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レイアース二次小説置き場 (Last One)

「魔法騎士レイアース」クレフ中心の長編小説を置いてます。

2020.01.24
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2013.01.24
「……マスターナ。あなたは『預言者』だと自分のことを呼んでいますね」

本文は「つづきはこちら」からどうぞ。

――――――――――――――――

何を迷うことがあるんだ。イーグルは迷いを振り払おうとした。

ランティスと光は、イーグルにとって何者にも代えがたい人だ。「親友」ではなく、「仲間」とも違い、「戦友」でも「ライバル」でも「恋人」でも言い尽くせない。ほんとうにたいせつな人との関係には、型にはめられるような名前はないのだと思う。二人のことを思うと、心臓が掴まれたように痛んだ。

確かに崖に転落し行方不明になったが、あの二人なら十分、生存の可能性はある。しかし、楽観できない状況であることも確かだ。FTOなら一日かからずにチゼータに辿りつける。そうすれば、二人の命を救えるかもしれないのだ。もしも今、二人を見捨ててチゼータに言って、その後二人が死んでいたとしたら、一生後悔することになる。

それに引き換え、オートザムはかつて自分が一度、ランティスとの命と引き換えに見捨てた国だ。自由に息もできず、マスクなしには外にも出られない、大気が毒に冒された瀕死の国。人々が心を失いつつある国。そして、生まれながらの指導者であり、実力者でありながら傲慢な「あの男」が率いる国。それなのに……いや、「だからこそ」イーグルはオートザムを愛している自分に気づいた。

三年前の自分はこんなに迷わなかった。何が一番大切か、はっきりとこの目に見えていた。それでは今、自分の目は曇ってしまったのか? イーグルは心中で問いかけ、首を横に振った。チゼータが滅び、国土のために涙しても、国民のために生きようとするタータとタトラを見た。セフィーロを愛し、圧倒的な敵の手から国を守り抜こうとしたフェリオやラファーガの隣で戦った。そんな姿を見ながら、イーグルは確かに「羨ましい」と思ったのだ。母国を持ち、母国を愛し、母国を守ろうとする彼ら彼女らのようになりたかった。

「……イーグル」
フェリオが、心配そうに見守る視線を感じた。視線を向けると、フェリオは頷いた。
「どちらに行くのも、おまえ次第だ。イーグルが決めたことなら、俺たちは尊重する」
「……僕は、この三年間で、変わってしまったようです」
イーグルは微かに微笑んだ。そして言葉を継ごうとした時、部屋の扉が遠慮がちにノックされた。
「誰だ?」
フェリオの声に、
「ヴォーグ・モーガンだ」
太い声が返した。フェリオとアスコットが反射的に身構える。イーグルとザズは顔を見合わせた。ザズは、当惑した表情をしている。無理もない、母国に帰れば二人は同じ組織で働く軍人なのだから。

イーグルは、少し前にヴォーグが第五塔から出て行く気配を、感じていたことを思い出した。それにしても、いつからドアの向こうにいたのか、と気になった。心が完全にチゼータに囚われていたためか、ここに来る気配を全く感じ取れなかった。
「……大丈夫です。彼が第五塔から出られたのは、セフィーロに対して悪意はないからでしょう」
イーグルは全員を振りかえった。
「彼を部屋に入れてもかまいませんか?」
「ええ」
短く、しかししっかりした声で返したのは、今まで黙っていたタトラだった。イーグルは頷き、
「どうぞ」
とヴォーグを部屋に招き入れた。


入って来たのは、身の丈が2メートルに迫る、逞しい体格の大男だった。年のころは、もう五十代にはなるだろう。しかしその体からは全く衰えが感じられず、鋼のように鍛えられているのが、纏った服の上からでも分かった。鷹のように大きな鋭い、灰色の目をしていた。彼はイーグルに視線をやり、感慨深げな顔をした。
「イーグル・ヴィジョン総司令官。しばらくお会いしないうちに、父上に似てこられましたな」
「いきなり御挨拶ですね」イーグルはにっこりと微笑んだ。「あの男と僕を一緒にしないでください」
「いったい、何の用なんだ」
フェリオが、険しい声でヴォーグに問うた。敵意を見せればただでは済ませない、という気迫がその全身から立ち上っている。
「失礼ながら、話はドアの外で聞かせていただいた」
ヴォーグはその視線をフェリオに向けた。フェリオが一瞬、ぐっと体に力を込めるのが見ていたイーグルには分かった。ヴォーグの気配に圧されそうになったのだろう。実際、三年前のヴォーグは、肉体的にも、精神的にも軍で一・二を争うほどに屈強な男だった。
「それで?」
イーグルはヴォーグを見返した。ヴォーグは一瞬置いて切り出した。
「私が、オートザムの使者に立ちましょう」
「……俺たちが、おまえを信じると思うのか?」
風が不安そうに、そう言ったフェリオを見つめている。当然だろう、とイーグルは思った。ヴォーグがオートザムでフェリオ達を裏切れば、フェリオ達はオートザムで孤立無援になる。ジェオはいるはずだが、全く連絡をつけられない状態だ。最悪、戻るための足も確保できず、オートザムと運命を共にする可能性も少なくないのだ。

ヴォーグは、フェリオに視線を戻した。
「信じて欲しいとは思わない。しかし、我らとて道理を知る人間だ。もはや独力でオートザムが滅亡から逃れることは不可能で、他国の援助を受けるほかないのは分かる」
「……他国に頭を下げ助けを乞うことが、オートザムにできるのですか?」
不意にタトラが、鋭い声で問いかけた。
「オートザムには科学力、セフィーロには魔法、ファーレンには豊かな農耕文化、チゼータには歴史があります。オートザムは科学力こそ全てを凌駕すると信じ、その思想は外交面で随所に表れていると感じてきました」
その声は、ヴォーグだけではなく、イーグルとザズの心にも刺さらずにはいられなかった。ヴォーグはその言葉は予測していたのだろう。動揺は見せなかった。
「我らが護るべきは、次の世代だ。次の世代に、人が住めるオートザムを受け渡すことだ。さきほど、あなたと対峙した後、私はずっとそのことばかりを考えてきました。そして、この結論にたどり着いたのです」
後半の言葉は、イーグルに向けられていた。ヴォーグには、まだ幼い息子がいるのだ、と不意にイーグルは思い出した。全く表情には出さないが、今彼の頭の中を、息子の姿がよぎっているのは間違いなかった。
「大統領は、決して自分の考えを変えませんよ」
「……だからこそ。あなたを今オートザムに発たせたくはない理由になるのです」
はっ、とした。ヴォーグの考えていることが、その言葉を発した時の眼の色で明確に分かったからだ。オートザムを守るには他国に頭を下げるほかなく、同じ考えを持つ国民は少なくはないだろう。それでも、大統領は己の意志を変えない。となれば、国民が立ち上がり、大統領を失脚させるほか生き延びる手はなくなるのだ。ヴォーグは必要とあれば、自分がその役を買ってでるつもりなのだろう。そして、クーデターを起こした本人は、一時的に支持を集めても、汚れ役でもある以上、遅かれ早かれ非難の的となる。その時に、実力は卓越している大統領の血を引き、かねてより人望も厚く、汚れ役に手を染めていないイーグルが戻ってくれば、国の新しい指導者となり得るのだ。

「いつかオートザムに戻り、あの国を救ってください。イーグル・ヴィジョン総司令官」
ヴォーグは、黙りこんだイーグルの肩に手を置いた。

――「全ての者が幸せになれる結末などないのだ、イーグル」
もうずっと思い出すこともなかった父の声を、イーグルはふと聞いた気がした。
――「全てを選ぶことはできない。全ての選択肢の中からただ一つを選択できる者が『願い』を叶える」
そう。選べる未来は、たった一つしかない。


**


どの国が長らえ、どの国が滅びるのか。誰が救われ、誰が貶められるのか。イーグルが目を閉じた時、闇になった視界の中で、じっと見つめて来る誰かの視線を感じた。反射的に目を開けると、マスターナの視線をぶつかった。なぜか、理由も分からないままぞっとした。
「……あなたが、オートザム大統領にセフィーロの進軍を進言した『預言者』ですね」
「なに……」
イーグルの言葉に、ヴォーグが驚きの声を発した。ザズが知っていたくらいだから彼が事情を知らないはずはないが、さすがに顔までは知らなかったのだろう。セフィーロの人々はもちろん、チゼータも、オートザムも、マスターナに厳しい目を向けた。
「いったいなぜ、そのようなことをしたんですか。あなたの『願い』は何なのです」
「……未来の『行き筋』を、変えることや」
マスターナは、静かにそう答えた。非難を浴びても全く揺らがない意志を感じ、イーグルは彼をまっすぐに見返した。
「あなたの目には、どんな未来が見えているんですか?」
「……チゼータ、オートザム。……セフィーロ、ファーレン」
眉をひそめた一同を前に、マスターナは淡々と続けた。
「国が滅びる、順番や。このまま行けば、この世界の国々はすべて滅亡する。それが、俺が知る未来や」
「な……にを、言ってるんや」
タータの声が震えている。マスターナは、彼女を見やり、ゆっくりと首を横に振った。一度も外したことが無いと言う預言者の言葉。世迷言と切り捨てるにはあまりに重かった。

マスターナは、自分が一同に与えた衝撃に気づかないように、同じ口調で語り続けた。
「預言の通りに、世界は動いてる。俺はそれを何とか、変えたかったんや。どんなことでもいい、一石を投じることができたら、未来は大きく変えることができるかもしれん。……あんな最後を、迎えんでも済むかもしれんと思ったんや。でも、無駄かもしれんな」
その言葉にわずかに、自嘲の色が混ざった。
「チゼータは滅亡し、導師クレフはセフィーロを去り、自分を愛する人を『裏切った』」
「クレフは裏切ってなんかいないわ」
静かに否定したのは、プレセアだった。決して大きな声ではないがその言葉は重く、静まり返った部屋によく通った。しかしマスターナは、何も答えなかった。

イーグルは、マスターナに視線を据えた。
「あなたの預言では、僕はこれから、どうすることになっているんですか?」
「チゼータへ行く」
よどみなく、マスターナは答えた。
「……僕が行かなければ、未来を変えることになりますか?」
「なるな」
イーグルは言葉を止めた。マスターナが、ほろ苦く笑った。
「でも、行くんやろ。それが滅亡への道筋を辿る行為かもしれんと分かっていても」
イーグルは、頷いた。頷くと同時に、様々な迷いが吹き散らされていくのを感じた。マスターナは目を閉じた。
「でも、行くんはあんた一人やないけどな」
「え?」
「すぐに分かるわ」
イーグルは、フェリオに向き直った。フェリオは頷いた。
「さっき言った通りだ。オートザムは、俺とラファーガに任せてくれ。ランティスとヒカルを頼む」
イーグルは次にヴォーグを見た。彼も、ゆっくりと頷いてみせた。セフィーロも、オートザムも滅びさせたくない―― 一瞬心に強く突きあげてきた思いに押され、イーグルはひとつ、喘いだ。


その時だった。話を聞いていたタトラが、マスターナを見た。
「……マスターナ。あなたは『預言者』だと自分のことを呼んでいますね」
「ああ」
「自ら未来を見る『予言者』ではなく、他人から預かった言葉を伝える『預言者』……そういうことですね」
え、とタータが言葉を発し、マスターナを見た。彼は、大きく目を見開いたまま、固まっていた。彼が驚いた態度を見せるのは、初めてのことだった。
「未来を変えようとしているのはあなたではなく、あなたの背後にいる『誰か』なのではないですか? 一体、何者なのです」
「何者って……」
「預言者」であるマスターナが、問い詰められている。それは、さっきまでとは逆の光景に見えた。
「すまんな。名前も聞いたことはないんや。何者かも知らん」
その言葉は、タトラの問いに答えたに等しかった。視線を落としたマスターナの頬は、どこか淋しそうな微笑みを湛えていた。
「知ってるんは、別嬪さんや、ていうことくらいや。あの娘を俺は、自由にしてやりたい」

67 につづく

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