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レイアース二次小説置き場 (Last One)

「魔法騎士レイアース」クレフ中心の長編小説を置いてます。

2020.01.19
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2012.10.14
クレフの目が意外そうに見開かれた。海は、クレフに向きなおった。

つづきはこちら からどうぞ。

――

海は、マスターナが立ち去った方向に体を向けているクレフの背中を見やった。今さらのように、事の経緯が思い出されてくる。
―― 見られてた、わよね……? 思いっきり。
あの男に抱きしめられそうになっているところを、見られた。と思うと気恥かしく、いたたまれないような気持ちになってくる。いっそあと十秒ほど遅くて、「水の龍」で相手をふっ飛ばした後なら、ある意味まだマシだったかもしれない。魔法をくだらないことに使うな、と小言を食らうだろうが、叱られるのはいつものことだ。ただ、こんな出来事は今まで二人の間で起こったことがなかった。庇ってくれたのだから、ありがとうと言うべきなのだが、海は自分の顔が赤くなっているのを自覚した。

もうしばらくあっちを向いていてほしい、という海の願いもむなしく、クレフはくるりと振り返った。
「と、いうわけだ」
「えっ? なにが?」
思いがけない出だしに、海は赤面しているのも忘れて聞き返した。
「国交が盛んになってから、四カ国間の人の出入りは増えた。それはいいが、今までにない問題が起こるようになったのだ」
「……ああいう問題ね」
海は、マスターナが去って行った方向を指差した。国交、などと、色恋には全く関係ない単語を出だしに使ってくれて助かった。それに、海が動揺しているのにも気づいていないようだ。

「ああいう輩は、今までのセフィーロにはいなかった」
「そうでしょうね……」
海がセフィーロで会った人々はさほど多くなく、城で会っても挨拶を交わしたり、軽く雑談したりする程度だ。異世界なのだから全然関係がないのだが、ここの人々の生活に触れるにつけ、昔母親に読んでもらったことがある『ハイジ』という小説を毎回連想してしまう。皆このセフィーロにふさわしく、清く純粋で、無邪気とも言える人々ばかりだった。生活は「魔法」に支えられていたが基本的には質素で、家の調度も日々の食事もささやかなものだ。美しい自然の懐に抱かれるようにして、起伏の少ない暮らしを送っているようだった。

いきなり女を口説きはじめるような男はセフィーロには明らかにそぐわない。チゼータでなくても、たとえば高度に機械化されたオートザムの文化が入ってきたら、セフィーロはどうなるのだろう。
「いいところだけを取り入れるっていっても、無理があるわよね」
「それはそうだ」
クレフはあっさりと認めた。
「困りごとや騒動が増えたのは事実だが、それも含めてセフィーロは活性化している。ある程度は大目に見ねばならんな」
「その割には、けっこう今容赦なかったわよね……?」
「……いったい、何事かと思ったぞ」
クレフは腕を組んで、背後の柵にもたれかかった。そして、肩にとまったままの小さなフクロウを見やる。
「『大変だ』と、この鳥が部屋まで知らせに来てくれたのだ」

二人の視線が集まると、フクロウは、ホーホーと控えめな声で鳴いた。さっきまで一人でいた時、潮騒に混じって聞いていた声と同じだった。マスターナが現れてからは耳から抜け落ちてしまっていた。
「無事でよかったと言っている」
「本当に?」
海の耳には、ただの鳥の声にしか聞こえない。が、クレフが言うなら事実なのだろう。海はかがみこむと、フクロウの頭を指先で撫でた。
「ありがとう」
フクロウは気持ちよさそうに目を閉じている。それを見たクレフが微笑んだ。

「……だから、夜に出歩くのは昔とは違う意味で面倒なのだ。この辺りはほとんどいないが、魔物も稀に現れる。部屋まで送る」
「うん……ありがとう」
そう言いながらも、海はその場から立ち去りがたかった。二人になれることは、この先も滅多にないだろう。それに、景色はあまりに平和で美しい。でも、忙しいだろうクレフのことを考えると、ここにいたいとも言いだしかねた。
「ここがいいのか?」
つかの間黙っていると、そう聞かれた。海がクレフを黙ったまま見ると、彼は思いがけず、どきりとするほど優しい笑顔を浮かべていた。すい、と彼が海の隣を通り過ぎ、星空を見上げる。通り過ぎざまに、やわらかな法衣が海の頬を撫でた。

「お前は、椅子が欲しいおーぶんが欲しいと、どうでもいいことはすぐ言ってくるが、時々妙に控えめだな」
「こういうときって、何よ……」
「お前は周囲に気を遣うし、何より繊細だ。でも、私といる時には気遣いは無用だ」
ああこの空気だ、と海は思う。心の底で絡まっていたいろんな複雑な思いが、一度にほどけていくような気持ちになる。今クレフと一緒にいる、ただそれだけで、他の全てがなんでもないことのように思えてくる。
「じゃあ、そうするわ」
「ああ」
海は、クレフのすぐ隣の椅子に座り、同じように星空を見上げた。クレフの視線は、空にひときわ大きく見える、三つの星に向けられていた。

「……ウミ」
「なに?」
「どうして、ヒカルやフウと他国へ行かなかったのだ? 具合が悪いのか?」
「いいえ」
「では、なぜだ?」
「気遣いはいらないのよね?」
「ああ」
「クレフが、セフィーロを離れないと言ったからよ」
「え?」
まさか自分が原因に挙がるとは思っていなかったのだろう。クレフの目が意外そうに見開かれた。海は、クレフに向きなおった。

「あなたには今、すごく気にかかってる……心配してることがある、違う?」
クレフも、海に向きなおった。風が二人をあおり、クレフの法衣の裾が海に届く。
「あなたは、自分のことじゃ悩まない。悩むとすれば、このセフィーロのことでしょう? クレフ、あの時と同じ顔をしてるわ。三年前、セフィーロが崩壊しそうになってた時と」
「……だから、残ったのか」
「魔神を失っても、私たちは魔法騎士よ。セフィーロに何か起こるかもしれないのに、三人ともここを離れるわけにはいかないわ。ここにいたら、何かあった時、力になれるもの」
クレフは、いつもは口ごもることすらないのに、つかの間、言葉を忘れたかのように海を見返していた。

「……なにか言ってよ」
「いや……驚いた。そんなことを考えていたのか」
本当は、それだけが理由ではないけれど。というよりも、その奥に更に、本当の理由があるけれど。海はそれを今、クレフに告げるつもりはなかった。クレフは、すとん、と海の隣に腰を下ろした。互いに、肩が触れ合うくらいの距離だった。間近で見下ろすと、その顔立ちは本当に少年のもので、あどけなくさえ見える。
「確かに、ここのところ胸騒ぎを感じているのは事実。ただし、私にもその正体が何なのか、わからない」
「クレフにも?」
海が驚くと、クレフは苦笑した。
「私にも分からないことはたくさんある。このセフィーロのことであってもだ」
そして、夜空を見上げながら続けた。その表情からは笑みが消えていた。
「国交は安定してきているし、魔物の数も減少傾向にある。国は栄え、人々はおおむね平和に暮らしている。良くなりこそすれ、危険を示す兆候は何もない。何もないのだが……この胸騒ぎは大きくなるばかりだ」
その言葉は、ひとりごとに近かった。海が隣にいることも、忘れているようだ。少なくとも海がいる時、クレフが今のように無表情だったことはない。

返事を求めるような言い方ではなかった。こういう時は、自問自答する癖がついているのだろう。セフィーロの中心人物たちは心の強い者揃いだが、みな、クレフにとっては教え子か目下にあたり、対等に話し合える者はいない。常に人に囲まれていながら、クレフが抱えている孤独が少し見えた気がした。
「そう……なの」
何か言えないかと懸命に考えたが、セフィーロを誰よりも深く知っているクレフが分からないということに、海が答えを返せるはずもなかった。だからといって、表面的な言葉でその場をつくろうのも嫌だった。海は唇を噛んだ。

「ただ、この胸騒ぎには覚えがある。何だったのか、思い出せないのだ」
クレフは視線を落とし、指先で額の宝玉に触れた。
「私は―― 恐ろしい」
ぽろりとこぼれ出た言葉に、海は思わずクレフを見つめた。胸がぞくりとした。これまでクレフは、セフィーロの崩壊の危機の時ですら、恐怖している素振りを微塵も見せなかった。その彼を、「恐れさせる」ものがあるとすれば、それは一体なんだろう。

クレフは、自分の言葉が海に反響したのに気づき、同時に今自分が何を言ったのか思い出したようだった。
「すまない、心にもない事を口にした。今のは、忘れてくれ」
最高位の魔導師。国の最高責任者。そのような立場の人間が、軽々しく不安を口にできるはずもない。たとえ大海の中の一滴であっても、導師クレフの一言は大海を漆黒に変えるほどの力を持っている。

それに、「心にもない事」のはずがなかった。クレフが、思ってもいないことを口にしないことを海はよく分かっている。でも、彼はそれを嘘にすることしかできない。彼の本心がどうであろうと、それはセフィーロに、人々に、悪い影響を与えてしまうから。

「冷えてきたな、城へ戻ろう」
そう言った時には、クレフの声は平静に戻っていた。そして海を促し、立ちあがろうとした。行ってしまう―― そう思った時には、海はクレフに指先を伸ばしていた。

クレフの肩口に止まっていたフクロウが、驚いて夜空に舞いあがった。
「―― ウミ?」
耳元で聞こえた、戸惑ったような声が、心を震わせる。初めて触れたその銀髪は冷たく、幾重もの法衣をまとった体は思いがけないほどに小さく、あたたかかった。最高責任者とか、750年近い長寿だとか、一体なんだというのだろう。この人はちゃんと人の体を持っていて、今ここにいて、独りで苦しんでいるというのに。胸が脈打つように痛い。その時、海は初めて、これほど人を愛おしいと思った。

クレフは、海に自分から触れることはなかったが、海の腕の中で拒むでもなく動きを止めていた。海の右の肩口に、クレフの額があった。表情を見ることはできないが、彼が一度大きく、息をつくのが伝わってきた。
「クレフは、みんなを護ってくれる。みんながそう信じてる。でもあなたは、自分だけは護ろうとしない。……あぶなっかしくて、ほっとけないの」
「そんなことはないぞ」
クレフが微かに笑う気配がした。
「その証拠に、750年も生きている」
「―― その750年の間に、あなたを守ってくれた人もたくさんあったでしょう」
クレフが、虚を衝かれたように身じろぎした。
「そう―― だな。その通りだ」

きっとクレフにも、育て慈しんでくれた親もいれば、仲間もいれば、師と呼べるひともいたに違いない。……そして、長い長い時の果てに、誰もいなくなった。真っ暗な谷底を覗き込むような深い孤独が、クレフの触れているところから流れ込んでくる。
「あなたの『心』は、私が守るわ」
クレフのことが、好きだった。でも、自分の思いが伝わろうが伝わるまいが、気持ちが成就しようがしまいが、そんなことはもう、どうだってよかった。ただ、この人には誰よりも「幸せ」でいてほしい。幸せになってくれるならどんなことでもできると思った。

「お前には、驚かされてばかりだ」
長い、長い沈黙の後、クレフはひっそりと微笑んだ。
「育てがいのある、教え子だと思っていたが。子供の成長は早い」
「教え子のままじゃ、あなたを助けられないじゃない」
ありがとう。心をこめて伝えられた言葉は、海の全身に染みわたった。この夜のことを、一生忘れることはないだろう。

13 につづく

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