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レイアース二次小説置き場 (Last One)

「魔法騎士レイアース」クレフ中心の長編小説を置いてます。

2020.01.24
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2012.10.25
「それならば会いたい。尋ねたいことがあるのだ」

「つづきはこちら」からどうぞ。

――


ランティスは、チゼータの神殿への煉瓦造りの道を歩いていた。湿度の少ない強い日ざしが、容赦なく照りつけてくる。常春のセフィーロを離れた時はじめて気づいたが、彼は暑さが苦手だった。どちらかと言うと、寒いほうがまだ肌に合う気がする。

道から右側には海が広がり、大勢の人々が海水浴に興じていた。左側はびっしりと家や店が並んでいる。これほど暑いというのに、チゼータの人々は陽気で、朝も昼も夜も出歩いているように見えた。店に入っても、店員も客も一緒になって飲み食いしているため誰に注文していいのかも分からない。

今日城に呼ばれたのは、導師クレフにチゼータ側が解読を依頼している古文書の写本を、受け取るためだった。チゼータに来てからの五日間は、このごく狭い星を見て回るには十分な時間だった。写本を受け取ったらセフィーロに帰国してもかまわなかったが、ひとつ、気にかかっていることがあった。

師は、何か起こるとしたら、影響はセフィーロにとどまらないと言った。だから、チゼータに行って、その前兆をつかんでこいとも。しかしランティスが見る限り、チゼータはごく平和で、何の凶兆も感じ取れなかった。もちろんそれはいいのだが、「何もなかった」と戻って報告するのは、なんとなくバツが悪い気がしている。

いつもマイペースで、他人にどう思われようが気にならないと自認しているランティスには珍しいことだった。ただ、ああ見えてクレフは厳しい師匠だ。何もつかめず帰国して失望されると思うと、大いに不本意な気分だ。期待されているからこそ厳しいのだろうが、師を前にすると、昔ながらの子供らしい気持に返る自分に、ランティスは苦笑した。

「ランティス!」
弾んだ声で名前を呼ばれ、海の方を見やる。すると、光が大きく手を振っていた。ランティスが先日買ってやったサリーを身にまとっている。赤色がよく似合っていた。足は海に浸かっているが、膝丈もないようだ。チゼータの人々の間に混じると、本当に子供にしか見えない。人懐こい犬のように、顔いっぱい笑顔を浮かべてランティスの方に駆けだしたが、とたんに男につまずいて前のめりに倒れ込んだ。おおっと、と叫んで、その男が光の小柄な体を受け止める。

「ご、ごめんなさい! ちゃんと見てなくて……」
「嬢ちゃん、可愛いなぁ」
「えっ?」
立ち上がろうとしたところに肩を掴まれ、光は後ろを振り返った。
「誰もおらへんて。君のことや、君の。なぁ、ひとり?」
「え、あの、」
戸惑う光の真後ろに、ランティスはぬっと立った。影が男の方に差し、男はのけぞる。
「怖! なんやあんた、無表情で」
「行くぞ、ヒカル」
「うん! ごめんね、私行かなくちゃ」
自分が誘われたということにすら気づいていないようだ。というより、つまづいたのはとにかく、今のに謝る必要はまったくないと思う。

「ヒカル……気をつけろ」
チゼータの男は、軽薄な者が多すぎる、とランティスは元の道を歩きながらため息をついた。
「え? 何に? どうして?」
「……」
チゼータには軟派な男が多く、すぐに女を誘ってくるから誘われてもついて行くな、というだけのことを、ランティスは例によってうまく説明できない。光も、たぶん言われてもピンと来ない。光は男兄弟の中で育ってきたせいか、自分を「女」だとあまり認識していないように見える。例えが悪いが、猫に育てられた犬が、自分は猫だと思い込んでいるようなものかもしれない。……と様々に思うが、結局言葉にできない。結果として、無言で歩いて行くことになる。しかし光は、ランティスの隣で楽しそうだった。


***


城に着くと、二人のことを知っている従者にすぐに通された。謁見の間のようなしかめつらしい場所ではなく、より内輪な、豪華な応接室といった雰囲気だ。部屋の中には南国系の花の香りが漂い、照明や装飾品は歴史を感じさせた。

タータとタトラは、しばらく経ってもやって来なかった。代わりに、何か慌ただしい気配が漂っている。大勢の人が扉の外を行き来し、何か話している声が聞こえてきていた。
「なんだろう?」
ふかふかの大きな椅子に沈み込んだ光が、身を起こして扉の外の気配を窺った。すると、ノックと共に扉があき、タータとタトラが現れた。タータが入って来るなり、二人に頭を下げる。
「待たせて済まないな」
「かまわないが、何かあったのか」
タトラが首を振った。ランティスの視線は、彼女が抱えた分厚い本に吸い寄せられた。
「大丈夫です。導師クレフには、例の古文書の原本をお貸しするつもりだったのですが、紛失してしまいまして。写本ならありますので、こちらをお持ちになっていただけますか?」
「なくしちゃったの?」
光が声を上げた。ランティスも同感だった。あっさりと言ったが、なくした古文書というのはかなり重要なものだったのではないのか。周囲が騒がしかったのもうなずける。
「本の捜索は別途進めなければならないが、見ていただく分には写本でも問題ない。これを持ち帰ってくれ。写本だからな、返品は不要だ」
「ありがとう」
「いや、礼を言うのはこっちの方だ。導師クレフには、お忙しいところ時間を取らせて申し訳ない、とお伝えしてくれ」
「うん! 伝えておくね」
光は写本を受け取り表紙を見下ろすと、その題字に視線を落とした。

「ぜんぜんわかんない」
背後のランティスを振り返り、ふにゃ、と笑みを浮かべる。ランティスも覗きこんだが、同感だった。導師クレフの書斎には、埋もれたら死ねそうな量の本があり、ランティスは自由に読んでいいことになっている。何十冊かは手に取ったが、こんな文字は見たことがないように思う。
「1000年ほど前に書かれた本らしい。このチゼータには千年より前の書物は数多いのだが、滅びた言語もいくつかあってな。この本も、今はない言葉で書かれているため解読ができないのだ。もっとも、この本の出自はもう不明だが」
「今は解読できないのはこの本だけではないということなのか? では、なぜこの本を選んだのだ」
ランティスがそう尋ねると、タータとタトラは顔を見合わせた。
「……ある者が、この本を気にしていました。もともと解読を言いだしたのは王ですが、たぶんそれが原因です」
「そうか」
「ある者」とは誰なのか当然気になったが、二人がそれを話す気配はなかった。落ちた沈黙を拾い上げるように、光が言葉をはさむ。

「セフィーロには、それくらいの昔の本はあるのか?」
光に問われて、ランティスは頷いた。
「あるにはあるが、蔵書は少ない。所蔵しているのは導師クレフを始めとした、何人かの名のある人物だけだ」
「どうして少ないんだ?」
「……セフィーロは、その特殊な形態から、何度も滅亡の危機に晒されてきた。そのたびに数多くの本が失われた」
「……そうなんだ」
光はショックを受けたように黙り込み、もう何も尋ねてはこなかった。たった一人の意志が全てを決めることが、どれほど不安定なものなのか。魔法騎士であり、最後の『柱』でもあった光には人一倍、思う事があるのだろう。ランティスは彼女の小さな背中に手を置いた。

ランティスは、タータとタトラに視線を向けた。
「解読できるかどうか。しかし、導師クレフには渡しておこう」
「ああ、何が書いてあるか分かるかもしれないと思うと、楽しみだ」
光は膝の上に大事に本を置いて、物思いにふけりながら表紙を撫でている。

タータが二人に向き直った。
「何か、チゼータでやりたいこととか、会いたい人物はいるか? もう星のことは大体理解したことと思うが」
「……ひとつ、聞きたいことがある。チゼータには、『預言者』と呼ばれる、未来を読み解くことができる者が就く職業があるというが、事実か」
タータとタトラは、再び目を見合わせた。数秒の間を開けてタータは、はぁ、とため息をついた。
「あー、あの預言者か。こないだ港で、女をナンパしてたわ」
「……ナンパ?」
光が首を傾げた。思いがけないリアクションだったが、そんなことはどうでもいい。ランティスは座ったまま体を前に倒した。
「会いたいのだが」
「やめといたほうがええ。混乱するだけや」
タータは首を振った。
「なぜだ?」
「あいつは、イタズラ者でウソ付きなんや。未来を正確に読めても、伝える能力がからきしや。ていうか、本人にちゃんと伝える気がないんやから、余計タチが悪い」

話を黙って聞いていたタトラが、くすくす笑って口を挟んだ。
「タータはね。前にお見合いする時に、からかわれたのよね。相手は逞しい殿方だって聞いてすごく期待してたのに……会ったら、ものっっすごくひょろひょろだったのよね」
「ああああ、思い出しただけでハラ立つわ! なにが『君の理想にぴったりの男やで安心しや』や!」
「それで、彼のことを話す時は言葉遣いが戻っちゃうのよね」
「だー! もー!!」

「未来を的確に読めると言ったな。能力は本物なのか」
ランティスが口を挟むと、姉妹は同時に彼を見返した。そして、同時に頷いた。
「あいつの預言者としての能力は、本物だ。それは皆が認めてる」
「それならば会いたい。尋ねたいことがあるのだ」
「ランティス……?」
光の視線を感じた。

セフィーロには、魔導師も剣闘師も創師もいるが、預言者にあたる職業のものは存在しない。チゼータを前回訪れた時に、何度か耳に挟んだ預言者の噂は、前から引っかかっていた。そして、導師クレフでさえ分からない、ランティスにも全く感じられない凶兆を知るには、まさに預言者は適任だと思っていた。

タトラは、申し訳なさそうにランティスを見た。
「そのことなのですが。彼は一週間ほど前に、チゼータを出国しました」
「え、そうなのか?」
タータがタトラを意外そうに見やった。
「ええ。行先は、『セフィーロ』」
「セフィーロ?」
光が頓狂な声を上げた。
「よく知ってるな、姉様」
「なぜなら彼は、さっき言っていた、導師クレフに渡すはずだった古文書の原本を、持って行ってしまった張本人なんです」
「大変なことをサラァッと言うなや、姉様! 大変やんか!」
「そう、それで行先をさきほど調べていたのです」

意外な展開に、ランティスは光と顔を見合わせた。
「古文書なんてあいつ、どうするつもりなんや。一文字も読めへんくせに」
「ですが、手に触れることで中身を『預言』することが、あの方にはできますわ」
ランティスがタトラを見やると、彼女は補足した。
「彼は、自分が目にしたり、手を触れたりしたものの未来や真実を『読む』ことができます。……実は、さきほど申し上げた、この本を気にしていた者というのも、彼のことです」
全員の視線が、写本に集まった。預言者が気にかけ、ついには無断で持ち出したほどの本。一体何が書かれているのか、興味は募る。しかしランティスはなぜか、少し嫌な予感がした。

光がしっかり本を抱き、二人を見やった。
「その人は今、セフィーロにいるんだよね。戻ったら、探してみるよ。名前はなんて言うんだ?」
「マスターナ。私たちの従兄にあたります」
「王家か」
「ええ、そうです」
「王家だからって、遠慮することはない。きっとどこかで、女をナンパしてるから、見つけたらどやしつけてやってくれ。特に、美人が危ない」
「……大丈夫かな、海ちゃん」
光は、本当に心配そうだ。自分自身がさっきナンパされていたことには、露ほども気づいていないのだろう。

凶兆はつかめなかったが、手掛かりを持っていそうな預言者がセフィーロにいるのなら、帰国してもよいと思った。何より、拉致されかけたというイーグルのことが心配だった。
「……ただ、ひとつ、心に置いておいてください」
タトラが、ランティスと光をまっすぐに見た。
「マスターナの能力は確かに本物です。でも、彼は決して予知した内容を、そのまま伝えることはしません。混乱する、とタータが言ったのはそのためです。彼が何を言ったとしても、流されないでください」
「なぜ、そのまま言わないんだ」
「分かりません。でも……もしも全てを完全に予知できる人間が居て、尋ねるだけで全てを知ることができるとしたら。あなたはその人と、一緒にいられますか?」
タトラの言葉に、タータは視線を伏せる。
「……完全なひとは、淋しいね」
光がぽつりと漏らした言葉が、やけに心に沁みついた。

21 につづく

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