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レイアース二次小説置き場 (Last One)

「魔法騎士レイアース」クレフ中心の長編小説を置いてます。

2020.01.20
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2012.12.13
「「皆が悲しむのは、『導師』がいなくなることじゃない。」

つづきはこちら からどうぞ。

――――――――――――

―― 手遅れだったかもしれない。
クレフを一目見て、イーグルはそう思った。正面から光がぱっと差しているかのように、向き合ったクレフの表情は明るく見えた。その目は青く澄んでいて、セフィーロの人々特有の、透き通った美しい色をしていた。自分の行く道がどこなのか、はっきり見えている人の眼差しだ。迷いのない人は、自分の本心をそうそう明かしはしない。自分の思いを周囲に伝えたり、相談したりする必要がもうないからだ。ただ、決めたことを真っ直ぐにやり抜くまで。そんな覚悟が、静かな表情からうかがえた。しかし、それも当然なのかもしれない。この人は『導師』クレフ―― この意志が全てを決める国で、皆を導く立場にあるひとなのだから。

「この部屋のドアは、いつも開いているんですか?」
イーグルが問いかけると、クレフは一瞬言葉を止め、首を横に振った。
「いや。いつもは私の魔法で人間には入れぬよう封じてある」
やっぱりそうか、と思った。この部屋の前に立った時、ドアが何の抵抗もなく開いたからおかしいと思ったのだ。導師の部屋に簡単に人が出入りできるようでは、いくら平和な国といってもセキュリティが甘すぎる。いつもは封じていた、でももう今は、誰でも入れるように解放してある。その理由は、イーグルの予想が当たっていることを示していた。イーグルが次の言葉を継ぐ前に、クレフはすまなさそうに微笑んだ。
「すまんが、話していられる時間はあまりないのだ」
そして、壁に立てかけてあった杖を手に取った。杖の先端の宝玉が青く輝き、周囲に風が巻き起こった。腕で目を庇ったイーグルが前を見た時、そこには大きな飛び魚と、鳥の頭と獣の胴体をもった精獣がいた。
「直接目にするのは初めてだな。私の精獣のフューラと、グリフォンだ」
クレフはぽん、とグリフォンの嘴に手を置いた。

「少し待っていてくれ」
クレフはイーグルに向かってそう言うと、グリフォンの嘴と、フューラの口元に掌を置いたまま、静かに目を閉じた。その足元から風が巻き起こり、法衣の裾が揺れた。耳飾りの蒼水晶が、きらきらと輝きながら風にあおられている。淡く白い光が、彼の全身を覆うのを、イーグルは言葉を忘れて見守った。それは幻想的に美しい光景だったが、すさまじい力が、彼を中心に発せられているのが分かった。自分の父親――大統領が見たら、喉から手が出るほどに欲しいだろう「精神エネルギー」が目の前にあった。

しかし、衝撃波としてイーグルに届く力の断片は、イーグルの髪を揺らすだけだった。その力に荒々しいところはまるでなく、その代わりに言葉をなくすほど優しく、美しかった。オートザムの危機を救ったのも、ザズの妹に贈られた「セフィーロの空気」だったという。本当に強い力というのは、誰も傷つけないものなかもしれない、とふと思った。その一方で己の要求を押しとおすために力を使うオートザム、その中心にいる大統領に対して、はっきりと嫌悪を感じた。

光はゆっくりと収縮し、静止したままの二体の精獣の中にゆっくりと吸い込まれてゆく。ほどなく、部屋は再び薄暗くなった。目を開けた二体の精獣は、イーグルの目にも、うなだれて見えた。あれほどの力が分け与えられたのに、力に満ちているようにはとても見えなかった。
彼らを見上げるクレフの瞳は、まるで親のように優しかった。
「―― どこへなりと行け、グリフォン、フューラ。これだけ力を分け与えておけば十分、お前たちだけで暮らしていけるだろう」
精獣たちはそれぞれに、首を大きく横に振った。全身で、彼から離れることを拒んでいるのが分かった。精獣の目に涙が浮かんでいるのを見て、イーグルは視線を伏せた。クレフのため息が聞こえてきた。
「行け。これは命令だ。決して、私の後を追ってくるな」
決して大声を出したわけではない。一切の抵抗を許さない、剣を一息に斬り下ろすような毅然とした声だった。ランティスに聞いた話を、イーグルは思い出していた。精獣は例えどんなものであろうと、主人の命令に逆らう事はできない。そのように創られているのだと。しかし精獣たちは、明らかに嫌だと訴えている。この精獣達とクレフの間には、単純な主従ではない、長い長い絆があるのだろう。

やがてグリフォンとフューラは、首を垂れたまま森閑と動かなくなってしまった。クレフは、その二体の体に再び掌を置いた。イーグルには聞こえないくらいの小さな声で、二体の耳元に何かをささやいたようだった。こんな言葉は、イーグルには聞こえないほうがいいのだろうと思った。いずれにせよ、イーグルが立ち入っていいような空気ではなかった。

精獣たちが、クレフの掌の感触に、全神経を集中させているのが分かった。やがて、のろのろと二体は首を上げ、グリフォンはゆっくりと羽ばたいた。そして、中庭に向かって、ゆっくりと宙に滑りだした。同時に振り返った二体に、クレフはにっこりと微笑んだ。何度も何度も振り返り、セフィーロの城の周りを弧を描くように去って行く精獣を、クレフはずっと見送っていた。

「……ランティスが言っていました。精獣にとって主人は、命そのものだと。……残酷なことをしますね」
振り返ってイーグルを見たクレフは、何も言わなかった。あれだけの力を放出し分け与えたのに、その表情に疲労はうかがえない。クレフの後ろの机の上に、一冊の本が置かれているのが見えた。確かあれは、チゼータから持ち込まれた例の古文書のはずだ。さっき巻き起こった風で、ぱらぱらと何枚かのページがめくれていた。あの古文書が、全ての始まりだったのだ。しかしイーグルにも読めないだろうことは予想がついた。

クレフの青い瞳と、イーグルの鳶色の瞳が、数メートルの間隔を開けて向き合った。
「時間はない、と仰いましたね」
「ああ」
「急がれている理由は、早くしないとチゼータの『扉』が、第二段階に達するからですか」
クレフは言葉を止めた。答えるべきか、考えているように見えた。しかしイーグルは尋ねはしたものの、意図的に断定的に言いきっていた。
「そうですね?」
畳みかけると、クレフは視線をわずかに落とした。
「……あと、一日だ」
「……なるほど」
第一段階から第二段階に進むには、決まった日数があるということか、とイーグルは理解した。午後のクレフの話から、『扉』と『導師』の間には必ず関わりがある。さらに言えば、『扉』が第二段階で全て消滅しているのは、『導師』の手によるものだと予想していた。738年前、『扉』はセフィーロに現れて数多くの命を奪ったとクレフは言っていた。当時のクレフはわずか10歳で、導師だったということは考えにくい。とすれば、その時第二段階まで進んだ『扉』を止めたのは、導師ロザリオだろうと想像できた。

「今度は、『扉』をあなたの手で、破壊するおつもりですか」
「……それは、違う」
思いがけない答えに、イーグルは言葉を止めた。そこで、はっきりと否定されるとは考えていなかった。クレフは、確かに事実を口にしないことはあっても、嘘はつくまいとしているように見える。ではクレフは、チゼータで一体何をしようというのか。イーグルの心を読んだかのように、クレフはゆっくりと微笑んだ。
「私にしか、できないことがあるのだ」
「それは?」
「直に分かる」
「……それ以上は、教えてくれないんですね」
クレフの沈黙が、肯定を表していた。

クレフはゆっくりと、イーグルに向かって歩き出した。このままもう、歩みを止めるつもりがないのだと分かる、迷いのない足取りだった。
「行ってしまうつもりですか。このセフィーロには、あなたがまだ必要なのに」
「皆、成長した。もう、私がいなくともこの国は大丈夫だ」
そこでクレフは一度、言葉を切った。
「……イーグル」
「なんですか?」
「……おまえは、私が『扉』が開いた理由を知っているのではないかと、考えているのだろう?」
「でも、あなたは『知らない』と言った」
「……私にも、分からないのだ。どうして、扉が開いたのか」クレフはそこで、考え込むような口調になった。「しかしおそらく……私がセフィーロから去っても『導師』の役割は次へと引き継がれるだろう。その点は心配はいらん」
「僕は、そんなことを言っているのではありません」我知らず、口調が厳しくなった。「皆が悲しむのは、『導師』がいなくなることじゃない。あなたがいなくなることではないですか」

クレフは、不可思議な表情で黙りこんだ。この人には、本当に分かっていないのだ。噛みあわない会話に、もどかしさを感じてイーグルは言い募った。心のどこかにもう一人の自分がいて、どうしてこんなに感情的になるのだと、訝しんでいるのを感じた。
「セフィーロという『国』が大丈夫でも、この国に住む『人』が、あなたがいなくなって平気だと思われますか? 誰も泣かないとでも?」
今まで平静さを失わなかったクレフの表情が、初めて動揺した。自分が感情に任せて放った言葉が、クレフの心の琴線に触れたのがわかった。クレフのわずかな異変に気づいていたのが、自分だけだとイーグルは思っていなかった。彼をよく知るもの――彼をよく見ている者なら、誰でも気づいていたはずだ。特に、クレフを愛している人であれば。

クレフのために、涙した者がいるのだ。海なのか、プレセアなのかもしれない。誰にせよ、今のクレフにこんな表情をさせるなど、本当に彼に愛されていたひとに違いない。わずかにうつむいたクレフの表情が、痛みに耐えるように歪んだ。
「……皆、勘違いをしているのだ。私は、皆に愛されるほどの『何か』は持ち合わせていない。無力な人間の一人だ」
「……あなたも、知っているはずだ。人を愛する時、そこには理由なんてないんですよ。あなたが仮に無力でも、何ももっていなくても、そんなことはどうでもいいんです。あなたが、あなたであることだけが、皆が『クレフ』を愛する理由なのだと僕は思いますよ」
その時イーグルの心に浮かんでいたのは、幼いころの記憶にしかない、母の姿だった。父のように能力や容姿で息子を計ることなく、無条件に愛してくれたひとだった。無邪気な表情で、母親に抱きついていた、幼かったクレフの姿が瞼に焼き付いていた。彼にとっての母親も、きっとそうだったのではないかと、イーグルは信じていた。

クレフは無言だった。しかし彼がイーグルの言葉に、深く心を動かされているのは、その表情から伝わってきた。やがてクレフが口を開こうとした、その時だった。セフィーロの城内に大きな警報が鳴り響き、イーグルとクレフは弾けるように顔を上げた。
「何事だ?」
続報を待ったイーグルに比べ、クレフの動きは早かった。身を翻し、部屋の大きな窓へと向かった。その背中を見た瞬間、イーグルにも何が起こったか分かった。
「全員、セフィーロ城内に避難してください! オートザムの戦艦が迫っています! 繰り返します――」
その声はおそらく、セフィーロの警備に当たっていた戦闘員のものだろう。その声が、はっきり分かるほど緊張している。

窓いっぱいに、無機質な鉄色が広がっていた。柔らかな透明感のある色彩ばかりのセフィーロの中で、その色は深く淀み、異質さを際立たせていた。よく見ると、戦艦は少しずつ動いていた。その船腹を悠々と見せながら、セフィーロを横切って行く。そしてゆっくりと旋回し、船首が城に向けられた。その姿はまるで巨大な鮫が、獲物に食いつこうとしている寸前のように見えた。

51につづく

おかげさまで50話突破しましたm(_ _)m もうちょっとつづきます。

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