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レイアース二次小説置き場 (Last One)

「魔法騎士レイアース」クレフ中心の長編小説を置いてます。

2020.01.20
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2012.12.14
『きっと誰も、間違ってはいないのだ』

つづきはこちら からどうぞ。


――――――――――――

鉛色の軍艦も、全面に取り付けられた砲台も、かつてオートザムの軍人だったイーグルにとっては、見なれたもののはずだった。しかし今は、視界を埋め尽くす鉄の色は、吐き気すらもよおすほどだった。この軍艦から放たれる砲弾の一つたりとも、セフィーロに食い込ませたくはなかった。
「……ついに来たか」
隣に立ったクレフが、杖を片手に軍艦を見上げた。その表情に動揺は見えない。もっとも、オートザムの戦艦がセフィーロに接近していることは分かりきっていたから、予想よりも遅かったと言ってもよかった。

イーグルにとっては、名前を全て言えるほど、見なれた艦ではあった。しかし一瞥して、彼は怪訝に思った。
「……足りませんね」クレフの視線を感じて、補足する。「ザズは艦の数は十二と言っていました。しかし今現れているのは合計で八艦。聞いていたのに比べて四艦も少ない」
「途中で待機しているのか、引き返したか……」
クレフが後を引き継いだ。
「途中で待機、はあり得ますね」
イーグルはすぐに返した。強かなあの男のこと、全戦力をいきなり披露しないのは十分にあり得る。圧倒的な戦力差を示すのも、八艦あれば十分だろう。そもそもセフィーロは、戦艦を持っていないのだから比較にならない。その一方で、国に引き返すことは彼の性格上、あり得ないと思った。国の精神エネルギーが仮に予想以上に早く枯渇したとしても、何艦か国に引き返させてエネルギーの補給に充てるなどという風には大統領は考えない。危機にひんしているならなおのこと、全勢力をセフィーロ侵攻に注力してくるのが彼のやり方だ。

オートザムが攻めて来る、と知った直後に、自分の役割はよく分かっていた。大統領が刺客を送り込んででもイーグルを取り返そうとした理由を考えれば、おのずから見えてくる。イーグルには、攻める前に息子を取り戻したい、などという人道的な理由だとは到底思えなかった。大統領は、自分の息子であり、次期大統領候補の筆頭に上がっているイーグルは、セフィーロに取って有効な人質になりうると考えているのだろう。目覚める前の状態であれば尚、身動きすらできない男を人質にとるのは、赤子の手を捻るよりも易しいのだ。セフィーロが、「オートザムが攻め込むならイーグルに危害を加える」と表明すれば、軍は動揺する。

「……僕を外交カードに使うという選択肢は?」
イーグルが切りだすと、クレフは涼しげな瞳で見返してきた。
「くだらないことを口にするな」
イーグルは毒気を抜かれて言葉を切った。そんな強い言葉を彼から投げかけられるのは初めてだった。しかし同時に、予想していた返事でもあった。クレフはイーグルを見やって、眉をしかめた。
「何を笑っている?」
「いや、おかしいなと思ったんです。当事者の僕が自分を人質に取ってくれと言って、あなたがたしなめるなんて」
決して余裕がある状況ではないはずなのに、持っているカードを決して切ろうとしない。大統領の方がクレフよりずっと年下なのに老獪だ。目的のためなら信念も手段も次々と変えてゆく。しかしクレフのほうが一本筋が通っていた。

それ以上強く言うつもりはイーグルにはなかった。そもそも、イーグルを取り戻せなかった上で軍艦が差し向けられたということは、仮に人質に取られても交渉に乗らない、という意志の表れでもあるのだ。イーグルを交渉に使っても時間稼ぎにしかならないだろう。見捨てられたと言ってもいいだろうが、恨むつもりはなかった。オートザムの存亡と、息子一人の命を秤にかけて、息子の命を選ぶような大統領は愚か者だと思う。その一方で、かつてのイーグルがただ一人の男のためにオートザムを身捨てようとしたことを思い出し、運命の皮肉にイーグルは心中、苦笑いした。自分の所業を考えれば、今回の仕打ちは自業自得と言ってよかった。

「まったく、運命とはおもしろいものですね」
イーグルはそう言うと、クレフの肩に手を置いた。その肩は、触れてみると驚くほどに小さかった。
「行ってください、導師クレフ」
クレフは顔を上げ、イーグルを訝しそうに見返してきた。
「どうして、私を行かせるのだ?」
オートザムの狙いはクレフにあり、今のところ彼の精神エネルギーを使わなければ、オートザムの延命の見込みはないのだ。

予想外だろうイーグルの言葉に驚いたクレフの表情は、外見通りの子供に見えた。まだ幼かった、夢で出会ったクレフの無邪気な笑顔が重なって見えた。そして、あれから長い長い時を生きてきたひとを、改めて見返した。一体どれほどの思いを乗り越えて、今ここに彼が立っているのか想像もつかなかった。導師としての風格をたたえたその表情は、あの夢に現れた女性とよく似ている。導師ロザリオ―― クレフの師であり、母親でもあったひとと。

クレフは、導師ロザリオのことを何度も語りながら、一度も母親だとは明かしていない。何のわだかまりもなければ、当然口にしている基本的な情報だと思う。クレフにとってロザリオは、やはりどこか心に秘めていたい特別な存在なのかもしれない。幼いころのクレフは、母親を「かあさま」と呼び、ひたむきに慕っていた―― イーグルは微笑んだ。
「あなたは、僕の恩人ですしね」
「え?」
「いいえ、なんでもありません」イーグルは首を振った。「僕はやっぱり、あなたのことが好きなんです。それ以外に理由はありませんよ」


悲鳴がセフィーロの城内にこだまし、何人もの人間がばたばたと走る音が二人のいるところにまで聞こえてきた。
「導師クレフはどこだ! 早くお伝えしなければ――」
誰かがそう叫ぶ声も聞こえてくる。背後からはセフィーロの人々、前にはオートザムの軍艦に挟まれ、クレフは唇をかみしめた。彼も葛藤しているのだ、とイーグルは思った。
「大丈夫です。オートザムは、僕がなんとかします」
「どうするつもりだ?」
「……僕にも、秘密のひとつくらいあってもいいでしょう?」
イーグルは軽く肩をすくめた。
「私は、オートザムの者をセフィーロに受け入れるつもりだった」
「そんなことは到底薦められませんよ。セフィーロが第二のオートザムになるだけです」
オートザムは存亡の危機に立たされているが、それは太古からの自分たちの所業の結果なのだ。それを改めることなく新天地に行ったところで、同じ事を繰り返すだけだろう。仮にクレフがオートザムに行き、ありったけの力である程度国を立て直したとしても、また精神エネルギーが枯渇するのは時間の問題だ。要は、オートザムの人々が、自分たちの誤りに気付き、自分たちの力で国を立て直そうとしなければ、オートザムは救えない。

「……大統領は間違っている。僕はそれを正すまでです」
「だとしても、それは死ななければならないような罪ではない」
「導師クレフ。あなたは、優しすぎますよ」
「……おまえの父親だろう?」
クレフは静かに問うた。「父親」とクレフに言われると、なぜか心が騒いだ。クレフは、こんな状況に置かれているとは思えないほどの穏やかな声で続けた。
「イーグル。これだけは言っておく。『誰も、間違ってはいないのだ』」
「そんなはずはありません」考えるよりも先に、固い声が漏れた。「誰も間違っていないなら、一体誰と、何のために戦えばいいのです?」
「敵はここにいる」クレフはそっと、イーグルの胸に掌を置いた。「戦うべきは己だけだ。敵を、相手の中に安易に求めるな。それは簡単で、心を痛めずに済む方法だが、何も解決はしない。誰も救われはしない。残るのは後悔だけだ。……父親を敵にするな、イーグル」
クレフが、自分の身を切るような気持ちで、イーグルに語りかけているのが分かった。心のざわめきは大きくなり、冷静になれという声を掻き消しそうになる。
「……それは命令ですか?」
口から洩れたのは、肯定でも否定でもなかった。クレフは少し困ったように微笑んだ。その時になって、彼の胸に置かれたクレフの掌が光芒を放っているのに、イーグルは気づいた。

光が大きくなるにつれて、胸があたたかくなった。
「命令ではない。ただの私の『願い』だ」クレフは瞳を閉じた。「……魔法伝承」

―― 魔法伝承……?
その言葉を、ランティスから聞いたことがあった。導師だけが使うことができる、相手に魔法を授けるものだ。ヒカルは炎、ウミは水、フウは風の魔法をクレフから授かったと聞いていた。クレフがイーグルから離れ、イーグルは両手を見下ろした。パチッ、と青白い光がいくつも走った。放電か、とすぐに気づく。
「これは……」
「おまえの『魔法』だ。今のおまえには役に立つだろう」
「……稲妻?」
「『雷』は最強の属性のひとつで、選ばれる者はめったにいない。私が生きている間では、おまえで二人目だ」
「二人目……」
「一人目は、導師ロザリオだった」
「え?」
イーグルはクレフを見返した。瞼の裏に、波打つ銀髪と碧眼の、美しい人の面影がよぎった。クレフは、少し悲しげに微笑んだ。
「……私は、親と子が争うところを見たくはないのだ」
クレフが視線を伏せたのは、わずかな間だった。杖を手にイーグルを見返した時には、すでにその目には力が戻っていた。
「その力で、セフィーロをどうか護ってくれ。決して、チゼータに来ようなどと思ってはならん」

それが、最後だった。クレフは一瞬軍艦を見やると、窓に背中を向けて歩き出した。その迷いのない後ろ姿を、イーグルは見えなくなるまで見守っていた。
―― どうして僕は、クレフを止めようと思わないのだろう。
自分でもそれが不思議だった。後で皆がそれを知れば、どうして止めなかったのだと非難されることは間違いない。でもきっとランティスなら、分かってくれるような気がしていた。

導師クレフが、セフィーロを置いてまで「やらなければならないこと」。それが何なのか、見届ける。そしていつか彼が戻れる場所を護ること。それが自分の役割だと思った。

52につづく

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