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レイアース二次小説置き場 (Last One)

「魔法騎士レイアース」クレフ中心の長編小説を置いてます。

2020.01.24
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2012.12.29
「……そんな馬鹿な」

続きはこちら からどうぞ。

――――――――――――――――――――

入り組んだ迷宮のような古びた通路から、様々な香や食べ物が入り混じった香りが漂ってくる。夕暮れの光が差し込み、歴史ある街はあちこちに灯りをともす。そして、明るい昼から、妖しい魅力を湛えた夜の姿に生まれ変わる。その変わり身の早さは、艶やかな女性がぱっと美しい着物を翻すかのようだった。

――「美しい夢が見られましょう」
あの街で、そう言って微笑みかけた女性は、一体誰だっただろうか。光は、覚醒前のぼんやりとした意識の中で考えた。真紅の唇の口角が、左右対称に上がっていた。肌の色は艶やかなモカ。幼いころ、母親に夜な夜な読んでもらった「アラビアンナイト」から光が想像したヒロインの姿が、そのまま目の前に現れたかのようだった。

―― そうだ。あれはチゼータの王妃だ。
初めて会った時、最後に彼女からそう言われたのだった。
まるで母親のような視線を向けられて、光はドキリと胸が高鳴ったものだった。光にとって母親は、遠い昔に失った優しい思い出だったから。チゼータを思う時と同時に、母親が思い浮かぶのはそのせいからかもしれない。街並みも、行き交う人々も、またたく星も、全てがどこか滲んで見えて、やさしい街。それが光にとってのチゼータだった。光はゆっくりと覚醒しながら、淡く微笑んだ。

「ん……」
「起きたか、ヒカル」
目を開けたとたん、光は全身を強張らせた。目の前に広がっているのは、ぶすぶすと炎が真っ赤にくすぶり続ける荒れ果てた大地だった。チゼータに何が起こったのか、一瞬で思い出させるに十分な光景だった。あの優しい街は、もう滅びたのだ。
「どうした」
肩にがっしりした感触を感じて顔を上げると、ランティスが光の肩を抱き、背後の岩に体が直接当たらないように守ってくれていた。光は別に構わないと言ったのだが、寝ている間中ずっと、そうしていてくれたらしい。心配そうな目で、光を見下ろしている。
「ううん」光へ目を閉じた。もう一度目を開け、同じ荒野を視界に納めた時は、現実をそのまま受け入れることができた。「なんでもないよ、ランティス。ありがとう」

チゼータに二人で残されてから何日経ったのか、時間の感覚がもうなくなっていた。碌に食べも飲みもしていないため、体力は限界を迎えようとしている。服もあちこちが焦げ付き、立ち上がるとくらりと軽い貧血があった。光は足を踏みしめた。
「おまえは強いな」
すっくと立ち、荒野を見つめていると、ランティスにそう言われた。
「どうして! ランティスの方が大変だよ。いつも周りに気をつけてくれてるの、ランティスだもん」
「でも、おまえの目は、どんなことがあっても強いままだ」
「……そんなこと、ないよ」
優しい思い出に心を奪われる度に、我に返った時の揺り戻しは大きい。今のように母親の夢を見ていたような直後は、現実の厳しさに迷い、怯えることだってある。でもそんな時は、貧血でくらりとした時のように、踏みとどまるだけだ。ランティスや、海や風がいてくれるから。チゼータの復活を望んでいる人たちがいるから。そして、彼ら彼女らの『心』に応えられないような自分に、がっかりしたくないからだ。

結局、私の願いなんだ。光はそう思った。チゼータを助けたいのも、そして皆にもう一度笑ってもらいたいのも、誰のためでもなく自分自身のためだ。そう思うと、腹に一番ストンと落ちた。命をかけてもかまわない、という覚悟が生まれた。
「――あと一日で、辿りつけるね」
光は中空を見やった。隣に並んだランティスも、同じ方角を見た。中空に浮かんだ漆黒の『扉』からは、未だに黒い波が生み出され続けている。
「大きくなっているな」
「うん」
単純に、距離が近づいたから、というには、そのサイズは異常に大きくなっていると言ってよかった。近づくだけで、瘴気のようなものが吹きだしているのが分かる。全身が粟立つような嫌な感覚だった。

『扉』をどうやって破壊するのか、そもそも破壊できるのか、近づいてみるまで分からなかった。自分の持てる魔法力を振り絞って、攻撃してみるほか手段はなさそうだった。

「クレフに、怒られるかな。チゼータから離れろって言われたのに」
光は、扉に向かって歩き出した。途端に暴風が吹きつけたが、チゼータの街で拾った、全身を覆うサイズの布で砂塵から体を守った。ランティスもマントで体を覆っている。つい先日まで星全体を覆っていた炎は消えかかっていたが、大地は靴の裏が焼けるように熱かった。布の裾が大地に触れたら、小さな炎が起こるほどだった。火傷をしていないのは、光は炎属性のためで、ランティスはずっと防御魔法を遣い続けていた。

この全てが荒れ果てた地で、セフィーロとクレフのイメージは、まるで別世界のように遠く感じた。ランティスは首を振った。
「例え師の命令でも、全て従わねばならないとは思わない」
その言い方がなんだか苛立っているように聞こえて、光は前を行くランティスを見やる。
「あの人は、このまま誰も犠牲になることなく事態は収束すると言った。でも、俺には到底そうは思えない」
「……クレフは、いつだってウソはつかないよ」
「あの人の『誰も犠牲にならない』の中に、自分は含まれていない。それならば本人に自覚があろうとなかろうと、十分『ウソ』だろう。……あの人は、独りで戦うつもりでいるように俺には思えるんだ」
「ランティスは、クレフのことが心配なんだね」
そう言うと、ランティスは複雑な顔をした。普段、無表情で口数が少ないランティスだが、クレフのことになると口数が増え、感情も分かりやすくなるのに気がついていた。怒って見えるのも、無茶ばかりするクレフを心配しているからなのだろう。
「そんなことはない。……」
そう言ったが、ランティスはそこで言葉を止めてしまった。

ランティスは、クレフが自分の身を危険にさらすのではないかと心配して、自分で『扉』を破壊しようとしている。ランティスにとってクレフは、尊敬すべき師であると同時に、どこか危なっかしい、放っておけないひとなのだろう。

一方で、光が『扉』を目指すのは、もっと直観的な理由だった。あの『扉』が何かはわからないが、今の黒い波など比ではない恐ろしい「何か」であるような気がするのだ。あれを、あのままにしておいてはならない。近づくたびに強くなる瘴気が、光にそれを教えているようだった。

光は、思っていたことをふと口に出した。
「そういえばクレフって、私達の世界の言葉が分かるのかな?」
「なぜだ? そんな話は聞いたことがない」
「私の名前……『光』の意味を、クレフは知ってた。私は言った記憶がないのに」
光が言わなくても、風や海が教えたのかもしれない。ささいなことだが、妙に気になっていた。『扉』を破壊し、セフィーロに戻ったらクレフに聞いてみよう、と思った。

その時だった。小さな石が転げる音を、光は耳にとらえた。振り返ってみると、30メートルほど離れた崖の斜面を、小石が落ちて行くのが見えた。何とはなしに、それを見送った光は、目を疑った。
「誰かいる!」
え、とランティスが息を飲み、光が指差した方を見た。
「……そんな馬鹿な」
ランティスが驚くのも、当然のことだった。魔法を使えなければ、この灼熱の大地で生きて行くことはできないし、チゼータの人々は皆魔法を使えないはずだ。崖の上で、影が蠢くのを光ははっきりと見た。崖にかけられているのは、よく見れば人の指だった。その「影」が二人の視線に身を翻した。長い黒髪が、ちらりと見えた。
「追いかけよう!」
何か考える前に、光は飛び出していた。逃げ遅れたチゼータの住民ということもありえる……というより、それ以外だったら、一体何者だというのだ?

「……ねぇ、ランティス」
光は、不意に寒気を覚えながら、傍らで走るランティスを見た。
「女の人、だったよね」
「おそらくは」
「……見覚え、なかった?」
「……」
ランティスは無言のまま岩場に飛び移り、光に手を差しのべた。光が手を取ると、その手をにぎって軽々と岩の上まで光を引っ張り上げる。
「ありがとう」
「……俺も今、同じ事を考えていた」
見えたのは、細い指と黒い髪、ちらりとのぞいた白い首筋と、華奢な肩だけだった。たったそれだけの情報では、確信はない。でも、ただ、全体の姿かたちが、誰かに似ている――そう思ったのだ。

「顔を見ればはっきりすることだ」
「……うん」
光は、ランティスの言葉に頷いた。


54につづく

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