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レイアース二次小説置き場 (Last One)

「魔法騎士レイアース」クレフ中心の長編小説を置いてます。

2020.01.20
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2013.07.10
もう―― 「夢」は見ない。


――――――――――――



 イーグルは、誰もいない夜の庭に歩み出た。屋内の灯りにつられたのか、薄暗がりの中で一匹の蝶がふわりと宙を舞っていた。手を伸ばしたが、イーグルがいるのに気づかないようにすり抜けた。小さな姿はあっという間に、闇の中に吸い込まれていった。
 夜景の輪郭の曖昧さと、イーグルに気づかない生き物は、長い間彷徨い続けた夢の中の世界を否応なしに連想させた。話しかけることも触れることもできず、ただ人々のやり取りを見ていることしかできなかった世界。そこではイーグルは、ただ一人だけ世界に置いていかれた登場人物だった。そして、その孤独は実に三年間、銀髪の少女に遭うまでずっと続いたのだ。
 不意に胸がズキリと痛み、イーグルは胸を押さえた。自分は今、最も親しい人間にすら見せない顔をしている。終わらない「夢」の恐怖に押しつぶされ、叫びだしたくなる。もう自分はとっくに覚醒していて、ただあの時のことを思い出しているだけだと思っても駄目だった。叫んだところで誰ひとり気づいてももらえない、狂う力さえ奪うような世界が、どれほど自分の心に傷を残していたか、イーグルは日々思い知らされていた。

「……僕は、あまり強くはないんですよ」
 イーグルは自嘲気味にそう呟いた。脳裏には、黒い髪と瞳を持つ親友の姿が浮かんでいた。
「貴方のようにはなれないのに。貴方が行方不明になって、僕が助けに行くなんて、ちぐはぐじゃないですか」
 セフィーロの『柱』になるため光と戦った時は、イーグルには譲れない願いがあった。しかし、「願い」という力を纏わない素顔の自分のことを、イーグルは決して強いとは思えなかった。そして、FTOを纏わなければ、肉体的にも強いとは言い難い。強いと言うならば、心身ともにいつも安定しているランティスの方がしっくりくる。

 重いため息が勝手に漏れた時、闇の中でよく知った甘い香りが漂ってくるのに気づいた。香りを頼りに探すと、闇の中で白い花を見つけた。まるで蛍の光のように、その白い姿は周囲から浮き出して見える。

―― カリア。
 クレフがイーグルの枕元で何度となく焚きしめてくれた香だった。そして……
 真っ白い花の向こうに、銀髪の少女が現れた。カリアの花束を、小さな胸いっぱいに抱えている、初めて会った時の姿だ。病んでいたイーグルに向けたのとまったく同じ笑顔を向けた。同じ表情の筈だ。自分は今、幻を見ているのだから。
「……ロザリオ」
 喉の奥から声を押しだすと同時に、少女の姿はさっと闇の中に掻き消えた。代わりに、甲冑を纏った、大人になったロザリオが現れた。頬は血のようなもので紅く汚れている。その感情のない瞳から、涙が一筋落ちた。

 あなたが、今のこの事態を見たなら、どう思うだろうか? どうするのが正しいと思うだろうか。
 あなたが産み、あなたが導師として育てた息子が今、反逆者の烙印を押されようとしているのだ。
 クレフが導師と知った時、あなたは悲しげな顔をした。こんな未来を、どこかで予測していたのではないのか?

「―― 人には、誰しも『願い』がある」

 不意に、ロザリオの声が頭の中に流れ込んた。それは、二度目に遭った時にロザリオが残した言葉に違いなかった。
「―― 誰にも認めてもらえなくとも、間違っているのかも知れなくとも、捨てることができない『願い』が。それに出会えるのは、幸せなのだろうか。それとも、不幸せなのかな」
 あの時、イーグルには答えられなかった。彼自身がそんな『願い』を持ち、同じことを思いながらもまだ結論を出せていなかったからだ。どうしてロザリオは、こんな質問をしたのだろう。あれは、ロザリオの知る誰かの話なのだろうか。いや、ロザリオ自身の物語ではないか、という気がした。

「私には、『願い』がある」

 導師クレフの言葉が胸に蘇り、イーグルは思わずピクリと肩を揺らした。なぜ気づかなかったのだろう。ランティスと対峙した時にクレフが言い放ったその言葉の声音、澄み切った青い瞳、ロザリオとあまりによく似ていたではないか。やはり、親子なのだ。
「……あなたたちは二人とも、『願い』とはいったい何なのか、僕に教えてはくれませんでしたね」
 セフィーロ最高と称される、親子二代に渡る「導師」としての宿命を思った。ロザリオとクレフの心を奪うほどの「願い」とは一体、何なのだろう。やはりクレフも、「誰にも認められなくても捨てられない願い」を持ち、葛藤して来たのだろうか。……それならば、自分と同じだ。

「……大丈夫ですよ、導師ロザリオ」
 イーグルは、ロザリオの幻影に語りかけた。
「僕は、貴女と約束しましたから。僕はクレフを助けたい。そのために、できることをすると」
 クレフが何を考え、何を望んでいるのか分からない。確かめることも、もう二度とできないかもしれない。それでもイーグルはクレフのことが「好き」だった。イーグルは未だ信じていないが、仮にもしも反逆者だったとしても、その気持ちは変わらない。なぜなのか知りたいと思いこそすれ、自分はそんなクレフを、受け入れるはずだ。
 そう思った途端、胸の中にわだかまっていた迷いが、吹き払われていくのを感じた。自分がどうするべきなのか、道がはっきりと見えた。FTOを駆ってチゼータに向かい、行方不明のランティスと光を救出する。そして、クレフに逢う。そして彼が頷くなら、セフィーロに戻ってきてもらいたかったが、何であれ彼の意志は尊重したかった。一度瞬きをして目を開けると、ロザリオの姿はもうなかった。まるで、初めからその場にいなかったように、彼女がいた場所には闇がわだかまっていた。イーグルは息をつき、その場所から目を逸らした。
 もう―― 「夢」は見ない。


 イーグルは、未だ真っ赤に燃え続けるチゼータをキッと見上げた。
「……考えろ」
 どれほど状況が混乱していて複雑でも、事実はひとつしかない。そして渦中の人となっているクレフは、自分が何をしようとしているのか、かなり前からはっきりと決めていたようだ。だからこそ、イーグルに数多くのヒントを残してくれた。しかし今にして思えば、彼の言葉には明らかに矛盾しているところがあった。例えば、「事実を口にしないことはあっても嘘はつかない」と言いながらも、二度と使わないと言いきっていた『禁術』を使ったとしか思えない。単なる「嘘」ではなく、セフィーロにいた時のクレフと、今チゼータにいるクレフの間にある「矛盾」、そこに答えがあるのではないかと思った。しかし、その答えが何なのか分かりそうでいて掴み切れない。

 ランティスの最後の言葉が胸をよぎる。
――「今、分かったんだ。イーグル、あれは……」
「ランティス」
 イーグルは唇を噛んだ。右掌で、前髪を無意識の間に掴んでいた。
「いったい貴方は、何を僕に伝えようとしていたんですか」
 ランティスはおそらく、この謎の答えに辿りついていた。今までの情報を集めてみても、ランティス達がクレフに襲撃された一部始終を目撃していても、イーグルにはその理由はどうしても分からない。弟子として『禁術』について聞かされていたというランティスだけが知っていて、イーグルがまだ知らない事実があるのだ。
「……わからない、か」
 イーグルは唇を噛んだ。タイムアウトだ。これ以上考えたところで答えは出ず、考えに費やせる時間ももうない。


***


「イーグル!」
 建物の中からの大声に、イーグルは我に返った。
「FTOの整備が完了したぞ」
 FTOのコックピットから立ち上がったザズの額には、汗が浮かんでいる。気候は暑くはないが、よほど集中していたのだろう。しかし、疲れていながらもその表情は満足げだった。本当に、マシンをいじるのが好きなのだろう。
 イーグルが歩み寄ると、ザズはコックピットから身軽に飛び降りた。しかし、床を踏みしめ損ねてよろめいたところを、イーグルがしっかりと支えた。
「……もう、大丈夫なんだな?」
「ええ」イーグルは頷いた。「僕は絶好調ですよ。FTOこそ、問題はないですか」
「ここ数年で一番調子がいいくらいだ。なんせ、FTOはずっとお前だけを待ってたんだからな」
 まるで人間に対するような口の利き方をする。しかし、三年ぶりにFTOに乗った時、イーグルは正直言って驚いていたのだ。元々性能は随一だったが、これほどFTOは動きが良かったのか、と目が覚める思いがした。
「長い間、待たせてしまいましたからね。大事な相棒の一人を」そして、銀色に輝くFTOのボディを見上げた。「これから、うんと働いてもらいますよ」

 ザズは床に胡坐を掻くと、満足げにFTOを見上げた。しかし、その表情はすぐに思いに沈んだものになった。
「……なぁ、イーグル」
 切り出したザズは、珍しく遠慮がちだった。
「何ですか?」
 そう返したが、聞かなくてもザズの気持ちは分かっていた。
「……なんで、オートザムに戻らずに、チゼータに行くと決めたんだ? ……あっちには、ジェオもいるのに」
「逆ですよ。ジェオがいるから、僕はチゼータに行けるんです」イーグルは笑った。「ジェオはああ見えて頭もいいですし、事実には辿りついているでしょう。モーガン司令官の強い味方になってくれるでしょう。まあ、身動きが取れる状態なら、彼がじっとしているとは思えません。遅かれ早かれ、彼はチゼータを目指すでしょうね」
「……うん。そうだ、そうだな。オートザムは大丈夫だ」
 ザズは自分を納得させるように頷いた。ザズが本当は、妹や家族の身を案じていることには気づいていた。でも、この場面で口にすべきではないと、我慢しているのだろう。そんな身内がいることを、イーグルは瞬間、羨ましく思った。自分はあの父にそんな感情は持てないし、彼以外の家族も持っていない。

 イーグルは、ザズの隣に腰を下ろした。
「ザズ。あれは今も機能していますか?」
「もちろんだ」
 「あれ」とは何か問い返すこともせず、ザズは即座に頷いた。イーグルは頷き返し、続けた。
「あなたはセフィーロにいてください。ザズにも、あなたにしかできない重要な役割があるんですから」
「分かってる。俺ができることは何だってやるよ。……イーグル、気をつけろよ」
 ザズが差しだして来た手を、イーグルは強く握り返した。

72につづく

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