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レイアース二次小説置き場 (Last One)

「魔法騎士レイアース」クレフ中心の長編小説を置いてます。

2020.01.24
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2012.11.18
「船を出して!」
光は大声で叫んだ。

つづきはこちら からどうぞ。

――

炎が切れ切れに、最後の船にまで届きつつあった。光は、熱が伝わってくる地面に立ち、炎に沈むチゼータを見つめていた。
「ヒカル。まだ残っていたのですか」
優雅な声に呼びかけられ、振り返る。すると、背後には王妃が佇んでいた。さすがにその表情には疲れが見えたが、落ちついた物腰はそのままだった。
「あなたとランティスは、大切なお客人。一番に乗船いただくよう手配したつもりでしたのに」
「私が悪いんだ、後でいいって言ったから」
光は首を横に大きく振った。それは事実だった。先に乗れと王族から警官、一般の人々まで背中を押してくれたのだが、どうしても立ち去る気になれず、最後の船となってしまった。ランティスに至っては、逃げ遅れた者がいないか探してくると行って立ち去っている。光がついていくと言っても、さっき瓦礫の下敷きになりかけたのを目の当たりにしたせいか、絶対に駄目だと頷いてくれなかった。船に乗るようにと何度も言い置いて行ったから、まだ光が発っていないと聞けばまた怒られるかもしれない。

そ、と背中に手が置かれた感触があり、顔を上げると、王妃の優しい顔があった。
「あなたはいい子ですね、ヒカル。セフィーロで一番心が『強い』のは、確かにあなたのような子かもしれません」
「そんな、私は」
思わず、赤面した。その時には、王妃は警官に目で合図していた。
「この子を船まで、送り届けてください」
「は、はい!」
王妃を何度も振り返りながら、光はその場を後にした。船に乗り込むと、外に面した柵を掴み、タータがチゼータを食い入るように見つめていた。その隣に、タトラもいる。その目の必死さを見て、光は心を打たれた。もう二度と見ることがかなわないかもしれない祖国を、目に焼き付けようとしているのに違いなかった。

―― 私は……どうしたいんだ?
光は、自分に問うた。このチゼータのことは、ほとんど知らない。でも、いくつもの場面に出会った。国が滅びようとしている今、涙をこらえ国を捨てることを選んだ王の厳しい横顔を見た。王妃は、こんな時なのに光に優しく微笑んでくれた。そして、かつて侵攻しながらもセフィーロの民のことを想っていてくれたというタータとタトラが苦しんでいるのを目の当たりにして、私は――

「ヒ……ヒカル!?」
タータが慌てて光に駆け寄ろうとしたが、一瞬早く光は柵から地上に飛び降りていた。船まで迫っていた炎が、あっという間に光を呑み込んだ。
「ヒカル!」
タトラが悲鳴のような声を上げた。しかし光は、炎の風圧を利用するように、ふわりと地上に降りた。炎の中から、光はふたりを見上げた。
「大丈夫、炎は私を傷つけないから。私、ここに残るよ」
そして、にっこりと微笑んだ。何人かの警官が光に気づき近寄ろうとしたが、炎に阻まれて動けない。
「馬鹿な……何のために!」
タータの声に、光ははるか遠くの上空を指差した。
「あっちに、黒い扉のようなものがあるんだ。そこから、全てを溶かす、あの黒い液体が吹きだしてきてた。あれを止めることができたら、国の崩壊を止められるかもしれない」
「たった一人で何ができる!」
「タータ、タトラ。チゼータはまだ『終わってない』」
少なくとも今、立っているこの地面がある。空もある。家は焼き払われたかもしれないが、まだ、再生できるはずだ。信じる力が現実を変える――それはセフィーロだけではないと光は信じていた。

こらえていた涙が、タータとタトラの頬から流れ落ちた。
「私も行く!」
タータは身をひるがえしたが、その彼女を側近たちが必死に止めた。
「離せ! 異世界の者がチゼータのために最後まで残ってくれるというのに、立ち去れるか!」
「駄目です、もう持ちこたえられません! 炎が船に燃え移ります!」
タータの声に、パニック寸前の誰かの声が重なる。一刻の猶予もない。
「船を出して!」
光は大声で叫んだ。残された警官たちが、慌てて船に乗り込んでいく。船が、少しずつチゼータから離れ始めた。
「ヒカル!!」
タータの声が、悲鳴のように空気を引き裂いた。


**


最後の飛行艇の姿が見えなくなり、熱風が吹きすさぶチゼータに、光は一人、立ちつくした。本当に一人なのだと言う感情が、光の心を一瞬強く貫いた。勇気を、孤独や恐怖といった負の感情が追い越しそうになる。
――「光って本当に無鉄砲なんだから。しょうがないわね、最後まで付き合うわよ」
海の声が、閃光のように頭の中に浮かんで、消えていった。光は我知らず、微笑んでいた。海ならきっとそう言って、ため息をつきながらも優しく光の肩を抱いて、励ましてくれるはずだ。
――「あの『扉』は何なのか、消し去ることはできるのか。まず、原因を確かめるのが先決ですわ」
風の声が次いで聞こえた気がした。冷静な判断を下せる彼女ならこんな時、きっとそういうだろうと思った。

「海ちゃん、風ちゃん」
ふたりはきっと、このチゼータを見上げて、私のことを心配してくれているだろう。だから一人じゃないんだ、と光は自分に言い聞かせる。そして、「扉」があった方に向き直った。
「どうするつもりだ?」
「まず、あの『扉』に向かって……」
なにげなく返事をして、ぴたりと止まった。慌てて振り返る。そして、見慣れた巨躯の男が背後に、壁のように立っているのを見た。
「えええ!? ランティス? なんで……」
「おまえなら、そうするだろうと思っていた。だから初めから残るつもりだった」
炎の広がる城下に長い間いたはずだが、その体は全く傷ついていなかった。ランティスは手にした手甲の宝玉を、軽く上空にかざす。すると光が放たれ、黒い鎧が全身を覆った。光たちのものと同じ、導師クレフの特製らしい。
「俺は剣闘師だ。炎は防げる」
光も、手甲を上空にかざした。魔法騎士の鎧をまとうのは久しぶりだった。あの二度の戦いのことを思い出し、気持ちが引き締まる。

「ランティス」
本当は、自分につき合わせて危険な目に会わせたくはなかった。逃げてくれ、と言いたかった。でもその目を見れば、彼が全く退くつもりがないことは明らかだった。それに、自分の心が、ランティスが隣にいてくれてうれしいと言っている。
「……ありがとう」
口から洩れたのは、拒絶ではなく感謝の言葉だった。そっと、ランティスの大きな手を取る。何度も何度も、光が危機にぶつかる度に、助けてくれた手だ。その手がつと動き、光の肩を抱き寄せた。この国に、たった二人残された。でも、恐怖は頭から飛び去っていた。逆に、力が体の奥から湧きあがって来るのを感じた。

光はランティスを見上げた。
「行こう、ランティス。チゼータは滅びさせない。絶対に、滅びさせない」


**


その頃、チゼータの最後の飛行艇では、王の声が響き渡っていた。
「ランティス殿も乗船していないのか?」
「ええ。チゼータの国民は全て乗船済です。多数の怪我人はいますが、出来る限りの治療に当たっています。乗船リストにないのは、シドウ・ヒカル殿とランティス殿のお二人です」
「なんということだ。この船だけでも引き返せぬのか」
「それは……。この船の燃料は、セフィーロに着くまでの最低限しか積んでいません。他の船に分け与えていますから。引き返せば、セフィーロまで到着するのは難しいでしょう。それに、もはやチゼータは火の塊。近寄ることすらできません」
「……そうか」
側近の報告に、王は天を仰いだ。王妃が、その背後から歩み寄った。腕にはあの、古文書の写本を抱えていた。
「ランティスから、この本を託された時に、そのつもりではないかと思っていました」
「では、なぜ止めなかったのだ」
王は、王妃を振り返る。王妃は首を横に振った。
「何を言っても絶対に考えを変えない、そんな強い目をしていましたから」
「……セフィーロの二人が乗船していないとは。あちらに着いた時、導師クレフにどうお伝えすればよいのか」
「大丈夫ですわ」
それに返したのは、コックピットで進路を見つめているタトラだった。少し振り返って、頬にわずかな笑みを浮かべた。
「導師クレフなら、分かってくださいます。『あの二人ならしかたない』とおっしゃるでしょう。それに、私には……あの方は、ある程度それを見越していて、ランティスとヒカルをこの国に送ってくださったような気がするのです。私たちに今できるのは、ただ一人の死者も出さずに、セフィーロへ全ての国民を送り届けること」
そう言うと、真っ暗な宇宙に視線を戻した。光の航跡のような『道』が船の前に見えている。その『道』は、遠くに見える、先行する船の間を通り、まっすぐにセフィーロに向かっているはずだった。

その時、『道』が、ふっと揺らいだ。一瞬だが、消えそうになる。
「! 大丈夫か」
王がコックピットに座る、二人の娘に歩み寄る。タトラが、そっとタータの肩を抱いた。タータは、『道』を睨むように見据えながらも、その目から大粒の涙をこぼしていた。
「タータ。お前が心を乱しては、『道』が途絶えてしまう。『道』が消えてしまえば、我々は全員宇宙の藻屑じゃ。しっかりするのじゃ」
「……心を乱すなと言うのですか!」
タータはきっと振り返って、父王を見た。
「私には、置いてきた国の悲鳴が聞こえています! とても耐えられません」
「……悲しいのが、お前だけだと思うか」
叱責するような口調ではなかった。王妃が二人の肩に手をやる。四人の家族は、身を寄せ合って『道』を見つめた。

突然、船中に、警告を示すアラートが響き渡った。王は立ち上がり、足早に入って来た側近を迎える。
「何事じゃ?」
「見知らぬ船が接近してきています!」
「敵か、味方か?」
王妃も立ちあがった。チゼータの船の中には、戦闘機能を持たないものも多い。そんな船が敵国に射撃されれば、一環の終わりである。母国を失い彷徨う心細さを、口にはしないが全員が感じていた。
「わかりません。ただ……あの船に刻まれた紋章は、」
コックピットに座っていた操縦者の一人が、モニターを切り替える。するとそこには、巨大な戦艦が大きく映し出された。チゼータが擁するどの船よりも巨大なもので、全員が息を飲んだ。その船首には、見覚えのある龍の紋章が刻まれていた。
「ファーレン!」
タトラが声を上げた。

ジジッ……と音がコックピットに響き、先方の船が通信を試みているのが分かった。
「つなぎなさい」
タトラが冷静な声で、操縦者に命じる。マイクを口元に引き寄せ、ファーレンの船を見ながら語りかけた。
「こちらは、チゼータの第一王女、タトラ。ファーレンの船とお見受けしますが、何用ですか」
『タトラ! 無事だったのじゃな』
はっ、とタータとタトラが同時に顔を上げた。
『アスカ様。そういう時には、まず名乗られるのが先ですじゃ』
『名乗らなくとも相手が分かっていればいいではないか……わらわはファーレンの第一皇女、アスカ。チゼータの危機を知り、力になるために馳せ参じたのじゃ』
ぱっ、ともう一つのモニターがコックピットに映し出される。そこにはアスカ、チャンユン、サンユン、さらに後ろには風とフェリオの姿も映っていた。

王が立ち上がり、モニターのアスカに向き合った。
「アスカ殿とおっしゃいましたな、初めてお目にかかる。私はチゼータの王、ジン。ご協力痛みいる」
『チゼータは……どうなったのじゃ』
アスカのためらいがちな言葉に、王は黙って首を横に振った。アスカは唇を噛みしめる。
「ファーレンの被害も決して小さくはないはず」
王は逆に、気遣うようにアスカに尋ねた。
『ファーレンの王と王妃が対処にあたっておる。チゼータの危機を黙って見ているわけにはいかぬと直接話したところ、わらわが戦艦を率いることとなったのじゃ……この風とフェリオも、王の説得に力を貸してくれた』
そう言うと、背後の風とフェリオを見やった。

フェリオが一歩進み出る。
『俺はセフィーロの王子、フェリオと言います。こちらは異世界から来た魔法騎士の一人、風。皆、ご無事ですか』
セフィーロと聞いて、王の表情が曇った。敏感にそれを察した風が、前に出る。
『……ランティスさんとヒカルさんがそちらに行っているはずです。お二人はご無事ですか?』
「……二人とも、チゼータに残られました」
タトラが沈痛な声でそう返した。風はショックを受けた表情で立ちすくみ、フェリオと顔を見合わせた。チゼータがどういう状況か、風たちが見ていないはずはなかった。風は掌で口元を覆い、考え込むように俯いている。
『……この船をチゼータに向けるか』
アスカは風を気遣わしげに見つめながら、チャンアンに問うた。
『恐れながらアスカ様。チゼータはもはや、近寄れる状況にありませぬ』
『そんな場所に取り残されたヒカルとランティスはどうなるのじゃ! わらわは……』
『いいえ、アスカさん』
「それでも行く」と言いかけただろうアスカを、遮ったのは風だった。
『戻ってはいけませんわ。ヒカルさんとランティスさんは、自分たちにできることがあると思ったから、自らの意志で残ったはず。私たちには私たちにしかできないことがありますわ。だから、戻ってはなりません。……怪我人も多く出ているでしょう。私はこれからチゼータの船に参り、皆さまの傷を癒したいと思います』
「治癒能力があるのですか?」
王妃の言葉に、風はにっこりと微笑んだ。

アスカは、無言のまま、涙の跡が残るタータとタトラを見つめた。そして、いつもより光を薄めている『道』に視線をちらりとやった。そして、凛とした声で告げる。
『……セフィーロへの「道」はわらわが創る。船に乗りきれない者は、この船に移るのじゃ。ともにセフィーロに参ろうぞ』


第三章 完

31 につづく

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