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レイアース二次小説置き場 (Last One)

「魔法騎士レイアース」クレフ中心の長編小説を置いてます。

2020.01.19
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2013.01.29
「今夜は、一緒にいてあげて」

本文は「つづきはこちら」からどうぞ。

――――――――――――――

ざわざわと闇が揺れる気配がした。窓枠に手をかけて、身軽に窓の外に身を乗り出す。まだ肌寒い風が頬を打つのが心地よかった。まるで、水の中にいるように息苦しい。動きがとれないようなもどかしさに、闇の自由さが恋しくなる。

いったい何が、これほどまでに自分の中で変わってしまったのだろう?
闇からは返事は返ってこない。その代わり、大きな鳥がざわざわと羽音を立てて飛んでいくシルエットが見えた。遅れて、ホーホーと声が届いた。

サバサバした女だと、昔からよく言われていた。確かに、めったに落ちこむことはなかったし、稀に落ちこんでも次の日には綺麗さっぱり忘れていた。
――「重い気持ちを抱えてたら、軽やかに舞うことなんかできんやろ。うちは、踊り子やから」
そんな風に言っていたが、結局はそういう性格なんだろうと思っていた。でも、最近は別のことも考える。鳥が高く軽やかに飛べるのは、下に大地があると知っているからかもしれない。

気づけば、両親はいなかった。気まぐれで自分を産んだのだろうと、カルディナは疑っている。顔も思い出せない母親は、カルディナの前に現れた時と同じように、気まぐれで彼女の前から去っていった。子供のころから周りに愛されていたから、面倒を見てくれる人に困りはしなかった。でも、誰にもなつかない、猫のような気性に育った。いまだに行方知れずの両親を恨む気はない。誰かに、特別な何かを求めたことなんてないからだ。初めから求めないから、満たされなくても何も思わない。でも最近は、少し違うのかもしれないとも思う。誰かに特別ななにかを求めたことがないのは、相手から拒絶されるのが、実は誰よりも怖いからかもしれない。

自分の心なのに―― カルディナはため息をついて、窓枠から手を離した。自分のことなのに、わからない。世の中で一番理解不能なのは、赤の他人よりも自分のことなのかもしれない。遠くにいれば全体像を見るのは容易いけれど、近くにいるほど見えないのと同じようなものだ。

あてもなく廊下を歩いていた。ぶらぶらと両手を振って、子供のように歩いた。あてもない、というのは嘘だった。ラファーガが、もう部屋に戻っているだろうことはわかっていた。部屋に帰り、彼と話したい。でも一体何を? 泣いて、オートザムになんか行かないでくれと懇願するか。それとも、祖国を失ったばかりなのに、恋人も失うかもしれない自分の身になってみてくれと掻きくどくか。
「―― ないわ」
カルディナは頭を掻いた。そんな態度を取れる女がある意味、うらやましいと思った。自分にできるのはせいぜい、「そうなん」と頷いて、「無事に帰ってこんと、浮気するで」と言って笑うくらいのものだ。でも心は、張り裂けそうなくらいに痛い。戦争で旅立つ男、待つ女。古くから数えきれないほど繰り返されてきたことだろうに、女性は皆、どうやってこの気持ちと折り合いをつけているのだろう。不器用な自分が、嫌になる。

ふらりと、中庭に出た。繊細な花柄が描かれたタイルが床一面に敷かれ、その上には柔らかな緑の蔦が這い、色とりどりの花が咲いている。中央には、人の背丈ほどの噴水があった。吹き上げられた水が頂点で弾け、星の光で銀色に輝いている。噴水の前にカルディナに背を向けて佇み、水面に掌を置いている人を見て、カルディナは笑顔で声をかけようとした。しかし、その横顔を見て、どきりとした。

プレセア―― いつもの半鎧姿ではなく、柔らかな布地の白いワンピースをさらりとまとっている。星の光が、大きく開いた背中に当たっていた。微細な粒子が集まったように、その背は白く輝いて見えた。背中から腰にかけての曲線が、同じ女ながらゾクッとするほどに美しい。黄金色の髪は波打ち、腰に流れていた。いつも見慣れているのに、後姿だけでも思わず、見とれた。最高位の創師であるという立場や、その戦闘能力からは想像もつかないほど、普段着の彼女はたおやかな雰囲気を持っている。カルディナにとってプレセアは親友であると同時に、知っている人物の中で最も女性らしい、憧れのひとだった。

プレセアは、その黄金色の瞳を噴水の水面に落としているようだった。ちらりと振り向いた頬は、陶器のようにきめ細かく白い。星の光を受けてか青みがかってさえ見えた。淡く紅く色づいた唇の端が、ゆっくりと上がった。
「なあに、カルディナ。私の顔に何かついてるの?」
「嫌やな」
ついカルディナは反射的にそう返していた。見とれているところにいきなり声を掛けられて、かなり動揺していた。
「気づいてるのに、気づいてへん振りかいな」
「あなたこそ、私に気づいているくせに声をかけなかったでしょう」
「お互いさまやな」
顔を向けて、笑いあう。

「何、考えてたん?」
プレセアの隣に並んで、カルディナは問うた。並んで立つと、プレセアはカルディナよりもかなり身長が高い。
「エメロード姫のことを考えてたのよ」
「エメロード姫?」
思わずカルディナは声を上げ、プレセアは頷いた。
「昔のセフィーロも、今と負けず劣らず、綺麗だったわ。あの国を創り守られていた姫は、本当に、不幸だったのかしらって」
「幸せでは……なかったんちゃう?」
自然と声が小さくなってしまう。エメロード姫に残っているイメージは、彼女のことをあまり知らないのに泣き顔ばかりだ。
「ごめんなさいね。責めてるわけじゃないのよ」
プレセアはカルディナを見返し、微笑んだ。エメロード姫が苦しんだ原因に、カルディナは無関係とはいえなかったからだ。
「私がもし『柱』で、大切な人がいたら、どう思うかしらって思っていたのよ。大切な人が生きる『世界』を自分が創っている。傍を吹き抜ける風にいつでもなれるのよ。私はきっと、泣かないと思うわ」

「……あの後、なにがあったん?」
カルディナは遠慮がちに聞いた。クレフに思いを伝えるかどうか悩んでいたプレセアの背中を押したのは自分だ。でもクレフは、おそらくプレセアと会って程なく、セフィーロからいなくなってしまった。そしてプレセアの泣き崩れる背中を見てカルディナは、茫然とその後ろ姿を見つめることしかできなかったのだ。いつも気丈な彼女がこれほどまでに絶望する姿を、カルディナは初めて見た。
「しばいてええよ」
「え?」
プレセアは目を丸くした。
「だって、うちのせいなんやろ? うちがいらんこと言ったから」
「違うのよ。あなたのせいじゃないわ」
プレセアは、顔の前で手を振って笑った。
「そもそも私、導師クレフに気持ちを伝えることも、できなかったの」
「そうなん?」
その返事は、カルディナにとって意外だった。クレフに告白したけれど思いは届かなかったから、プレセアがあんなに落ちこんでいたのだと想像していたからだ。

プレセアは噴水に手をかけた。噴き上がる銀色の水が、大きな造り物のような瞳に映っている。じっと彼女の姿を見つめていると、夜の深さを、静けさを、絶えまない水の音を自分に迫って来るように強く感じた。その静寂にカルディナが耐えられなくなる直前に、プレセアは振りかえった。波打つ髪が、さらりと揺れて闇の中に輝いた。
「伝えてもいないのに、振られちゃったわ」
そしてカルディナを見返し、清々しい笑顔で微笑んだ。その表情は、今まで見たことがないほどに美しく見えた。
「絶対だと思ってたものを、失うのは一瞬だってあなたは教えてくれたわね。その気持ちが、とてもよく分かったわ」
そこまで言ってプレセアは、また目を丸くした。そして慌てて、カルディナの肩に手を置いた。
「どうしてあなたが泣いてるの?」
「あの若づくりの爺さん、次会ったらしばいたる……」
『柱』になったら、大切な人の傍を吹く風になれたらいいと言ったプレセアの気持ちが、カルディナには急に腑に落ちた。自由に人を愛することができても、通じない思いがある。傍にいてほしいと願っても、かなわない願いがある。微笑めるようになるまでに、どれだけプレセアは泣いたのだろう。

「導師クレフはもう、ここにはいないわ。でも、彼の言葉はここにあるの」
プレセアは、そっと胸に手を置いた。
「『覚えておいてくれ。私はいつも、おまえたちのことを想っていると』」
「そんなん、あかんわ。なんでもうちょっと足掻かんの。追っていったらいいやん」
食い下がったカルディナに、プレセアは首を横に振った。
「駄目よ。セフィーロを頼むと言われたもの。私は、クレフの言葉を信じるわ。たとえ、何があっても」
「……それは、ほんまにあんたの『願い』なん?」
「そんなのは、誰かのための自己犠牲だ」。そう言いそうになって、カルディナは思いとどまった。プレセアは本当は、クレフに愛されたいはずだし、傍にいたいはずなのだ。それは、気持ちを打ち明けた時のプレセアの顔を思い出すまでもなく明らかだ。それなのに、クレフが言ったからセフィーロに残り続けるなんて、自分の気持ちに嘘をついているのではないか。少なくとも、本当の『願い』だとは思えなかった。

「そうね」プレセアは噴水の縁に手を置き、上がり続ける水の柱を見上げた。「創師となってクレフと時間を共にするようになる前は、私には譲れない『願い』があったわ。こうなりたいと思う姿もあった。でもクレフといるうちに、そんな気持ちはなくなっちゃったわ」
「なくなったって……」
「私は確かに以前は、自分にしかない『願い』を叶えて、理想の自分に出会いたかったのよ。でも心の底では、同じくらいの強さでこう思ってた。自分のことなんてどうでもよくなるくらいの『何か』に出会って、自分の人生を破壊してみたいって。子供の時の願いを持ち続けて、夢をかなえて死ぬのは素敵かもしれないわ。でも、人生で多くの人や物に出会いながらも全く影響されなかったってことでもあるのよ。それって、ある意味幸せで、ある意味不幸なことよ」
「導師クレフが、あんたの人生を壊したってことか?」
「壊して、また創り上げてくれたわ」
「納得いかんわ……」
「私には分かるわ。壊さなければ新しいものは創れないって。私は『創師』だもの」
「……あんたは、勇敢や」
そう言うと、プレセアはふふっと含み笑いをした。その表情がなんだかあどけない子供のようで、カルディナは言おうとした言葉が全て抜け落ちてしまうのを感じた。最後の瞬間に、「自分の決めたことを貫いた」と言うか、「思いもよらないところへ辿りついた」と言うか、それだけの違いなのかもしれない。しかし少なくともカルディナは、後者の方が好きだった。

「……たぶん、あんたは間違ってへんと思うで」
しばらくして、カルディナはプレセアを見た。
「導師クレフが今どこで、何をしてるんか、うちには分からん。こんなんなってるセフィーロを見捨てて、一体どこでなにをしてはるんやか。でも、これだけは確かやと思うで。あのお方は、セフィーロを見捨てるようなことがあっても、あんたのことは絶対に、裏切らへん」
プレセアはその場に固まり、唇を引き結んだ。
「だからあんたも、導師クレフの言葉を、信じてたらええ」
感情を押さえるように無表情になったプレセアの貌が、泣きそうに崩れた。カルディナはポンポンとプレセアの肩をたたいた。

プレセアの肩を抱き寄せながら、カルディナはエメロード姫のことを想い浮かべていた。
セフィーロのため、そこに生きる人々のために祈り続けた彼女も、確かに自分の『願い』はかなえられなかったかもしれないが、決して不幸なばかりの人生ではなかったのかもしれない。そう思うと、少しだけ救われた気持ちになった。
「……ラファーガに、会わなくていいの?」
不意に切り出されて、カルディナはぎくりとした。カルディナの肩から顔を上げたプレセアは、微笑んでいた。
「今夜は、一緒にいてあげて」
「……うん」
何ももう、取りつくろう必要はないのだと思った。カルディナは、こくりと頷いた。

69 につづく

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