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レイアース二次小説置き場 (Last One)

「魔法騎士レイアース」クレフ中心の長編小説を置いてます。

2020.01.20
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2012.10.14
クレフも皮肉を言うのだ、ということを海は初めて知った。ただ、この男に名乗りたくない気持ちは分かる。

つづきはこちら からどうぞ。

――

セフィーロで、夜を過ごすのは久しぶりだった。
長い髪を揺らして吹き抜ける潮風は心地よく、海は砂浜近くの小さな東屋の椅子に腰を下ろして、潮騒に耳を澄ませていた。夜空にはいくつかの小さな星に混ざって、チゼータ・ファーレン・オートザムの3つの国が輝いている。地球で言う「月」に大きさも光り方もよく似ているが、形はそれぞれ違っていて、異世界にいるのだと実感する。

風に乗って潮の香りがする。目を凝らすと、白い波がちらっ、ちらっと闇の中で光る。絶え間ない、引いては返す波の音。フクロウのような鳥だろうか、ホー、ホー、と鳴く声が静かに聞こえている。

考えてみれば、このセフィーロで一人になる時間はほとんどなかった。たまにはいいか、と思う。きっとあと数時間も経てば、ひとりで過ごす夜が淋しくなるのだろうけれど。もし淋しくなったら、プレセアかカルディナのところへ行こうか。それとも。
「―― クレフ」
三年前の深夜、二度目にセフィーロに召喚された日の夜に、一人でクレフを訪れたことを思い出す。エメロード姫の悲劇の後、東京に戻された海は毎晩なかなか眠れず、眠れたと思うと悪夢にうなされた。頭も、胸の奥もずきずきと痛み、うまく微笑むことができなくなった。その原因を、海は自分でよくわかっていた。

いきなり召喚されて何も事情がわからなかったとはいえ、浚われた姫を救うという展開を、まるでゲームのようにとらえていた。初めて会った住人、クレフの言葉に向き合わず、彼が心に抱えていたに違いない苦悩に全く気づかなかった。ゲームでも何でもなく、この世界の中では目の前のことが「全て」で「現実」だったというのに。いつかは必ず、自分の本当の世界である「東京」へ帰る。「セフィーロ」は仮の世界だと考えていたから、起こる全てのことをどこか、軽く捉えていたのは否めない。その結果、エメロード姫を「殺して」しまうという、とりかえしがつかない結末を迎えてしまった。

あの時、誰もいない暗く長い廊下を歩きながら、この先の部屋にクレフがいてほしいのか、いないほうがいいのか分からなかった。謝ろう、謝ろうと何度も何度も心で呟いていたが、一体どう謝ればいいのか見当もつかなかった。エメロード姫は、クレフにとって大切なひとだったに違いない。ザガートも、彼の弟子だったと後から聞いた。それなのに二人とも、この手にかけてしまった。二人が戻ることはもう絶対にないのに、今さら何を、謝ると言うのだろう? 謝っても、許せるはずも、許されるはずもないと分かっていながら。ただ、足はまるでクレフを求めるように、勝手に彼の方へ向かっていた。

重々しい扉は閉まっていた。その前に立ち、海はノックをしていいものか逡巡した。すると、扉は音を立てて不意に開いた。光が差し込んだ先の部屋には、クレフが一人でいた。
「―― どうした、ウミ」
そう言われた瞬間、言おうとしていた言葉たちは心から飛び去ってしまい、クレフを見つめることしかできなかった。ただ、いつもと変わらない佇まいで見返してくれたことに、ほっとした。

ごめんなさい、と謝った海の深い悔恨を、クレフはあっさりと吹き払ってくれた。「お前が自分を責めることはなにもない」。その、たった一言で。まるで、魔法のようだった。
―― 「眠れないのなら、薬湯をやろう」
その一言を思い出して、海はくすりと笑った。確かにあの薬湯は心身に染みわたるように感じた。でも、あの日から海がぐっすりと眠れるようになったのは、あの薬湯のおかげではなく、クレフの一言があったからだ。どんな強い魔法でもなく、セフィーロのどんな薬でもなく、たった一言。たぶんクレフはあれほど長く生きていながら、自分自身のほんとうの力は知らない。

***

突然足音が近づいてきて、海はハッと我に返った。一瞬、思っていた人が現れたのかとドキリとしたが、すぐに違う、と思いなおす。足音は無遠慮に大きく、大人の男のものだった。東屋の柵を掴んで、大きな人影がいきなり中を覗き込んでくる。海は座ったまま向き直った。
「何よ」
声もかけずに、女が一人でいるところを、じろじろ眺めるとは失礼だ。自然と目線が厳しくなる。暗闇の中で、獣のような金色の瞳がまたたいた。
「……こりゃ、びっくりやな」
小麦色の肌で、茶と赤が交ったような髪をした若い男だった。タータ・タトラの姉妹とまったく同じ色合いだった。フェリオのように髪を背後で結んでいて、筋骨は逞しい。
「こんな別嬪さん、初めて見たわ」
そう言うが早いか、柵を身軽に乗り越えると、海の隣にぴったりと体を寄せて座ってきた。

「近っ!」
海は慌てて立ち上がる。人が物思いにふけっていたというのに、あまりに場違いな男の乱入に、何だか腹が立ってくる。
「あんた、その関西弁……チゼータから来たのね?」
「カンサイベン? なんやのそれ。でも、チゼータから来たんはほんまやで。恋と情熱の国や!」
「……初耳なんだけど、そのキャッチコピー」
「俺がつけた!」
「じゃあ、帰りなさいよ、その恋と情熱の国に」
指をこめかみに当てたくなってくる。男は少し首をかしげた。
「でも、このままチゼータにおったら、危ないしなぁ。どうせここに来ることになるし」
「えっ?」
「ンなことより、俺はマスターナ。あんたは?」
「……海よ」
名前は教えても、決して名字は教えたくない。そう思わせるような胡散臭さが、ニカッと笑った男の全体からにじみ出ていた。さっき聞き捨てならないことをさらっと言った気がするが、こんな男の言うことをまともに捉えるのも馬鹿馬鹿しかった。

マスターナ、と名乗った男を、海はもう一度見た。顔立ちは整っているし、東京あたりを歩いていたらモデルのスカウトがかかりそうなほどスタイルもいい。でもそれが余計、胡散臭さに拍車をかけていた。
「ウミちゃんか、ええ名前やなぁ。この近くにいい店あるねん。一緒に行かへん?」
ここは渋谷のセンター街か? 海は一瞬、デジャ・ビュでくらりとした。そのあたりを歩くと、海は大概この手の男にこの手の言葉をかけられる。しかし、ここはセフィーロ。いわゆる「店」などないのは分かりきっている。
「私、帰る」
こんな男とは、できる限り言葉を交わさないに限る。海は有無を言わさず立ち上がった。

「ええっ、帰るん? ええやん。もうちょっとだけ」
「駄目」
悲しげな顔につられては駄目だ。海はわざと首を逸らした。しかしマスターナは思ったよりも手強かった。強引にも、海の肩に後ろから手を回し、ぐいと引き寄せて来る。
「放しなさい!」
「強気な女は好きやで」
こいつ、と海は本気で腹を立てた。いざという時のために、とクレフから魔法は授かっている。「水の龍」で吹っ飛ばしてやろうか。半ば本気でそう思った時だった。
「何をしている」
落ち着き払った声が東屋の外から聞こえた。マスターナがそっちに注意を取られた隙に、海は肩を思い切り突き飛ばした。

その声が誰なのか、考えるまでもなかった。海はほっとして、声が聞こえた上空を見上げる。近くの樹上に見慣れた影が見えたと思った時、その人影はさっと飛び降りた。柵をとん、と蹴って、海の前に身軽に着地する。そういえば、いつも重々しい法衣に身を包んでいるからその印象がないが、意外と身が軽い。その肩には、小さなフクロウが止まっていた。

マスターナは、目を丸くして、自分と海の間に割って入ったクレフをみやった。
「誰や? このおおさわな格好した子供は」
自分の初対面の態度を棚に上げて、海ははらはらしてクレフを見下ろした。もうひとつ意外なことに、クレフは気が短い。
「子供はおネムの時間やろ。おうちへ帰って、はよ寝」
その肩を掴んで押しのけようとした時、クレフは手にした杖をマスターナに向けた。

「ちょ、ちょっと!」
ひょーいとビーチボールのように空中に投げ上げられたマスターナを見て、海は焦った。一体どうするつもりなのか。更に意外なことに、クレフは時々、相手が怪我をしない程度に暴力的だ。海も、初対面の時に杖の先で二回も叩かれた記憶がある。
「頭を冷やせ」
どぼーん、とマスターナが海にはまる音がした。

「助けて! 助けて! 泳げへんのや!」
「って言ってるけど? クレフ!」
「あの辺りの海は、一番深いところでも、あの男の胸のあたりまでしかない。どうやったら溺れるというのだ」
クレフは平然としている。
「助けて! 助……」
「何も言わなくなっちゃったけど……?」
「……」
海とクレフは、二人で真っ暗な海を見やったが、ぶくぶくと白い泡が見えるだけだ。せいぜい1.5メートルほどの深さなのだろうが、1.8メートルほど身長があって、数学的にこの溺れ方はおかしいと思う。

「……。しかたない」
クレフがもう一度、杖を向ける。すると、全身ずぶぬれになったマスターナが、落ちた時と同じようにひょーいと空中に投げ上げられた。そのまま砂地に下ろされたが、へたりこんでぜいぜいと息をついている。
「……いま、どうやって溺れてたの? 天才的なカナヅチね……」
海のはなった、さらりと手厳しい言葉も気にした風もなく、海に声をかけられたことが嬉しそうだ。その場にあぐらをかいて、二人を見上げた。
「いやな、チゼータってちっこいやん? 海も膝下くらいまでしか深さがないんや」
「嘘でしょ? さすがに」
幼稚園のビニールプールじゃあるまいし。

クレフがため息をついた。
「とにかく! 立ち去れ。ウミにちょっかいを出すな」
「や、許してくれよ。チゼータではこんなの、挨拶がわりやって」
「嘘だろう。いくらチゼータに軽は……いや、調子のいい者が多いと言っても」
「あんた今、うっかり軽薄って言おうとしたやろ」
まあ、否定せえへんけど、とあっけらかんと続けた。
「否定しないの……?」
そこは、否定してほしかった。チゼータに今晩発ったばかりの光が心配になってくる。人を疑うということを知らないのだ。声をかけられたら、あっさりついて行ってしまいそうだ。ランティスが一緒にいったから大丈夫だ、と自分に言い聞かせる。

マスターナは、何事もなかったかのように立ち上がり、東屋に近づこうとした。クレフが杖を握った手に力を入れると、恐れをなしたように立ち止る。
「ていうか、あんた誰や? 魔法使いか? 偉い人なんか、名前は?」
「ただの大層な格好をした子供だ」
クレフも皮肉を言うのだ、ということを海は初めて知った。ただ、この男に名乗りたくない気持ちは分かる。
「根に持つ男はモテへんで?」
「いいからさっさと行け!」
ついにクレフは怒り出した。半分呆れたようでもあるが。

これは駄目だと思ったのだろう、マスターナは案外あっさりと背中を向けて、二人に手を振った。
「じゃあな、またどこかで。あんた、海ちゃんが美人やからって口説いたらあかんで!」
お前が言うな、と呟いたクレフの独り言に、海は思わず噴き出した。

12 につづく

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