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レイアース二次小説置き場 (Last One)

「魔法騎士レイアース」クレフ中心の長編小説を置いてます。

2020.01.24
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2012.10.27
「導師さまには『願い』はあるの?」

つづきはこちら からどうぞ。

――

ぽかぽかと暖かな春の午後だった。常春の国だった当時のセフィーロでは、「春」と言う必要もなかったのだが。樹上では親鳥が雛鳥にしきりに餌を与え、その下の小川では、小魚が白い腹を光らせていた。時折、楽しげに水上に飛び跳ねる。

唐突に、静かな城内に大声が響き渡った。
「いったいどこへ行ったのだ!?」
親鳥は慌てて周りを見回し、魚たちは岸の陰に隠れるほどの大音響だった。
「まったく。午後からは歴史の授業だと言い聞かせておったのに」
「私が探してこよう」
「いや、あなたに娘のことでこれ以上手間をかけさせるのは申し訳ない」
瀟洒なつくりの城内で、二人が言葉を交わしている。一人は2メートルに迫る大男で、濃い金色の波打つ髪を、後ろで束ねている。ゆったりしたローブの下には屈強な甲冑を纏い、その装飾の豪華さから、高位な人物であることは一目で分かる。

「だからと言って、王であるあなたは他に仕事がある」
その男に向かって、向かいあった少年は微笑みかけた。
「しかし、導師クレフ。あなたの今日の仕事は娘の教育で、娘探しではない」
思わず、というように少年……導師クレフは笑った。
「かまわん。正直なところ、わたしも後者のほうが性にあっている」
春の日はどこまでも快適で、城内にいるよりも外に出ていたほうがよさそうだった。午後になるや否や行方不明になってしまった姫の気持ちは、導師クレフには分からなくもない。
「『ミイラ取りがミイラ』にならないように頼みますぞ」
「分かっている」
心配そうな王にクレフは軽く手を上げ、春爛漫の城の外に歩みだした。


**


王には黙っていたことだが、導師クレフには、姫の気配は手に取るように分かる。だから居場所は探すまでもなかった。そもそも、お転婆ではあったが自分をわきまえてもいる姫は、城の外に出たりはしない。姫の居場所を感知できない王が心配するのは気の毒だったが、姫に少しだけ休息をやりたいと思う自分は甘いだろうか。いつも、探すのにてこずったふりをして、しばらく経ってから城に二人で戻るのが常だった。
「―― 導師。あまり姫を甘やかさないでください」
そう、女王に言われたことを思い出した。女王はセフィーロの『柱』である。クレフもさすがに気まずい思いをした。
「別に甘やかしてなどおりません」
「嘘です」
女王はきっぱりと否定した。
「私が子供のころ、あなたを怖い人だと思っていました。昔の私に対してより、娘にあなたは甘い。どうしてですの?」
くすくす、と周囲から笑いが起こる。
「……勘弁してください、女王。次からは厳しく接します」
「勘弁してくれ」なんて、なんと導師に似合わない言葉だろう。見上げると、壇上の女王は、はっとするほど優しい瞳をしてクレフを見ていた。きっと彼女には、全て分かっていたのだろう。

女王は『柱』であるがゆえに、自分の夫である王や、一人娘をセフィーロよりも愛することができない。しかし、人の心とは思うにまかせないもの、愛してしまえば、心に嘘をつくことはできない。結果的に、女王は夫や娘を自分から遠ざけた。セフィーロよりも、家族を愛してしまうのが恐ろしいのだろうとクレフは思っている。家族がそろうのは、月に一度もないと聞いていた。母が『柱』だというだけで、娘として当然の、母親の愛情を感じられない姫。淋しさを顔に見せながらも、健気にふるまう姫がクレフには不憫でならなかった。そして、姫が生まれた瞬間、クレフには分かってしまった。この娘は将来、母親から『柱』を継ぐことになると。導師として、新たな『柱』の誕生は喜ぶべきことだ。しかしその瞬間にこみ上げたのは、喜びではなく悲しみだった。

「―― エメロード姫。そこにおられるのか?」
クレフは、城内の外れにある庭に足を踏み入れた。年を経た木が並び、木の足元には花がたくさん咲いている。しかし姫の姿はどこにもなかった。
「姫――」
気配は確かにここにあるのに。呼びかけると、樹上からくすくす、と幼い笑い声が聞こえた。
「よかった。導師さまが来てくださったのね」
見上げて驚いた。4メートルはある巨木の枝の上に、幼女の顔が覗いていた。金色の髪がきらきらと美しく下に垂れている。
「姫、一体どうやってそんなところに……下りられよ」
「無理よ。だって下りられないもの」
その大きな碧の眼は、まるで猫のようにくるくると輝いてみえる。クレフはため息をついた。
「お転婆も度がすぎるな……。魔法で下ろすから、待っていなさい」
「魔法は使わないで」
姫はそう言うと、止める間もなく無造作に枝から飛び降りた。

4メートルの高さから飛び降りたらただでは済まない。クレフは慌てて、その両腕で姫を受け止めた。小柄とはいえ、全く予期していない上に相当な勢いがついている。
「――っと!」
バランスを崩し、クレフは姫をしっかり抱きしめたまま、背中から花畑に突っ込んだ。ピンクや黄色や白の花弁が、さっと周囲に舞い上がった。
「姫! 怪我でもしたらどうするんだ! もうちょっと姫らしい振舞いを覚えなさい!」
がば、と起き上がり、クレフは自分の上に乗っかった姫を叱りつけた。ここで甘い顔をすれば、また後で女王からどやされかねない。王からも、連れ戻せと言われている。姫が何と言おうが、今日こそびしりと言い聞かせ、城内に引っ張っていかなければ。

そんなクレフの思いをよそに、姫はクレフの上に寝そべって見返してきた。
「魔法、使わなかったのね、導師さま」
「あなたが使うなと言うから。一体どうしてあんなことを言ったんだ」
「魔法って好きじゃない、だって導師さまが遠く感じるもの。魔法をつかわなければ、抱いてくれると思ったの」
「……」
「大好きよ、導師さま。お父様もお母様も素敵だけれど、エメロードは導師さまが好きよ。このままずーっと、一緒にいてね」

沈黙が二人の間を流れた時、はるか遠い城内から、王のテレパシーが届いた。
「――導師クレフ! 姫は見つかったか?」
そのテレパシーは、姫にも伝わっているらしい。姫は、クレフの顔を見ると、人差し指を立てて唇の前にもってきた。クレフは沈黙する。
「――導師殿!?」
「……すまない。まだ、見つからない」
妙な敗北感を覚えながら、今日もクレフはまた、嘘をつく羽目になる。
「――むぅ、本当か。いったいどこへ行ってしまったのか……」
そのままぶつりと切れた交信に、すまない、と心の中で謝った。どうしてだか、なぜだか分からない。ただ自分は、どうしてもエメロード姫に逆らえない。700年近く生きた自分が、6歳そこそこの小娘にいかんともしがたいというのは、どういうことなのか。

仰向けに花畑に寝そべり、くすくす笑い出したクレフを、エメロード姫は不思議そうに見た。
「導師さま?」
すぐに、エメロード姫も笑いだした。なぜかおかしくてたまらなかった。朗らかな笑いが、春の野を流れてゆく。
「ありがとう導師さま、わたしのお願いを聞いてくれて。わたし今、お城に戻りたくなかったの。いつかわたしがお礼に、あなたのお願いを聞くわ」
「『願い』か」
「導師さまには『願い』はあるの?」
そう尋ねられて、クレフは空を流れる雲を見上げたまま考える。胸の上に、エメロード姫の頬のぬくもりを感じた。
「あったかもしれない」
心地よい睡魔が、背中の方からじわじわと染みこんでくる。
「でも、もう、忘れてしまったな……」


**


それから、どれくらいの時が経ったのか自分でも分からなかった。涼しい風が頬を吹き抜け、クレフは目を覚ました。
「しまった……」
慌てて、上半身を花畑から起こす。西の空には、沈みかけの夕陽が見える。クレフの上で、エメロード姫はすやすやと眠っていた。クレフが動くのを感じ取り、目をゆっくりと開ける。「ミイラ取りがミイラ」どころではない。王からさすがにどやされるな、と思いながら、エメロード姫の小柄な体を法衣で覆うと、立ち上がった。
「もう冷える。城に戻ろう」
「……あ」
姫が声をあげる。ふたりが眠っていたところの花は散り、茎は折れて散乱していた。
「ごめんね、痛かったね」
かがみこんで、折れた茎を撫でた。
「大丈夫だ」
クレフは後ろから声をかける。
「セフィーロは常春の国。この花は枯れるが、すぐに次の花が芽を出す」
「……でも」
姫の声が沈んだ。
「それはもう、この花じゃないわ。わたしは、この子を助けてあげたい」
ぽう、と姫の手が輝くのを、クレフは驚いて見やった。姫はまだ、何の魔法も知らないはずだ。

姫は開いた掌を地面にかざし、瞳を閉じる。その全身が輝くと同時に、折れていた茎がつながり、しゃんと上を向いた。そして散ったはずの花が次々と花開くのを、クレフは言葉をなくして見守った。
「いつの間に、そんな『力』を」
「何もしていないわ。ただ、祈っただけ」
やはり、幼くともエメロードは次の『柱』なのだ、と感じざるを得なかった。
「導師さまに、同じ力はないの?」
「再生能力は、無垢な幼い子供に多く宿る。私も姫くらいの年の時はできたような気がするが、今は無理だな。それに、あなたは『特別』だから」
「……そう」
姫は、少しずつ暗くなる庭園を見つめて、しばらく無言だった。きゅっ、と自分の肩を包んだ法衣の裾を掴んだ。

「……わたしは、『柱』になるのね、導師さま」
幼女とは思えない、凛とした声だった。
「誰がそんなことを」
クレフは思わず、早口になった。誰も言っているはずがない、それを悟っているのは、『柱』である女王と自分くらいのものだろう。そうだとも、違うとも言えなかった。黙ったクレフを、エメロードは見上げた。
「さっき、返事をしてくれなかったわ。導師さまは、一緒にいてくださるのよね?」
「……ああ」
『柱』がどれほど孤独なものか、幼心に分かっているのだ。クレフには彼女に頷いてやることしかできなかった。
「『約束』よ」
エメロードは微笑んだ。
「わたしを見守ってくださるわね、導師さま。わたしが生まれてから死ぬまで、ずっと。ずっとよ」

23につづく

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