忍者ブログ

レイアース二次小説置き場 (Last One)

「魔法騎士レイアース」クレフ中心の長編小説を置いてます。

2020.01.19
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

2012.11.03
せめてイーグルが目覚めれば、と思わずにはいられなかった。

つづきはこちら からどうぞ。

――

ジェオはさっきから、狭い部屋の中を落ちつきなく行ったり来たりしていた。檻の中の熊じゃあるまいし、と思いつつ、今のこの状況はそれ以外の何ものでもないことに気づいて自嘲気味に笑う。大統領の警邏の者たちに捕えられ、この空間に押し込められてから数時間は経ったようだが、正確な時間は分からなかった。

この部屋は、最低限の生活の設備がある以外は無機質な部屋だった。自動ドアが目と鼻の先に見えているが、ジェオが手を伸ばすと、見えないバリアのようなものに阻まれ、ドアに近づくこともできない。ジェオ自身、軍で学んでいたころ、精神エネルギーで作られロケットランチャーでも破れないと教えられた軍自慢のバリアだ。外側から内側には自由に入れるが、内側から外側には出られない仕組みになっている。こんな風にその強度を思い知ることになるとは、学生だった当時は夢にも思っていなかった。

―― イーグル、ザズ……セフィーロはどうなるんだ……
飛び出して行きたいほど気は焦るのに、どうすることもできずに窓の外を見やった。ドス黒い色をした雲は空を阻み、昼間でも明かりが必要なほどに暗い。昼か夜かもはっきりしないくらいだった。大統領は、軍艦をセフィーロに本当に差し向けるのだろうか。その砲弾の先には、息子であるイーグルがいるというのに。砲撃が行われる前に、導師クレフが投降すると踏んでいるのかもしれない。でも、もし必要とあらばためらわず攻撃する、確信があった。大統領は、口でやると言ったことは本当に実行する。

せめてイーグルが目覚めれば、と思わずにはいられなかった。あの大統領を説得できる可能性があるのは、同じくらい強靭な意志を持ち、息子でもあるイーグルだけだ。しかし、今だ目を開けることもできない病状を思えば、彼に頼る訳にはいかなかった。

ちっ、と何度目かもしれない舌打ちをした時だった。不意に、ドアが音も立てずに開いた。
「ジェオ。お前に聞きたいことがある」
そう言って現れたのは、軍服姿の三人の男だった。一番後ろにいる男は、台車を引いている。台車の上には、厳重にバリアで包まれた球体が置かれていた。それは、導師クレフがザズに託した「セフィーロの大気」であることは一目でわかった。ザズもさすがにあの状況で、持ち出すことはできなかったか。

怜悧な声で、先頭の男は告げた。
「いったいこれは何だ? コックピットにあったものだが、オートザムの物質ではないな。危険物ではないのか」
「危険物を、コックピットに置く馬鹿がいるかよ」
うんざりしてジェオは返した。
「そいつは、導師クレフからの土産で、セフィーロの空気が入っている。ザズが妹のために頼んだものだ。それ以上でもそれ以下でもねぇよ。大層にバリアで包むようなものじゃねぇ」
「それをどうやって証明する? 内部組織を調べようにも、スキャンも一切通さず破壊もできない」
「知るかよ」
馬鹿馬鹿しい。上司からの命令なのだろうが、そんなことよりも大事なことがあるだろうに。ジェオは床の上にくるりと胡坐を掻き、三人を見上げた。

その時、ばたばたと足音が聞こえた。その場にはそぐわない少女の声が、廊下に響き渡る。その声にジェオは聞き覚えがあったが、こんなところで聞くはずがないものだった。ジェオは驚いて体を起こした。
「……ジェオ!」
軍人たちを押しのけるようにして現れたのは、大人の腰ほどしか背丈がない十歳あまりの少女だった。長い鳶色の髪が、背中に流れている。白い肌に少しそばかすが見えたが、青い目の可愛らしい少女だった。FTOに乗って脱出したザズの妹、ソアラに違いなかった。

「ソアラ! お前……家を出て、大丈夫なのかよ」
「それどころじゃないわ。お兄ちゃんが脱走したって連絡が来て、皆ここに呼ばれたの……どういうことなの?」
本来、家の外に出られる体ではないはずだ。肌は真っ白を通り越して青白くなっている。ここは大気浄化がされているが、ここに来るまでの道のりは彼女にとって苦しいものだったに違いない。
「お前がその体だって知っていながら呼びつけたのかよ、軍の奴らは!?」
「そうじゃないわ。あたしは子供だからいいって言われたけど、あたしの意志で来たの」
ジェオの突発的な怒りを押さえつけるほど、少女の言葉は冷静だった。見た目は幼く華奢だが、ザズに負けないくらい芯はしっかりしていたことを思い出す。

「両親についていなさい!」
「嫌よ。軍なんて大嫌いよ」
扱いに困っているらしい軍人たちに、ソアラは気丈に言い返した。その視線が、台車の上に置かれた球体に吸い寄せられる。
「お前が欲しがってた、土産だ」
「……これが?」
ジェオが教えると、ソアラは一歩、台車に近づこうとした。しかしそれを軍人たちが阻む。
「危険物かもしれないんだ。子供は下がっていなさい」
ソアラはまじまじと、その球体を見た。
「なんだか、しゃぼん玉みたい。すごく優しい気配を感じるわ。危険だなんて、おじさんたちは本当に思ってるの?」
優しい気配、というのは当たっているとジェオは思った。妹を思うザズによって頼まれた、導師クレフが作り上げたものだ。そこに何の悪意もあるはずがないのに。誰も敵などいないのに周囲に牙をむくオートザムが、ジェオの目には傷ついた獣のように見えた。

「土産だと?」
「……ソアラはザズの妹だ。この子なら、この球体の正体を確かめられるだろうぜ」
ジェオの言葉に、半信半疑ながら軍人たちが動きを止める。ソアラがもう一歩歩み寄り、その球体に指先を触れようとした、その時だった。

突然、カメラのフラッシュのような強い光が窓から差し込んだ。次いで、視界が真っ赤に染まった。元々光に慣れていない目が瞬間的にずきりと痛む。何事だ、と目をこすった時、経験したこともない強い揺れがオートザムを襲った。
「なんだぁ?」
とっさにソアラに駆け寄ろうとしたが、その手は敢えなくバリアに阻まれた。ソアラが頭を押さえて、その場にしゃがみこみ悲鳴を上げる。数秒後、まだ揺れが収まらない内に、建物内の灯りが唐突に切れた。
「ソアラ! そのまま伏せてろ、動くなよ!」
薄暗い中、ジェオにはそう言ってやることしかできなかった。大勢の人々の悲鳴が建物内に反響する。この大地震が電気系統のシステムを破壊したのだろうか。それなら復旧を待てばいいが、と辺りを見回した時、急に胸苦しさを感じてせき込んだ。
「大気浄化システムもか!」
ジェオはうめいた。驚くというよりも恐怖が襲ってきていた。わずかな濃度でも、この国の大気をまともに吸い込めば呼吸困難に陥り、長時間にわたりその中で過ごすと命にかかわる。ジェオは、服の内側に取りつけていた簡易マスクを引っ張り出し、叩きつけるようにはめた。この国の人々は皆、肌身離さずマスクを持っているから当座は問題がないが、仮に復旧が長引くようなら大問題となる。

その時、激しい咳にジェオは我に返った。
「ソアラ! 大丈夫か!」
暗がりの中、彼女が軍人の一人に支えられ、マスクを顔に当てているのが見えた。しかし、大気汚染に元々弱いソアラが呼吸困難に陥っているのは一目瞭然だった。
「息が……」
苦しげに吐かれた少女の声はか細く、そのまま消えてしまいそうだった。
「ちくしょ……どうにかなんねぇのかよ!」
ジェオは無駄だと思いながらも、もう一度ソアラに近づこうとした。すると、感じるはずだったバリアの抵抗は何もなかった。そのまま前に出る。

――まさか。
電気系統と大気浄化システムだけではなく、バリアまで影響が出ているとすれば、それぞれの機動部分に同時に問題が出たとは考えにくいのだ。それぞれが、何重ものセキュリティシステムによって保護されているのだから。となれば、その根幹となる「精神エネルギー」に何かしらの問題が起こっているのか。そう思った時、建物内にアナウンスが流れた。

「午後4時32分、宇宙からの衝撃波がオートザム全土に到達しました。衝撃波から国土を保護するため、瞬間的にバリア生成に精神エネルギーを費やした影響で、現在全システムが停止しております。全員、すぐに保護マスクを装着し建物内に避難してください。繰り返します――」

「一体どういうことなんだ!」
「宇宙からの衝撃波だと? 一体どうして――」
建物内に、怒号とも悲鳴ともつかない声が飛び交う。
「馬っ鹿野郎……」
保護マスクだけでは耐えられないソアラのような者だっているのだ。激しく呼吸しようとするソアラの肩を支えてやることしかできず、ジェオは歯噛みした。

「空気……」
ソアラが、息苦しさから涙を浮かべながら、半ば無意識にだろう、あの球体に手を伸ばした。全システムがダウンしているというなら、病院に連れて行っても何も処置できない。ジェオは少女の行動をただ見ていることしかできなかった。

震える華奢な指先が、球体に触れる。その時ジェオは、少女が助かるように、と強く願った。ソアラの指先が何の抵抗もなく、球体の中に潜り込む。次の瞬間、球体が淡い光を放ち、膜の部分が弾け飛んだ。虹色の光が一瞬、皆の体を通り抜けて行く。さぁっ、と霧のような雨が、体に降り注いだ気がした。しっとりと湿った夜の空気、名前も知らぬ異国の花の香り。どこからともなく聞こえる鳥や虫の声、波のざわめき。人々の声まで、聞こえた気がした。
「―― セフィーロ」
果てしないような距離を越えて届いたかの国の空気は、泣きたいような懐かしさでジェオの胸に通った。ソアラの口から、マスクがぽろりと落ちる。
「息が……息が、できるわ」
荒くついていた息が少しずつ鎮まり、紅潮していた頬が元の色に戻って行くのを見て、ジェオはほっとした。おぉ、と軍人たちも声を上げる。と同時に、部屋の灯りが再びぱっと止まった。ジェオの背後に、バリアが復活するのが、かすかな作動音から分かった。

「なんだ? 今、全システムがダウンしたと言われたばかりなのに……」
「……あの球体だろう」
ジェオはマスクを外し、大きく息を吸い込んだ。その大気は、いままでオートザムで感じたことがないほどに澄んでいた。
「あの球体は、セフィーロ最高の魔導師の、精神エネルギーそのものだ。解放されれば、この建物のシステムを復活できるほどの力があるということだろう」
「馬鹿な!? たった一人の精神エネルギーで何ができるというのだ」
軍人たちは、明らかに信じていない声を出した。

「……俺は、セフィーロでいろんな不思議なものを見た。これと同じくらいの城が、精神力だけで創られているとも聞いた。そのうちの半分以上のエネルギーを一人で提供したのが、導師クレフだとも。意志の強さが全てを決める世界だ。できないことはない」
「……意志?」
「セフィーロほどじゃないが、意志が物事を決めるのは、他の国だって同じだろ? 俺たちは軍人だ、国の手足になるのが仕事だ。それでも、何がこの国にとって本当にためになるのか、俺たちは一人ひとり考えなきゃいけねぇだろ」
少なくとも、オートザムが守れなかったこの一人の少女を守ったのは、セフィーロの意志だった。

ザズに頼まれて、考え込んでいたクレフの表情を思い出した。ソアラはもちろんオートザムが良くなるよう願いながら、あの球体を創ってくれたに違いなかった。それなのに今、オートザムは彼を標的に戦艦を出そうとしているのだ。

「……ソアラをご両親の元に送り届けろよ。きっと心配してるだろう」
ジェオはソアラを、軍人達の方にそっと押した。
「どこへ行く!?」
「大統領にもう一度会う。こんなことは、絶対に間違ってる」
「……悪いが、行かせるわけにはいかない」
「また、上官の命令かよ!」
ジェオが声を荒げた時だった。じっと黙っていたソアラがいきなり、思い切り三人を部屋の内側に押した。彼女もろとも、部屋の内部に踏みこんだ形になる。
「しまった……」
軍人たちは慌てて身をひるがえし、外側に出ようとしたが、出現したバリアがそれを阻んだ。

「ソアラ……」
「行って!」
ソアラはためらったジェオに一声叫んだ。
「セフィーロの導師さまにお礼を。それから伝えて。セフィーロで、いつかお目にかかりたいって」
「……分かった」
軍人とは言え、ソアラに危害を加えることはないはずだ。ジェオは後ろ髪を引かれる思いで、その場から駆けだした。

27 につづく

拍手[21回]

PR
Post your Comment
Name
Title
Mail
URL
Select Color
Comment
pass  emoji Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
  BackHOME : Next 
ブログ内検索
忍者アナライズ

レイアース二次小説置き場 (Last One) wrote all articles.
Powered by Ninja.blog / TemplateDesign by TMP  

忍者ブログ[PR]