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レイアース二次小説置き場 (Last One)

「魔法騎士レイアース」クレフ中心の長編小説を置いてます。

2020.01.24
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2012.10.16
いつしか、イーグルは朝靄のなか、ひとり立っていた。

つづきはこちら からどうぞ。

――

いつしか、イーグルは朝靄のなか、ひとり立っていた。

これは夢だ、とすぐに察する。なぜなら、現実の世界での彼はずっと寝たきりで、目を開けることすらできないからだ。その一方、夢の世界では動くことも、見ることもできる。ただし夢の中では全てが色褪せて薄ぼんやりと見え、輪郭も朧だ。何かに触ろうとしてもすり抜けるし、話している人々に声をかけても反応されない。まるで、古ぼけたフィルムを延々と見せられているようだった。今も周囲は靄に包まれていて、自分の足元もぼんやりとして見えない。イーグルはため息をついた。これでは、寝たきりの状態とはいえ、意識が醒めている時の方がよっぽど周囲の気配を明確に感じられる。早く、また意識が浮上すればいい。そう思った時だった。

不意に、鳥が一声鋭く鳴いた。
頬を吹き抜けて行く冷たい風が、見る間に靄を払ってゆく。ハッと目が覚めるような空の青が目を射る。

「――ここは……?」
鳥のくちばしのように鋭くとがった崖の先に、いつしかイーグルは佇んでいるのだった。眼下には、雄大な自然が広がっている。海の向こうに森があり、森の木はまばらになり、やがて砂漠へと続いていた。これは本当に夢なのか、いつもの夢にしては妙に色も鮮やかで、全てがくっきりと見えている。まるで現実のようだ。

久し振りに外の明るい光をまともに浴びた目が、ズキンと痛む。顔の前に手をかざして、もう一度周囲を見渡した。空に浮かんだ島々が、視界に入る。浮かんだ島の中央から吹きだした滝が、はるか下の海に流れ込んでいる。激しい水しぶきが上がり、まるで水音がここにいても聞こえそうだ。その雄大な景色に、イーグルは見覚えがあった。
「セフィーロ?」
眼下に広がる自然は、オートザムの監視塔から見えていたセフィーロに比べると格段に荒々しく、原始的だ。でも、空のどこまでも澄んだ青い色に見覚えがあった。ランティスの瞳の色にそっくりだ。

「お兄ちゃん」

不意に、背後から声をかけられた。イーグルはとっさに動けず、凍りつく。自分を呼んでいるのか? でも、夢の中で出会う人々はみんな、イーグルの存在に気づかなかった。まるで、銀幕の中の登場人物が、観客には反応しないように。まだ幼い少女の声だった。きっとこの場に、自分以外の人物がいるに違いない。振り返った時に、別の人間に声をかけていたことに気づく、その時のかすかな失望に備えつつ、イーグルは振り返った。

真っ青な、トパーズのような大きな瞳が、まっすぐにイーグルを捉えていた。
「お兄ちゃん、どうしたの? 目が痛いの?」
「あ……」
「どうして、泣いてるの?」
イーグルは自分の目をぬぐった。濡れているのにようやく気づく。久し振りに見た陽の光がまぶしすぎたのか、現実のような景色を見て感動したからか、三年ぶりに、直接人と会話したからか―― イーグルは、黙って首を横に振った。

「なんでも、ないんです」
「そう? でも、目が赤くなってる」
まだ、10歳にも満たないだろう。波打つ銀色の髪が、足元まで広がっていた。青いドレスがよく似合っていて、小さな白い鞄を持っていた。瞳は明るい青を宿している。
「……導師クレフ?」
思わず呟いて、すぐに苦笑した。どうして、クレフに似ているなどと思ったのだろう、直接姿を見たこともないのに。髪が銀、瞳が青と説明されたばかりだからかもしれない。
「クレフ? 誰?」
少女はきょとん、と首を傾げた。
「いいえ、あなたが、知り合いの導師さんに似ていると思ったんですが、勘違いのようです」
「導師に? 似てないわ。ぜんぜん、似てない」
ふるふると少女は首を振った。とすると、この世界にも「導師」はいるのか。これは「夢」だから、何があっても不思議ではないが。しかし、それにしてはこの現実感はなんだ? イーグルは再び、周囲を見渡した。しかし、弱っている目がずきずきと痛んだ。

「やっぱり、目が痛いのね」
つい、と少女がイーグルに歩みよった。そして、手にした鞄から、ハーブなのだろうか、草花を取りだした。
「今採った薬草、カリアっていうんだけど、あなたにあげるわ。弱っているところにちゃんと効くから」
「ありがとうございます」
にっこりと笑って受け取った瞬間、ハッとした。この香りを、自分はよく知っている。導師クレフがいつも調合してくれる香の中に、明らかに混ざっているものだ。

「……あなたは……」
尋ねた時、少女の体がゆらり、と奇妙に揺らいだ。そして一気に、遠のいてゆく。目が醒めるのだ、と気づいた。
「待って――」
「またね」
かすかに見えた少女の口角が、ゆっくりと上がった。


**


単調な音が、くっきりと聞こえていた。しばらく茫然としていたイーグルは、やがてそれが、近くで眠るジェオとザズの鼾だと気づいて、ひとり苦笑した。
―― 目覚めてしまったか……
たかが「夢」とは言い切れないほどの現実感が残っていた。それに、普通の夢なら、醒めた傍から忘れていくものだが、ついさっき現実で起こったかのように記憶がはっきりしている。「またね」と言った少女の唇の動きまで覚えていた。

部屋の中には、あの香の薫りがまだ残っている。就寝前に、クレフが焚いてくれたものだった。この香りの中で眠りについたから、あんな夢を見たのだろうか。今もう一度眠ったら、あの「夢」の続きが見られて、あの少女に会えるだろうか―― 再びうとうととした時、イーグルの耳はかすかな異音を捉えた。

目が見えない分、聴覚や触覚は通常の人よりも研ぎ澄まされている。かすかに続く音が、不穏な空気を伝えていた。何かが、近づいてくる。しかし今のイーグルには、身動きするどころか、声を上げて傍にいるジェオやザズを起こすこともできない。
―― 近づいてくる……
殺した足音。ただのセフィーロの住人でないのは、すでに明らかだった。カチリ、という金属音をイーグルははっきりと聞きとった。同時に戦慄が走った。あれは、セフィーロにはないはずの音。金属でできた銃のトリガーを上げる音に違いなかった。イーグル自身何度も使い、耳になじんだ音だった。銃を持っているのは、四カ国の中でオートザムだけだ。

他に、人の気配はなにも感じられなかった。時間の感覚がないが、外から聞こえる鳥や虫の声からして、今は深夜だろう。寝静まっているのであれば、今のこの状態に気づくのも、イーグルから知らせるのも難しかった。人の気配を鋭敏に感じ取れるランティスがこの場にいれば―― しかし、彼はもうチゼータに出発している。他にどうすることもできない。イーグルは神経を研ぎ澄ませて、待った。

14 につづく

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