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レイアース二次小説置き場 (Last One)

「魔法騎士レイアース」クレフ中心の長編小説を置いてます。

2020.01.25
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2012.11.28
「もう、この世界で会うのは最後になろう」

つづきはこちら からどうぞ

――

甘やかな花の香りが、どこからか漂ってくる。どこか懐かしい香りだ、と思って、イーグルは心中苦笑した。花の香りを、懐かしいなどと思うのはおかしい。イーグルが生まれたころにはもうオートザムの大気汚染は末期まで進んでいて、花どころか草の一本もなかったからだ。もしかしたら、母親のにおいに似ているのかもしれない。
―― 今度は笑わずに、目を開いた。

また、戻って来たのか。目を開ける前から、すでに気づいてはいた。イーグルが「ロザリオ」という女性と出会ったこの崖を目にするのは、もう三度目だった。二度目に見た時は、眼下に広がる荒野に膝が震えたものだが、今目の前にある景色は、一度目の夢に似ていた。白い崖の向こうには、きっぱりと青い空が広がっていた。導師ロザリオの瞳の色によく似ている、と思った。崖の周辺には緑が広がり、色とりどりの花が咲いていた。一体彼女は、この夢の中ではどうなってしまっているのだろう。人物のいない人物画のように、落ちつかないものを感じた。

あははは、と子供の笑い声が響いてイーグルは驚いた。一瞬、一度目の夢に現れた、幼いロザリオが再び現れたのかと思ったからだ。しかし、イーグルの足元を走り抜けたのは、茶色と黒色の髪をした男の子だった。イーグルの腰より低いから、まだ5・6歳くらいのものだろう。イーグルの足に触れるくらいの距離を通ったのに、全くイーグルに気づいていない。この子供たちは、他の夢に現れる登場人物たちと同じように、イーグルを見ることはできないのだろう。

その時、かすかに誰かが息をついた。ほんのかすかな、向かいあっていなければ気づかないほどの吐息だったのに、イーグルははっきりとその音を聞いた。女性のどこか甘い息を感じたような気もした。鼓動がどくん、と高鳴り、イーグルはそちらを振り向いた。

花が咲き乱れる中にぽつんと残された、椅子くらいの大きさの岩に、一人の女性が腰掛けていた。イーグルに向けた背中には、銀色の髪が波打っている。ほっそりと体に添う形の白いロングドレスを纏っていた。裾が広がり、その足元を隠していた。
「―― 導師ロザリオ」
ゆっくりと、イーグルは歩み寄った。肩越しに振り返った彼女を見て、おや、と意外の感に打たれる。ロザリオには間違いなかった。しかし、前回のような、ぐさりと相手を差し貫いて来るような強い光はもうなかった。もちろん、初めて会った時の少女のような無邪気さもない。目元はほんの少し下がり、口元も前のようにきっぱり引き結ばれてはいない。穏やかな表情と言ってよかった。オートザムで考えれば、30代の半ばくらいかと思われた。前回に会った時は20歳そこそこに見えたから、あれから更に年月が流れたのだろう。オートザムでは10年でも、セフィーロにとってはそうではあるまい。何より、彼女の背後に広がる自然の豊かさが、前回の荒れ地の時代から、長い時間が流れたことを示していた。美しい、と思った。この自然もロザリオも、無邪気な時代と戦争を潜り抜けて来たのだ。この光景は、一度目よりも、二度目よりもずっと美しい。やっと完成された絵画を見たように思った。

「おまえか。……また、来たのか」
その声音は、外見と同じようにやはり穏やかで、ゆったりとしていた。何が彼女をこんなに変えたのだろう。彼女は、イーグルに向き直り、続けた。
「もう、この世界で会うのは最後になろう」
「なぜですか?」
「私は遠くない未来に、この世を去るからだ」
喉が詰まったように、とっさに声がでなかった。改めて、目の前の美しい人を見やる。同時に、クレフを思い出した。正確には、「導師ロザリオ」の名前を出した時の、クレフのあらわな動揺が頭をよぎっていた。どうしてその名前を知っているのだと詰問しかけて、クレフは結局言葉を切った。そして、逃げるようにその場を去ったのだ。イーグルが知る限り、そんな態度をクレフが取るのは初めてだった。

これは、ただの夢ではない。「現実」だ、とイーグルは今ははっきりと感じている。そして代々導師が一人しかおらず、今クレフが導師の立場にいて、クレフがロザリオを知っているなら、これは過去の風景に違いない。そしてクレフの反応から、ロザリオとの関係が決して浅くないことは推測できる。ロザリオはクレフの直接の師だと、イーグルはほぼ確信していた。

一体、どこから話していいのか、言葉が出て来なかった。クレフと同じ導師なら、導師という職業の秘密についてももちろん知っているはずだ。イーグルがつかの間ためらった時、ロザリオの背後の茂みががさがさと動いた。
「かあさまー!」
無邪気な高い声が響き、現れた子供がロザリオの膝に飛びついた。ロザリオと同じ色の子供の髪を、彼女がゆっくりと撫でてやっている。その優しい手つきを見て、どうして彼女の雰囲気がこれほど変わったのか、イーグルは理解した。――そうか。母親になったのか。

その時、ロザリオがふとイーグルを見やった。
「初めて会った時、おまえは私のことを『導師クレフ』と呼んだか」
「……ええ」
ロザリオにとっては遥か昔のことのはずなのに、よく覚えている、と驚きながらイーグルは頷いた。
「―― そうか」ロザリオは、どこか淋しげな笑みを唇に乗せた。「『導師』か。私の代で、『導師』は最後にするつもりだったが、そうはならなかったようだな」
「……。どういうことですか」
声が柄にもなく上ずりそうになる。
――「私は、誰にも『導師』を引き継ぐつもりはない。私の代で『終わらせる』つもりだ」
クレフの言葉が、はっきりと頭に蘇っていた。どうして二人とも、同じことを口にする?
「クレフは、僕が今いる世界の『導師』です。『導師』とは罪深いものだと、彼はおっしゃっていました。あなたは、その理由を知っているのですか」
「それを知って、どうするつもりだ」
ロザリオが視線を険しくする。鎧をまとっていたころの眼光が一瞬で戻っていた。この人は、おそらくこの世界で最も強い人なのだ。もし危害を加えるつもりなら、イーグルにはどうすることもできないだろう。イーグルは意を決して、ロザリオを向き合った。

「導師クレフは、心の底で苦しんでいる。僕にはそれが分かるんです。僕は彼を助けたい」
「しかしおまえは、今不治の病に苦しんでいる。今のままでは、いずれ目を覚ましても、四肢の回復には至らない。一生ベッドから、身を起こすことすらできないだろう」
その言葉は、まるで錐のようにイーグルの心を差し貫いた。ロザリオが本当のことを口にしているのが分かったからだ。いつか目を覚ます、そして以前のように動けるようになりたい。その兆しが見えていると思っていただけに、胸に穴がぽっかり開いたような虚しさが襲った。
「それでも」イーグルは自らを奮い立たせるように口を開いた。「それでも、僕は自分のできることをしたい」
「どうしてだ」
ロザリオの瞳は真剣だった。イーグルはそっと微笑んだ。
「理由なんかありませんよ。僕はただ、導師クレフのことが好きなんです。それだけのことです」

ロザリオはつかの間、黙っていた。しかしイーグルをまっすぐに見つめたままだった。やがて、彼女は子供の肩に手を置いた。
「ここへ来なさい」
「はい、かあさま」
まだ、5歳程度だろうか。無邪気な笑みは、幼いころのロザリオをほうふつとさせた。ちょこんと立っている姿は、イーグルの微笑みを誘った。青い目まで、母親と瓜二つだった。瑞々しい、葉の先にたまった朝露のような印象があった。子供は、ふとイーグルを見やった。その視線がまっすぐに彼を捉えたのに気づいても、イーグルはもう驚かなかった。

「お兄ちゃんは、誰?」
「僕は、イーグルと言います」
丁寧に名乗ると、子供は心配そうな顔をしてイーグルに近寄ってきた。
「病気なの?」
目が合って数秒だというのに、いきなり見抜いた『力』はやはり、母親譲りなのだろう。
「ええ、ずっと目が覚めないんです」
どこかで交わしたような会話だと思った。――そうだ。まだ少女だったロザリオとの会話と同じだ。既視感で頭がぐらぐらした。ロザリオの声が背後から聞こえた。
「おまえの『再生能力』は特別なものだ。……もう、その男は目覚めてもいいころだ。治してやりなさい」
ハイ、と子供は元気に頷いた。そして、そっとイーグルの目に、その小さな手を当てた。
「君は――」
「もう目覚めるよ。ほら」
真っ暗になった視界の向こうで、子供の声が聞こえた。それきり、景色はぐるりと暗転した。夢が終わってしまう――イーグルはもうろうとする意識の中で手を伸ばしたが、その指先は空を切った。


**


目を開けて、初めに視界に映ったのは、薄暗い室内だった。また別の夢の中に入り込んだのかもしれない。頭は、さっきの夢の中よりもずっとぼんやりしていて、ずっしりと思い。ぼやけた焦点が周囲をさまよい、目の前の子どもに合うにいたって、やっぱり夢だと思った。それは、さっきの子供に違いなかった。しかし、ロザリオの姿はどこにもない。

子供の銀髪が、夜の部屋の中で鈍い輝きを放っている。その細く繊細な顎の輪郭を、外からの夜の光が縁取っていた。子供は、ベッドサイドの椅子に腰かけ、月の柔い光で本を読んでいるようだった。改めて見ると、子供の様子が違っていることにすぐに気づいた。顔は同じだが、さっきの夢よりも姿が成長している。その視線はさっきのロザリオのように大人びていて、頭には宝玉を戴いていた。

また次の「夢」か、とイーグルは考えた。これは、さっきの夢よりもさらに後の世界なのだろう。ロザリオは死に、子供は成長した――もう、ロザリオはどこにもいないのか。切ない気持ちになり、イーグルは身を起こそうとした。しかし体は鉛のように重く、上がったはずの腕はあまりの重みにすぐにベッドに落ちた。

その音に、はっ、と子供が振り返った。イーグルに視線を向けたとたん、読んでいた本がその膝から転がり落ちた。
「目が覚めたのか、イーグル」
「―― え?」
この声。混乱するイーグルをよそに、『子供』は早口に続けた。
「私が分かるか?」
その瞬間、イーグルには全てが分かった。

しばらく間を開けて、イーグルは答えた。
「ええ。分かりますよ。『導師クレフ』」



第三章 完

40.につづく


よろしければ、拍手ついでにアンケートにお答えくださいな。

Q いつ、ロザリオとクレフの関係に気づきましたか?
  1. この話よりも前に気づいてましたわ
  2. この話を読んでる最中に気づいたんだ!
  3. 最後の一言で気づいたわ
  
  いや、実は興味津々です。

拍手[58回]

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