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レイアース二次小説置き場 (Last One)

「魔法騎士レイアース」クレフ中心の長編小説を置いてます。

2020.01.24
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2012.12.04
「表紙には、不思議な模様が描かれている。なんだか、星の形に似ていた。」

つづきはこちら からどうぞ。

――

毎晩、クレフがいなくなる夢を見る。
そう言ったら、クレフはなんと返すだろう。海には、尋ねることができなかった――

夢のシーンはさまざまだった。でも今朝の夢は、目が覚めてもしばらく動悸がおさまらないほどショックが大きかった。冷たい汗が、額を伝うのを感じる。夢の中で海は、クレフを探していた。自室にも、玉座の間にも、お気に入りだった庭にもいない。朝食の時間になっても、クレフは現れない。それなのに皆、何事もなかったかのように談笑しているのだ。笑いのさざなみの中で海は戸惑い、二人の親友を見つめた。
「ねぇ、光、風……?」
――「どうしたの、海ちゃん」
――「海さん、顔色が悪いですわよ」
屈託のない笑みを向けてくる二人は、クレフがいないことに全く気づいていないようだ。そこにプレセアとカルディナが入ってきた。クレフがいないテーブルに、当たり前のようについた姿を見て、海の焦燥は高まってゆく。
「プレセア、カルディナ……!」
――「あら、おはよう、ウミ」
――「おはようさん」
私だけがどうして、こんなに動揺しているの。私だけが立ち上がり、私だけが笑顔でなく、私だけが凍りついている。私だけが。

我慢ができなくなって、ついに海は口を開いた。
「……クレフは? クレフは、どこにいるの?」
――「「「「クレフ?」」」」
全員の声が、同時に響いた。そして、全員の視線が、同時に海に集まる。
――「クレフさんは、もういませんわ」
――「うん、もうずっと前から」
――「ウミ、あなたも知ってるはずでしょ?」
――「まだ受け入れられてへんのや、可哀想に」
どくん、どくん、と鼓動がどんどん早くなる。誰かが心配して手を伸ばしてきたが、海は振り払った。そして、何かを叫んだ。嫌、と言ったかもしれない。そしてテーブルを叩いて、思い切り泣いた。泣きながら、お前はとっくに知っていたはずだろう、という冷たい声を、自分の頭の中に聞いていた。

ハッと気がつくと、海はベッドの横の壁に両手をぎりぎりと押しつけていた。そっと手を見てみると、赤くなっていた。夢で良かった、と思うには、長い時間がかかった。息を整え、隣のベッドを見やる。そこでは風が、すやすやと寝息を立てていた。どうやら叫んだのは夢の中だけだったようだ、とほっとする。不意に、「クレフさんは、もういませんわ」と笑った風の顔を思いだし、海は唇を噛んだ。

「……私」
海は、朝の薄明かりの中、掠れた声で呟いた。
突然、わかったのだ。自分が、一番何を恐れているのか。どうしても失いたくないものは何なのか。

海にとって一番大切なものは、今までは「家族」だった。互いに愛し合っている両親の姿は海にとって理想だったし、大好きだった。海がもし姿を消したら、二人は深く嘆き悲しむだろう。一生の間毎日、海を思い出してくれるだろう。でもきっと、二人で支え合って、生き続けることができる。では、自分がクレフの前から姿を消したら? 海はそこまで考えて、ほろ苦く微笑んだ。クレフにとって海は、千人もいるという教え子のひとりでしかない。海がいなくなっても、時折思い出してくれるだけかもしれない。そもそも文字通り住んでいる世界が違うのだから。

それでも。私はクレフを失ったら、今までと同じように生きて行くことはできない。

頭で考えたわけではなかった。直感のように頭に閃いただけだ。出てしまえば答えはシンプルで、あっけないくらいだった。失いたくないから、クレフの傍にいたい。守られるのではなくて、彼を守れるようになりたい。「願い」の強さがこの世界の全てを決めるというのなら、誰にでも、何にでも負ける気はしない。どんなことでもできると思った。

それなのに――クレフは海に、平和になったら異世界に帰れと言った。それが彼の「願い」だとまで口にした。海が無理をしていると、分かった上で、海のことを考えての言葉には違いない。でも本当は、海自身のことなどどうでもいいから「私の傍にいろ」と一言、言ってほしかった。ただそんなことを、クレフに告げられるはずもない。胸が、脈打つように痛くて苦しかった。

**

「どうしたのだ? ウミ」
急に声をかけられて、海は両肩を跳ね上げた。クレフが、不審そうに海を振り返っていた。気づけば、城の入口まで来ていた。
「な、なんでもない」
海が首を振ると、「本当に大丈夫か」とあきれたように念を押された。クレフの手のぬくもりを、自分の手の中に感じる。この人はここにいるのだ、と穏やかに信じさせてくれる体温。
「大丈夫よ」
海は微笑み、するりとクレフの手を放した。

セフィーロ城の中庭に入ったとたん、誰かの大声が耳に入った。
「おい、イーグル! まだ歩ける状態じゃないって言われてただろ! ったくもう」
「……え?」
海とクレフは顔を見合わせた。今、イーグルと言ったのか。昨日の夜に目が覚め、今朝改めて皆と自己紹介したばかりだと言うのに。クレフからは「絶対安静」と言い渡されてから、まだ数時間しか経っていない。クレフは無言で、声がした方に足早に歩き出した。海よりも格段に背が低いのに、小走りにならないと追いつけない。

「イーグル、何をやっているのだ!」
一足先に、クレフが叱りつける声が聞こえた。海がようやく中庭に入って行くと、地面に座り込んだイーグルの姿と、その前に立つクレフの背中が見えた。ザズがイーグルにゆっくりと歩みよっている。
「歩いてみようと思って」
イーグルはにっこりと笑って答えた。だが、さすがにその息は荒く顔色は悪い。三年間寝たきりだったのだから、歩けるほうがむしろおかしいと思う。

クレフも同じことを思ったらしく、怒っているというよりもあきれ顔だった。
「呆れたものだ。正直、私はお前がそう簡単に回復するとは思っていなかった。回復したとしても……」
「四肢の回復にはいたらない。ベッドから下りられないって言いたいんでしょう?」
イーグルが後を引きとった。クレフは押されたようにひとつ、頷く。
「よ、よく分かっているではないか。とにかく、今動けるのは奇跡なのだぞ」
「奇跡を起こしたのは僕じゃなくて、あなたなんですけどね……」
「……なんのことだ?」
クレフは首を傾げた。
「導師クレフは意外と抜けているんですね」
にっこりきっぱりそう言われて、クレフは一瞬引きつった。何か言おうとして口を開いた――が、その口から洩れたのはため息だった。そして、へたりこんだままのイーグルを見下ろす。と言っても二人の視線はそれほど変わらない。

「それにしても、いつまで座り込んでいるのだ? そのままそこに住むつもりか?」
「いいえ。また雨が降ったら濡れますし」
やれやれ、と後ろからやってきたザズが手を貸した。
「しゃべるだけでも体力いるんだろ? 無茶するなって。よっこいしょっと……」
クレフが出現させた椅子に、何とかイーグルを座らせると、ザズは額の汗をぬぐった。考えてみればこちらも、体力はまだ回復していないのだ。

「大丈夫ですか?」
そこへ、しっとりと落ち着いた女性の声が聞こえた。振り返ると、タトラが庭に下りて来るところだった。その肩には、薄絹のショールをまとっている。その後ろにはタータの姿があった。彼女の服装はチゼータにいたころと同じだった。特にタータは、セフィーロに来たばかりのころはひどく憔悴していたが、今はその目に力を取り戻してきている。腕に、分厚い本を抱えていた。
「……それが、例の古文書か」
クレフの声に、皆の視線が本に集中した。
「これが、オートザムがセフィーロを攻める元凶になるなんて」
本を抱えたタータの声は沈んでいた。

オートザムにもたらされ、オートザムがセフィーロを再侵攻する理由となったという、一冊の古文書。それが、チゼータが導師クレフに解読を頼もうとしていた古文書と同じだと聞いた時は、どういう偶然かと海も驚いた。しかし、オートザムに古文書を持ちこんだのも、チゼータにいたころからその本を気にしていたのも、「預言者」マスターナだと言う。とすれば、彼がそうなるように意図的に導いたと考えても不自然ではない。

クレフは本を手に取ると、ため息をついた。
「全く、あのマスターナという男には騙されたな。ただの軽薄な男だと思っていたが、演技だったとは」
「演技じゃない。軽薄なのは本当だ」
にべもなくタータが言った。タトラがくすくすと笑いだす。
「まあ、タータったら。けっこうマスターナのことがお気に入りなのよね」
「滅多なことを言うなや姉様!」
タータが大声を出し、タトラが笑い声を大きくする。以前の空気が少しずつ戻ってきつつあった。

「表紙の文字からして、全く読めないんだけど……」
海はクレフが腰掛けた椅子の後ろに立ち、本を見下ろした。表紙には、不思議な模様が描かれている。なんだか、星の形に似ていた。確か、五芒星、というものだった気がする。クレフは表紙に視線を落とし、しばらく無言でいた。不自然に思えたほどの沈黙が続いた後、彼はちらりと海を見上げた。
「当然だ。これは文字ではなく、絵だ。さらに言えば、この世界を示す紋章のようなものだ」
「そうなのですか? 知りませんでした」
「古いものだからな」
タトラが感心したように息をつき、クレフが返した。
「チゼータの古い言葉で書かれていると聞いていたが……」
タータが顎に指を置き、考え込むように言った。ザズが口を挟む。
「俺は、この本はオートザムの古い言葉で書かれているって聞いたけどな」
「……そんな、馬鹿な」
「実際、オートザムの科学者たちは解読したらしいし」
ううん、とタータは唸った。そして一同の視線がクレフに集まるまでに、それほど時間はかからなかった。

「お前も座れ、ウミ」
クレフは背後の海にそう言うと、膝の上に置いた本に手をやった。

44 につづく

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