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レイアース二次小説置き場 (Last One)

「魔法騎士レイアース」クレフ中心の長編小説を置いてます。

2020.01.19
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2012.12.30
「あなたはここで、挫けていい人間ではありませんよ。」

本文は、「つづきはこちら」からどうぞ。

――――――――――――――――

砲弾が装填される、鈍い音が静かなセフィーロに響き渡った。自分一人なら、避けることはたやすい。でも、どうすればこの背後にいる『セフィーロ』を守れるのだろう。王子であることの重責か、迷いか、逃げないという決心か。フェリオの足はその場に縫い付けられたように離れなかった。

「フェリオ!」
焦れたラファーガが、フェリオの肩を後ろからつかむ。
「待ってくれ、ラファーガ」
フェリオは同じ体勢のまま、こちらに照準を合わせていた砲台を指差した。ラファーガは怪訝そうにそれを仰ぎ見て、眉をひそめる。
「止まっていないか?」
「なに?」
ラファーガが言葉を止め、前方の戦艦を注視した。ややおいて、信じがたいようにつぶやく。
「確かに、砲台が動きを止めている。しかしなぜだ?」
「私が止めたのじゃ」
背後から聞こえたのは、思いがけない少女の声だった。二人が振り返ると、アスカがよどみない足取りでこちらへ来るのが目に入った。背後に、チャンアンとサンユンが控えている。

アスカは、印を結ぶように、両手を前方に出している。その指と指の間で、何かがキラリと光った。目を凝らすと、それは半透明の糸のようだった。
「ファーレンの王家に伝わる『幻術』じゃ」
アスカは淡々と言った。いつも元気のよいこの少女の目は、今は異様に澄み、まっすぐに戦艦を見上げている。つられて戦艦を見やってフェリオは、アスカの指の間に見える糸と同じものが、八艦の戦艦すべてに絡みついているのに気付いた。
「―― まさか。その『糸』で戦艦を止めているのか?」
「動きを束縛することはもちろん、相手を操るのも自由自在じゃ。三年前のウミと、ウミの魔神『セレス』には破られてしもうたが。その後わらわも、鍛練を重ねたからの」
アスカはフェリオに並び、戦艦を一瞥して続けた。
「ウミはセフィーロを守りたいという強い意志をもって戦っておった、だからこそ術が破られたのじゃ。しかし今のおまえたちからは、意志を感じぬ。まるで戦艦ともども機械のようじゃ。心のないものを操るのは容易なこと」

「……何者だ」
戦艦から漏れた司令官の緊迫した声が、アスカの言葉通り、戦艦が制御不能であることを示していた。たった一人で、すべての戦艦を封じてしまうなど。フェリオは目が覚める思いで、自分の腰くらいしか身長がないアスカを見下ろした。
「ファーレンの第一皇女にして王位継承権第一位であらせられる、アスカ様じゃ」
背後に控えたチャンアンが朗々とした声を張り上げた。
「セフィーロは、ファーレンの友好国である。現在、皇女が御座す国だと知ってのこの所業か? セフィーロへの攻撃は、皇女への攻撃と見なしますぞ」
いつもの穏やかな好々爺とは、別人のように厳しく、張りのある声だった。

「今すぐ兵をお引きください。ヴォーグ・モーガン司令官」
言葉を継いだのは、サンユンだった。
「さもなければ、ファーレンはオートザムを敵国と見なし、戦艦を差し向けることも厭わないでしょう」
「! サンユン」
そんな激しい言葉を、このおとなしい顔をした少年が口にするとは夢にも思わなかった。フェリオだけではなくラファーガも、ぎょっとした顔をサンユンに向けた。
「あなたがたの国は滅亡の危機に瀕している。だから手段を選べなくなっているのでしょう。……オートザムの滅亡まで、あと9日しかない。他国がそれを知らないとお思いですか」
畳み掛けたサンユンの言葉に、司令官は答えなかった。しかし、その動揺がフェリオには空気として伝わってきた。

フェリオは改めて、サンユンの肩をつかんだ。
「そんなことを言えば、最悪、ファーレンも巻き込んだ戦争になるぞ」
「こんな時なのに、ファーレンのことを心配いただいて、ありがとうございます」
サンユンはフェリオを見上げ、大人びた笑みを浮かべた。
「でもいいんです。というよりも、当然なんです。国の政治は一国にとどまらない。他国も視野に入れた国づくりをすべきだと考えていたのはあなたでしょう? 王子」
「……え」
「僕は王子にお会いして、自国のことしか考えていなかった自分を恥ずかしく思いました。他国の政情に通じていても、それは自国のためでしかなかったのです。どうすればファーレンやほかのすべての国の民が平和に暮らせるのか、考えるようになりました」
「俺は……そんな」
思わず、間抜けな受け答えをしてしまったが、それくらい意外だった。確かにそんなことを考えてはいたが、それが他人にどう受け止められているかなど、考えたことがなかったのだ。

サンユンは顔を引き締めて、フェリオを見上げた。
「今、チゼータは人が住める地ではありません。そして、オートザムを滅亡から救う手立てもありません。つまり、この世界に人が住める国は、セフィーロとファーレンだけになってしまうんです。我々この世界の人々が生き延びるためにも、セフィーロを今、傷つけさせるわけにはいかない。そのためには、どんな手段でも使います」
覚悟を、とサンユンの表情が言っている。もう綺麗ごとを言っている場合ではないと。国が亡びる瀬戸際にあって、オートザムがなりふり構わなくなる立場は理解できる。是が非でもクレフを連行して、彼の力を使って滅亡から国を救うのが狙いだろうと想像はついた。そしてそれを防ぐには、立ち向かう側ももはや手段を選んではいられない。

―― それでも。
フェリオは、思わずにはいられなかった。もう戦争は起こっているのだ、と人は言うのかもしれないが、何とか血を流さず、本格的な戦争になる前に事態を納められないのか? もう、手遅れなのか。この地に争いが起こるのを誰よりも厭うていた姉の姿が脳裏をひらめいた。彼女がもし生きていたら、この状況を見てどう思うだろう。そう考えると、胸の奥がうずいた。

「祖国へ帰れ、オートザムの者よ」アスカが静かに言った。「引き返すなら、我らとて何もせぬ。しかし引き返さぬのなら……覚悟をしてもらうぞ」
数秒の沈黙が流れ、やがて、乾いた司令官の笑みが漏れた。それは笑いでありながら、不吉で悲しい響きさえ持っていた。
「引き返せ、か。無茶なことを仰る」
「なに?」
「我ら戦艦のうち七艦は、帰りの燃料を積んではいない。残り一艦は積んでいるがそれも、導師クレフをオートザムに連れ戻るため」
アスカが息をのんで、戦艦を見返した。司令官がこれまでの抑揚のない言葉をかなぐり捨て、大声を出した。
「我らがオートザムの最後の砦なのだ! 存亡を託された我らが、おめおめと自分たちの命惜しさに、退けると思うか」
セフィーロに言葉もなく、無表情に攻め込んできたこの国の、心からの叫びを聞いたのは、これが初めてだとフェリオは思った。となると、セフィーロに上陸できなければ、七艦は宇宙の藻屑となるほかないということだ。まさか艦を帰国させる燃料すらないとは、オートザムの困窮ぶりは聞きしに勝っていた。

**

―― その時、プレセアは目の前の出来事を、地面に座り込んだまま、どこか放心しながら見守ることしかできなかった。目の前に迫る戦艦、おののく人々。すべてが非現実のようにしか思えなかった。

立ち上がらなければ。そして、皆を守らなければ。
反射的にそう思ったが、足には一向に力が入らなかった。立ち上がってなんになるのだ、という気持ちが心を押しつぶしていく。どうなってもいいではないか、という投げやりな気持ちにすらなり、プレセアはまた新しい涙を流した。

こんな状況なのに泣くことしかできないほど、自分は弱かったのかと思った。
もう、一緒に同じ方向を向いて戦っていたクレフはいない。それは、プレセアにとって、戦う理由を失ったも同じことだった。今こんなに辛いのに、戦いに勝ったところでこの辛さは少しも軽減されないというのに、いったいどうして、また立ち上がらなければならないのだろう。

その時、肩を背後からポン、と軽くたたかれた。ぼんやりしながら振り返ると、そこにはプラチナブロンドの髪をした、オートザムの青年が立っていた。
「そんなところに座り込んでいたら、体に毒ですよ、プレセア」
「あなたは……イーグル」
「あなたの反応を見てわかりました」イーグルは、いたわるような視線をプレセアに向けた。「クレフが泣かせた女性は、あなただったのですね。クレフは、辛そうな顔をしていましたよ」
「……え」
プレセアは弾けるように顔を上げて、イーグルを見返した。
「クレフと、クレフと話したの?」
勢い込んで尋ねたプレセアを安心させるように、イーグルはひとつ、うなずいて見せた。

「ええ。……心配しないでください、プレセア。僕は、チゼータへ行くつもりです」
迷いのない、強い目だった。そうだ、とプレセアは思い出す。この青年は、光とともに、最後の『柱』をめぐって試練を受けたのだ。
「チゼータへ……」
「そうです」そこでイーグルは、にっこりと笑った。「チゼータでの『役目』を終えても、あなたを泣かせた後では帰りづらいかもしれませんからね。僕が導師クレフを連れ戻ります」
「……ごめんなさい」
プレセアは顔をゆがめ、うつむいた。この状況では、おそらくクレフに最後に会った人物は自分とイーグルも含め、限られている。本当なら自分が、恐れおののく人たちにクレフの言葉を伝え、大丈夫だと励まさなければいけないのに。

「謝ることなんてないですよ」イーグルの言い方は軽やかだった。「ただ、あなたはここで挫けていい人間でありませんよ。最後に、クレフに何か言われているはずです」
「……え」
イーグルはそう言い置いて、まっすぐに前に歩みだした。その足取りは、数日前まで寝たきりだった人間のものとは思えないほどしっかりしていた。その目は、自国の戦艦を見上げていた。


57. につづく

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