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レイアース二次小説置き場 (Last One)

「魔法騎士レイアース」クレフ中心の長編小説を置いてます。

2020.01.20
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2013.02.12
「ひとつだけ。ひとつだけ、うちの言うこと聞いて」

本文は、つづきはこちら からどうぞ。

――――――――――――――――

鏡のように曇りひとつない刀身に、自分の顔が映っている。物思いにふけっていたラファーガは、はっと我に返った。戦いの時ではなくても、刀を手にしている時には気を抜くなと、かつて師に教わったことを思い出して気を引き締めた。鍔を押さえ、刀身に緩みがないか確かめる。長年使い続けていた剣は、普段腕の重さを自覚することがないのと同じように、体になじんでいる。剣を鞘におさめ、ふう、と珍しくため息をついた。

オートザムへ旅立つまであと二時間。そして、オートザムへ到着するまでには三日かかると言う。何日分の旅の支度が必要だろう、と考えてみて、自嘲せずにはいられなかった。オートザムが滅亡するまであと一週間という状況なのだ。フェリオと自分が目的を果たそうが果たすまいが、長居をする可能性はゼロだった。これほど先が見えない旅に出るのは、初めてのことだった。

セフィーロの森へと魔物討伐に向かう時、いつもかいがいしく世話をやいてくれるカルディナの姿は部屋にはない。当然か、と思う。いつまでも一緒にいようと結婚を切り出した矢先に、彼女を置いてオートザムへ発つというのだ。しかも彼女が精神的に不安定な状態であると知りながら。怒っているのならまだいいが、きっと深く傷ついているだろう。

カルディナを愛しているかと尋ねられれば、迷いなく頷く。なぜかと聞かれれば、理由などないと返すだろう。それぞれが別々に生まれ、紆余曲折を経て出会った経緯に理由など無いのと同じことだ。敢えていうなら、「そう決まっていた」とでも言うべきか。今となれば、カルディナがいない日常を、ラファーガは想像もできなかった。愛を言い交わす必要もなければ、派手なドラマもいらない。それほどに、カルディナの存在は、ラファーガの心の中にあった。でもそれと同時に、今オートザムへ向かおうとしていることも、彼にとっては変えることなど思いもつかない「必然」だった。カルディナが仮に泣いてオートザムに行かないでくれと言っても、自分は考えを曲げないだろう。

今までの人生で数えきれないほどの岐路に立ってきたが、どちらの道を行けばいいのか思い悩んだことは一度もない。行ける道はひとつしかなく、答えも常にひとつしかない。したがって、悩みを周りに打ち明けたことなど皆無で、周囲からは石のような心の持ち主だと言われてきた。石のように心が強いという反面、自分の考えを変えず柔軟性が無い、という意味でもあるのだろう。

―― しかし、これで良いのか?
ラファーガはそこで初めて、自分に問いかけた。カルディナを愛していることと、オートザムへ向かうと決めたことは、矛盾してはいないか。世界の安定を取るのなら、例え命を賭けても今、オートザムへ行かねばならない。一方で、カルディナへの愛情を取るのなら、命の危険を冒すわけにはいかない。ラファーガが戻らなければ、カルディナはどうやって、その先一人で生きていくのだろう。石のようだと言われてきた心が、今になって痛んでいる。この状態で、カルディナにどう言葉をかければいいのか浮かんでこなかった。その時、かすかな音をたてて、背後のドアがひらいた。

カルディナは、歩く時に足音を立てない。その立ち姿、歩き方、ちょっとした一挙一動にいたるまで、無駄のない滑らかな動きは戦士のそれと似ている。踊り子として鍛錬を積むうちに自然とそうなったとカルディナは言っていたが、生半の熟練ではないだろう。日常では全く努力している素振りは見せないが、裏では血のにじむ努力があったのだろうとうかがわせる。

カルディナは、開いたドアに手をかけて立ち、ラファーガを見下ろしていた。彼女には珍しく、その顔には表情がなかった。輪郭が全体的に、少し細くなったように見える。ラファーガは剣を椅子に立てかけて、立ちあがった。
「カルディナ……」
呼びかけると、彼女は音もなく歩み寄ってきた。そしてラファーガの眼前まで近寄ると、こつん、とその頭をラファーガの胸にぶつけて、止まった。ふわりと、いい香りが彼女から漂った。
「うちが、行かんといてって言っても、あかんの?」
「……そうだ。私は、オートザムに行かねばならない。この世界で、一人でも多くの者の命を救うためだ」
その表情は、深くうつむいているために伺えない。しかし、桜色の髪の先が、細かく震えていた。彼女を何とか慰めようと疼くこの心を、取り出してそのまま彼女の前に見せられればと思う。話そうとすればするほど言葉は本心から遠ざかってしまうような気さえする。
「大勢の人の前には、うち一人のことなんて、脇においておけるん?」
「カルディナ」
今やごまかしようがないほどに、心が痛んでいた。自分がカルディナを泣かせている―― 彼女を救いたいと思いこそすれ、悲しませたくなどないのに。どれほど強い攻撃よりも、その事実はラファーガの胸に堪えた。

「あんたは、何があっても、自分の考えを曲げんもんな」
ラファーガは、そう言った彼女の顎を指先で捉え、顔を上げさせた。その拍子に、カルディナの目にいっぱいに溜まっていた涙が、頬にこぼれおちた。
「ひとつだけ。ひとつだけ、うちの言うこと聞いて」
「……なんだ」
「うち、ラファーガとの子供が欲しい」
「……なにを……」
それはあらゆるラファーガの想定を越えた彼女の「願い」だった。ラファーガが思わず身じろぎすると、カルディナは細い両腕をめいっぱいに伸ばして、ラファーガに抱きついてきた。抱きつくというよりも、しがみつくような必死さがあった。二人の体格差は、大人と子供くらいはある。ラファーガが背中を腕に回すと、彼女は涙に咽せながら、ラファーガの胸に引き寄せられた。
「お願い」
ラファーガを見上げたカルディナは、性急に口づけてきた。少しでも早くひとつになりたいと言うように、割れた唇から舌が忍び込んでくる。小動物を思わせるような薄い、小さな舌はラファーガの中で小刻みに震えていた。

恋人となってから、いったい何度抱いたか分からない体だった。彼女の裸身は、まるで香水をつけているようにいつも薫っていた。それを指摘すると、母親の腹の中にいる時から、様々なチゼータの香水に囲まれていたから、香りが体に染みついているのかもしれないと言っていた。彼女の体は、全てが媚薬のようだった。細い腕や足に絡みつかれ、生まれて初めて自制がきかなくなる感覚をおぼえた。

それなのに今、カルディナから迫られて口づけられても、ラファーガの中であの感覚は蘇ってこなかった。代わりに、幼い子供にすがられたような気持ちが次々と湧きあがってくるのに彼はとまどった。愛おしい、抱きたいと思っても、それは情欲とは全く別のものだった。腕の中で涙を浮かべ、彼を失う恐怖におびえているカルディナは、幼い少女のようだった。
「突然、何を言い出すのだ。カルディナ」
「……あと二時間後には、うちらは離れ離れになってしまうんやろ」
カルディナは震える声で続けた。
「あんたが帰ってこんかったら、あんたと一緒に過ごした日々が全部、うちの頭の中だけの出来事になってしまう。あんたがいた証拠が何もなくなってしまう。……そんなん、なかったんと同じや」
「そんなことはない」
「でも、チゼータはそうなったやん!」
カルディナは叩きつけるように、突然声を荒げた。涙しても、一度も弱音を吐かなかった彼女の言葉は、鋭くラファーガの胸をえぐった。

「……だから、証拠が欲しいのか」
「自分のために子供を望む、勝手な女やっていうのは分かっとる。でも……このままじゃ、あんたが戻らんかったら、うちは一人で生きていかれへん」
「カルディナ」
声が自然と荒くなった。カルディナは目を爛々と光らせて、ラファーガを睨み返してきた。こんな時なのに、美しい、と思った。
「死ぬのは許さんって言うつもりやろ? じゃあ、生きる理由をうちに頂戴」
沈黙が、二人の間に落ちた。涙を流しながらも、カルディナは退かない。ラファーガも微動だにしない。気が遠くなるような静寂の中、不意にラファーガが動いた。強く細い肩を掴み、小柄な体を腕に抱きあげる。肩を掴まれた時カルディナは、痛みにわずかに眉をひそめたが、観念したように目を閉じ、抵抗しなかった。

ラファーガはカルディナを横抱きにしたまま、大股に寝室へと歩みよった。そして、真っ白なシーツが引かれた上に、彼女と共に沈みこんだ。スプリングが軋み、仰向けになったカルディナは強く目を閉じていた。
「……」
しかし、その場に続く沈黙に、そっと目を開けた。
「ラファーガ……?」
「おまえの気持ちは、よくわかった」
ラファーガは、カルディナを胸に引き寄せると、その髪を撫でた。
「必ず、どんなことをしても生きて戻る。約束する。戻ってきたら……共に、家族を築こう」
抱いてしまえば、生還できない可能性を認めることになると思うと、そんなことはできなかった。それに、今の怯えきっている彼女を、ほんの少しでも傷つけたくはなかった。
「……苦しめてすまない。でももう少しだけ、耐えてくれないか」
細くなってしまった背中を、撫でつづけた。黙っていたカルディナは、不意に顔を上げて、ラファーガを見上げてきた。
「……しょうがないな、あんたって人は。ますます、惚れてしまうやん」
そして、少しの空気も認めないというように、強く抱きしめあった。


70 につづく

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