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レイアース二次小説置き場 (Last One)

「魔法騎士レイアース」クレフ中心の長編小説を置いてます。

2020.01.19
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2012.10.23
なぜかタータは嬉しそうだ。その後ろで、タトラが微笑んでいた。
「ようこそ。私達の国、チゼータへ」

つづきはこちら からどうぞ。

――

光には、母親はいない。物ごころついた頃には、家の中には父親と兄達しかおらず、男ばかりの中で育ってきた。数少ない母親との記憶のひとつが、寝る前の読み語りだった。灯りを落とした部屋の中、本を読む母親の俯いた顔、穏やかな声。半ば夢うつつになった時に、髪をなでられた指の感触。全てがやさしい思い出だ。その中で、光がもっとも好きだったのが「アラビアンナイト」の話だった。アラビアンナイトが読まれる夜には、母親にもう一話、もう一話とねだったものだった。読み語りの後では時々、「アラビアンナイト」の夢を見る。きらびやかな街、香辛料の香り、行き買う人々の笑い声。夢に見た街並みはどこかにじんでいて、まさに夢の中の世界のようだった。

その、幼いころ夢に見たお伽噺の世界が今、光の目の前に近づこうとしていた。

隣にいるランティスのことも忘れて、食い入るように街に見入る。すぐ後ろで、足音が聞こえた。
「これが私達の国、『チゼータ』だ、が……その、ち、小さ……」
「すごいな!!」
光が勢いよく振り返ると、タータがうわ、とのけぞった。
「これがチゼータなんだな? 本当にアラビアンナイトみたいだ!」
「だからその、あらびあんないと、というのは何なんだ?」
「私たちの世界にある国をモデルにした、御伽話なんだ! 私が小さいころ夢に見てた街にそっくりだ。私、こんな綺麗な街はじめて見たよ!」
旅行は大好きだったが、こんなに興奮したのは初めてからもしれない。
「そ、そうだろ。そうだろ!」
なぜかタータは嬉しそうだ。その後ろで、タトラが微笑んでいた。
「ようこそ。私達の国、チゼータへ」

飛行艇は、少しずつ陸地に近づこうとしていた。眼下には海が広がっていて、真っ暗い中に船が何台も行き来する灯りだけが見える。そして陸上は、全体が黄金色の光で溢れていた。セフィーロどころか、東京の街よりもぐんと明るく感じる。飛行艇が下りるに従って、白いレンガ造りの神殿のような巨大な建物、モスクのようなドーム型の特徴的な屋根、ともされた炎、行き交う人々の姿がぐんぐん走り抜けてゆく。光は、街の向こうに見えるエリアを指差した。
「……あっち、真っ暗だ。海なのかな」
「あれは砂漠だ。チゼータの三分の一を、砂漠が占めている」
ランティスが静かな口調で答えた。
「そうなのか」
となれば、住めるのはほんのわずかということになる。全土で、東京の半分くらいの広さもないのではないだろうか。砂漠の中にはオアシスなのか点々と灯りが見えたが、人が大勢住んでいそうには見えなかった。丸く見える地平線の向こうには、巨大な影が浮かんでいる。あれはセフィーロから見えた、球体の両端に見えていた円錐型のエリアだろう。人が住めるエリアではないと聞いていたが、確かに今見ても真っ暗だった。とすれば、人が住めるのは、この東京の半分もなさそうなエリアということか。灯りが集中するのもうなずけた。

***

「ヒカル」
「……」
「ヒカル」
「……え、なに、ランティス?」
「場所を代わろう」
馬車の中でそう言われて初めて、光は自分がランティスの膝に乗りあがるようにして、窓の外の景色に見とれているのに気づいた。
「ご、ごめんなさい!」
狭い馬車の中で苦労しながら、窓際の席へと移る。
「本当に、大人と子供みたいだな……」
前の席に座っていたタータが呆れたように言う。タトラがくすくすと笑っていた。

アラビア風の装飾がたっぷりと施された豪華な馬車につけられているのは二頭の白い馬。できすぎのような状況で、向かうのは王宮だというから、嫌でもはしゃいでしまう。下は石畳で、車輪が通るたびガタガタと揺れたが、全然気にならなかった。

窓から見える人々は老若男女、鮮やかな色を纏っていた。女の人は赤・青・緑・黄などかぞえきれない色の原色の長布に、精緻な刺繍をほどこしたものを纏っている。むき出しの二の腕や額、首もとには黄金をベースに、惜しみなく宝石をちりばめたアクセサリーを身に着けていた。男は腰に生成りの布を巻きつけ、上にはシャツを無造作に着ていた。セフィーロでも人々は様々な色をまとっていたが、透明感のあるイメージの色が多かった。このチゼータでは、皆が褐色の肌に似合う原色を纏っている。
男女ともに眼光は鋭く肉感的で、彫りが深かった。窓から流れ込んでくる空気は暑かったが、東京の夏より空気は乾燥している。どこからかいつも、香辛料のような嗅ぎ慣れない香りが漂ってきていた。

街には空気のように、色とりどりの光が流れている。着物を売る店、宝玉が並んでいる出店、名前も分からない動物を売る店、飲食店、ビリヤードのような遊びに高じている人々……いくら見ても見あきることがなかった。本当に、自分が夢を見ているんじゃないかと何度も思った。

**

「ヒカル、こっちだ」
馬車を下りてもきょろきょろしている光の手を、不意にランティスが取った。
「だ、大丈夫だよ! 行こう!」
「そっちは逆だ」
右に行こうとしたところを、左に引かれた。ひとつひとつの建物が荘厳すぎて、どちらが王宮なのか分からない。右側にはモスク風の巨大な寺院が、左側には白い煉瓦で造られた神殿が見えていた。神殿に向かう道の両端にはかがり火が焚かれ、武装した兵が等間隔で立っている。どこからか、音楽の調べが流れてきていた。
「王と、女王が待っております。こちらへ」
「って言っても、私たちの両親だ。気軽に会ってくれ」
タトラの言葉を、タータが捕捉する。どうやら、落ち着きがない光を、緊張していると思ったらしい。

「すごいな、ランティスは」
カッ、カッ、と石畳を鳴らしながら歩くランティスの隣を、少し急ぎ足でついていく。ランティスが光を見下ろした。
「なぜだ?」
「セフィーロにいる時と、全然変わらないから」
どこにいても、誰がいても変わらず悠々としていられるタイプの人間がいる。ランティスは、まさにそのタイプに見えた。
「……旅をしていたからな。チゼータも初めてではない」
それで、こんなに落ちついていられるのか。でも光は、たとえ二度目にここに来たとしても、今と同じように落ち着きがなくなる自信があった。

王、女王に会うのも、人生で初めてだった。エメロード姫やフェリオも王族なのだろうが、最も意志が強い者が『柱』となり全てを支配するセフィーロには、基本的に代々続く王家は存在しない。そのためか、エメロード姫は幼い少女の姿だったし、フェリオも王子という立場ながら初々しいところがある。一方でこのチゼータの王宮は、何百年、下手をすればもっと昔から同じ場所に建っていた風格がいたるところから漂ってきていた。

廊下から、窓辺から、部屋の中から、風のように音楽が流れ、かぐわしい香りが漂ってくる。ただ、その雰囲気を一言で表すなら、これほど大勢の人の気配があっても「静寂」だった。思えば、セフィーロのあの城も、あれほどの住人を抱えながらも静かな雰囲気が常にあった。中心人物が住む場所はどこであれ、似たような空気を醸し出すものかもしれない。
「ここの王様って、何代目くらいなんだ?」
「ん? 35代目だ。姉様で36代目になる」
「私とタータで36代目、でしょう?」
「と言っても、二人で同時に継ぐわけにはいかないだろ?」
「継いでもいいのよ。私は、可愛いタータが幸せなら、どんな形でもいいわ」
むむ、と言葉に詰まったタトラが赤くなる。光はふふっと笑った。光には姉妹がいないから分からないが、自分に姉がいたらどうだったかな、とふと思う。

ごほん、とタータが咳をした。気づけば、光の身長の三倍はありそうな、巨大な扉の前についていた。扉には、花や動物や人々の彫刻がほどこしてあり、一時間見ていても飽きなさそうだ。
「それより、この次の間が玉座だ。ランティスと光のことは、もう話してある」
タトラが扉に歩み寄ると、両側に控えていた門番達が両側から静かに扉を開いた。

**

扉を開けると、優美な紋様が織り込まれた真紅の絨毯が拡がっていた。10メートルほど進んだところに、玉座が2つ並ぶようにしつらえられていた。そこにゆったりと腰かけていた一組の男女に、光の視線は吸い寄せられた。
「タトラ・タータ、ただいま帰国いたしました」
絨毯の上に膝をつき、タトラとタータが両親に帰国の挨拶をする。ランティスは二人から数メートル離れた場所で、立ったまま頭を下げた。光もどうしたらいいのか分からず、ランティスに並んで頭を下げる。
「おぉ、戻ったか。何事もないか?」
立ち上がったのは、豊かな白髪と白髭を持つ、筋骨たくましい初老の男だった。他の男と同じように白い腰布を巻いているが上半身は裸で、首に重量感のある金の首飾りを身に着けていた。体のあちこちには傷が見え、何ともいえない迫力を醸し出している。しかしその外見に似合わず、娘たちを前に目じりを下げている。
「はい。セフィーロから二人の客人をお連れしました。魔法騎士の光と、導師クレフの弟子であるランティスの2名です」
「おお?」
王は目を丸くした。
「どこに魔法騎士がおるのじゃ?」
「え、ここに」
タータが背後の光を指差す。おぉ、と王は頓狂な声を出した。
「どこの子供が混ざったのかと思ったぞ。10歳くらいか」
「17歳……です」
「17歳!?」
タータやタトラにまでびっくりした顔をされ、光はちょっと傷ついた。

光の視線はさっきから、王の隣に座っている女王に向いていた。口元には皺があり、目元は少し下がっているが、大人の風格を備えた、素晴らしく美しい女性だった。母親をよく覚えていないせいか、年上の女性を見ると、気になって仕方がない。光と目が合うと、女王は視線を逸らすことなくスッと見返してきた。
「遠い旅路をよくいらっしゃいました、お二方。……まず、お詫びを申し上げなければいけませんね。三年前、私達がしようとしたことを。このチゼータは狭い、国土を広げなければ発展はありえない。そう思っての娘たちの行動でした。もっとも、理解してほしいなどと申し上げることは到底、できませんが」
そう言うと、女王と王は立ちあがり、そろって頭を下げた。光は首を横に振った。
「そんな! タータもタトラも素敵な人だ……です。謝ってもらうことなんて、ありません」
「……それに、チゼータにはセフィーロよりも長い歴史があります。特に新生セフィーロでは、学ぶことは数多い。数々のご協力に、感謝しこそすれ、恨むことなどありません」
慣れない敬語に口ごもりながらも懸命に気持ちを伝えようとする光と、穏やかなランティスの雰囲気に思う事があったのだろう。王の表情がほころんだ。

「なんの。セフィーロには歴史の生き字引のような御方もおられると聞いている。チゼータに眠る、今や滅びた文字で書かれた古文書も、いつか読み解いていただけるかと思っておる」
「はい。導師クレフから、写本を預かるようにと事づけられています」
「おお、それはありがたい。すぐに、準備させよう」
「王。お二人をあまり引きとめてはなりません。もう夜なのですから、お疲れでしょう。部屋をご用意いたします。同じ部屋でよろしいですか」
さらりと女王に言われて、光は首を傾げた。
「? いい、ですが」
「……。別にしてもらえると、ありがたい」
対照的にしばらく沈黙し、断ったのはランティスだった。

一瞬あけて、ほほ、と女王が笑いだす。
「冗談ですわ」
「お母様。客人にそんな冗談を……」
当惑気味のタータに、女王が切り返した。
「お前たちも二人とも年頃じゃ。全く艶聞を聞かせてくれぬから、退屈しておるぞ」
「お前たち、何を言っておるか! まだまだ二人は子供……」
「それはない」
「ありませんわ」
「ないらしいですわ」
タータ、タトラ、女王に同時に否定された王がしおれた。こうして見ている限り、普通の家族に変わりなく見えるのがおかしい。

落ち込んだ父親を見て、タータがため息混じりに口を挟んだ。
「大丈夫だ。父上より逞しい男はそうそういないからな」
「逞しい?」
光が首をかしげる。
「そーだ! 筋肉があってこその男だ! ヒカルだってそうだろ? だからランティスを選んだんだろ」
「えーと、えーと……」
ずい、とタータに詰め寄られて光は困った。光だって剣道道場に生まれたくらいだから、逞しい男性は見なれている。だからといって、逞しいからランティスに惹かれているわけではないし、「選んだ」と言われると違和感がある。

ランティスがため息をつく。
「……とりあえず、休ませていただけるか。ヒカルも初めて訪れた国で疲れている」
「だ、大丈夫……むぐ」
言いかけた光の口元を、ランティスの大きな掌が押さえた。どうやら、これ以上今の会話を続けてほしくはないらしい。
「もちろんですわ。……この街は美しい。きっと、美しい夢が見られましょう」
そう言って微笑んだ王女の顔が、なぜか光には面影も覚えていない母親と重なった。


18. につづく

光には母親はいないって言いきっちゃいましたが、本当は両親ともいます・・・このサイトだけの捏造ということで。
ジャンピング土下座。

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