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レイアース二次小説置き場 (Last One)

「魔法騎士レイアース」クレフ中心の長編小説を置いてます。

2020.01.19
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2013.02.18
「今夜は、帰りません。そのつもりでここに来ました」

本文は、「つづきはこちら」からどうぞ。

――――――――――――――――

「痛てっ……」
フェリオは顔をしかめ、手にしていた本を机の上に置いた。人差し指を見やると、爪の傍の皮膚が薄く1センチほど切れ、血がにじんでいた。
―― 「『もっと、やさしく持って』って、紙が言っているのよ」
不意に、やわらかな声が耳をかすめた気がして、フェリオは物思いに沈んでいた顔を上げた。
「……姉上」
あれは、一体いつのことだっただろう。まだ姉と一緒に暮らしていたころだから、かなり昔の話だ。今と同じように、紙で指を切って顔をしかめていた時に、そう言われたのだった。そして、絆創膏を指に貼りつけてくれた。
―― 「ほんとに、紙がそんなこと言ってるのか?」
確か、何ともいえず納得がいかなかった気がする。子供のことだから、言われた言葉もほどなく忘れてしまった。それなのに未だに、紙を扱う時には丁寧にと意識するようになったから、習慣とはおそろしいものだ。もう亡くなって何年も経つ姉の言葉が、今でもフェリオの中に無意識のうちにも生きている。それは嬉しいと同時に、切なく哀しいことでもあった。

命がないものにも、まるで命があるかのように優しく扱う姉だった。『柱』だった母親との接点がほとんどなかったフェリオにとってみれば、姉であると同時に、母でもあったのだ。そのエメロードが次の『柱』となり、会うことが滅多になくなった時には本当にさびしかった。『柱』という職業に、姉を取られたように思ったのだ。

『柱』となったエメロードは、たまに会う時には以前と変わらぬ物腰で接してくれた。しかし、どこか淋しげだった表情を覚えている。明るく光に満ちた外界、幸せそうに日々の生活を営む人々を、まるで銀幕を眺めているように、遠い目で見守っていた。手が届かない風景という意味で、エメロードにとってみれば、それは確かに、映画の一幕と変わりはなかったのだろう。

だから、だったのだろうか。フェリオが城を空け、森をさまようようになったのは。「王子」は、自分が望んで手に入れたわけではない地位だった。だから、王子であることの利益を甘んじて受ける気はない。逆に、その重責を背負うつもりもないと王には伝えていたが、本当はそうではなかったのかもしれない。ただ、姉を助けることができない自分から逃げようとしていただけなのかもしれないと、今になると思う。

闇のない光はない。光が輝くほど、闇も深くなる。セフィーロを創り続けたエメロードは、最後の最後で全てを滅ぼそうとした。完全な人間はおらず、幸せの量も不幸の量も、光も影も、そのひとの人生の最初と最後でつじつまが合うようにできているのではないかとフェリオは思う。強い人間ほど弱く、固い意志を持つ人ほど脆い。それなのにその真実に誰も気づかない。どれほど崇め奉られようが、世の中に神などいないのだ。姉を成す術なく亡くした後、自分はもう二度と、姉のように自らを犠牲にする人を出すまいと誓ったのだ。それが、償いになると思っていた。

それなのに――
「……導師クレフ」
彼がひとりで一体何を選択し、これからどうするつもりなのかフェリオにはもう分からない。しかし、彼はエメロード姫と同じ道をたどろうとしている――そう思わずにはいられなかった。人々に信じられ、絶対と崇められていたために「崖」に追いつめられた。エメロード姫を知るフェリオなら、クレフが心の底に抱えていたに違いない苦悩に気づかなければならなかった。それなのに、あまりに彼が完全な存在だったから、クレフなら何でも可能なのだと勝手に思いこんでしまっていた。

――俺は馬鹿だ。
あれほど痛い思いをしながら、自分は何も分かってはいなかった。自分で選んだわけではないと「王子」としての立場を放棄し、自由なセフィーロの空気を楽しんでいた。いつかは、重責を背負わなければならないと覚悟をしていながらも、その日を先延ばしにしていたのは否めない。クレフは、一体どんな気持ちで、全ての重責を背負っていたのだろう。そう思うと、フェリオの心は自責の念に痛んだ。

――「もう二度と、誰かが『柱』である重責を担い、心が引き裂かれるさまを見たくはない」
かつて、滅亡を目前にしたセフィーロで、クレフがプレセアに語った言葉を思い出す。
―― それは、あなたのことじゃないか。
人の苦しみにばかり敏感で、自分の苦しみには気づかない。そんな不器用なところが姉とそっくりだ。微笑みを湛えながらも、どこか淋しそうだった彼の横顔が胸をよぎった。

導師クレフを救いたい。
彼がランティスと光を攻撃したこの状態でさえ、フェリオのクレフへの信頼は揺らがなかった。クレフを救うなど、今の未熟な自分には無謀なのかもしれない。でももう、先延ばしすることなどできない。やるとしたら今しかない。そのためになら――あれほど疎ましく思っていた「王子」にだって、なってやる。

その時、扉がノックされた。はっ、と顔を上げる。そして、額にいつの間にか浮かんでいた汗を拳で拭った。
「……フェリオ。私です」
「フウ」
肩の力が抜け、フェリオは我知らず長く息をついていた。どれほど全身に力が入っていたのかも、声をかけられるまで気づかなかった。部屋の外にいても、その気配には気づいたのだろう。風の声が心配そうな声音に変わる。
「……どうされました? 入っても?」
「ああ、もちろん」
フェリオは立ちあがり、ドアを開けた。


◇◇◇


フェリオは、風を部屋に導き入れた。
「良かった、探しに行こうと思ってたんだ。あと、出立まで二時間しかないんだ」
風の視線が、開いたバッグや散らばった服に向けられる。
「何か、お手伝いすることはありますか?」
「いいさ。そんなことよりも、おまえと話がしたいからな」
フェリオは椅子に腰かけ、向かいの椅子を視線で指し示した。しかし風はベッドの前に立ち、まっすぐにフェリオを見下ろしてきた。

「……フウ? どうかしたのか」
風は、押し黙ったまま動かない。その視線がいつになく思い詰めたもので、フェリオも吊られるように立ちあがった。顔色は悪く、青ざめてさえいる。
「フウ」
右手を取ると、その細い指先は冷え切っていた。
「どうしたんだ。具合が悪いのか?」
ふるる、と風は首を横に振った。
「じゃあ……」
「今夜は、帰りません。そのつもりでここに来ました」
「……え」
風の体が近づいた。右手の指がフェリオの指に絡められる。顔が近づき、涙を湛えたような風の大きな瞳が迫る。ズキン、とどこかが痛んだように思った時には、風の唇がフェリオのそれに押しつけられていた。

フェリオから口づけたことは数あれど、逆は初めてのことだった。
「……フウ?」
「あなたが好きです」
風の声は、初めて聞くかのように掠れていた。その声の震え、かすかな吐息がフェリオの耳をくすぐる。
「ほかに、気持ちを伝える方法がわからないんです」
絡めあった右手をほどき、風はフェリオの右手を取った。そして、彼の手首に自分の手を添え、その指先を導いた。きっちりとボタンが止められた襟元に指が触れた時、フェリオはようやく、風が何を自分に望んでいるのかが分かった。その瞬間、全身が覚えのない感情に、わずかに震えた。

「フェリオ……」
フェリオの掌の下で、風の胸が忙しなく鼓動を打っている。まるで掌の中に捉えた小鳥のように柔らかくて、必死で、握りつぶせば全てが消えてしまいそうだった。その瞬間、全身にこみ上げた、獰猛とも言える衝動に、フェリオは自分で戸惑った。何をどうすればいいか分からないままに、風を強く抱きよせ、その背中を左の掌で強く撫であげた。びくりと風の全身が震える。とっさに身を引こうとしたのを捉え、何度も何度も口づけた。細い肩から、まとっていたカーディガンを滑り落とす。ぱさり、と音がした時、風はもう一度震えた。

熱に浮かされたような頭の中で、どこか冷静に、風の背後にあるベッドを意識していた。風の襟元のボタンに指をかけ、不器用にひとつ、ふたつ、と外してゆく。白いレースが、開いた胸元にちらりと見え隠れした。その時、フェリオは唐突に、手の動きを止めた。
「……フェリオ」
風の両肩を掴み、自分からゆっくりと引き離した。
「……震えてるじゃないか。『体』は悲鳴をあげてるんだ。無理しなくていい」
彼女の目に浮かんでいる涙は、恐怖によるものだ、と分かっていた。どんな魔物にも怯えない彼女が、フェリオに怯えている。全身に広がる震えは、もう隠しようがなかった。

どうして風が今、普段の彼女からすると信じられないような思いきった行動に出たのか、フェリオは突然理解した。震えるほど恐ろしいのは、本当はフェリオの方だった。課せられた使命を失敗した場合、一人で死ねばいいというわけではないのだ。自分の言動がオートザムを滅亡させ、クレフを失わせるかもしれないのだ。そして、そうなれば目の前にいる風もただではすまない。

少しでもフェリオを助けたい。そう思った風が、フェリオの本当の「望み」をかなえたいと思うのは彼女の性格を考えれば当然のことなのだ。本当は、もうずっと前から、風の隣にいるだけでは満足しきれなくなっていた。彼女に触れ、自分が風にとってただ一人の男だということを確かめたかったのだ。自分でさえ、醜いとすら思ってきた衝動に、風は気づいていたというのか。

風はフェリオをまっすぐに見返して来た。その目じりから、涙が零れ落ちた。それなのに、その視線は強くフェリオに訴えかけてきた。
「違います。私は、自分の『心』に正直でいたいんです」
「でも――」
こんなのは俺じゃない、とフェリオは言おうとした。いつだって風はフェリオにとって何よりも大事にしてきた宝のような存在だった。傷つけるなんて夢にも思わないのに――今、フェリオの中に湧きあがって来た衝動は、風をその意志に関係なく力ずくでも奪えと命じている。
「それでもいいんです。私が、そうしたいんです」
風は、言葉にしなかったはずのフェリオの言葉に答えた。
「……」
「フェリオ」
風はもう一度名を呼ぶと、目を閉じた。

それから先は、まるで夢のようだった。風をもう一度抱き、そっと押すと、その体はいかにも簡単にベッドへと沈んだ。圧し掛かられ、苦しげに息を漏らした風の気配を、全身で感じる。栗色の髪がシーツに広がり、濡れた目はまっすぐにフェリオを見つめていた。首もとも、胸元から覗く肌も、うっすらと紅く染まろうとしている。
―― 欲しい。
今この瞬間に、風が欲しい。確かなのは、今だけだった。フェリオは無我夢中で、風の中に沈み込むように、自らの体を落とした。

71 につづく

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