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レイアース二次小説置き場 (Last One)

「魔法騎士レイアース」クレフ中心の長編小説を置いてます。

2020.01.19
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2012.10.26
「あの方が国を滅ぼすなんて絶対にあり得ません。」

つづきはこちら からどうぞ。

――

夕焼けは、夜の闇を連れてくる。
ジェオはコックピットに座り、もうすぐオートザムへ到着するというアナウンスを聞いていた。見なれた祖国の基地が見えるに従って、観念に似た気持ちが頭をよぎる。これから、自由に大気を深呼吸さえできない国に戻らなければならないのか。もちろん、祖国を愛する気持ちは十分にある。しかしジェオにとって、上司であり、親友でもあるイーグルが不在のオートザムは、気の抜けた炭酸のように味気ないものだった。

美しい空の向こうに、ドス黒い惑星が見える。オートザムに近づいていくにつれ、星の色が黒いのではなく、星の周囲を取り巻く雲の影響で全体が黒っぽく見えるのだ。人が住めないほどに大気が汚染された星、オートザム。自分たちが正しいと信じ、発展させてきた結果が、これだ。厚い雲の中に突っ込んだ時、ジェオは渋面を浮かべていた。

「はやくつかねぇかな」
隣で、目にも止まらない早さでキーボードを叩いているザズは、楽しそうだ。その隣には、導師クレフが創ってくれた土産が大事そうに置いてある。ジェオの目には大きなしゃぼん玉のように見えるが、その中にセフィーロの空気が閉じ込められていると言う。何日にも渡る旅の間も壊れることなく、きらきらと輝いて見える。妹に渡すのが待ち遠しいのだろう。

雲の中を突っ切り、視界が一気に開けた時、ジェオは目を見開いた。
「……なんだぁ?」
「どうしたんだよ、ジェオ」
「見てみろ、前を」
ジェオはコックピットに身を乗り出し、基地の方を指さした。

オートザムの首都の外れにあるこの基地には、常時何隻かの戦艦が停泊している。しかし今、その数が何倍にも膨れ上がっていた。
「……10、11……12隻もいるぜ」
ザズも顔色を変えている。
「どこかと、戦争でもしようってのか」
おかしい、と思った。もしも本気でどこかの国と戦争をしようというのなら、その情報はジェオにも来ているはずだ。しかし今回、何の前情報も受け取っていなかった。

「ザズ。楽しみにしてるとこ悪いけどな、お前はここに残ってこの船を見ててくれ」
「……諒解。気をつけろよ」
「セフィーロで捕えたあの三人も、オートザムにはまだ上陸させるなよ。……俺が戻らない可能性もある。その時は、お前が自分で判断して動くんだ」
「ああ」
ザズは言葉少なだったが、この事態を異常だと思っているのは伝わってくる。ジェオは相棒を安心させるように、通りすがりに彼の肩をぽんと打った。

**

磨きあげられ、埃ひとつない床を踵で鳴らしながら、ジェオは大股で歩いていた。大統領府にあたるこの建物は、セフィーロの城とほぼ同じ大きさである。建物内の大気は浄化され、マスクをしなくても過ごせるようになっていた。しかし閉め切られた窓から見る雲は、何とも形容のしにくい色に見えた。黒と茶が混ざったような色とでもいうべきか、とにかくセフィーロで見る「曇り」とは全く違う。この汚染された雲から降る茶色い雨が、大気や水を汚染しているのだ。
もうこの国には人は住めないと言われてから、すでに20年が経過している。大気を浄化する決定打は未だなく、国民の平均寿命はじわじわと短くなりつつあった。

廊下の角を曲がったところで、ジェオは同期とすれ違った。
「おう、ジェオ! 戻ってたんだな」
「ああ……ていうか、あのものものしい戦艦は一体なんなんだ?」
挨拶もそこそこに、自分より頭一つ分小さいその男に声をかける。あぁ、と男は言葉を濁らせた。
「戦争ができるレベルだよな」
ジェオは言い募る。しかしその頃には、嫌な予感は確信に変わりつつあった。

「俺に通知が来てない理由は……侵攻する対象が『セフィーロ』だからか?」
「俺たちも、ほとんど何も知らないんだ。なぜ今なのか、そもそもどうして攻めるのか、理由も聞かされてない」
問いに対する直接の答えではなかったが、Yesと言ったに等しかった。
「理由も分からねぇのに、てめえは上の命令だったら何でも従うのかよ!!」
ジェオの大声は廊下中に響き渡り、人々が一斉に振り返る。ジェオは大きく息をつき、うなだれたまま何も言わない同僚を見下ろした。
「すまねえ」
八つ当たりを含んでいたことに気づき、唇をかみしめて頭を下げる。軍にとって、上官の命令は絶対だ。命令に対して、なぜかなどと質問すれば、殴られ異動になる世界だった。この男には、セフィーロに接点はない。立場を賭けて反駁する理由もないだろう。とすれば、それはジェオの役割だ。

「おい、ジェオ!」
「大統領に直接、問いただす」
イーグルの親友だったということもあり、ジェオは元々大統領とは気やすく口を聞く仲だった。一国が一国を攻める事態なのだ、国を束ねる大統領の決断であることは間違いない。イーグルをさらおうとした三人組のことは、その時は頭から飛び去っていた。男は引き留めようと前に一歩踏み出したが、止めても無駄だと思ったのか足を止めた。
「……確かにお前なら、大統領に理由を聞けるかもしれないな。でも、分かってるだろ? 大統領は、一度決めたことは必ず最後までやり遂げる方だ。途中で意見を翻すことは、ありえないぞ」
「……分かってるさ」
息子のイーグルと、その点では瓜二つだった。多少の犠牲は厭わないところも似ていた。


***


今から大統領に合わせろ、というジェオの無茶な依頼は、意外にも聞き届けられた。というより、大統領の執務室の近くで職員ともめているところに、大統領が顔を見せたのだ。ジェオの顔色を見ただけで状況は理解したのだろう、入れ、と顎で執務室を示してみせた。

「言っておくが、私は今忙しい。今も、本来は人と話す約束があるのだ。時間は取れないぞ」
「『セフィーロ』に侵攻する準備ですか」
時間がない、と言っている相手に回りくどく話してもしかたがない。ジェオは単刀直入に尋ねた。
「そうだ」
直截すぎる問いかけに、大統領は即答した。その言い方に、これはもう覆らないな、と分かってはいたが諦めに近い気持ちがよぎる。

目の前の、椅子に腰かけている男は、まだ40代と歴代の大統領の中で最も若い。学校を首席で卒業してすぐに政治家に選ばれ、一気に大統領の座まで駆け上がった挫折を知らない男だ。髪の色こそイーグルと同じプラチナだが、顔立ちは彫りが深く男性的で、女性的な優しい顔立ちのイーグルとは全く違っていた。しかし、その目が同じだ、とジェオは改めて向き合って思った。誰よりも意志が強い、相手を呑むような鋭い瞳だ。

「だから、イーグルを事前にセフィーロから脱出させようとしたんですか? 刺客まで差し向けて」
「……そうだ」
イーグルに話を向けると、わずかに語調が緩んだ。対照的に、ジェオの口調は荒くなる。
「どうしてですか! セフィーロは、俺たちがかつて侵攻しようとしたにも関わらず、オートザムの大気汚染の浄化に手を貸してくれている。結果も出てきてるのに……それに対する仕打ちが再侵攻ですか? 人間のすることじゃないでしょう」
「……」
「俺たちは。人間の心を忘れてしまったのですか」

最後の言葉の語尾が震えた。大統領は、膝の上で組み合わせた両手にしばらく視線を落とした。言葉を継ごうとした時、執務室内にあまりにも場違いな声がかすかに聞こえた。
「もしもーし、大統領さん? 聞こえてないんかな……お時間ですけど?」
「……なんだ?」
ジェオは立ちあがる。机の隅に置かれた通話機から、その男の声が漏れ聞こえている。
「切りますか」
「いや、その男と打ち合わせの予定だったのだ。かまわぬ、音量を上げろ。お前も同席してかまわん」
「……はい」
まさかこの男と、セフィーロ侵攻の話をするというのか。怪訝に思いながら、通話機の音量を上げる。

ジェオをよそに、大統領と見知らぬ男は会話を始めた。
「聞こえている」
「あ、良かったですわ。先日お送りした古文書のデータ、届きました?」
「ああ。解読には苦労したがな。言語学者、考古学者を全員動員したが読み解けず、結局オートザムの全言語を網羅したコンピューターで照合した。出自は不明だが、オートザムで遠い過去に使われていた言語だということだ。解読は終了している」
「さすが大統領、話が早いわ」
「……一体、どういうことですか?」
話についていけず、ジェオは大統領に尋ねた。

大統領は、指先を執務室の壁面に向ける。すると、映像が二つ、壁に映し出された。右側に映っていたのは、ひたすら文字の羅列だった。しかしジェオには、全く見覚えのない文字だった。当然、何が書いてあるのかも分からない。左側に映し出されていたのは、一人の若者の顔だった。その浅黒い顔立ちから、チゼータ出身らしい、ということだけが分かった。背後に、碧の若葉が揺れていた。

若者は、二人を見下ろすと笑った。
「おや、もう一人同席されてたんやね。僕はマスターナ。チゼータでは『預言者』と呼ばれてます」
「……預言者? 未来を予知するってことか?」
疑うような口調になったのは否めない。そもそもジェオは、未来など誰にも予知できないと思っている。
「まさか大統領。こいつがセフィーロ侵攻を進言したんじゃないでしょうね」

大統領は直接答えず、ジェオを振り返った。
「ジェオ。今までの長い歴史の中で、オートザムが何度か滅亡の危機を迎えていたのを知っているだろう」
「……ええ。軍の学校にいた時に学びました」
「原因は知っているか?」
「滅びかけた原因ですか? ……確か、天然資源の枯渇だったとか。それを機に、現在の機械化に舵を切ったと聞いていますが」
「それは原因のひとつだ。しかし、ひとつでしかない。その間に滅亡の危機を迎えていたのはオートザムだけではなく、影響は周辺国に及んでいたことは知っていたか」
「……知りません。本当ですか? それは」
そんなことは初耳だった。チゼータはとにかく、セフィーロやファーレンの資源は潤沢で、とても同じ原因で危機を迎えるとは思えない。大統領は、壁に映し出された文字を指差した。

「この古文書は、オートザムやセフィーロ、チゼータを含む国々の歴史について書かれたものだ。更に言えば、はるか昔、国々を同時に襲った幾度かの滅亡の危機と、その原因について触れられている」
「滅亡の原因っていうのは、一体何だったんですか」
「この本によれば、その現象を引き起こしたのは常に、たった一人の『セフィーロ』の民だった。具体的に言えば、ある職業の者だった」
「……『柱』ですか?」
「いや、『導師』だ」
「……は」
ジェオは一瞬言葉に詰まり、ふっと息を吹きだした。
「導師って、導師クレフのことですか? 何かと思えば、あの方が国を滅ぼすなんて絶対にあり得ません。これまでの導師がどうだったのかまでは知りませんが」
「この本には、破滅の前兆までが詳細に書かれている。宇宙の大気の微細な変調、付随して起こる動植物の反応、そして各国の戦乱の危機。今まで破滅の直前に起こっていたことがこの数年で、ひとつひとつ再現されているのだ。その現象が、『導師』の意志で起こしていることなのか、自然発生的にそうなってしまうものなのかは不明だが」
「そんなの、可能性の話じゃないですか! そのためにセフィーロに侵攻するのですか?」
「『導師』の身柄を確保できれば、セフィーロへ侵攻はしない」
ジェオは大統領の言葉に、ぎり、と拳を握りしめた。
「十隻以上の圧倒的戦力をセフィーロに見せつけて、攻撃されたくなければ導師の身柄を引き渡せと恫喝するつもりですか?」
「それが被害を最小に収める方法だ」
「この古文書の内容がそこまで信頼できるのですか? 可能性の話でしょう」
「この古文書に書かれてる滅亡の歴史は、全て事実だ」
大統領はぴしゃりと言った。
「書かれている歴史、起こった事象は全て今でも確認できる。原因だけが異なると誰が断言できる? 起きてからでは、遅いのだ。オートザムだけではなく、セフィーロ、チゼータ、ファーレンの国民が大量に死ぬかもしれないのだぞ。導師の身柄を確保し、更に調査を進める。喰いとめる方法が分かれば、導師に危害は加えない。もちろん、セフィーロにもだ。それが最善と考えている」
「……」
「オートザムは、その科学力で他国を凌駕する。我が国には、自国だけではなく他国をも守り、導く役割があるのだ」

沈黙が落ちた。
ジェオは、その時には何とか、考えをまとめられつつあった。かつて人々を大量に死に至らしめた出来事があり、そのきっかけを引き起こしたのは、本人の意志があるかは不明だが『導師』と呼ばれる人々だったと言う。今、かつてその『出来事』の前に現れた現象が再現しつつあり、大統領としてはそれを食い止めたい。そのために『導師』の身柄を確保するのが目的だと言う。

セフィーロは、どうするだろうか。導師クレフなら、ためらわず国のために身柄を確保される道を選ぶだろう。しかし導師の側近たちがそれを知れば、間違いなく止めようとする。戦いになれば……軍を持たないセフィーロがどうなるか。考えると寒気がした。
「使者に、俺を出してください」
ジェオは大統領に頭を下げた。
「あなたは、導師クレフを知らない。あの人は、決して国を滅ぼしたりしない。自国と周辺国の幸せを一番に考えられる人物だからです。戦艦を差し向ける前に、俺に話させてください」
「お前こそ、導師のことを知らない」
さらりと大統領は言った。
「この古文書に書かれている導師の力が事実なら、戦艦十隻でも相手に不足はない」
「……え」
今大統領が話しているのは、本当に自分が知っている「導師」と「セフィーロ」のことなのだろうか? 話が食い違っているような気がしてならない。

ずっと黙っていたマスターナが口を開いたのは、その時だった。
「急いだ方がいい。……導師クレフはいずれにせよ、セフィーロを離れるから。その日は近い」
「あの人はセフィーロを愛している。そんなことがあるか」
どいつもこいつも、本人のことを何も知らないのに勝手なことを言う。でも、ジェオにはどう止めていいのか分からない。イーグルがここにいてくれたら、という気持ちを、ジェオは振り払った。
「あんたには一体、何が見えるってんだ?」
「……炎。そして、裏切り」
ジェオはぎょっとして、マスターナの映像を見た。大きく映し出された瞳に、まるで炎のような光が明滅している。ジェオはその時、初めて本気でぞっとした。

「……導師クレフには、『願い』がある」
「……『願い』?」
「誰にも認められなくとも、間違っていても、どうしても捨てられない『願い』が。導師クレフはその『願い』のために、全てを裏切ることになる」
「……そんなことは、あり得ねぇ」
導師クレフが、自分のために『願い』を持つ、ということからして、ジェオにはピンと来なかった。前にイーグルが「導師クレフは、道端の一輪の花のためでも、自分の命を捨てるタイプの人間だ」と言っていたが、ジェオにもそうだと思える。「己の願いのために全てを賭ける」。そんな人間の筆頭が、柱を目指した光やイーグルだとしたら、クレフはその列の、一番最後に並ぶ人間だ。
「まだ、未来は確定していない。いくつも枝分かれした未来が見える。ただ、チゼータは、もう、間に合わなかった」
「チゼータ?」
チゼータと言えば、今ランティスと光が訪れているはずだ。何の異変も聞いてはいないが、「間に合わなかった」と既に過去形で話しているマスターナの表情は、顔を覆った掌で見えなかった。

「……大統領。話は分かりましたが、この男はオートザムの味方ではあり得ません。本当に、この男の持ってきた古文書や言葉を信じるんですか?」
「……なぜそう、言い切れるんや?」
「お前がセフィーロにいるからだ」
指の間から覗いたマスターナの瞳が、妖しく光った。
「お前の背景の若緑、それは春のセフィーロでしか見られないものだ。セフィーロが滅びるなら、わざわざ滅びる国にとどまる理由がねぇだろう」
一体、何をたくらんでいるのか。その目からは意志は図れない。ジェオは慌ただしく立ちあがった。
「どこへ行く」
「……セフィーロへ。導師クレフに会います」
「それはならん」
「……止めても、俺は行きます。あの人は、俺のことを信頼していると言ってくれた。絶対に、裏切れません」
大股で部屋の外に出た、その瞬間のことだった。外で待ち構えていた何人かの軍人に、ジェオは寄ってたかって押さえつけられた。
「大統領!」
「ジェオが乗って来た戦艦に立ち入りを許可する。差し押さえろ」
冷静な口調で大統領が指示をする声が聞こえてくる。冷たい床に押さえつけられ、ジェオは歯がみした。自分の無力さが呪わしかった。

ジェオが後ろ手をしばられ、引き立てられる最中にも、戦艦の差し押さえは進んでいた。
「―― 船の差し押さえは完了しました。しかし一体、戦艦から脱出するのを確認しました」
「なに? 脱出したのは誰だ」
「分かりません。でも……あれは、FTOです」
「FTOだと?」
大統領の視線がジェオに向いたが、ジェオは気づかないふりをした。FTOはイーグル専用のマシンであり、イーグルが病に倒れてからは整備のみされている。FTOを動かせるのは、イーグル以外は整備を担当していたザズだけだった。

「追え。絶対に逃がすな」
「はい!」
妹に会うのを楽しみにしていたザズの横顔を遠く感じた。どうかお前だけでも逃げのびて、そしてセフィーロに危険を知らせてくれ、とジェオは心の中で祈った。


22につづく

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