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レイアース二次小説置き場 (Last One)

「魔法騎士レイアース」クレフ中心の長編小説を置いてます。

2020.01.20
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2012.10.03
「どうして、子供のお姿なんですか?」

つづきはこちら からどうぞ。

――

どこかで、せせらぎの音が続いている。鳥のさえずりも聞こえる。
いつもと同じ平和な午後が、セフィーロに訪れていた。
セフィーロはかつては常春の国だったというが、「柱」制度が終わってからは、4つの季節がめぐるようになった。セフィーロの人々はもちろん、ファーレンやチゼータに四季はない。大気汚染により、外気に触れることさえないオートザムではなおのこと、季節を知ることはない。となれば、異世界からの少女たちの影響であることは間違いなさそうだった。

夏は暑さきびしく、冬はしんしんと冷え込み、春しか知らないセフィーロの人々は最初こそ苦労していたようだ。しかし人々は助けあうことを覚え、やがて、夏には夏の花が、冬には冬の雪が降るのを楽しむようになっている。
ただし、もっとも彼ら彼女らが愛するのは、やはり「春」。なつかしい友がもどってきたように、皆この季節を楽しみにしている。

そして、今はまさに春。花は咲き乱れ、鳥や獣は一斉に目を覚まし、人々は外に繰り出していた。しかし、自分ほどセフィーロの季節を全身に感じている者はいないだろうとイーグルは思っている。
セフィーロ侵攻が終わると同時に、イーグルの意識はブツリと唐突に途切れた。精神エネルギーの使いすぎで深いこん睡状態に陥り、二度と目覚めなくなる病のためだった。当然あの時、自分は二度と目覚めないと思った。こういう人生の最後も悪くはないと、ヒカルとランティスに抱かれながら思ったものだった。

だから、あの戦争から一年経ったとき、突然意識が浮上して、とても驚いた。体は眠り続けているが、意識だけは目を覚ましていた。「セフィーロ」は信じる心が全てを決める世界。イーグルが必ず目覚めると信じ、願っているヒカルをはじめとする人々の存在が、ゆっくりとイーグルを回復へと導いていた。

今では、意識が目覚めている時は、眠ったままで目は開けられないものの周りの音を楽しむことができる。言葉を念じることで、相手に伝えることもできる。
全てが、夢のようだと思う。かつて、監視塔から見ていた美しい『セフィーロ』に自分が今いて、やわらかな自然の風に吹かれているということが。体は確かに眠っているが触覚と聴覚はあり、動けない分、季節の移り変わりを全身で感じていた。

イーグルのためにと、部屋の窓際には風変わりな風鈴が置かれている。いろいろな長さの、金属の筒が円形の屋根に取りつけられ、中央には玉がひとつ提げられているらしい。風が吹くたびに玉が動き、筒にぶつかって、その場限りの音楽を奏でる。
「トウキョウ」という異世界から、ヒカルがもってきたものだった。三年前、ちらりと目にした異世界を、ふっと思い出す。おだやかな音色は眠っている時にはあたたかい夢を、覚醒している時には安らぎを与えてくれる。

**

夢とも現ともつかない世界をさまよっていた時だった。さらさらと衣擦れの音がして、小さな足音が近づいてくる。イーグルの意識は、ゆっくりと浮上した。この三年間の間に、この部屋に来る人物を、足音で特定できるようになっている。
「具合はどうだ? イーグル」
「導師クレフ。お見舞いいただき、ありがとうございます」
口は利けなくとも、心で言葉を念じるだけで、セフィーロの人々には通じるらしい。はじめは違和感があったが、すぐに慣れた。

「気にするな。調子は良さそうだな」
クレフは、週に一度はかならずこの部屋を訪れる。そして、意識の目覚めにいいという香を焚いてくれる。なんとも不思議な香りで、必ずイーグルは眠ってしまうのだが、目覚めた時には、いまでも目を開けられそうに意識がくっきりしているのが常だった。

「香は……あの棚の上か」
衣擦れの音が、ベッドの隣を通り過ぎる。そのまま、体を上に伸ばしたようだった。あの棚の位置はけっこう高かったはずだ。手が届くだろうか、と思うそばから、悪戦苦闘する気配を感じた。
「だいじょうぶですか」
「笑うな。取れたから問題ない」
「すみません。誰かが導師のものだと気づかずに仕舞ったようですね。今度から、低いところに置いておくよう皆に頼んでおきます」
はぁ、とため息が上から落ち、イーグルは思わず眠ったまま、笑みを深くした。

ほどなく、いつもの香が部屋を満たしていく。うとうと、とした時、イーグルの手に、二回りほども小さな手がそっと触れた。
「ヒカルの『願う力』は大したものだな。体の機能が少しずつ回復している」
「末端から、少しずつ力が戻っていくようです」
イーグルは指先を動かし、クレフの手を握り返した。
「驚いたな、もう動かせるのか。……しかし、焦る必要はない。ゆっくり治っていけばいい」
「……敵国の長の息子である僕を治療してくださっていることに、感謝しています」
「もう敵国ではない」
さらりとクレフは否定した。

今のオートザムやファーレン、チゼータがセフィーロと和解し、それぞれ協力しあっていることは知っていた。
よかったと思う半面で、オートザムの大統領である父や、その側近たちの腹のうちを、イーグルは読み切れていない。「もう敵国ではない」。決して味方ともいっていないクレフも、何か感じているのかもしれない。一刻も早く意識を戻して一度オートザムに戻り、真意を正したい、と誰にも言っていないがイーグルは思っていた。

「……どうした」
顔色ひとつ変えていないはずなのに、そう聞かれた。その口調は穏やかで、心の中に懸念を抱えているようにはとても思えない。
「いいえ。なんでもありません」
今なにかいっても、いたずらに心配を広げるばかりだ。イーグルは話題を切り替えた。
「それよりも導師クレフ。あなたはどんなお姿なんですか? 子供のお姿をされていることは、わかりますが」
「髪は銀。瞳は青だ」
「ぞんざいな紹介ですね」
イーグルは笑う。
「身長は?」
「……ヒカルより小さい」
不本意そうな言い方だった。本当は聞かなくとも、声が落ちてくる位置でわかっていたのだが。そもそも、オートザムにいた時代のランティスから、クレフのことは聞いていた。
「あなたの気配は誰よりも大きいですよ。セフィーロと同じ空気を感じます。おそらく、『柱』が何度変わっても変わらない、セフィーロそのものがもつ空気を」
「私は748歳。セフィーロの誰よりも長寿だからだろう」

イーグルは不意に、クレフの手を握る力を強めた。手を引こうとしたところを、捕まえる。
身じろぎをする気配を感じた。おそらく、顔をしかめているだろう。
「どうして、子供のお姿なんですか? セフィーロは意思の世界。あなたなら、自分の思うままに姿を変えられるでしょう。今のあなたの力は、子供にしては強いかもしれませんが、大人の男にはかなわない程度です。元気な僕なら一瞬でねじ伏せられます」
手の力を緩めると、するり、とクレフの指が離れた。
「そんなことは、元気になってから言え」
クレフは怒るでもなく、気まぐれな子供をなだめるような口調だった。その穏やかな声を聞くにつれ、それを乱してみたくなる。平たくいえば、困らせたくなる。ランティスが聞けば無言でため息をつかれそうだが、結局、この導師のことが自分は好きなのだと思う。

だから、本人がこの話題を終わらせたがっているのを知りながらも、さらに聞いてみたくなってしまう。
「それでどうして、子供のお姿なんです」
「私は魔導師。力は必要ない。この姿が一番燃費がいいのだ」
「不便そうに見えますけどね、時々」
少なくとも、たった今、棚の上の香を取るのにあれほど苦労していた。

少しの間をあけて、しかたなさそうにクレフが口を開いた。
「力を押さえるために、いくつも宝玉を身につけなければならないのだ。大人の姿では余計ものものしい。子供を怖がらせるだけだ」
「あなたが身につけている宝玉は、力を強めるものではないのですか?」
思わず聞き返したのは、本心からだった。クレフはイーグルの手を掴むと、自分の方へと近づけた。指先が、大きな宝石に触れる。さらさらと髪が指をすべり、額に触れているのだということが分かった。宝石はつやつやと冷たかった。しかし、しばらく触れていると、どくん、どくん、と中で脈を打っていた。

「わかるか? この宝玉が生きているのが」
「ええ」
触れていると、ぞくぞくと腕が冷たくなるような「力」を感じる。
「これを身につけている限り、私の力はある一定量を超えないのだ。導師としての立場にいる以上、これは手放せないものだ」
クレフが身を引き、イーグルの手が宝玉から離れた。クレフは丁寧に、イーグルの手をベッドに戻した。ひとりごとのように、つぶやく声がした。
「私は、私の存在が誰かを恐れさせたり、傷つけたりするのを好まない」
「……そちらが本心ですね」
オートザムでは、誰もが自分を大きく見せようと努力するし、それが間違っているとは思わない。でも、自分を小さくみせるために、努力している者もいるのか。なぜか、不意に切なくなりイーグルは口をつぐんだ。

会話が途切れ、静寂が戻ったときだった。また別の足音が近づいて来るのをとらえる。
大きな音は立てないが、大股の足音には重量感がある。
「……導師クレフ」
扉を開けたのは、思った通りランティスだった。
「なにごとだ?」
「ヒカルたちが、この時間にセフィーロに来ると言っていたが、現れない」
「たまには遅れることもあるだろう……ん?」
なんだそんなことで、と言わんばかりの口調だったクレフが、語尾を上げた。淡々とランティスが返す。
「そんな時は大抵、城以外のところに現れるのだ。たとえば、」
「また、空の上か!」
慌ただしくクレフが立ち上がる気配がした。
「すまないイーグル、後でまた寄る」
「お気になさらず。またお越しをお待ちしています」
最後の言葉は聞き取れなかったかもしれない。長寿に似合わずせっかちな気のある導師は、そのまま足早に部屋を出て行ってしまったからだ。
「こんにちは、ランティス」
イーグルは目を閉じたままにっこりと笑い、部屋に入ってきたランティスに顔を向けた。


5. につづく

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