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レイアース二次小説置き場 (Last One)

「魔法騎士レイアース」クレフ中心の長編小説を置いてます。

2020.01.20
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2012.11.25
「……俺、ひとつ、導師クレフにお伺いしてはいけないことを尋ねてしまったんだ」

つづきはこちら からどうぞ。

――

規則的な地響きが、ゆっくりと近づいてきていた。人間とは明らかに違う巨大すぎる腕が、梢を薙ぎ払う。雄叫びが宙を裂いた。ひとつしかない眼が、ぎろりと地面に向けられた。
「来るぞ、風」
「ええ」
風はフェリオの隣で手を胸の前に置き、油断なく待った。二人は、木々が途切れた天然の広場に立っていた。ここにいれば、風の魔法が周囲の植物に遮られることがない。

合わせて三体の魔物が、木々の間から姿を見せる。二人の姿を認めると同時に、三体とも牙をむき出しにして迫って来た。
「『碧の疾風』!」
焦らず魔法の影響力が高いところまで待ち、風は魔法を放った。真空の刃がいくつも魔物を襲う。悲鳴を上げて、三体が地面に倒れ伏した。そのうち二体は、すぐに消え失せた。しかし残りの一体は、倒れかけたが置き直り、風に向かって襲い掛かってきた。
「退がれ、風!」
フェリオが剣を抜き、風の前に立ちはだかった。魔物が振り下ろした腕を、さっと背後に避けてかわす。そのまま身軽に、魔物の腕、肩、と順番に飛び移った。魔物がつかまえようとするより先に、剣がその目の真ん中を貫いた。鈍い悲鳴を上げて、三体目も消え失せる。

「ありがとうございます。助かりましたわ、フェリオ」
タッとフェリオが着地すると同時に、風は礼を言った。フェリオは頭を掻いた。
「って言っても、三体中二体は風が倒したんだけどな……大したもんだよ」
「いいえ。近距離はフェリオ、遠距離は私で手分けをすれば、魔物なら大丈夫ですわ。私たち、いい組み合わせだと思います」
「戦いだけか?」
不意にフェリオが風に歩み寄った。取られた手の甲に、軽く口づける。いたずらっ子のような顔立ちをしているくせに、時折見せるこういうしぐさが妙に様になる男だ。風は頬を赤く染めた。
「……いいえ」
それだけ言うのが精いっぱいだった。つい、と顔を逸らして、その場から逃れる。

「おい、待てよ」
広場から先に、上に続くけもの道があり、風はそこに入り込んだ。フェリオがついてくるのを確かめながら、どんどん山道を上ってゆく。軽く息を切らしたころ、急に目の前が開けて、眼下が広く見渡せた。
「いい景色ですわね」
マホガニー色の岩場から見下ろす緑の森は、色合いも綺麗だった。桜は終わりかけているものの、次々と様々な色の花が木を彩っている。鳥のさえずりが絶えず耳に届いて心地よかった。

その一角に、木がなぎ倒された部分を見つけて風は眉をひそめた。魔物か、それとも先日の衝撃波の名残か。クレフによれば、風には潜在的に、植物をも治す力があるらしい。こんなに治したいと思っていても力が発動しないのは、『願う力』がまだ足りないからだろうか。昨日クレフに聞いた時には、魔法は一生かけて極めていくもので、焦ることはないと言われた。逆に言えば、一朝一夕でできるものではないのだろう。
「―― ごめんなさい」
風は後ろから追いついてきたフェリオにも聞こえないような、小さな声で植物たちに謝った。


「一休みするか」
「ええ。私、お弁当を持ってまいりましたの」
手の甲の飾りに閉じ込めておいた、バスケットを取り出して風は微笑んだ。フェリオが歓声を上げて、バスケットの蓋を開ける。中にはたっぷりとサンドイッチとサラダが詰められていた。紅茶も、現世から持って来ていた魔法瓶に入れてある。
「これが『魔法瓶』の威力か! 異世界にも魔法があるんだな」
温かく湯気を出す紅茶をカップに注ぎながら、フェリオがどこか勘違いをした感想を言った。風はおかしくなって笑ったが、指摘をするのは止めておいた。

下から吹きあがって来た疾風が、二人の髪を揺らす。眼下の景色を眺めながら、フェリオが言った。
「導師クレフの予想は当たっていたな。魔物の数は増えるばかりだ。チゼータの人々の不安が魔物となって現れるのは、予想がつく話ではあったが……。チゼータに余計な心配をさせるにも及ばない。ここはセフィーロの出番だ」
「ええ」
「サンドイッチを持って魔物退治も、まんざらじゃないし」
なんだって楽しいことに変えてしまうのは、フェリオのいいところだ。風は笑って同意した。ここのところ、現れる魔物の数が段違いに増えている。そして、なぜか二体・三体と複数で現れる頻度が増えた。そのため戦えるセフィーロの者は全て城を出払い、数人でグループになっては魔物退治に集中する日々だった。チゼータからの避難民を受け入れて二日、魔物の数は増えこそすれ、減る気配はない。

多すぎるかと思いながら持ってきたサンドイッチは、フェリオがあらかた一人で平らげた。紅茶が注がれたカップの口をつけながら、フェリオがぽつりと言った。視線は、眼下に向けられたままだった。
「……俺、ひとつ、導師クレフにお伺いしてはいけないことを尋ねてしまったんだ」
「え?」
初めて聞く話になりそうだった。風は膝に広げていたナプキンを畳んで脇に置くと、ティーカップを手にフェリオに向き直った。
「姉上は……エメロード姫は、あなたの教え子ですかって」
風は息を飲んだ。
「……クレフさんは何とおっしゃったのですか?」
「否定されたよ。姉上は、生まれながらにして魔法を使う天性の才能を持っていたらしい。稀にそういう者が誕生するそうだが、幼いころには既に、様々な魔法を使いこなして導師クレフを驚かせていたそうだ。『柱』になるような人だったんだ、当たり前かもしれないが」
「……フェリオ」
弟子かどうか尋ねたフェリオの胸の内が、風には手に取るように分かった。ずきりと、胸がいたんだ。フェリオは風に視線を戻して、申し訳なさそうに微笑んだ。
「すまないな、こんな話をして。お前が辛い思いをすることは分かっているのに」
「いいえ」風は首を振った。「このような話も、隠さずにしていただけるようになって、私は嬉しいですわ」
フェリオは身を寄せ、風の肩を抱き寄せた。風も逆らわず、その肩に頭を乗せる。

「そう言われた時、ほっとした気持ちがあったのは確かだったが、やっぱり大部分は、がっかりしたんだ。弟子なら、導師クレフが創りだすことができると思ったからな。『禁術』で呼びもどせたとしても、それはもう姉上ではないはずなのに」
「……お亡くなりになった方に、もう一度会いたい。それは、誰もがもつ『願い』ですわ。誰もあなたを批判はできないと思います」
「でも、それは越えてはいけない一線なんだ。かなえられてはいけない『願い』なんだろうな」
フェリオは、視線を伏せた。
「導師クレフは、『禁術』を使ったのは今回が最初で最後だとおっしゃっていた。あの方は、誰よりも大勢の人の死を見送ってきたはずだ。大切な人も何度も送らねばならなかっただろうに……一度も、呼び戻そうとはされなかったんだな」
「遣い手だけに、それが『本物でない』ことを誰よりもご存じだからではないでしょうか」
「それでも、同じ顔、同じ声、同じ姿なんだぞ。目の前に現れたら『別の人間』だと思いきれるか? この世のどこにもその人がいない場合、それはもう『本物』じゃないか?」
その言葉の切々とした響きに、風は唇を噛んだ。風だって、会えるならもう一度エメロード姫に会いたい。会って話してみたい。ザガートの命だって、決して奪いたくて奪った訳ではないのだ。フェリオの言葉に、あれが『禁術』と呼ばれる理由は十分に含まれているように思えた。相対する人間が信じてしまえば、偽物はもう、偽物でなくなる。

「……導師クレフは、本当に俺たちとは『違う』んだな」
フェリオはぽつりと言った。
「なぜ、そう思われるんですの?」
「死んだ人間を創りだす力はもちろん、その力を持っていて使わない、ということがさ」
風は、自分の肩を抱き寄せたフェリオの指の力が強められたのを感じた。
「たとえば、俺はおまえを失ったら、どんな手を使っても呼び戻したいと思うだろうな。導師なら、大事なひとを失っても、その力を使わずにいられるものなんだろうか。……あの方と俺たちの間には、どうしても越えられない一線がある。俺は今回の一件で、そう思ったよ」
「……クレフさんを一人にしてはいけませんわ」
フェリオは風を見下ろした。
「どうしてそう思う?」
「いえ」風は戸惑った。「なんとなく、口をついて出てしまいました」
「そうだな」フェリオは風の肩を放し、立ち上がった。「俺はあの方をお慕いしている。その気持ちに変わりはないさ」

うぅん、とフェリオが両腕を上げて伸びをした。二人して、離れても威容を見せているセフィーロ城を見やった。
「三つ子が五つ子になってるとは思わなかったな」
今までの重たい話題を吹き飛ばすような、軽い声で彼は言った。居住区になっている柱の部分のことを言っているのだろう。右の一番端の柱に、チゼータ国民が全員、避難していた。
「チゼータの人々じゃ、増えた一柱分でさえ十分に余るのに。どうしてもう一柱増やされたのかな」
「……オートザムからも避難民が来る可能性があると、お考えなのではないでしょうか」
フェリオが驚いた顔で風を見た。
「何か知っているのか?」
「いいえ、オートザムのことはなにも。ただ、オートザムは変わらず、中心部を覗いて真っ暗なのでしょう? 精神エネルギーの枯渇は深刻なレベルに達しているはずです。復旧できなければ、オートザムに住み続けることは難しくなると思います」
「それなら、必要と決まった時に建て増せばいいように思うけどな……」
フェリオがさりげなく残した言葉が、風の心に妙に引っかかった。

37につづく

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