忍者ブログ

レイアース二次小説置き場 (Last One)

「魔法騎士レイアース」クレフ中心の長編小説を置いてます。

2020.01.24
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

2012.12.05
「この本に書かれていることを、私は目の前で見た」

つづきはこちら からどうぞ。

――

クレフの小さな白い指が器用に分厚いページを繰るのを、その場の全員が、息を詰めて見守っていた。そこに書かれているだろう文字が読めるのなら、何かしらの反応があるはずだと思っていた。しかしクレフは、驚くこともなく、ページに見入ることもなく、ざっと全体のページをめくってから、本を膝の上でぱたんと閉じた。
「……内容は、わからなかったんですか?」
しびれを切らしたザズが尋ねた。クレフは、視線を本に落としたまま、軽く首を横に振った。
「逆だ。読むまでもない」
「どういうことなの?」
海が尋ねると、クレフはその場にいる一人ひとりの顔を見やった。彼は、海が今まで見なれない表情をしていた。感情らしい感情が、浮かんでいないのだ。かといって冷たい印象ではない。心の中ではきっと全く別のことを考えていて、どこか上の空のようにも見えた。

「……これは、今から738年前に起こった戦争について書かれた本だ」
「738年……!」海は、目を見張った。「クレフが10歳のころ?」
「そうなるな」クレフは他人事のように言った。「この本に書かれていることを、私は目の前で見た」
となると、内容がわからないどころではなかったわけだ。海も、その場の全員も、口を利かなかった。これを読んだというオートザムの反応からも、今のクレフの表情からも、その内容が決して平和なものではないことはうかがい知れた。もしもクレフが話さないなら、無理をして聞きだす必要はないと思っていたのは、海だけではないはずだ。

しかし、しばらくの沈黙の後、クレフはゆっくりと口を開いた。その声音はまるで本を読んでいるようで、抑揚が感じられなかった。
「大きな戦争があった。そのために、国を問わず大勢の者が死んだ。セフィーロでも、当時の『柱』と『導師』の両方が犠牲となった」
「両方とも……?」
海は耳を疑った。その役割の二人がいないということが、どれくらい致命的なことか海にはよく分かった。国の全てである『柱』はもちろん、『導師』がもしいなければ、海たちが魔法騎士になることすらなかっただろう。クレフは頷いて、続けた。
「当時の『柱』は『巫女』と呼ばれ、本名が公にされることはなかった。『導師』の名は、ロザリオという」
「ロザリオ……」
イーグルが声を上げた。
「知ってるのか、イーグル?」
ザズが首を傾げたが、イーグルは返さず、クレフを見つめている。クレフは目を伏せた。
「導師ロザリオは、私の師だ」
タータとタトラが顔を見合わせた。海も軽いショックを受けていた。738年前に実在した、クレフの師。考えてみれば、彼に師がいることは不自然でないどころか当然なのだが、一体どんな姿なのか海には想像もつかなかった。700年以上前、というだけで、気が遠くなるような話だ。イーグルは何か言いたそうに、口を開いた。でもすぐに閉じた。その態度が、海には妙に引っかかった。
「……イーグル?」
「何でもないんです。ウミ。……わかりました」
後半の言葉は、クレフに向けられたものだった。

「私たちは、そんな戦争があったとは知らなかった。一体、原因はなんだったのです?」
タータが身を乗り出した。
「おまえたちには、全てを説明する必要はなさそうだな」
クレフは、口元に笑みを浮かべた。しかし海には、その笑顔がとても悲しそうに見えた。
「『柱』は、ヒカルに似ているのだ。なぜなら『巫女』は、元々セフィーロの住人ではない。先代の『柱』が祈れなくなったときに異世界から召喚された者だったのだ」
「それって……『魔法騎士』だったってことなの?」
「そうだ」
海はとっさに、言葉が出なかった。730年前といえば、西暦1300年代。日本は室町時代になる。とはいえ、日本人であるとは限らない。
「私……達みたいに、何人かが召喚されて、その中から一人が『柱』になったの?」
「違う。その時の魔法騎士は、『巫女』ただ一人だった。……彼女は、これまで『柱』となった者たちの中でも最も強い『心』の持ち主だったと言われている。先代の『柱』を崩御させるにも、彼女の力だけで十分だったのだ。しかし彼女は、罪悪感を持った。『柱』を殺した自分を、許せなかったのだ。その償いに、彼女は崩れかけたセフィーロの『柱』になることを決意した」
「……そんな」
海は体が強張るのを感じた。光が、風が近くにいてくれたらと思った。一人で聞くには、この話は重すぎる。エメロード姫を貫いた剣の感触が手の中に蘇り、吐き気すら覚えた。

きっと、その『巫女』と呼ばれた人も、同じ苦しみを味わったのだろう。海たちは三人いたからこそ悩みを共有し、共に乗り越えることができたが、その人はたった一人で、あの気持ちと戦って乗り越えたのか。それだけで、十分心が強い人なのだろうと思った。そして、その人は逃げずに罪悪感と向き合った。そうでなければ、『柱』の過酷さを誰よりも知っていながら、『柱』の重責を背負おうなどとは思わなかっただろう。

「償いのために、『柱』になる。それでは本当の『願い』とはいえないでしょう。それなのに、その女性は『柱』になれたのですか?」
「確かにイーグル、おまえの言う通り、彼女の『願い』ではなかっただろう。それでも、『柱』になれてしまったというべきだろうな。『セフィーロ』は、次の『柱』になると宣言した彼女に従い、『柱』への『道』を彼女の前に開いたのだから」
「……じゃあ、その人は、それからずっとセフィーロにいたの?」
「祈ることは、どこであってもできる。『巫女』はおまえたちと同じように、異世界とセフィーロの間を自由に行き来していた。彼女は異世界に、誰よりも大切な者を残していた。その者と時々会う事だけが『望み』だと、彼女は言っていた。導師ロザリオも、それは理解をしていたと思う。一度もそれを咎めたのを聞いたことはない」
「クレフ……その『巫女』のこと、好きだったのね」
自然と、言葉が海の口をついて出た。『巫女』のことを話すクレフの口ぶりが、誰のことを話すよりも悲しそうで、そして淋しそうで、同時に懐かしそうだったからだ。

クレフは笑ったが、やはり楽しそうには見えなかった。彼は空を振り仰いだ。そのしぐさと表情が、あどけない子供のように見えた。当時のことに思いを馳せるうちに、当時の10歳だった少年のころに戻ってしまったようだった。
「そうだな。姉のように思っていた。ただ、幸せな時は、長くは続かなかった。……前代未聞の天災が、この世界を襲ったのだ」
クレフは、椅子に立てかけていた杖を握った。すると同時に、杖の先端の宝玉が青く輝いた。6人が丸く腰かけた円の真ん中に現れたものに、海は思わず声を上げた。

右側は、クレフが以前も出現させたことがある、セフィーロ・オートザム・ファーレン・チゼータの立体図だった。4つの星の周囲を、太陽系のように渦が覆っている。その四カ国に、別の球体が接近していた。その星を、海はまじまじと見た。
「地球……?」
青く輝くその星は、海たちの世界に違いなかった。「地球」はゆっくりと、セフィーロら四カ国に近づこうとしていた。摩擦が起こっているのか、二つの世界が重なり合った部分が黒く、霞を帯びているように見えた。
「この世界に……地球が、ぶつかろうとしてるの……?」
「そうだ。それこそが、738年前に起きた『天災』の正体だ」クレフは静かに頷いた。「異世界の空間がいつの間にか、この世界に引き寄せられた。そして、二つの世界の衝突が避けられない事態となったのだ」

「二つの世界が……衝突?」
ザズが顔色を変えて聞き返した。
「それは、チゼータを襲った災害とは……」
「全く異なるものだ」
クレフは即座にタトラの言葉を否定した。
「でもクレフ。二つの世界は、元々モコナが創造したものだったんでしょ? ぶつかるなんて、どうしてそんなことが……」
「創造主が同じという時点で、二つの世界に繋がりはあったのだ。原因は当時、不明とされた。しかし私は、『巫女』の本当の心……故郷である『異世界』に戻り、愛する者と共に暮らしたいという『願い』が、『異世界』を自らに引き寄せるという結果をもたらしたのではないかと思っている」
「世界を引き寄せる……? そんなことがありえるの……?」
「故郷に帰りたい」という願い事態は、故郷を離れた者なら誰でも持つだろう自然な感情だ。いくらセフィーロが意志の国だと言っても、そのようなことが本当にあり得るのか、スケールが大きすぎてピンと来なかった。クレフは、ため息をついた。
「それほど、彼女の力は強すぎたのだ。おそらく創造主……モコナに迫るほどに」

クレフは視線を皆に戻した。その表情には、隠しきれない憂いがあった。
「気づいた時には、もう誰にも止められない状態だった。滅びるとなれば、セフィーロだけではすまない。チゼータやオートザムやファーレンも巻き込むことになる。『この世界』か、『異世界』か。どちらかを救うには、どちらかを滅ぼすほかない。放っておけばどちらも滅びてしまう。『巫女』は……」
「……『故郷』の存続を、願ってしまったのですね」
そう言ったタトラの瞳は、不思議な光を湛えていた。泣いているのかもしれないと思った。故郷を失ったばかりのタトラとタータには、生まれ育った国を思う気持ちは身に染みるように分かるのだろう。海にとっても、全く他人事ではなかった。『セフィーロ』か、『異世界』か。どちらかを選ぶことは、どちらかを切り捨てることでもあるのだ。どうしてクレフがさっき、元の世界には戻らないと言った海を止めたのか、痛いほどに分かった。そんな理由があるとは、夢にも思わなかった――。

「……そうだ」クレフは目を閉じた。「……『巫女』は言っていた。故郷に住んでいるただ一人だけは、絶対に死なせたくないと。『彼』は、死を受け入れるだけの心の強さを持っている。でも自分が、『彼』を死なせたくないだけなのだと言っていた。……『巫女』の涙を見たのは、それが最初で最後だ」
クレフの声は不思議な熱を帯びた。そして、感情的になった自分を落ちつかせるように、息をついた。再び話しだした時には、その声は平静に戻っていた。
「その後、当時のオートザム、ファーレン、チゼータの三国が、崩壊を始めたセフィーロへ侵攻した」
「傷ついた国に、更に追い打ちをかけることをしたのか」
タータは、辛そうに唇を噛んだ。自責の念に駆られた顔をしていた。しかし海は、彼女がセフィーロを守るために、自らの犠牲をいとわずオートザムと戦う決断をしたことを知っている。

「そうではないのだ」クレフは首を振った。「この世界と異世界の衝突を防げる唯一の可能性は、それをもたらしているかもしれない『柱』の死しかないと囁かれていた。『柱』は自ら死ねず、セフィーロの者は『柱』に危害を加えることはできない。となれば、この世界を救うには、他国の者が『柱』を殺すほかないと考えたのだ。侵攻はやむなしとの判断だった」
「……そんな」
世界の秩序を創り、史上最高の『柱』と言われていた女性が、一転して世界から命を狙われる存在になるなんて。その時海の心に浮かんだのは、なぜか光だった。光が『柱』になっていれば、遠い未来、同じような結末を迎えたかもしれないのだ。海はぶるっと震えた。
「セフィーロの人達は、どうしたの?」
「自国を侵略され、黙っていられるはずもない。セフィーロは戦場となり、敵味方関わらず多くの犠牲を出した。導師ロザリオも、『柱』が元凶である可能性に気づいていたはずだが……彼女は、『柱』を守ることを選んだ。自らにずっと禁じてきた『禁術』を解放してまでだ。戦いは長期化し、このままでは、セフィーロだけではなく、全ての国の人々が死に絶えるまで戦いは終わらないかと思われた」

「魔法騎士は、どうしたのです?」その時、イーグルが口を挟んだ。「『柱』が祈れなくなった時、最後の手段として魔法騎士が召喚されるのでしょう?」
かつて魔法騎士として『柱』を殺した者が、その後『柱』として新たな魔法騎士を召喚する。それはあまりに、皮肉な運命のいたずらに思えた。
クレフは暗い表情のまま頷いた。
「『巫女』を上回る『心』の持ち主を召喚することなど、無理だと誰もが思った。しかし、魔法騎士はその時、召喚されたのだ。しかも、現れたのはまた、たった一人だけだった」
「その人は『巫女』を……殺した、の?」
「いや。その者は、『柱』を殺すのを拒絶した。逆に、世界を敵に回して、彼女を守ろうとしたのだ」

「拒……絶」
そんなことができるのか、というのが海の正直な気持ちだった。海たちの時は、そんな選択肢はないに等しかった。エメロード姫に殺される直前まで追い詰められ、その一方で殺してほしいと懇願されて、他に手段などなかったのだ。クレフは海の気持ちに気づいていたのだろう、優しく首を横に振った。
「お前たちの場合は、最後の瞬間まで『柱の殺害』という魔法騎士の真の目的を知らされなかった。それは私が原因だが……その時の魔法騎士は違っていた。『彼』は、それを知ってしまった。いや、あらかじめ知っていたというべきか」
「あらかじめ知っていたって……」海は息をのんだ。「その魔法騎士って、『巫女』が大切に思っていた人……だったとか」
当時の日本で、魔法騎士の伝説とその真の目的を確実に知りえたのは、『柱』であった女性だけだ。それ以外で知りえるというならば、直接『柱』に話を聞きえる人物だったと想像するのが自然だ。確実に彼女があっていたのは、大切にしていた男性ということになる。
「必然なのか、偶然なのか。運命は皮肉なものだ」
クレフの答えは、肯定したに等しかった。

「……そんなの、むちゃくちゃだ」タータは唇を噛んだ。「『柱』だからって、故郷を思う気持ちもあれば、大切な人を守りたいと思っても当然じゃないか。そのために、殺されなければならないなんて。しかも、召喚した魔法騎士が、当の守りたかった人だなんて、あまりにも……」
「そう、罪深いのは『柱』システムであって、『柱』ではない。でも現にあの時、それが原因でこの世界は、滅亡への道を突き進んでいた」
「それを止めたのは、何なのですか?」
イーグルは冷静な声でクレフに問うた。
「その時に、セフィーロ上空に現れたのが、『扉』だ」
「……『扉』?」
イーグルと海とザズは、それぞれ不思議そうな顔をした。しかし対照的に、タータとタトラは表情をこわばらせた。

45につづく

拍手[15回]

PR
Post your Comment
Name
Title
Mail
URL
Select Color
Comment
pass  emoji Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
  BackHOME : Next 
ブログ内検索
忍者アナライズ

レイアース二次小説置き場 (Last One) wrote all articles.
Powered by Ninja.blog / TemplateDesign by TMP  

忍者ブログ[PR]