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レイアース二次小説置き場 (Last One)

「魔法騎士レイアース」クレフ中心の長編小説を置いてます。

2020.01.24
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2013.07.21
「全部終わったら……また、みんなで砂浜で、おいしいお茶が飲みたいわね」


――――――――――――


「私はいつも『ここ』にいる。……だから、『心配はいらない』」
 クレフの言葉を思い出し、海はそっと自分の腕を撫でた。クレフの掌がつかの間、触れたところだ。その時感じた体温に、蝋燭に火が灯ったかのように全身が温かくなったのを覚えている。今、その腕は、夜風に冷たく冷え切っていた。

 クレフはもう、二度とセフィーロに戻らないつもりで旅立ったのだろう。
 空っぽになった空門を見た時に、海には分かってしまった。海たちの成長を見届け、自分が旅立った後の国の体制を整えた時の、満たされた表情を思い出せば答えは明白だった。
「……クレフ」
 二度と、相手に向かって呼びかけることもないのだろうか。無性に、会いたくてたまらなかった。そして、この心の奥に巣食った気持ちを、いつかのように吹き払ってほしかった。

―― 怖い。
 一人では、口に出すことも、恐ろしくてできなかった。「死ぬ」とマスターナに預言された時の衝撃は、薄まるどころかどんどんと強くなる。これほど意気地がない自分を、初めて知った。あんな場所で「死ぬ」ということが、碌な死に方ではないことは想像がついた。あの「夢」のように血に塗れ、ぼろぼろになって死ぬのだろうか。今見ているこの美しい「セフィーロ」を、数日後には見られなくなっているのか。光や風にも、もう逢えなくなるのか。たった一人「死」に浚われてしまう。逃げたくても、どこにも逃げられない。生まれてから死を考えたことすらなかったのに、今では文字通り取りつかれて頭から離れない。
 死ぬかもしれない、という場面には何度も立ってきて、死ぬ覚悟はできているものだと思っていた。それなのに、「死ぬ」と可能性として思う事と、確信を持つ事は絶対的に違っていた。死に行く人々を何度も見て涙を流して来たのに、見送ることと自分が旅立つこともまた、天と地ほども違っていた。他の誰に分かち合うこともできない。これほどの孤独を、海は生まれて初めて味わった。
「……しっかりしなさい、海」
 大丈夫よ、と呟く。しかしその声は我ながら力なく、恐怖を裏付けるものにしかなりそうになかった。海は自分の両腕を抱き締め、深く俯いた。

 それから、どれくらい経っただろう。一時間か二時間か、海はずっとそのまま微動だにしなかった。下からの風は柔らかに海の頬を撫で続け、頬を流れた涙をぬぐい去っていった。やがて海は貌を上げ、チゼータを見上げた。後ろからゆっくりと足音が近づいても動かなかった。
「――あなたは」
 不意に海が声をかけ、マスターナは足を止めた。
「チゼータが好き?」
「タータやタトラほど、真っ直ぐに尽くすんは俺には無理やけどな」
「でも、好きなんでしょう?」
「なんでそう思う?」
「あなたが、悲しそうな顔をしてるからよ」
 海が振り返ると、マスターナはハッとした表情をした。そして、目を逸らす。海は続けた。
「……あなたが、外した預言はないんでしょ?チゼータがこうなることを知ってたのに、変えることはできなかったの?」
「……未来は、ちょっとしたことでその行き先を変える。それは事実や」
マスターナは頷いて続けた。
「でもな、それを人間が操るんは不可能や。変えようとしたけど、無理やった」
「……辛いわね」
 海がそう言うと、マスターナは耳慣れぬ言葉を聞かされたような顔をしていた。いきなり不幸に直面するのは恐ろしい。でも、不幸が起こると分かっているのにどうすることもできないのは、どれほど苦しいことだろうと思う。その原因が自分になくとも、結果を変えられないのは自分の責任だと、誰しも思ってしまいそうだ。

 海は立ちあがった。
「あなたの預言では、チゼータに行けば私は死ぬのよね」
 口にしてみれば、ずっと恐れていたその言葉は他人ごとのように耳に響いた。
「……そうやな」
 マスターナの言葉は同じだったが、もう初めて聞いた時と同じような衝撃はなかった。

「あなたに言われて、死ぬってどういうことか、考えたのよ。それから、変だわって思ったの。死にたくない、なんて。まるで死なない人間がいるみたいな考え方をしてる自分が可笑しくなったの。……私だって誰だって、いつかは必ず死ぬのに」
「チゼータに行けば、あんたは死ぬ。裏返せば、セフィーロに残れば生きられる。そうは、思わんかったんか」
 海は目を見開いて、マスターナの顔を見返した。
「そう……ね。それは思いつかなかったわ」
「覚悟を決めたんか?」
「まさか。そんなの無理よ」
 海はマスターナを睨むように見すえた。そうしないと、身体が震えてしまいそうだった。
「私、死ぬのは嫌よ。しがみついてでも生きていたい。光や風を置いていけないもの。この世界がもう一度平和になるところをこの目で見たいわ」
「だったら……」
「それでも。どうしても、私はもう一度クレフに逢いたいの」
 セフィーロにとどまれば、命の危険はないのかもしれない。死にたくないのなら、留まるという選択肢も自分にはあるのだ。クレフの意見をもしも聞くことができたなら、必ず「来るな」と海に言っただろう。でも、クレフが望もうが望むまいが、自分の命を本当に自分が納得できることに遣いたかった。
 命だけを守ることを目的にして、大事に大事に培って、何になるだろう。死ぬ時に、自分はなにもやらなかったと後悔して死ぬのは嫌だった。
 どれほど、自分に待っている運命が過酷であっても、海の願いは初めから一つだった。今の状況は、その願いを自覚させ、剥き出しにしても、失わせることはできなかった。
 
 マスターナは海を見返した。
「今起きてる危機の黒幕は、導師クレフや。あの人のたった一つの『願い』が世界を滅ぼすことになる」
「何を……」
「事実はひとつしかない」
 マスターナは言い放った。
「あんたが導師クレフと共に生きていきたいなら……あの人を止めるしかない。あんたは、止められるか? 最高の力を持つ、魔導師を」
 海はぐっと答えに詰った。不意に理解する。マスターナがオートザムに情報を流してまでもクレフを捉えさせようとしたのは、クレフの行動を止めるためだったと。でも、未来を知っているはずの彼でさえ失敗した。その二つの間につながりがあるとは海には思えないが、結果としてチゼータは滅び、クレフは間一髪でチゼータから立ち去った。
「今まで誰も、定められた未来を自分の意志で変えた者はおらん。それでも、運命を変えられるか?」
 マスターナの眼は暗い。海は自分の胸にそっと手を置いた。早く強く、鼓動を刻んでいる。生きている―― この鼓動が、近いうちに止まることがあるというのか。夢の中の自分が胸をよぎる。血を滴らせ、青ざめた顔をして――
「やるわ」
 海は拳をぐっと握りしめた。
「私の『願い』のために」
 自分の魔法騎士の装束を見下ろす。あの時は、純粋にこの美しい世界を守りたくて、人々に幸せになって欲しくて戦っていた。今は違う、と海ははっきりと思った。世界のためでも、誰かのためでもない。私は私のために剣を取り、私のためにクレフを取り戻そうとしている。そのためには血を流す覚悟もあるなんて、なんて自分勝手だろう。
――分かってもらえなくてもいい。
 海は唇をかみしめた。それが、海の「願い」だから。



***


 海は、イーグルの元へと歩み寄った。待っている一同の姿が見える。風とフェリオだけがその場にいなかった。影がさっと差して見上げると、アスコットがいた。その目の真剣さに、海は思わずたじろいで後ろに引いた。あっと思う間もなく、急に歩み寄ったアスコットに抱きすくめられた。海よりもぐんと高い彼に引き寄せられると、その胸元に顔が沈み込んでしまう。
「アスコット! 苦し……」
 手でアスコットの肩を突っ張って離れようとした時、アスコットの手が震えているのに気づいて、はっとして動きを止めた。
「もう、ウミが戻って来ないような気がするんだ。行かせたくない」
「……アスコットは、初めて会った時と同じね」
 小さくて、子供で、自分の思いを泣いても伝えようとした、初めて会った時のアスコットが瞼をよぎった。目の前の成長したアスコットは、紅くなって顔を横に強く振った。
「違う! 僕はもう……」
「分かってるわ」
 アスコットが絶句した。本当は、もうずっと前から気づいていた。誰かにひたむきな好意を向けたことがある人なら、自分に向けられた好意に気づかないなんて、あり得ないのだ。薄々分かってはいたのに、答えられないことを理由に気づかない振りをしていた。
「僕は……」
「アスコット。お願いがあるの」
 海は、強くアスコットの言葉を遮った。
「風を守って。あの子、無茶ばっかりするから」
 泣きそうになってはいけない。今は泣いている場合ではない。海は強くアスコットを見た。
「私、アスコットが約束をちゃんと守ったか、必ずここに、確かめに戻って来るから」
「……分かった」
 海の目の強さに、名残惜しそうにアスコットの指先が肩を離れた。

 海の目が、FTOで待っていたイーグルとぶつかった。イーグルはアスコットに視線を向けた。
「大丈夫です。ウミを危険な目に合わせたりしませんよ」
 アスコットは、目に苦悩を浮かべながらも頷いた。
「ウミ……」
「大丈夫よ。これまでだって、いろんなことを乗り越えてきたじゃない」
 カルディナやプレセアに微笑みかける。今ここに光と風はいないけど、それでも二人との絆を強く感じる。また、三人で戦える。そう思えば、「死」の宣告を受けて闇の中で一人いたような気持ちが、励まされた気がした。
「全部終わったら……また、みんなで砂浜で、おいしいお茶が飲みたいわね」
「……任せておいて」
 プレセアが泣きそうな顔で微笑み、海を抱き締めた。
「どうか、無事で。導師クレフと一緒に、戻って来て」
 プレセアの苦痛が、腕を通して身体の中に流れ込んでくる。海は、頷くことしかできなかった。

「嫌やな。泣くところちゃうわ」
 カルディナが笑った。その目にはまぎれもない痛みがあったが、微笑んだまま、海の肩をぽんと叩いた。
「もう、こんなことは十分や」
 そして、焼けただれたチゼータを見る。
「もう、こんな騒動は終わらせなあかんな。セフィーロは、うちらに任せな」
「……ええ。みんなも、気をつけてね」
 セフィーロがいつ戦場になってもおかしくないのだ。海は二人に頷いた。

 海はイーグルの手を取って、FTOのコックピットに乗り込んだ。いつも穏やかに眠っていた姿からは想像がつかないくらい、海を支えた腕は力強かった。
「本当に、いいんですね」
 操縦桿を握るイーグルのすぐ後ろにちょこんとおさまると、イーグルが肩越しに振り返って海を真剣なまなざしで見つめてきた。
「アスコットにはああ言いました。何があってもあなたを守るつもりでいますが……それでも、ランティスとヒカルでさえ消息が不明な状態です。何が起こるか、分かりませんよ」
 海は黙ってイーグルを見返し、頷いた。
「それでも、行くんですね」
「ええ」
「……分かりました」
 数秒おいてFTOがふわりと舞い上がり、見送る人々の姿があっという間に小さくなった。



第七章 完


73 につづく

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