかし、その剣を手の甲の宝玉の中に戻していないところに、彼女の葛藤が見え隠れしていた。光も、どうしたらいいのか分からないのだ。しかし分からないなりに、今起こっていることを掴もうとしている。ランティスはわずかに意識が理性に引き戻されるのを感じた。

「導師からかつて聞いたことがある。導師にしか使えぬという特殊な『魔法』で、己の弟子のコピーを創りだすというものだ。コピーには、本体と同じ記憶はあっても、完全な別物。遣い手である導師の意志が、コピーたちの行動を決定する」
「じゃあ……」光がこれほど愕然とした顔をするのを、ランティスは初めて目にした。「ザガートとアルシオーネが私たちを襲ってくるのは、クレフの意志だっていうのか?」
最後の言葉は、クレフに向けられていた。しかし彼は、光の視線を正面から受けても、微動だにしなかった。
「……なぜ、何も言わないのだ、導師クレフ」
自然と乞うような口調になっていた。師の沈黙が、何よりも恐ろしかった。

「うそだ。そんなの、信じられない。クレフが、私達を――」
光は剣の柄を両手で握ったまま、背後によろめきながら退がった。その小柄な背中が、ランティスの胸に打ち当り、止まった。光にとってクレフは、初めてセフィーロを訪れた時から今に至るまで、彼女たち魔法騎士を守り導いてくれた存在に違いないのだ。この世界で最も信頼している人物、と言ってもいいかもしれない。ランティスを見上げた光は、まるで道を失った子供のような顔をしていた。おそらく自分の今の表情も同じだろう、とランティスは考えた。
「クレフがそんなこと、するわけない!」
「他に可能性がないのだ! 信じられないのは俺も同じだ」
何者かがクレフに化けている可能性もある、と思おうとした。しかし気配や、離れていても感じる「磁場」のようなその力、全てが導師クレフ以外ではありえない。皮肉なことに、今やランティスほどクレフを間近に知るものはほとんどいなかった。そもそも、クレフでなければ、ザガートやアルシオーネを呼びだす『禁術』を使えるはずがない。

「……あれは、導師クレフだ。何者かに操られている可能性も否定できない。それか、何か他に理由があるのか」
導師クレフに接近していた怪しい者はないか、これまでの発言でそれを匂わせるものはなかったか、と懸命に思い出そうとしたが、何も思い当ることがなかった。近くにいながらも、750年近くを生きてきた師のことを自分は何も知らなかったのではないか――

――「ランティス!」
その時、ランティスの耳に鋭く、イーグルの声が響いた。光も同じだったらしく、びくりと肩を震わせた。
――「イーグル? イーグルなんだね?」
――「ええ、ヒカル。時間がありません。僕の言葉を聞いてください」
イーグルの声は、オートザム時代でも聞いたことがないほどに緊迫していた。
――「チゼータから逃げてください。導師クレフの気配は僕にはわからない――でも、今あなた達の目の前にいる三人が本気なのは分かります」
――「イーグル! でもあれは、導師なのだぞ!」
――「議論している時間はありません。このままでは殺されます!」

殺される。イーグルの言葉は、ぐさりとランティスの心に突き立った。
「馬鹿な」
クレフが、一歩ランティス達に向かって踏み出した。それと同時に、ザガートとアルシオーネも立ち上がった。イーグルの言わんとしていることは、ランティスには十分すぎるほどに分かっている。この三人の自分たちを見る目は、魔物を前にした時と同じだ。生かしてはおけない、倒すべき者を前にした、冷たい瞳――
「馬鹿な……」
この場に光がいなければ、自暴自棄になっていたかもしれない。ランティスは、自分の剣を見下ろした。それはいつになく、ずしりと腕に重く感じた。この剣で、一体どうしようというのか。師や兄と一戦を交えようとでもいうのか? しかし、この状態で何も分からないまま逃げるのも躊躇われた。

クレフの足取りが止まったのは、その時だった。ちらりと視線を上げ、上空を一瞥する。そこには、あの『扉』があった。漆黒の『扉』は、どくん、どくん、と脈動している。さっき、明らかに異質な『何者か』が『扉』の中に身を投じた気配を感じたのを、思い出した。刻一刻と大きくなりつづけていた『扉』は今、巨大化を止めているように思えた。
「……止まった?」
光も同じ事を思ったのだろう、怪訝そうに『扉』を見上げた。
「……導師クレフは、己の手で『扉』を止めようとしたのではないのか……?」
最後に会話を交わした時に考えていた予測を、ランティスは口にした。「誰も犠牲にはならない」と言った中に、クレフ自身は含まれるのかとランティスが問うた時、クレフは無言だった。その無言こそが、彼が命がけで『扉』を止めようとしているという証明だとランティスは思った。だからこそ、ランティスはチゼータに残ることを選んだのだ。
――「僕もそう思っていました。次の段階に『扉』が進むまで、あと一日しかないと言ってチゼータへ向かわれました。それなのに―― ランティス、『禁術』で自分自身をコピーする事はできないのですか? それなら、まだこの状況に説明がつきます」
――「……それは不可能だと聞いている」
イーグルの言いたいことはすぐに分かった。もしも『禁術』でクレフ自身のコピーを作れるのなら、本体は今、当初の目的通り『扉』の内部にいると考えられる。しかし、かつてランティスがそれを問うた時、クレフはきっぱりとそれを否定していた。

冷静に考えようとすればするほど、焦燥が思考の邪魔をする。クレフは「一人」しかいない。それならば今、『扉』の中に侵入した気配は何者なのか? そして、目の前にいるクレフはどうして自分たちに敵意を見せているのか。
チゼータを去れ、と強い口調でクレフに言われたことを、ランティスは思い起こしていた。あれは、それでも向かうつもりなら排除する、という意味だったのか――

――「冷静になってください、ランティス」
イーグルの言葉は、ランティスに言い聞かせるような口調になっていた。
――「現実は、導師クレフが『禁術』を使ったことしか指し示していない! あなただって分かっているはずだ。目の前に起きていることを見てください!」

「分かっている!!」
ランティスはその時、大声でイーグルを遮った。それ以上は、たとえイーグルの言葉であっても聞きたくはなかった。
「……ランティス」
光が、目に涙を湛えて、ランティスに身を寄せてきた。自分の体が、声が震えているのをランティスは感じていた。ざっ、ざっ、と足音が近づいてくる。無慈悲な足音だ、と思う。今まで、師のことをそんな風に思ったことなど、一度もなかったと言うのに。
「……これで最後だ、導師クレフ」
ここで死ぬわけにはいかないのだ、とランティスは自分を奮い立たせた。今の自分は、守るものなど何もなく、自分のプライドのために軽く命を捨てようとしていた子供時代とは違う。守るべき人が今すぐ隣にいるのだ。たとえ揺籃の師が失われても、座り込んでいるわけにはいかない。

ランティスは、剣を引き抜いた。そして、その切っ先を真っ直ぐにクレフに向けた。しかし切っ先は、カタカタと音を立てて震えていた。ここがセフィーロでなくてよかった、とランティスは自嘲気味に考えた。戦いたくなどないのだ。『願い』が全てを決める国であれば、勝てるはずのない戦いだった。ザガートが顔色を変え、クレフの前に出ようとした。しかしクレフは、わずかに手を上げ、ザガートを制した。
「導師クレフ」
ザガートとアルシオーネが禁術によって生み出された「コピー」でも、この人だけは本物なのだ。ランティスは、まっすぐにクレフを見た。
「ずっと、あなたを唯一の師と仰いできた。あなたも、俺に信を置いてくれていると信じていた。それなのに――」
数メートル先に佇むクレフの姿が、霞んだ。

「『裏切る』のか?」

クレフは、その場に立ち止まったまま、動かなかった。吹き抜けた熱風がその純白の法衣を朱く染めてゆく。その大きな瞳に、炎が反射していた。返答を諦めた時、クレフが口を開いた。

「私には、『願い』がある」

ランティスは、とっさに口を利けなかった。
「願い……?」
光も驚いている。その言葉を口にしたのがクレフ以外の誰かだったなら、驚くことはなかっただろう。しかし、セフィーロの化身のように、国の存続と人々の安寧だけを願ってきたと思っていた「導師」クレフの言葉とすると、にわかに信じ難かった。
「あなたの『願い』とは、なんなのだ?」
「それを聞いて、どうするつもりだ」
「それが何であれ、俺は受け入れる。頼む、導師クレフ」
ランティスは、構えていた剣を地面に投げ出した。頭では戦わなければならないと分かっていても、心が悲鳴を上げていた。
「もう、やめてくれ。俺は、あなたとはどうしても戦えない」
「……ランティス」
クレフは、ふわりと微笑んだ。

その微笑みは、いつものクレフの笑みと何も変わらなかった。
「……クレフ」
光がほっとした表情を見せ、一歩クレフに歩み寄ろうとした時、
――「逃げてください、ランティス、ヒカル!」
イーグルの声が脳裏を貫いた。

「ヒカル!」
ランティスは反射的に、光の細い胴を抱き締め、引き戻した。その目の前で、ザガートが二人に剣を向けた。同時に、クレフが青く輝く杖の先を向けた。剣と杖が交錯する。カシッ、と金属製の音がランティスの耳にも届いた。
「ランティス、剣を……」
光がランティスの腕の中で、剣の柄を握り締める。ランティスの剣は、ちょうどザガートと光の中央に投げ出されていた。今すぐ飛び出せば拾えるか―― しかしランティスの目は、クレフの姿に釘づけになっていた。
「……一体、どういうことだ?」
ランティスはぽつりと呟いた。
――「何をしているんです! ランティス、早く……」
――「今、分かったんだ。イーグル、あれは……」
続けようとしたランティスの言葉は、敢え無く掻き消された。
「銀爆殺襲!」
クレフとザガートの声が、重なった。同時に、闇色の巨大な球体が生まれる。球体の表面に、音を立てて稲妻が奔っていた。それは、弾丸のような勢いでランティスと光に迫った。ランティスは光を抱いたまま、とっさに背後に飛び下がる。横へ避けても、巻き込まれるとなれば、他に選択肢はなかったのだ。

その球体は地上と接触すると同時に、大爆発を起こした。「銀爆殺襲」―― ザガートが最も得意とし、ランティスにはついに引き継がれることがなかった最強の攻撃魔法のひとつだった。ザガートが主体で唱え、同時に複唱したクレフは増幅魔法を唱えたに等しい。その威力は天地を裂くかと思われた。地面に亀裂が入り、石榴のように口を開いた崖が姿を現した。巨大な建物と同じくらいの大きさの岩が、ぱっくりと口を開けた崖に呑み込まれてゆく――

ランティスは崖に落ちる直前で、岩を右手で掴んで踏みとどまった。全身は宙に浮き、足の下は底も見えない崖下だった。
「ヒカル!」
ランティスは左腕で抱き締めた光を見下ろした。しかし、さっきの衝撃で体をぶつけたのか、がくりと全身の力を抜いたまま気を失っていた。
「ヒカル、起きろ!」
右手で掴まっている岩は、数秒の間にも崩れてきている。光だけでも、そう思った瞬間、岩はランティス達の体ごと崖下へと落下した。ぞっ、と全身の肌が粟立った。とっさに光を胸の中に抱き締める。二人の上に、無慈悲に巨大な岩が降り注いだ。そして二人は、漆黒の崖下へと一直線に吸い込まれた。


第六章 完


65 につづく

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