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レイアース二次小説置き場 (Last One)

「魔法騎士レイアース」クレフ中心の長編小説を置いてます。

2020.01.24
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2012.10.18
―― 「導師クレフ。あなたは、何を掴んでいるんだ?」

「つづきはこちら」からどうぞ。

――

ぽつり、ぽつりと落ちはじめた雫は、夜半には本降りの雨になった。クレフは自室からテラスに足を踏み出す。しっとりとした春の空気が身をつつみ、どこからか華やかな花の香りが漂ってくる。
「……ここが良いな」
掌を上に差し伸べる。すると、しゃぼん玉にも似た半透明の球体が空中に現れた。クレフの頭よりも一回り大きなサイズだった。

セフィーロの春の空気を、オートザムで暮らす妹にお土産として持って帰りたい。そう、ザズに切りだされたのは、夕暮れのティータイムの時だった。
「なんとか……なりませんか? 妹はめったに、ものをねだる奴じゃないんです」
緊張した面持ちで、ザズはそれきり言葉を切った。ふうむ、と唸った時、ランティスの視線を感じた。オートザムでも、その場にいれば魔法は使える。しかし魔法が存在しない国まで、魔法の効果を持たせるとなると話が別になる。
「……ザズは、頼みごとはよく受けている。だが自分から人に頼むのは珍しい」
「……ランティス」
思わぬ助け舟に、ザズが驚いてランティスを振り返った。ランティスは何事にも淡々と無関心に見えて、意外と人をよく見ている。言葉は足りないが、実は思いやりもある。今も、本当は「だから、多少難しくてもザズの願いを叶えてやってくれ」と言いたいのだろう。
「……分かった。やってみよう」
「ありがとうございます!」
ザズの目が輝いた。ザズと、彼の妹と、そして教え子の三人に頼まれたのでは、受けない訳にはいかなかった。明日の朝にはセフィーロを発つという彼のためには、今夜中に完成させる必要があった。

オートザムでは、家の中でこそ素顔で過ごせるが、一歩出ればマスクが欠かせないらしい。その上、体が弱いというザズの妹は、汚染されている空気に皮膚が触れるだけで、強い拒絶反応を起こすという。したがって、家の中で過ごすほかない。病弱で退屈をもてあましているだろう少女に、このセフィーロの夜と、雨と、花の香りを届けられたらいい。球体を掌で抱えるようにして、膜を強化する。オートザムまで持ち、汚染された空気を通さないほどの強度をもち、かつ少女のやさしい掌の中で壊れるように。
「……よし」
この程度できっと大丈夫だろう。クレフは球体を手に、自室に戻った。


クレフの部屋は、子供なら目を輝かせて見入りそうなものが溢れていた。窓際には多種多様な草や花が群生し、宝玉や鉱石がそれぞれ光を放っている。どれも、クレフが研究や薬をつくるために、セフィーロ全土から集めてきたものだった。一見して室内と外の境界がわかりづらく、クレフの気配を慕った鳥や小動物が入り込んでいたりする。逆側の壁は一面、天井まで本棚になっている。導師はいつか本の下敷きになって死ぬと、ランティスから不吉なコメントが出たほど圧巻の景色だ。その傍に、こじんまりと机やベッドが置かれていた。

クレフは机の上に丁寧に、セフィーロの空気を閉じ込めた球体を置いた。そして、部屋の奥へと向かう。ザズの土産をつくる間、海を部屋の奥で待たせていた。
「ウミ。おまえも、そろそろ部屋に戻ったほうが――」
ついさっきまで、紅茶を片手に、部屋にあった植物図鑑に目を通していたはずだった。しかし海を見つけたとたん、クレフは言葉を止める。

海は空になったティーカップを両手に抱えたまま、背もたれに埋もれるようにして、音も立てずに眠っていた。本は、近くのテーブルの上に置かれている。

クレフは、彼女が目を覚まさないようにそっと、その細い指からティーカップを抜き取った。
「ん……」
かすかに海が息を漏らし、起こしてしまったかとその顔を見やる。しかし、すぐにまた、規則正しく寝息を立てはじめた。
「まったく」
苦笑が漏れる。あの東屋から城に戻った時に部屋に帰れと言ったのに、戻っても一人だから嫌だとしぶって、ここまでついてきたのだ。こういうところは本当に子供だと思う。強いのか弱いのか、大人びているのか幼いのか、わからなくなる。

海の隣に椅子を出現させ、座って彼女を見やる。750年も生きて、世の中の大抵のものは見なれているはずなのに。この少女の薔薇色の唇や、色づく頬や、流れ落ちる水のような髪を見ると、初めてひとの美しさに触れたように心を揺すぶられる。誰もが半ば驚いたような顔で讃えるが、本当に海は美しい少女だった。
初めてセフィーロに現れた時から目を引く容姿ではあったが、17歳になった今、会う度に花の蕾が開くようにぐんぐん美しく変わってゆく。その変化の早さがまぶしい半面、切なくもある。花開くものはいつか散る。それをクレフほど知っている者はいないだろう。

クレフにとって海は、たいせつな教え子の一人だった。しっかり者で気丈な半面、繊細で心優しく、信頼しながらも傍から離せないような存在だった。しかし今日の夜を境に、海に対する見方は変わったように思う。

―― 「あなたの心は、私が守るわ」
そんなことを言われたのは、一体どれくらい振りなのか自分でも思い出せなかった。少なくとも、導師になってからは一度もなかった。ひたむきで、一生懸命で、子供とは思えないほどその声は力強く――心がもしも形あるものならば、そのまま私の心をやってもいい。そう思えたほどだった。

悩んでいることがあるだろう、とまっすぐに言われた時、正直すぐにはピンと来なかった。自分の心の動きに、普段あまり関心がなかったからだ。言われなければ、ずっと気づかないままだったかもしれない。しかし海の話に耳を傾けるにつれ、心当たりがあると認めざるを得なかった。

ひとつひとつの懸念は小さなもので、その場限りで消えて行く「点」のようなものだ。しかしその点と点が関連し、あるつながりを感じ取るに至って、初めてクレフはぞくりとした。

「恐ろしい」と漏らした自分に驚いた。国を率いる導師という立場で、よりにもよって意志が全てを決めるこの国で、決して弱さを見せてはならないのに。でも、弱さを自覚したからこそ、海に抱きしめられた時、心からあたたかいと思ったのだろう。

「強くあること」。クレフはそうありたいと思っていると同時に、国を率いる者として自分の義務だともとらえている。しかしなぜだろう、誰かの優しさに触れる度、自分も本当はそうでありたいと――優しくありたいと思う。

どこか懸命だった海の腕の中で、エメロード姫のことが頭をよぎっていた。全てを捨ててでも、彼女が求めたのは、このぬくもり、今のこの感情だったのかもしれない。恋しい人と生きている間に手を触れることすらなかっただろう、彼女の悲しみが脳裏に閃光のように通り過ぎた。エメロード姫が死して三年も経つのに、彼女をまたひとつ、知った気がした。
「ありがとう」
その髪にそっと指先で触れた。
「……すまない」
礼と謝罪。どちらも、本音だった。

クレフは、手にした杖を海に向ける。すると、海が腰掛けている椅子が形をゆっくりとベッドに変えた。ふっくらとした掛け布団を、肩のあたりまで引き上げてやる。あたたかいのか、海が眠ったまま微笑んだ。

失いたくない。

急に心に衝きあげてきた感情に、クレフはしばらく動けず、ただ海を見下ろしていた。
――「あなたを守ってくれた人も、たくさんあったでしょう」
確かに海の言ったとおりだ。遠い昔、まだ魔導師として未熟だったクレフを守った人は数多い。取り返しのつかない犠牲を払ったひともいた。だからこそ今はこの手を、誰かを守ることに使いたかった。そのひとが今のクレフを見て、自分が命を掛ける理由があったと、思ってくれるように。

また、きっといつか出会う。時の深淵のかなたで――

はっ、とクレフは顔を上げた。
―― 今、何を考えていた? 私は、誰のことを――
どくん、と一回、鼓動が高く打った。明るい光に包まれたはずの自室が、急に薄暗くなったかのように感じた。まさか。今自分が抱えている理由なき「不安」。あの時と、同じではないか――
「扉……?」
まさか。そんなはずはない。あんなことが、もう一度起こるはずはない……起こっていいはずがない。冷たい汗が額に浮かんだ。クレフは無意識のうちに、海を見下ろしていた。相変わらず、赤子のように安心しきった顔で、眠っている。

逃げるな。クレフは自分に言い聞かせていた。抱えている不安の正体と向き合わなければ、いつか悔やんでも悔やみきれない未来を迎えてしまうかもしれない。私にしか、感じられない不安。それは一体、なんなのだ?


**


わずかな違和感をおぼえたのは、その時だった。心の中に張られた弦のひとつを、ピンと弾かれたような感覚。クレフは一旦考えを止め、違和感の正体を追い掛けようとした。
―― 「導師」
何の前触れもなく、頭の中に静かなランティスの声が届いた。彼がここにいるはずがない。今頃光とともに、チゼータへ向かう船の中のはずだ。船から、クレフにテレパシーで呼びかけているのだ。同じように、クレフはランティスに心の中で声をかける。
―― 「なにごとだ? ランティス」
―― 「イーグルの周囲に張っておいたバリアに、悪意がある者が触れた。イーグルに危険が迫っている」
なるほど、とクレフは状況をすぐに理解した。弟子であるランティスが張ったバリアだから、クレフも異変に感づいたのだろう。
―― 「すぐに、腕が立つものを行かせてくれ」
―― 「私が行こう」
クレフは、そっと海の額に触れる。いい夢を、と呟いた。そのまま法衣の裾を翻し、部屋の扉へ向かった。ランティスがすぐに返してくる。
―― 「あなたが出向くことはない」
―― 「何が起こっているのか、自分の目で確かめたいのだ」
―― 「導師?」
ランティスの声音がいぶかしむものに変わった。何かを察したらしい。
―― 「いますぐ、精獣でセフィーロに戻る。チゼータ行きは中止する」
―― 「いや、その必要はない」
クレフはきっぱりと断った。しかし、これだけのやり取りですぐに帰国を即断したランティスの勘には驚いていた。「何が起こっているのか確かめる」、それがイーグルのことだけではないことに、ランティスは感づいている。

暗い廊下を、足早に歩く。靴音がこだまする。
―― 「しかし」
―― 「もしも何かが起こるというなら、事はセフィーロだけに収まらぬ。お前はチゼータへ行け、ランティス」
ランティスはしばらく、無言だった。
―― 「導師クレフ。あなたは、何を掴んでいるんだ?」
―― 「掴むのはお前だ、ランティス。気を抜くな」
―― 「わかった。……無事で」
―― 「ああ」
クレフは足を急がせた。今のイーグルは自分で身動きもできない身だ、襲われたら自分では防ぎようがない。もしも侵入者がイーグルを傷つけるなら―― 戦わずに済ませることは難しい。クレフは、手にした杖を強く握りしめた。

――
ザズに妹がいるというのは捏造です。顔立ちは末っ子っぽいですが、性格はしっかりしてるので、お兄ちゃんもいいかなと思って勝手に妹誕生……。きっとかわいい兄妹だと思います。


15.につづく

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