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レイアース二次小説置き場 (Last One)

「魔法騎士レイアース」クレフ中心の長編小説を置いてます。

2020.01.19
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2012.12.03
「その言葉は、まだ取っておけ」

つづきはこちら からどうぞ。

――

フューラは、魚の姿のせいか湿気を好む。雨天や雨上がりには、特に外に出たがった。
「……精獣招喚」
自分は甘いだろうか、と思いながらも、せがむままに外に出してやる。雨上がりの空気に気持ちよさそうに尾びれで跳ねたフューラは、クレフに顔を寄せた。城まで乗せてくれるつもりなのだろう。クレフは笑って首を振った。
「かまわん、今は歩きたい気分だ。行け、フューラ」
つるつるした口元を押してやると、そのまま空中に滑りだすように背後に下がった。ぴょん、と跳ね、楽しげに空中を泳いでいく姿に、クレフは思わず笑った。最高位の魔導師の精獣にしては……とランティスに昔言いにくそうに切り出されたことがある。クレフの精獣にしては外見が呑気すぎるのか、性格が呑気すぎるのか、ランティスが続けたかった言葉は未だに不明だ。とはいえ、老若男女に好かれる精獣達はクレフにとってお気に入りでもある。

その後ろ姿を見送ってから、セフィーロ城に目を向ける。精獣を使えば一分もかからない道のりだが、歩いて行けば20分くらいはかかるだろう。歩きたかったのは、考えをまとめたかったからだ。城に帰れば大勢の人々に囲まれ、考え事どころではなくなるのはわかっていた。下り坂を歩いてゆくと、足元で露がいくつも転がり落ちた。空は明るく、青空が覗いてきている。そこへ、さっと影が差しこんできた。雲の影か、と思って右側を見やり、クレフは足を止めた。

空気が淀み、影が空中に生まれている。影は見ている間にも色を濃くし、一匹の魔獣の姿となった。クレフでも、魔獣が生まれる瞬間を目の当たりにするのは珍しい。それほど、出没の頻度が高くなっているということだろう。杖を構えつつ、クレフは冷静に魔獣の姿を観察していた。身の丈は5メートルほど。そして、その右腕の部分はまるで巨大な鉈のような形をしていて、先端は金属のように光っていた。この腕の攻撃をまともに食らったら、普通の者では一撃で命はないだろう。これほど巨大で攻撃的な姿の魔獣は、セフィーロには今までいなかった。とすれば、チゼータの影響なのか。

魔物の金色の目が、クレフを捉えた。そして一歩、大股に歩み寄ってくる。逃げられるより好都合だ、とクレフは思った。いずれにせよ、こんな魔獣を野に放つわけにはいかない。魔獣は唸り声を上げ、右腕の鉈をクレフに向かって振り上げる。間髪いれず、飛びかかって来た。
「氷の刃!」
鋭い少女の声がその場を貫いた。はっ、としてクレフは杖を引いた。次の瞬間、弾丸のような勢いで上から振り下ろされた刃が、一撃で魔獣を正面から断ち斬っていた。極限まで気持ちを集中させて打ちだされた刃は、魔獣には、避けることはおろか、見ることもできなかったに違いない。青い輝きを宿した氷は、魔物の姿が霧散すると同時に、キラキラ輝きながら姿を消した。
「クレフ! 大丈夫?」
魔獣が声もなく消え失せた後、海が駆けてくるのを見ても、クレフは信じ難かった。
「……今の技は、お前なのか?」
「ええ! っていうかクレフ、なにボーッと見てるのよ? はらはらしたわ」
ボーッと見てる、と言われてクレフは思わず苦笑した。弟子にそんな言い方をされる師では問題だな、と思った。

「笑いごとじゃないわよ……」
ため息をついた海は、クレフが昔、与えた鎧を身に着けていた。魔法騎士の時代を思い出して、クレフは目を細める。
「イーグルの目が醒めたのは嬉しいけど、オートザムがいつ攻めてきてもおかしくない状態だものね。しっかりしなきゃ」
まるで引き絞られた矢のような張りつめた気配が、海の全身から感じられた。
「正直言って、驚いた。腕を上げたな、ウミ」
クレフが魔法を教えたころとは、全くの別人だった。水を氷の刃に変えて撃ちだす今の技も、クレフが想定していなかった力の使い方だった。自分なりに与えられた力を考え、最大限に使おうとしているのだろう。もう自分の手を離れて、大きく成長しようとしている姿が頼もしかった。

「クレフが褒めてくれるなんて、今夜はまた雨が降るわね」
そんなことを言いながらも、海は嬉しそうだった。
「その身長じゃこの坂も大変でしょ」
そう言って、手を差し伸べてくる。クレフは首を横に振った。
「子供扱いするな」
「いいえ、年寄り扱いしてるのよ」
海は真顔で言った。
「余計悪いだろう!」
思わず突っ込むと、海は明るい笑い声を弾けさせた。
「よかった、いつものクレフね」
二人は黙り込んだが、朗らかな空気が二人の間に流れている。セフィーロを取り巻く不穏な空気が、今この場所だけなくなったかのようだった。

「こんなところで、何をしていたのだ?」
いつも誰かといる海が、一人きりでいることからして珍しいのだ。クレフが尋ねると、海はわずかに眉間に皺を寄せた。
「見回りよ。……あと、あの人を探してたの」
「……マスターナか」
その嫌そうな海の口ぶりで、誰のことか薄々想像はついた。クレフがその名を口にすると、海はますますうんざりした顔になった。
「止めておけ。なぜそんな相手を一人で探しているのだ」
「マスターナと二人になるのも嫌だけど、話してるところを誰かに見られるのは余計嫌なの」
マスターナに迫られて、心の底から嫌がっていた姿を思い出す。海は二の腕をさすっている。鳥肌が立っているらしい。
「あの人には、聞かなきゃいけないことがあるんだけど」
「無駄だろうな」クレフはため息をついた。「マスターナという預言者のことは、タトラから聞いた。未来を読む能力は確かなようだ。彼が望まなければ、私達で見つけ出すことは不可能。出て来るのを待つほかあるまい」

タトラが言うには、マスターナが預言できるのは、その目で見たものか、触れたものに限られるという。クレフの前に現れた時、クレフを知らない口ぶりだったが、あれは演技だったのだろう、と半ば確信していた。「導師がこの世界を滅ぼし得る」という情報をオートザムに流したのも、そのような未来を、マスターナがクレフの中に見たということなのか?
―― 「マスターナの言葉を、そのまま捉えないでください」
タトラはそう言っていたが、策略なのか、本心なのか、クレフにもマスターナの心は全く読めなかった。

クレフ自身、一度話をしてみたいと思い、気配を探ったことはあった。しかし特定はできなかった。セフィーロの人間の気配を追うのとは勝手が違っていた、というせいもある。しかしおそらく、彼は意図的に気配を消しているのだろうと思われた。
「そうね」海はあっさりと諦めたようだった。「誰か一人探すには、セフィーロは広すぎるのはよく分かったわ。足が棒になっちゃったし」

「それより、ヒカルとランティスの二人と話せたぞ」
そう切りだすと、海は一瞬全ての表情をそぎ落とした。
「ほ……ほんと? ほんとなのね?」
「本当だ」
クレフが頷くと、海はほーっと息をつき、その場に座り込みそうになった。
「二人とも、大丈夫だった? チゼータにいるの?」
「ああ。セフィーロに戻れと言っておいた」
「そう……良かった。風にも教えてあげなきゃ! お城に戻ってるかしら」
そう言って、先に立ってセフィーロへの道を歩き出した。

「変わったな、お前たちは」
後ろについて歩きながら、クレフは海に話しかけた。
「三年前には、お前たちがバラバラに行動するところは想像がつかなかった」
「――そうね。本当、そうだわ」
海はしばらく黙っていたが、隣に並んだクレフを見下ろして微笑んだ。
「三年前は、私達はいつも一緒だったわ。でも、これからは一人一人でも、自分だけの役割を果たせるようになりたいの。光と風も、そう思ってるんじゃないかしら。光はチゼータを救うために戦ってる。風は少しでも大勢の人を癒そうとしてる。私は、一匹でも多くの魔物を倒して、誰も傷つかなくていいようにしたいの」
その声音はもう少女のものではなく、一人の戦士のものだった。

チゼータの滅亡を目の当たりにして、セフィーロの魔獣と日々向き合っている中で、海も少しずつ変わらざるを得なかったのだろう。わずか十日前、海沿いの東屋で話をしたころの海とは別人のようだった。その急変ぶりが、クレフには心配でもあった。
「しかしウミ、忘れるな。お前には『異世界』というもう一つの世界があるということを。お前はいつかは『異世界』に帰らなければならない身だ」
「私、帰らないわ」
海はきっぱりと言い放った。あまりに思いがけない言葉に、とっさに返事ができなかった。クレフが立ち止ると、隣を歩いていた海も立ち止り、クレフを振り返った。その表情は大人びていて、初めて見る人のような印象をクレフに与えた。
「なにを言っている?」
「東京には、帰らないわ」
海は繰り返した。その言葉には、今までの彼女にはない、ひたむきな響きがあった。
「なぜだ。『異世界』にはお前の家族も、友人もいるだろう。お前が戻らなければ、どれほど悲しむか」
「それでも」海は、鋭くクレフの言葉を遮った。「もう、決めたの」

海の変貌の理由を、クレフは悟った。海たち魔法騎士にとって、第一の世界は『異世界』で、セフィーロは第二の世界に他ならなかった。しかし、『異世界』に戻らないと決心したことで、セフィーロは海にとって、唯一無二の世界になったのだろう。急に力を増したのも、雰囲気が変わったのも、そのせいなのか。クレフは、杖を握り直した。
「ばか者」
ポコン、と音を立てて、海の頭を軽く杖の先で打った。あまりに思いがけなかったのか、海はまともにその一撃を受けた。
「な……にするのよ!」
涙目になった海が、杖を押しのけてクレフをにらんだ。
「その言葉は、まだ取っておけ」
「え?」
「お前がセフィーロを大切にする気持ちは、よくわかった。私としても嬉しく思う。しかしだからと言って、元来た世界と秤にかけて、どちらかを選ぶ必要などないのだ。今までのウミを創ったのは、『異世界』の空気であり、家族であり、友人なのだろう。私はその人々に感謝しているし、セフィーロの人々と同じように、大切に思っているぞ。たとえ、会うことがなくとも」
「……クレフ」
「『異世界』に残してきた人々のことを、愛しているのだろう」
張りつめていた海の顔が、くしゃくしゃに歪んだ。そして、うなだれたように地面を向く。

一人の人間が、二つの世界に生きるという大変さを、クレフは知っていた。そしてそれよりも難しいのが「一つの世界を選び、一つの世界を切り捨てる」という選択だということも。そんなことはできないし、そもそも、する必要はない、と今は思っていた。
「セフィーロは無事だ。お前も生きてこの戦いを終えられる。そして、異世界に帰るのだ。それが、私の願いだ」
さりげなく言って、おや、と思った。私にも「願い」があるではないか、と。その言葉を自分のために口にするのは、覚えがないほどに久し振りに思えた。

海は、色々な感情が入り混じってどう返していいのか分からないのだろう。結果的に困ったような顔で立ちすくんでいる。この気持ちは何だろう、と対峙したクレフは自分に問いかけた。
「捨てられて、路頭に迷って腹をすかせている子猫を抱きあげたくなる気持ちか……?」
「聞こえちゃってるわよ。もうちょっと、マシな例えはないの?」
「だいたい、抱きあげるのは体格上無理だ」
え、と海がわずかに身を引いた。クレフは構わず、その手を取った。そして、先に立って歩き出す。海も、案外素直についてきた。手をつないだまま歩いていると、戦いが嘘のように、平和でのどかな気持ちになる。
「ずっと、このまま行けたらいいわね」
海も同じ気持ちだったらしく、しばらくしてぽつりと言った。
「そうだな」
「本当は私、クレフに……『それはいい』って、賛成してほしかったわ」
「何にだ?」
「……ばか者」
海は、クレフの口調を真似てそう言った。そしてそれから、城に着くまでずっと無言だった。


43 につづく

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