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レイアース二次小説置き場 (Last One)

「魔法騎士レイアース」クレフ中心の長編小説を置いてます。

2020.01.19
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2012.10.20
予感は少しずつ、覚悟に変わりつつあった。

つづきはこちら からどうぞ

――

「悪意」とは、水に落とされた一滴の墨のようなものだ。わずか一滴であっても落ちた後は、水は元の透明ではなくなる。生前のエメロード姫が唯一忌み嫌い、セフィーロに上陸するのを拒絶した「悪意」を、今クレフははっきりと感じ取っていた。
怒りを覚えたのは久し振りのことだった。クレフは杖を握る手に力を込める。エメロード姫の永遠の眠りを妨げ、この国を汚す者は誰だ?

イーグルの居室に一歩足を踏み入れ、初めに気づいたのは独特の香りだった。このセフィーロにない物質からできているようだったが、睡眠系の効力があるものに違いない、と察する。とはいえ、クレフには薬や毒の類はまず効かない。クレフは静かに足を踏み入れた。

マスクを目の下まで被った三人の男が、イーグルの寝ている布団を剥がし、全く力が入っていないその体を背負いあげようとしているところだった。イーグルは意識があるのかないのかわからなかった。その近くの椅子では腕を組んだジェオが座ったまま眠っていて、ザズは隣のソファーで体を丸めて寝息を立てていた。
「―― 止めろ。イーグルは、セフィーロを去るのを望んでいない」
クレフの声に、三人の男が息を詰め、同時に振り返った。同じセフィーロの者でさえ、気配を殺したクレフの気配に気づくのは難しい。まして、他国の者ではなおさらだ。

「なんだ? 子供か?」
初めに声を上げた黒髪の男は若く、まだ十代ほどに見えた。黒髪の男よりも頭ひとつぶん高く、イーグルを半ば背負った茶髪の男は、ためらわず手にした武器をクレフに向けた。それは、黒光りのする銃―― クレフは眉をひそめた。このセフィーロの静かな夜には、あまりにも無粋な小道具だ。サイレンサーがつけられたそれは、とても不格好に見えた。
「いきなり正面から入ってくるとは、馬鹿な子供だ」
茶髪の男には、嘲笑が含まれている。クレフは無表情で返した。
「この城の主は私だ。主が、正面から部屋に入れぬ法はあるまい」
「なに?」
茶髪の男が片眉を跳ね上げた。奥にいた銀髪の男が、クレフにまともに顔を向けた。茶髪の男よりは小柄で細身だ。この男が主犯格か、とその気配から察する。銀髪の男は、クレフを見るとほぼ同時に、表情も変えずにいきなり銃の引き金を引いた。

サイレンサーが取り付けられた銃からは、ほとんど音がしなかった。クレフは杖を無造作に自分の前にかざす。目の前に現れたバリアが、弾丸を一瞬で粉砕した。かすかな異音と同時に、粉になった残骸がパラパラと床に落ちた。
「なんだ? 銃弾が消えた……?」
黒髪の男は、状況を理解していないようだ。銀髪が、スッと目を細め、クレフと対峙した。
「バリアに当たって消滅したのだ。……セフィーロの最高責任者は少年の姿だと聞いた。貴様は、導師クレフか?」
「そうだ」
名前を口にした時、相手の声が、若干緊張しているように聞こえた。
「さ、最高責任者って、こいつが?」
黒髪の顔は目だけしか見えないが、それでも驚いているのは伝わってくる。銀髪は微塵のためらいも見せず、銃口をいきなり眠っているザズに向けた。

「杖を捨てろ。さもなければ撃つ」
「同郷の者を手に掛けるつもりか?」
静かな怒りを込めたクレフの問いを、銀髪の男は否定しなかった。機械のような目だ、と思う。喜怒哀楽が感じられないどころか、生きている風に見えない。オートザムは、高度に機械化された国。精神エネルギーを極限まで使えば、このように人間らしさを失うのだろうか。銀髪は、黒髪の男をみやった。
「杖を取り上げろ。この者も、イーグルと共に連れてゆく」
黒髪は頷き、銃口を油断なくクレフに向けたまま、歩み寄ってきた。

―― どうするか。
数秒の間、クレフは逡巡した。ザズを傷つけることなく、三人の不法侵入者を捉える方法はいくつか思いつく。しかしその場はそれで収められても、中期的に重要なのは目的を知ることだ。目的によっては、オートザムが敵にまわりかねない。

しかし捕えたところで、この手の男たちが目的をたやすく明かすはずはない。それならば、いっそこちらが囚われの身になり、相手の懐に入り込むほうが、目的は探りやすいかもしれない。多少の危険は伴うだろうが、魔法を封じられない限りはどうとでもなる。その上、茶髪の男は決してイーグルを粗略には扱っておらず、危害を加えるつもりはなさそうだった。

「大人しくしろ」
黒髪が右手でクレフの杖を握り、左手で胸元を掴むと壁に押さえつけた。首もとが締めつけられ、顔をしかめる。
「二人とも連れて行け」
銀髪の言葉に茶髪が頷き、イーグルを担ぎあげた時だった。不意に、部屋の外に人影が現れた。

**

「導師クレフ? どうされました?」
扉の向こうに現れた人物に、クレフは息を飲んだ。
「プレセア……?」
しどけない、真っ白の薄絹の夜間着を身につけたプレセアが立ちすくんでいた。裸の肩に、ストールをまとっている。赤い宝玉のついたネックレスが胸元に隠れていた。普段はまとめている金髪は豊かに肩や背中に流れ、わずかな光にもけぶるような輝きをはなっていた。
「こいつぁ、見事な美女だ。不運だったな、この場に居合わせて」
イーグルをベッドの上に下ろした茶髪が、ニヤリと笑う気配がした。わずかに銀髪がため息をつく。茶髪は、銃を手にもったまま、プレセアに歩みよった。

プレセアは状況を理解できていない目で、部屋の中を見渡した。そして、黒髪の男に押さえつけられているクレフを視線がぶつかった途端、金色の目が大きく見開かれた。
「クレフ!」
「プレセア、待……」
クレフが何か言う間もなかった。プレセアはネックレスの宝玉に手をかざす。宝玉が赤い光を放った……と思った時には、その宝玉から一振りの剣が現れる。プレセアは宝玉から剣を引き抜くような素振りで、一気に抜きはなった。そして、まっすぐにクレフの元へと向かった。
「な……」
まさかいきなり武器を手にするとは思っていなかったのだろう。茶髪の男が慌てて銃をプレセアに向ける。そして、クレフと彼女の間に割って入った。プレセアの目が鋭く光る。銃が火を吹く刹那、細身の刀身が閃く。一瞬の光芒が弧を描いた……と思った瞬間、銃口を斬りおとしていた。
「そこをどきなさいッ!」
普段の彼女からは信じられないような一喝が、その唇から洩れる。肩に羽織っていたピンクのショールが宙を舞った。

「この女!」
茶髪の声が緊迫感を帯びる。腰に挿していた警棒のようなものを抜きはなち、全力で撃ちかかってきた。プレセアは引かず、逆にスピードを増した。金属音を立てて、男の警棒とプレセアの剣がぶつかり合う。プレセアが唇を噛み、剣を横に流して警棒を受け流す。
「はっ、男の力に……」
女が勝てるか、と言いたかったのだろう。しかしその前に、突っ込んできたプレセアの足が、男の腹に深く食い込んでいた。うめき声をあげて茶髪が床に倒れる。プレセアが身を起こし、黒髪に向き直った。夜間着の裾が割れ、真っ白い足が太腿まで覗いているが、気にもかけていないようだった。
「クレフを離しなさい。さもなければ」
「さもなければ、何だってんだ!」
「殺すわよ」
プレセアの黄金色の瞳は異様なまでに澄み、まっすぐに目の前の黒髪の男を射ぬいていた。
男は、動けない。しん、と沈黙が落ちた。

戦いの場では、一瞬でもひるんだり、集中力を欠いた者が負ける。黒髪の全身が強張り、注意が逸れた瞬間をクレフは見逃さなかった。杖が光芒を放ち、黒髪の全身を光が包みこむ。声を立てる間もなく、その腕や胴体に光の鎖が巻きついた。バランスを失った体が、どうと床に倒れ込む。
「クレフ!」
プレセアがクレフの元に駆け寄ろうとするのを、クレフは視線で制した。その視線の先に気づいたプレセアが立ち止り、油断なく剣を銀髪の男に向ける。ザズに向けられた銃口に、その視線が険しくなる。銀髪は、相変わらず無表情で立っていた。殺気も感情も感じられない分、次の行動が読めなかった。と、不意に彼はザズに向けた銃の引き金に指を掛ける。その場に緊張が奔ったその時、

「―― ジェオッ!!」

イーグルの大声が、クレフとプレセアの頭の中に響き渡った。それとほぼ同時に、完全に眠っていたはずのジェオがカッと目を開けた。そして、目下の状況を見るなり間髪いれず、丸太のような腕を真横に払った。睡眠薬で完全に眠らせたつもりだったのだろう、油断していたに違いない銀髪の男の体が、その一撃をまともに受けて、銃と一緒に壁まで吹き飛ばされた。
「な……んだぁ? 皆、無事か? なんか、頭が……」
ふらつく頭を掌で支え、ジェオが唸るように言って周囲を見回した。
「大丈夫だ」
クレフはあっという間に、次々と光の鎖で、残る二人の男も縛り上げた。
「イーグル! 無事か?」
ベッドの上に投げ出されているイーグルに目を止め、慌てて駆け寄る。
「―― 僕は大丈夫です。それより、この三人に見覚えはありますか? オートザムの者のはずです」
「なんだと?」
ジェオの顔色が変わった。そして、床に座らされている三人にずかずかと歩み寄る。そして、銀髪の男のマスクを指で引きずり下ろした。機械のように整った、非の打ちどころのない顔だ。しかし、整っているという以外、これといって特徴がなかった。目をそらせば、どんな顔だったかたちどころに印象が消えてしまうような。ジェオは顔をしかめた。

「……知らねぇ顔だ。でも、オートザムには間違いなさそうだな」
その身なり、手にした銃、そして顔立ちも、オートザムに特徴的なものだった。ジェオは三人から離れると、イーグルを元通りベッドに寝かせた。そして、クレフとプレセアに改めて向き直る。
「導師クレフ、プレセア。オートザムの者がご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。処遇は、あなた方が決めていただいてかまいません。なんなりと従います」
「目的が知りたい、それだけだ。――ただ、この三人は今、イーグルを連れ去ろうとしていた」
クレフの言葉に、ジェオが驚いたように三人を見下ろす。
「―― こんな強硬手段に出てくるとは。あまり大統領に信頼されてませんね、ジェオ」
「軽口叩いてる場合かよ」
ジェオはため息をついてイーグルを見やった。そしてクレフに視線を戻す。

「大統領が、イーグルをオートザムに帰国させたがっているのは本当です。大統領は、やると言ったことは必ずやる、そういう意味ではこのイーグルに良く似た男です。大統領に直接真意を問いただしてきます」
「……わかった。後は、任せよう。ジェオのことは信頼している」
「……ありがとうございます。こんなことがあったのに、信じてくださって感謝します」
オートザムの大統領がイーグルを帰国させたがっている、というのはクレフにとっては初耳だった。単純に、親が息子に会いたがっている、とも思えない。仮にそれだけが目的だとしたら、わざわざこんな物騒な刺客を送り込んではこないだろう。それに、クレフが知る限りこの三年間一度もそんな素振りは見せなかったのに、なぜこのタイミングで、と疑念が募る。

しかし目的については、ジェオ達に任せるのが最善に思えた。下手にクレフが動けば、二国間の衝突に発展しかねないことは分かっていた。今オートザムと摩擦を起こしても、両国にとって利益はなにもない。

クレフは、杖を三人に向けた。ハッと緊張した三人を、光が包む。と思った時には、その姿はその場から掻き消えていた。
「とりあえず、三人をセフィーロ城内の牢に移動させておいた。明日にでも、戦艦に身柄を移せばよいだろう」
「お手間をおかけします」
ジェオは頭を下げた。

「……導師クレフ。大丈夫ですか?」
控えめなプレセアの声に振り返る。彼女はクレフの前で膝を折った。そして、黒髪に押さえつけられた時に乱れた、クレフの衣服を丁寧に直した。その手つきは優しく、とてもさっき、大の男を圧倒したのと同一人物とは思えなかった。
「―― あなたが素晴らしい剣士だとは、知りませんでした」
イーグルの声に、顔を上げたプレセアは微笑んで首を振った。
「私は剣士ではありませんわ。創師として武器をつくるのが仕事ですから、扱えるのは当然ですわ」
「……すまなかったな。おまえに剣を使わせたくはなかったのだが」
プレセアは、これほどの剣技をもちながら、剣士と呼ばれると必ず否定する。創師であることに誇りをもっていたし、力での解決を望んでいないからだ。しかし実際は、その辺の剣士が束になっても敵わないレベルだった。彼女ほど、武器を自分の手の延長のように使いこなせるものはそういない。

「いいえ。あなたが無事で、本当によかったです」
プレセアはそう言いながら、何気なく自分の姿を見下ろした。肩も露わな夜間着一枚なことに気づいたプレセアが、足の先から顔まで一気に赤くなる。
「す、すみません! お見苦しい姿で……!」
思わずジェオが顔をそむけた。その頬が赤くなっているところから見て、そうとうに初心なところがあるらしい。クレフは法衣の上着を外し、プレセアの肩に掛けた。
「ク、クレフ?」
「部屋まで送ろう。そろそろ睡眠薬が効いてくるはずだ」
「え……?」
首を傾げたプレセアの体が傾いだ。そして、無理やりにふらつく体を起こした。
「だ、だいじょうぶです。一人で帰ります」
「大丈夫ではないだろう、その様子では」
「だいじょうぶです、どうせ寝るところでしたし」
ただの睡眠薬で毒性はなさそうだったが、そういう問題じゃないだろう、と思う。プレセアは何とか数歩歩いたが、そこでくず折れた。それをジェオが支える。
「しかたないな」
クレフは、その場に天蓋付きのベッドを出現させた。なんとかそこにプレセアを寝かせたジェオが、床に座り込む。
「すいません。どうにも、眠く……」
そこまで話すのが限界だったらしく、座ったまま動かなくなったと思うと、寝息が聞こえだした。

「―― 導師クレフ。助けていただいて、ありがとうございました」
イーグルの声が、クレフに届く。クレフは首を振った。
「意識があったのだな」
「ええ、睡眠薬も効かないようです。というか、元々眠っている状態ですもんね」
あははは、と呑気に笑うイーグルに、クレフは少し呆れた。今の今、浚われようとしていた人物の態度とは思えない。

イーグルは同じ調子で続けた。
「さっき、わざと捕まるつもりでしたね」
とっさに取りつくろえず、黙った。目が見えないはずなのに、どうしてその場の状況がそこまで把握できるのだろうと思う。
「さっきの人々を見て、おわかりになったでしょう。オートザムの人々は、年々『心』を失ってゆきます。捕まれば、何をされるかわかりません」
「『心』を?」
「ええ。それに今、彼らはあなたを僕と一緒に連れ去ろうとしました。普通この状況なら、その場であなたを始末したほうが簡単なのに。……ご自愛ください、導師クレフ。きっと彼らの……オートザムの目的は、僕だけではありませんよ」

大統領の息子であるイーグルの言葉には説得力があった。しばらく黙っていたイーグルが、口を開いた。
「カリア、を」
「え?」
「カリアを、お持ちいただけませんか。僕にはもうあまり、寝ていられる時間がないようです」
「焦るな、というのは難しいだろう。だが、おまえの治療には最善を尽くしている。これ以上のカリアの使用は、今のおまえの体には無理だ」
「それでも、と言っても?」
「駄目だ」
クレフはきっぱりと言う。イーグルが苦笑した。言い募っても無駄だとわかっているのだろう。いくら内臓や筋肉が退化しないよう治療をしても、体は確実に弱っている。薬草とはいえ、過剰に使えば体を壊してしまう。

そこまで考えて、クレフはふと、イーグルを見下ろした。
「それにしても、どこでカリアという名を知った? ランティスから聞いたか」
イーグルは数秒言葉を止め、やがて微笑んだ。
「僕もこの国に来て、魔法が使えるようになったのかもしれませんよ?」
「イーグル?」
「―― 導師。これは、ただの僕の勘ですが――」
イーグルは、少し間をあけて、続けた。
「セフィーロは、この三年間、平和でした。でも、ずっとこのままではいられませんよ」
「ああ」
クレフはすぐに頷いた。予感は少しずつ、覚悟に変わりつつあった。
「わかっている」



第二章 完

16.につづく

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