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レイアース二次小説置き場 (Last One)

「魔法騎士レイアース」クレフ中心の長編小説を置いてます。

2020.01.19
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2012.10.23
「人には、誰しも『願い』がある。」

「つづきはこちら」からどうぞ。

――

どこかで、狼の遠吠えが聞こえてくる。
イーグルはゆっくりと目を開けた。

真っ先に目に入ったのは、雲ひとつない真っ青な空だった。チゼータに旅立って一週間ほどになる、ランティスのことを思い出した。セフィーロの空。この美しさは、それ以外にありえない。

視線を下ろすと、鳥の嘴のように先が尖った崖が目に入る。あの場所だ、と一瞬でわかった。前に夢を見た時、イーグルが初めに立ちつくしていた崖だ。そこで彼は、銀色の髪と青い瞳をもつ、美しい少女と出会ったのだった。

そして、イーグルが前に立っていた場所には、一人の娘が背中を向けて立っていた。
銀色の髪が、肩から腰に波打ち、崖下からの風にたなびいている。身長と同じくらいの長さがあるのだろう。
濃い青色の甲冑をまとっていた。その腰には、鞘におさめた剣が見える。その鎧姿は、セフィーロで見たランティスのものに似ていた。

「――こんにちは」
声をかけ、ゆっくりと歩み寄る。これではこの間と逆だ、と思いながら。娘は、ゆっくりと振り返った。

―― イーグル・アイ。
鷲の目。自分の名前の由来にもなった名が一瞬、頭の中に閃いた。ガラスのように透明で鋭い青い瞳が、肩越しにイーグルを見つめていた。
「また、お会いしましたね。あの時は貴女の名前は聞けませんでしたが――」
あの時の無邪気な少女と比べると、比べ物にならないくらい成長していた。あの頃が10歳前後だとしたら、今は18・19歳くらいだろう。白いドレスは甲冑に変わり、携えていた小さな鞄は剣に変わったが、その顔立ちはあの少女の面差を残していた。何より、見返した目が語っていた、イーグルのことを知っていると。

娘の桜色の唇がゆっくりと動いた。その時一陣の風が吹き抜け、きな臭いにおいを崖下から運んできた。
「―― 私は、ロザリオ。……導師ロザリオ」
「……導師?」
「たった今、その称号を受け継いだばかりだ」
イーグルは繰り返し、ロザリオ、と名乗った娘をまじまじと見た。ただの夢ではない、とイーグルの本能が告げていた。ここで起きていることをしっかりと見ろと。

「ここは『セフィーロ』なのですか?」
イーグルは、ロザリオの元にゆっくりと歩み寄りながら尋ねた。彼女の瞳は、スッと細められた。
「『セフィーロ』か。そうだな」
イーグルはロザリオの隣に立ち、眼下の景色を見下ろした。その途端、足が震えた。
「『セフィーロ』だった、というべきか」
前に見た時には、この崖下からは森や湖や砂漠が見渡せた。宙に浮かんだ島からは巨大な滝が流れ落ち、イーグルが想像し得るどの景色よりも美しかった。

しかし今、イーグルの目に映っているのは、見渡す限りの焦土だった。森も湖も砂漠もなく、ただ黒々とした土が続いているだけだった。
「ここはもう、ただの焦土でしかない。もう、この土地に名はない」
「滅びた……? セフィーロが?」
ランティスが出発の日、イーグルに話したことをふと思い出していた。「セフィーロは、滅びたことがある」と確かに言っていた。それは、このことなのか?

「……異なる時空から来た青年よ。戻るがいい。ここにはもう、何もない」
ロザリオは、静かにイーグルを見やった。その手は、良く見れば血とも泥ともつかないもので汚れていた。この娘も、戦ったのだろう。「導師」であるとすれば、その実力は想像するに難くない。そして、全ていなくなったのか? 彼女一人を残して。
「いったい、何があったのです? 僕があなたに、何かできることはないですか?」
自分よりも遥かに「強い」だろう娘を前に、どうしてそんなことを尋ねたのか。言おうとして言ったというよりも、勝手に言葉が口に出たというほうが正しかった。ただ、ロザリオが今にも消えてしまいそうに儚く、幼い少女だった頃の彼女が背後にダブって見えたのだ。

ロザリオは、少し驚いたように目を見開き、イーグルに向き直った。その目は、初めて彼の存在を認めたように見えた。しかし、やがて諦めたように、小さく首を横に振った。
「……『願い』を、どう思う?」
「え?」
「人には、誰しも『願い』がある。誰にも認めてもらえなくとも、間違っているかも知れなくとも、捨てることができない『願い』が。それに出会えるのは、幸せなのだろうか。それとも、不幸せなのかな」
ロザリオは、言い終わる時にはもうイーグルを見ていなかった。遠い空の向こうを見ていた。

イーグルは、ロザリオが呟いた言葉に、心を直接打たれたように立ちすくんだ。それは、イーグル自身が何度も思ったことに違いなかったからだ。心を読まれたのかと思った。
『セフィーロ』の柱制度を破壊するために命を賭けるランティスを救うために、イーグルは『セフィーロ』の柱になることを決意した。たった一人の命のために、ランティス自身望んでもいないのに、多くのものを犠牲にしようとした。誰にも認められるはずもなく、正しいはずもなかった。それなのに、その願いを捨てることがどうしてもできなかった。

「……僕には、その問いに答える資格はありません」
しばらく沈黙した後、イーグルは言った。
「僕もまだ、答えを出せていませんから」
ロザリオは振り返った。彼女が涙を流しているのに、イーグルはその時気づいた。自分が泣いていることにすら気づいていないようだ。涙は頬を伝い、水滴となって宙に舞った。周りに生けるものの気配は他になく、血の匂いのする娘が一人。それなのに、ぞくりと恐ろしくなるほどに、ロザリオは美しかった。

イーグルはロザリオに歩み寄る。そして、涙が伝う頬に指先を伸ばした。
「病んでいるのか」
不意に、ロザリオが言った。
「ええ」
「……直に、目は覚めよう」
ロザリオは目を閉じ、指先でトン、とイーグルの額を衝いた。それと同時に、意識がぐんと遠くなる。
「また―― 会おうぞ」
衝撃に目を閉じ、開けた時にはもう娘の姿はどこにもなかった。


***


意識がゆっくりと浮上したが、夢なのか現なのか、分からなかった。また別の夢に入り込んだのかもしれない。目は閉じているが、現実に戻ったから開けられないのか、眠る夢を見ているのか判然としない。

ただ、すぐ隣に人の気配がした。「この気配は、よく知っている」。イーグルは、気配に向かって手を伸ばした。
「―― 導師」
心の中で呼びかける。すると、誰かが身を起こす気配がした。
「―― 導師ロザリオ」
その瞬間、がたんっ、と音がした。そのひとは立ちあがり、イーグルを見下ろしたようだ。視線を感じる。わずかに震えた吐息に、イーグルは自分の勘違いに気づいた。
「あなたは、導師クレフ……?」
「なぜだ?」
クレフの声は、初めて聞くほど動揺していた。普段の穏やかな声が嘘のように、生々しくさえ聞こえた。
「なぜおまえは、導師ロザリオを知っている?」


19.につづく

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