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レイアース二次小説置き場 (Last One)

「魔法騎士レイアース」クレフ中心の長編小説を置いてます。

2020.01.20
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2012.10.29
「私はここから動けぬ。動けぬものの周りにいてどうするのだ。」

つづきはこちら からどうぞ。

――

長く尾を引く甲高い悲鳴が自分のものだと分からないほどのパニックが、海を襲った。
「ウミ、しっかりしろ!」
耳元でクレフの声が聞こえるが、視線は炎で覆われてゆくチゼータから、釘づけになったように離れない。
「私のせいだわ……光……光!!」
気づけば、がっくりと膝を折っていた。お土産を買ってくる、と言っていた光の無邪気な明るい声が何度も耳に蘇った。マスターナが外したことのない預言者だと聞いた時、どうしてあの男の言葉を思い出さなかったのだろう。「チゼータは危ない」と、はっきり言っていたというのに。あの時に、そのことを光に告げていたら。たった30分もなかったとはいえ、もしかしたら出航準備を早めてくれたかもしれなかったのに。きっと光はあの後、海がああ言ったから香を買いに行って、そして――

炎の海に飲まれていくチゼータを、ただ見ていることが耐えられなかった。何が何だかまだ分からないうちに、涙だけがひたすら頬を流れ落ちて行く。
「ウミ! 聞け!」
突然、ぐいと引き寄せられた。クレフに抱きしめられているのだ、と気づくまでにさえ、時間がかかった。くず折れた海より、立っているクレフの方が頭ひとつぶん高かった。クレフのぬくもりが伝わってくる。どうにかなってしまいそうだったパニックが、少し落ち着いてくる。海は大きく、深呼吸した。
「……私が分かるか」
クレフは、海の体を自分から少しだけ離すと、ごく近くからまっすぐに見つめてきた。その瞳は、全く揺らいではいなかった。ちらちらと、遠くからの炎が白い頬を照らしている。ここにいても、炎の熱気が伝わってきそうだった。

海は、こくん、と頷く。口を開けたら、また悲鳴が漏れだしそうだった。
「ヒカルは炎を使える。ランティスも凄腕の剣闘士だ。この程度で死ぬものか。大丈夫だ」
ぽん、と頭を撫でられた。しゃくりあげていると、背後から誰かが駆けてくる足音がした。
「導師クレフ! 一体これは……」
「プレセア! ウミを頼む」
クレフは海の肩を掴み、駆けつけたプレセアの方へ押しやった。こくり、と頷き、プレセアが海をしっかりと支える。

「導師クレフ! そちらにおられるのか! チゼータが……」
城内の方から聞こえてきたのは、緊迫したラファーガの声だった。城内もこの騒ぎに気づかないはずもなく、住人たちから悲鳴やどよめきが上がる。その中でひときわ高い、女の悲鳴が上がった。カルディナ―― 海は涙を拭いた。泣いている場合ではない。初めの衝撃が去り、ようやく自分の思考が戻ってきつつあった。「ヒカルとランティスは大丈夫だ」というクレフの言葉が、思いがけないほどの安堵を海に与えていた。

クレフは、普段の彼からは信じられないような大声で、城に向かって怒鳴った。
「ラファーガ、イーグルとカルディナを頼む! 全員城内へ入れ! 衝撃波が来るぞ!!」
そして、手にした杖を体の前に立てた。両手で柄を握り、炎に包まれるチゼータを決然と見上げた。その法衣が、風に強く煽られている。
「プレセア、ウミ。お前たちは私の後ろにいろ」
「導師、私も……」
前に出ようとしたプレセアを、クレフは制した。微笑んでいる――こんな時だと言うのに周りを気遣えることが海には驚きだった。750年生きているひとなのだ、ということが初めて腑に落ちた瞬間だったかもしれない。このひとは、自分たちには計り知れないほどの経験をし、危機を乗り越えてきたのだろう。
「クレフ……」
「そこにいろ。私の後ろは、セフィーロで一番、安全だ」
杖が突如、まばゆい光に包まれた。そして、螺旋のような弧を描き、杖から吹きだした光が周囲に拡散する。海はその明るさに、プレセアと抱き合ったまま目を閉じた。爆発的な光の勢いとは裏腹に、その光の弧は二人の体を通り過ぎる時に、そよ風を吹かせただけだった。

「……これ……」
海は周囲を見渡して、唖然とした。三年前のセフィーロ崩壊の危機の時、城を覆っていたバリアが再び現れていた。あの一瞬で、このとてつもない大きさの城をバリアで覆ったというのか。
「頭を下げていろ、ウミ」
立ちあがっていると、前を向いたままのクレフにそう言われた。しゃがむと同時に、初めの衝撃波がセフィーロを襲った。力の波が、バリアにぶつかるのがはっきりと目で分かった。数秒後、セフィーロを立っていられないほどの揺れが襲った。城内からいくつも悲鳴が上がる。バリアに覆いきれなかった城外の木々が、めりめりと音を立てるのが聞こえてきた。

幸い地震は、長くは続かなかった。せいぜい20秒くらいだっただろうが、海にはとてつもなく長い時間に感じた。そっと海が顔を上げると、まだ強い光を放っている杖を、強く握りしめたクレフの背中があった。その肩が一度大きく揺れる。
「クレフ、大丈夫!?」
海はクレフに駆け寄ろうとした。あれほどの力を一瞬で放出して、負担にならないはずがないのは海にも分かったからだ。
「導師クレフ!」
その時、ラファーガが茂みから姿を現した。さすがの彼も、顔色が蒼白になっている。大股でクレフに歩み寄ろうとした。
「全員、私に近寄るな!」
クレフが厳しい声で止める。そして、肩越しに振り返った。
「私の今いる場所を楔にバリアを張った。下手に近づけば、お前たちもけし飛ぶぞ」
よく見ると、クレフの周囲には青い光を放つ円が描かれ、円の中には精緻な紋様が浮かび上がっていた。ここから、強い「力」が発散されているのが分かる。ビリビリと肌に響くほどだった。

「ど、どうすれば……」
「導師!」
海より経験豊かで、セフィーロを深く知っている二人でも動揺している。クレフは振り向いた。その額に、汗が浮かんでいる。
「もうすぐ第二波が来るゆえ、私はここから動けぬ。動けぬものの周りにいてどうするのだ。ここの住人を守るために何ができるか、各々で考えて動け」
「……分かりました」
クレフが感情を込めて、誰かを叱咤するのは珍しい。二人は一瞬立ちすくんだが、やがてこくりと頷く。ラファーガはクレフに一礼すると、城内へと走った。
「ウミ」
プレセアが海の肩を後ろから掴む。あれほど取り乱したところを見られたのだから、心配されて当たり前だ。海は、無理やりに笑顔を作って振り返った。
「大丈夫よ、プレセア。私にはやることがあるの。だから、行って」
「……分かったわ。ウミ、無理だけはしないで」
プレセアには、プレセアにしかできないことがあるはずだ。走り去る彼女を、海は見送った。

「……みんな、本当に強いわね」
「……ウミ。お前が取り乱すのは当たり前だ。落ちつくまで、さがっていろ」
前を向いたままだったが、クレフの言葉は優しかった。海は涙をぬぐい、首を振る。
「こんな時、光ならどうするだろうって、思ったの。きっとみんなを助けるために、今頃走りまわってるはずよ。へたりこんでたら、戻って来た時、光に笑われちゃうわ」
光が今どうしているか海には分からない。しかし、今の自分よりはるかに窮状にいることは間違いない。でも、決して怯んでいないだろう、という確信があった。彼女が戻って来た時に、セフィーロの人々が傷ついていたら、また悲しませてしまう。風だって、この状況を見てきっとセフィーロに戻って来るはず――
海の心は決まった。

「魔神を呼べなくても、たった一人でも、わたしは魔法騎士。セフィーロを守らなきゃ」
そもそも、セフィーロに何かあった時のために、一人セフィーロに残ったのではないのか、と海は自分を叱咤した。私の願いは何だろう、と自分の中に問いかける。私は、セフィーロを守りたい。そして、光や風に無事なセフィーロをもう一度見せたい。そして……一人でセフィーロを守りきるつもりでいる目の前のひとを、これ以上独りにさせたくない。

「ウミ!」
クレフが声を上げた。海が、一歩クレフの周囲の「円」に足を踏み入れたからだ。途端に、感電したかのような衝撃が海を襲う。この巨大なバリアの要にあたる場所なのだ。平然としてクレフが立っていられるのが、信じられなかった。クレフが焦った顔で振り向いた。
「駄目だ、この中に入っては――」
「――っ!」
海は目をつぶって、クレフの杖を思いきって掴んだ。
「……ウミ」
再び目を開いた時、クレフが驚きを隠さずに海を見上げていた。その手が、杖からわずかにずれた。握っていた個所が、血で赤く染まっていた。衝撃波に耐えるために、全力で握りしめていたのだろう。今やクレフと海の周囲の「円」は、より青味を帯びた色に変わっていた。
「……ウミの力が混ざっている……」
クレフは自分の周囲を見回した。
「――私も一緒に、やるわ」
不思議なことに、杖を掴んだ時に予想された衝撃や苦痛はなかった。ただ、杖に自分の力がぐんぐん吸い取られていくのが分かる。
「無茶なことを……この杖を掴んだのはお前が初めてだ」
「無茶とか、クレフにだけは言われたくないわよ」
セフィーロは意志の世界なのだ、と海は改めて思った。海には力もなく、今は魔神も呼べないけれど、それでもクレフを助けたいという思いは本物だ。クレフは一瞬笑うと、表情をすぐに引き締めて、杖を再びしっかりと握りしめた。

25 につづく

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