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レイアース二次小説置き場 (Last One)

「魔法騎士レイアース」クレフ中心の長編小説を置いてます。

2020.01.24
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2012.11.30
『今までの歴代の『柱』の中で、一番強い『心』を持っている』

つづきはこちら からどうぞ。

――

ふと見上げると、雨上がりの空には二重に虹がかかっていた。
クレフは立ち止り、しばらくその美しさに見とれていた。一体どうすれば、空が七色に染まるのだろう。どこから現れて、どこに消えるのだろう。今すぐ向かえば、間に合うだろうか。クレフ自身の足ではどうすることもできないが、最近創りだした「あれ」の足なら可能かもしれない。

「クレフ。何をぼんやりしている」
声を掛けられ、クレフは前に視線を戻した。ロザリオが無表情で、振り返った肩越しに彼を見下ろしていた。
「虹を見てたんだ」
そのままを伝えると、ロザリオはため息をついた。
「急ぎなさい。今日は初めておまえが『柱』に会う日だと言うのに、お待たせするつもりか」
クレフは唇をへの字に曲げながらも、黙って母親の後ろに従った。さっぱりとした夏の日で、日ざしは強いが風は涼しく、波打ち際で遊んだら最高の一日なのに、とクレフは心中ため息をついた。どうやら今日は一日中、堅苦しい城にいなければならないらしい。初めて袖を通した魔導師用の服も、やたら布地ばかり多くて動きづらかった。何度かつまずくと、手を掴まれた。見上げると、前を行くロザリオの銀髪が目に映った。きらきらと光ってとてもきれいだと思う。同じ銀色でも、クレフの髪は逆立つほど固く、ロザリオの髪はやわらかい。
母と手をつなぐのは久しぶりだった。まだ幼かったクレフはただ、先を行く背中を追い掛けていた。


セフィーロ城は、いつもどこからか水の音がしている。滝や泉や小川、湖に川。城の傍には海が広がっている。よほど水が好きな『柱』なのかな、とクレフは思った。それか、異常な暑がりか。ただ、『柱』なら天候も自由自在。暑いと思えば涼しくできるのだろから、やはり夏が好きなのだろう。城に足を踏み入れた二人を初めに出迎えたのは、ゆったりとしたローブに身を包んだ、まだ若い男だった。穏やかなブラウンの髪と目をしていて、優しそうな印象だった。
「導師ロザリオ。ようこそいらっしゃいました」
ロザリオを見ると、頭を深く下げた。頭を下げた時、神官とクレフの目がぶつかった。
「その御子が、類稀な力を持つというあなたのご子息ですか。なるほど、あなたにそっくりですね」
「遊んでばかりで到底駄目だ」
ロザリオにばっさり切り捨てられて、クレフは頬を膨らませた。確かに遊んでいるが、夜は机に向かっている。……向かう日もある、と言い直すべきかもしれないが。神官はにこりと笑った。
「隠しても駄目ですよ、導師。皆、その御子のことを噂しています。……あなたから『導師』を継ぐのは、息子のクレフに違いないと」
「馬鹿な」
ロザリオは吐き捨てた。その言い方の思いがけない強さに、神官は驚いたように目を見開いた。ロザリオも、自分の言葉に驚いたように一瞬言葉を止め、「すまない」と苦笑して首を横に振った。


「そんなことより、『柱』が息子に会いたいと仰せだ。本日の予定だったのだが、おられるか」
「おられますよ」神官は肩をすくめた。「このセフィーロのどこかに」
「……またか」
ロザリオは驚いた風にも見えず、クレフはその態度に驚いた。つまり『柱』は行方不明ということだろうか。セフィーロの主である『柱』が家出するなんて、セフィーロ城はそんなに居心地がよくないのか?

神官とロザリオが、『柱』がどこに行ったのか話している最中に、クレフはその場から脱け出した。セフィーロで一番偉い人である『柱』がいなくなるのだから、ただの子供であるクレフがいなくなっても大したことではない、という自分なりの屁理屈をつけていた。どうせなら、海へ行こう。セフィーロ城の近くにある砂浜は真っ白で、それは美しいと聞いていた。庭を横切り、小川を飛び越えたところで、小川の近くで草を食んでいた白馬に、クレフの視線は吸い寄せられた。
「ねぇ、『柱』ってどんなひと?」
クレフが話しかけると、白馬はふと草を食むのを止めて、クレフを見下ろした。
『『柱』は強いよ。今までの歴代の『柱』の中で、一番強い『心』を持っている』
白馬は、妙に抑揚のない、ゆっくりとした声で答えた。小川で水浴びをしていた青色の鳥が、囀りに混じって会話に加わる。
『うん、『柱』は強い。失礼をしたらいけないよ』
鳥の声は甲高く、早口なので聞きとるのが難しかった。聞いているうちに不安になって、クレフは聞き返した。
「怖い人?」
『ううん』
白馬と鳥は同時に返した。
『『柱』は優しいよ』
『『柱』は楽しい人だよ』
「わかった……ありがとう」
クレフがお礼を言うと、馬はまた草を食み始め、鳥は水浴びを始めた。

強くて、優しくて、楽しい。いったいどんな人なんだろう。堅苦しいのは嫌だ、と思っていた気持ちが、少しずつ変わっていくのを感じた。でも、海の誘惑も捨てがたい。ちらっと見たら、すぐにロザリオの元へ戻ろう。すでに気づいていて、また怒られるのは分かっていたけれど。

砂浜に向かう一本道を、クレフは息を切らして走った。両側から張り出してきている緑の葉がちくちくと腕を刺したが、気にならなかった。真っ青な海が、背の高い草の向こうにちらりと見える。道が途切れ、視界いっぱいに広がる白い砂浜と青い海にクレフは歓声をあげた。海は、濃い青になり軽やかな水色になり、瞬きする間にも色を変えてゆく。楽しそうに気まぐれに輝く海に、クレフは駆け寄ることも忘れて見入っていた。
「海が珍しいの?」
急に後ろから声をかけられて、クレフはびくりと肩を揺らして振り返った。すっかり、誰もいないと思いこんでいた。探すまでもなく、白い岩に腰かけた少女と視線がぶつかった。

少女と言っても、クレフよりはいくつも年上だった。少女というほど幼くもなく、大人の女性ほど成熟していない。小柄で細身で、つぶらな目をしていて、まるで小鹿のような印象だった。その髪は、セフィーロではめずらしい黒髪で、男の子のように短くしていた。袖の部分が広がっていて、前の胸の前で合わせるように出来ている、見覚えのない白い服を着ていた。真紅の長いスカートに似た服の下から、まっしろい素足が覗いていた。

「どこから来たの? ファーレン?」
そう尋ねたのは、その髪や顔立ちは、ロザリオを訪れたことがあるファーレンの人々に似ていたからだ。服装も、同じではないがどこか似ているようだ。娘はクレフの質問に少し目を見開き、遠くの方角を見やった。
「ううん、ファーレンじゃないわ。ずっと、ずーっと、遠くよ」
「ずーっと、遠く?」
「うん」
娘は幼い子供のように、こくりと頷いた。それだけで、なんだかこの娘のことがとても好きになりそうな気がして、クレフは背後の海のことも忘れて彼女に歩み寄った。

「君の名前は?」
彼女の隣に腰を下ろしたとたん、そう聞かれた。クレフ、とだけ答えた。
「どう書くの?」
続けて聞かれて、クレフは短い木の枝を砂の間から拾い、砂の上に「クレフ」とつづった。
「セフィーロの字って、可愛いね。絵みたい」
「お姉さんの名前は?」
「私はね」
娘はクレフの手から枝を取った。砂の上に書かれていく複雑な模様に、クレフは目を見張った。
「これ、何? 絵?」
「これが私たちのコトバよ」
「何って読むの?」
「何かしら」
悪戯っぽく娘は笑った。クレフは砂の上に書かれた文字をにらんだが、いくら見たところで分かるはずがなかった。セフィーロの言葉からすると、信じられないくらい画数が多い。よくこんな複雑な模様を書けるものだと思った。
「綺麗だね」
思ったままを口にすると、娘は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに笑いだした。
「おもしろい子ね。教えてあげよっか? 私達のコトバ。そしたら、私の名前も分かるようになるよ」
私達、とは一体誰を指すのだろう。そう思いながら、クレフはこくりと頷いた。魔法のように、この娘は不思議と人の心をとらえるらしい。

「じゃあ、初めはこの文字ね」
楽しげに枝を握った娘は、ふと言葉を止めて背後を振り返った。そのまま、風の匂いを嗅ぐように顔を上げた。
「なに?」
「呼んでるわ。探してる」
「え?」
「どうやらあなたも、悪戯っ子みたいね」
娘はふふっと笑うと、砂を払って立ちあがった。そして、クレフの手を取った。ロザリオのそれより小さく、細く、あたたかかった。

娘の足は、城の方に向いている。セフィーロ城に戻るのだろか。つまらないな、と思った時、ふわりと足元が浮いた気がして軽くめまいがした。はっとして足を踏みしめた時、足は柔らかい砂浜ではなく、固い石畳についた。
「あ、あれ?」
辺りを見回した途端、ロザリオと目があった。
「え?」
つい一秒前まで砂浜にいたはずなのに、ロザリオと神官のいる、城の入口まで戻って来ていた。もちろん、自分で動いた記憶などない。くすり、とクレフの手を握った娘が笑った。まさかこの娘が、一瞬でこの城に移動したというのか。魔法を唱えたようにさえ見えなかったが――
「巫女。お手間をおかけしたようで、すまなかった」
ロザリオが、娘に頭を下げるのをクレフは目を丸くして見守った。自分が知る限り、一度も他人に頭を下げたことがないこの母の態度は、クレフには軽いショックでさえあった。

「クレフ。まだ碌に挨拶もしていないのだろう、自己紹介をしなさい」
ロザリオがクレフの頭に手を置いた。まさか、という気持ちが先に立ち、クレフはとっさに言葉が出て来なかった。娘はころころと笑った。
「いいのよ。もう自己紹介はしてもらったし。名前の書き方も教えてもらったわ」
そして娘は、繋いだ手に力を入れた。
「はじめまして、クレフ。私はセフィーロの『柱』。ここでは、『巫女』と呼ばれてるわ。よろしくね」

41 につづく

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