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レイアース二次小説置き場 (Last One)

「魔法騎士レイアース」クレフ中心の長編小説を置いてます。

2020.01.24
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2012.11.23
「……私は、お前に詫びねばならぬ」
「え?」
風がきょとんと首を傾げた。

――

夕焼けがセフィーロに訪れていた。いつもならその美しさに目を奪われるのに、海は一目見て、目を逸らした。今の海には、渚や山々や空を染めている赤さが、まるで血のように見えた。血まみれだったザズの姿がどうしてもフラッシュバックしてしまう。

夕焼け空の中、十を越える戦艦や飛行艇が、ゆっくりとセフィーロの浜辺に降りつつあった。ひときわ大きい戦艦はファーレンのものだろう。船の中には、鉄板の部分が焼けただれているものもあり、チゼータの惨状をうかがわせた。しかし船の中に乗っている人々の心の傷は、こんなものではないだろう。船が波打ち際に到着すると、待ちかねたように扉が開き、飛行艇から地面に降りる通路が下ろされた。チゼータの人々が、おそるおそる顔を出し、周囲を見渡し、その静かな緑と海が拡がる風景に目を見張る。次いで、すぐ間近に建つ巨大な城に驚愕と感嘆の声が上がった。

セフィーロの人々が次々と浜辺に下り、避難民たちを迎えた。肌の色や顔つきも異なる二つの国の人々が交差し、いたわり、握手するのを、海はまぶしい思いで見つめていた。チゼータの人々は全てを失った気持ちでいるかもしれない。でも、ここには受け入れようとする人々がいて、住むところも食べるものもある。「背後のドアが閉まらなければ新しいドアは開かない」という有名な言葉を、海は思い出した。失ったものが大きいほど、きっと新しく手にするものも大きいはずだ。チゼータの人達がセフィーロに馴染んでくれればいいと心から思った。

その中に、悄然とうなだれたタータと、その肩を抱いたタトラを見つけて、海は心がズキリと痛んだ。いつも勝気なタータが、こんなに気力をなくしている姿を見るのは初めてだった。背後にいる立派な服装の男女は、王と王妃だろうか。傍には幹部だろう初老の人々が取り囲み、他の国民たちも4人に注目し、道を譲っている。そこに、プレセアとラファーガを伴ったクレフがゆっくりと歩み寄るのが見えた。クレフと王が何言か会話を交わし、王と王妃が深く頭を下げた。セフィーロにはチゼータ全員を受け入れる用意があると伝えたのだろう。ほっとしたような囁きが、チゼータの国民の間に広がった。


「海さん」
突然、後ろから声をかけられた。同時に、誰かは分かっていた。
「風!」
振り返ると同時に、歩いてきた風が正面から、とん、とぶつかってきた。海の肩に、風の額の感触を感じる。栗色の髪がふわりと頬を掠めた。
―― 泣いてるの……?
いつも礼儀正しく振舞う風が、自分から相手に触れてくることは珍しい。風の表情は、うつむいているために分からない。しかしその肩は、小刻みに震えていた。どれほど、辛いものを見てきたのか。その瞬間、海の心にこみ上げて来たのは「怒り」だった。一体何が、何のために、この優しい風をここまで傷つけたのか。その何ものかが心から腹立たしかった。

海は力いっぱい、風の細い体を抱きしめた。ゆっくりと、風の後ろからフェリオが歩み寄ってくるのが見えた。風の様子にハッとした表情を浮かべたが、海が頷くと、心配そうな顔をしながらもその場を離れた。
「……落ちついた?」
しばらくして海が声をかけると、風は目元を指先で拭いながら顔をあげた。そして、その顔に微笑みが拡がるのを見て、海はほっとした。安心すると同時に、数日前にザズの傷を直した「風」のことを思い起こさずにはいられなかった。改めて見てみれば、あの「風」とは外見が違う。17歳になった風はより大人びて身長も伸びていたし、体型も少し変わっている。それなのに、醸し出す雰囲気だけは全く同じだった。

風は、海を見てしっかりとした声で言った。
「ありがとうございます。もう、大丈夫です。海さんを見たら、ほっとしてしまいましたわ。……セフィーロが無事そうで安心いたしました。みなさんお変わりなく?」
「ええ。みんな無事だから安心して。……ただ、クレフが、イーグルの部屋で話があるって」
もう一人の「風」を見たことを、今は話さないほうがいいと思った。海では何が起こったかは話せても、その理由は伝えられない。理由が分からなければ、風は混乱し不安になるだけだろう。風は素直にこくりと頷いた。


**


海が風を伴ってイーグルの部屋を訪れた時、すでにタータとタトラ、アスカは先に着いていた。三人をここに連れてきただろうクレフとフェリオ、ラファーガとカルディナ、プレセアとアスコットも揃っていた。イーグルのベッドを囲むように出現した椅子に、皆腰かけている。二つ空いている椅子は、風と海のものだろう。しかしここに光とランティスがいないことが、改めてショックだった。
「ザズさん……?」
風が、イーグルの隣に寝かされたザズを見て、はっとした表情で駆け寄る。
「大丈夫だ、眠っているだけだ。すぐに目は覚める」
クレフの言葉に安堵の表情を浮かべながらも、眠るザズの顔を覗き込んだ。

窓の外は茜色に染まっていたが、空にはもう群青色が広がっていた。クレフは掌を上に向けると、無造作に大きなランプを出現させた。ポッと音を立てて炎がともり、部屋中を飴色の光で満たした。
「……チゼータの色だ」
光を見つめるタータとタトラの目が和んだ。ラファーガがクレフからランプを受け取り、イーグルのベッドの背後に置いた。夜をこのような灯りで過ごすのは、チゼータでは日常なのだろう。少し薄暗い光は、傷ついた二人にはちょうどよいのかもしれない。

タトラがクレフに向き直った。
「祖国を失った我々チゼータ国民を快く受け入れていただき、ありがとうございます。セフィーロは優しい人ばかりだと、皆安堵しておりますわ。こんなにほっとしたのは、あの日以来初めてです」
そう言って、タータと二人、立ち上がって頭を下げた。クレフは手を差し伸べ、二人を座らせた。掌を固く握って膝の上に置いていたカルディナが、顔を上げて二人を見やった。
「姫様。チゼータは、どうなったんですか」
「あの星から炎が消えても、もう人は住めないだろう、という結論をくだしています」
「そんな……」
タトラが沈痛な面持ちで答え、カルディナはやるせなく肩を落とした。プレセアが後ろから、そっと彼女の肩を抱いた。そして、二人に向き直る。いつもは明るい黄金色の髪は、ランプの光の下でブラウンに輝いていた。
「すぐに前を向くのは難しいでしょう。ただ、今はゆっくり休んでくださいね。私たちは、できることなら何でも力になりたいと思っていますから」
労りに満ちた言葉だった。タータとタトラは、一瞬目をうるませて口々に礼を言った。やはり、この数日のショックで弱っているのだとまざまざと分かり、海は唇を噛んだ。

そのやり取りを見守る、アスカの目が涙ぐんでいた。第一皇女とはいえ、まだあどけない少女。チゼータの人々の悲しみが、そのまま心に反射してしまってもおかしくなかった。
「セフィーロは、大丈夫なのかや。ファーレンから見た画像だと、セフィーロも城外に爪跡が残っているようじゃったが」
アスカの言葉に、クレフは視線を外に向けた。
「この巨大なセフィーロ全土に、あの短時間でバリアを張るのは不可能だった。できるだけ届かせるよう努力はしたが、森や獣は深く傷ついた。私は精獣を駆り、傷ついたものたちをこの二日間癒していた。……このザズも、その一人だ」
「導師クレフ。治癒能力をお持ちなのですか?」
アスコットが不思議そうな表情で口を挟んだ。いよいよ話が今夜の核心に近づいてきたことを海は感じた。胸が、どきりと高鳴った。

クレフは視線をアスコットから、風に向けた。そして彼は、風に向かって静かに頭を下げた。
「……私は、お前に詫びねばならぬ」
「え?」
風がきょとんと首を傾げた。

35.につづく

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