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レイアース二次小説置き場 (Last One)

「魔法騎士レイアース」クレフ中心の長編小説を置いてます。

2020.01.20
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2013.01.06
――「見守っていてくれ。俺たちは、真実をこの目で確かめる」

本文は「つづきはこちら」からどうぞ。

――――――――――――――――

海は、鋭い悲鳴とともに、弾けるように身を起こした。
「海さん。海さん!」
誰かが海の肩を掴み、体を強く揺すぶっていた。誰の声も聞きたくない、誰も見たくない。耳を両手で塞ぎ、目を閉じたまま、海はしばらく体を動かせなかった。

「……海さん。大丈夫ですか」
優しい手が、海の背中を撫でている。その穏やかな声は、少しずつ海の心を現実へと引き戻した。海は、強張ってしまった両手はそのままに、そっと目を開けて声の主を見た。
「風……」
「海さん、私が分かりますか?」
風の優しい眉は、心配のためにひそめられている。海の寝ていたベッドの端に腰かけて、ベッドに突っ伏した海の背を撫でてくれていた。海は、こくりと頷いた。額に手をやると、冷たい汗に触れた。風が、手にしたタオルで額を軽く拭ってくれた。
「私……どうして」
セフィーロ城の一室に、寝かされているらしいが、空門で泣き叫んでからの記憶がなかった。
「……この方が、空門で気を失っていたあなたを、下まで連れてきてくださったんです」
風が手で指し示した先には、マスターナの姿があった。彼と視線がぶつかったとたん、全身が強張った。同時に、自分が今まで見ていた夢の原因もはっきりした。

私は―― 外れたことがないという預言者から、はっきりと言われたのだ。「チゼータに行けば、無惨に殺される」と。
しかし誰に? 聞かされた瞬間、それを疑問に思ったが聞けなかった。預言者は、「死ぬ」ではなく「殺される」と言ったのだから。偶然の事故などによるものではなく、海に危害を加える相手がいるということだ。しかしチゼータには今、光とランティス、到着しているとすればクレフしかいないはずだ。海にとっての「敵」はいない中で、一体誰が。

夢のラストシーンで出てきた「クレフ」の存在を海はその時、はっきりと意識した。そんなことは、ありえない―― でも、海は落ちつきかけた鼓動がまた高く速く打ち始めるのを感じた。

「ウミ。こいつが、余計なことを言ったのか?」
マスターナの隣に座っていたタータが、心配そうに海に声をかけた。そして、ちらりとマスターナを見やった視線は、それとは打って変わって厳しいものだった。タータの手には縄が握られている。その先はマスターナの両手をきつく縛りつけていた。
「何もないって、タータ。なぁ、この縄外してや。これが従兄に対する仕打ちかぁ?」
「従兄でもなんでもないわ、あんたなんか! あのな、もしあんたが導師クレフの指輪を持ってへんかったら、セフィーロの海に放り込んどったで!」
「それ、二回目や……堪忍して。タトラ、あんたからも何か言うてやって」
「何も言うことはありません」
マスターナの隣に座ったタトラは、彼女には珍しく、つんと澄ましてそう言った。

海はベッドの上に置き直り、その場にいる人々を確認した。風、プレセア、カルディナ、タータ、タトラ、マスターナの6人がいた。その中にクレフがいないことが、分かってはいたものの胸に堪えた。
「クレフは……それに、他の人は?」
「クレフさんは、不在です。おそらくは、チゼータへ。光さんとランティスさんは、まだ戻られていません。イーグルさんが、なんとか二人にテレパシーでコンタクトが取れないか試みてくださっていますが、まだ応答はないとおっしゃっていました」
「……そう」
そして、風が続けた言葉に、海は驚いた。
「今回のオートザムの侵攻は食い止められたものの……今後の対応を決めなければなりません。フェリオとラファーガさん、イーグルさん、チゼータの王と王妃、ファーレンのご三方が今、話し合っておられます」
「え……侵攻!?」
「海さん、ご存じなかったんですか?」
海は、とっさに答えられなかった。確かに、空門に向かう途中で、外で異様な重低音と、呼びかわす人々の声を聞いた。しかし窓は高い位置にあって外を確認できなかったし、声の内容までは聞きとれていなかったのだ。そんな重大事が起こっていたなんて、まったく気がつかなかった。
「大丈夫です、海さん。もう決着はつき、セフィーロは勝利しました。双方に怪我人は出ましたが、命にかかわるほどではありません。あなたが気を失われていた、数時間の間の出来事です」
風は、海が疑問に思ったことを、先回りして教えてくれた。そして手短に、この数時間でセフィーロに起こったことを説明した。

「そして……オートザムの戦艦は、セフィーロに全て抑留してあります。乗組員は全員、魔法によってセフィーロ城の第五塔に身柄を移されています」
風は、そう締めくくった。
「……そう」
海は頷いたが、とっさにセフィーロ、ファーレン、オートザムの人々が見せた鮮やかな連携に驚いていた。オートザムがいつ攻めて来るか分からない状況は各々理解していたものの、具体的な戦術を練っていたわけではなかったはずだ。しかし、連携がどれかひとつ欠けていても、セフィーロは今頃オートザムに蹂躙されていたかもしれない。それを思って改めてぞっとした時、ドアが控えめにノックされた。

「どうぞ」
プレセアの言葉にドアを開けて入って来たのは、イーグルとアスコットだった。海は、イーグルの表情が、たった数時間の間にぐっと疲れているように見えて驚いた。考えてみれば、まだ覚醒してから間がないのだ。それなのにこの状況で、体力面・精神面とも消耗していて当然かもしれない。アスコットは、海が起き上がっているのを見るなり、心配そうに駆け寄ってきた。
「ウミ、大丈夫? うなされてたようだから、心配してたんだ」
「ん……ありがと。もう、大丈夫よ」
風の後ろにしゃがみこんだアスコットの頭を撫でた。いつもならアスコットは赤くなるところだが、今日は逆に海の手を取って下ろさせた。
「無理しないで、ゆっくり休んで。何かあったら、僕がウミを守るから」
その、何かを決意したようなきっぱりした言い方で、海には分かった。アスコットはきっと、海がクレフに寄せていた思いに何となくでも気づいている。クレフがいなくなり、人一倍海が傷ついていることも分かっている。
「……ありがとう、アスコット」
それ以上の言葉をアスコットに伝えられないことが、もどかしかった。

「会議は終わったの?」
椅子を薦めながら、プレセアがイーグルに尋ねた。イーグルは頷いた。
「ええ。ファーレンが軍艦を出すことになりました。もともと、ファーレンではそれを見越して準備を進めていたようですので、早ければ本日中にもファーレンを出航するでしょう」
え、とその場の全員の視線がイーグルに集まった。イーグルは掌を横に振った。
「オートザムを攻撃するためではありません、セフィーロに駐留し、防衛するためです。オートザムの軍艦は全部で十二艦です。八艦を確保した今でも、あと四艦が生きていて、いつ攻めてきてもおかしくない状況ですから。それを並行して、フェリオとラファーガ、それに僕の三人で、燃料が残っているオートザムの一艦に乗り込んでオートザムに向かい、大統領と交渉します。交渉が終わり次第、僕はFTOでチゼータへと向かいます」
「イーグル……大丈夫?」
海が聞くと、イーグルはにっこりと笑った。
「ウミは優しいですね。でも、僕は大丈夫です。……オートザムは僕の母国ですし。このような事態になって、申し訳ありません」
そう言ってイーグルは、その場にいる全員に頭を下げた。
「『イーグルの生まれ育った国なら、私は信じる』」
風が力強い口調でそう言った。全員の視線が集まると、風はにっこりと笑った。
「……光さんならきっと、こうおっしゃるはずですわ」
「……そうですね、彼女なら」
イーグルが視線を伏せるようにして、微笑んだ。

「イーグルの責任じゃない。それにさっきも、イーグルがいなければ死人が出ていたかもしれない」タータは首を横に振り、悔しそうに続けた。「チゼータの飛行艇が大量にセフィーロに逗留しているというのに。燃料さえあれば」
「動かせるのがFTOしかありませんからね、しかたないことです」イーグルは肩をすくめた。「ザズが、代替の燃料がセフィーロ内で確保できないか調査しています」

その時、カルディナが人目を避けるようにそっと立ち上がるのを、海は視界に捉えた。その表情には血の気がなく、いつも元気がいい彼女とは別人のようだった。プレセアが気遣わしげに立ち上がりかけたのを、掌で制する。そして力なく首を横に振ると、そっと部屋を出て行った。
「……カルディナ」
プレセアが、プレセアの後を追おうとして、ぎゅっと拳を握りしめた。ラファーガもオートザムに発つと聞いてショックを受けているのは間違いなかった。ただでさえ、カルディナは母国という大きな支えを失ったばかりなのだ。無理もない、と海は唇を噛んだ。
「……戦争は、嫌ね。戦う者も、帰りを待つほかない者も」
プレセアの言葉が、心に染みた。


***


今にも涙が零れ落ちそうに、大きな瞳をした少女だと、イーグルは海の顔を初めて見た時に思っていた。いつもどこか心配そうな影を湛えている。その憂いの原因が、クレフにあることは間違いなかった。心から微笑めば、彼女はどれほど美しいだろうと思う。笑顔が見たかった。

イーグルは、膝の上で両手の指を軽く交差させ、前かがみの体勢で目を閉じた。そして、意識を集中させる。自分の体の中にとどまっていた「心」が自分から離れ、宙を奔り、拡がっていくのをイメージした。

「魔法」を与えられた影響なのだろう。以前は分からなかった、人々の「気配」がぼんやりと感じられるようになっていた。自分に近づいてくる気配があること、それが悪意ある者なのか善意ある者なのか、更に集中すれば誰なのかすら「読む」ことができる。人々にはひとりひとり異なる気配があるということも、力を持って初めて理解する事ができた。

―― ? どういうことだ。
意識をセフィーロ城から更に広げようとして、イーグルはふと眉をひそめた。彼の意識は、セフィーロの第五塔の城門から出ようとしている、独りの男の存在を捉えていた。ヴォーグ・モーガン司令官に違いなかった。あの第五塔は、オートザムの軍人たちの身柄を移してから分かったことだが、人の「悪意」に反応する。セフィーロに対して悪意を持っている者は中に封じ込めようとする作用があるのだ。その場合は、塔の内部は自由に歩き回れても、城門から外に出ることはおろか、窓から指先を出すことすらできなかった。まるで塔全体が、セフィーロを絶対に傷つけさせない、というクレフの意志からできている生き物のようだった。

それなのに、その塔からよりにもよって、司令官が脱出するとは。その足取りは、イーグル達のいる中央塔に向いていた。悪意はないのだろうが、一体何の用があるというのだろう。後で彼から直接、意図を確かめなければなるまい。

モーガンのことは一旦意識から逸らし、心はいっさんにチゼータへと向かっていた。
―― ランティス。ヒカル……
クレフの「気配」は、彼が意図的に隠しているのか、一切把握できない。となれば追うべきはこの二人以外になかった。まだチゼータにいるのなら、確かめたいことがある。「心」は鷲のように翼を広げ、チゼータの荒野を疾風のように飛んでゆく。人の気配はまるでなく、もう滅びた国土なのだということを、否応なしに思い知らされる。二人がもうチゼータを発っているなら帰りを待つだけだが、イーグルには、二人がこの状態のチゼータから離れるとは思い難かった。

――「ル……ーグル……」
かすかに、はるか遠くから呼びかけてくる声を、イーグルはその時いきなりとらえた。耳に聞こえるかどうかの音量でも、イーグルには声の主が誰なのか反射的に分かった。
――「ランティス! 無事だったんですね」
やはり、チゼータにいたのか。ランティスの気配、そしてその傍にいるヒカルの気配を捉えた時、イーグルはすぐに異変に気付いた。

もう一人、その場にいる。
どうやら、三人とも高速で移動しているようだ。今のチゼータに、この二人のほかに一体誰がいるというのか。クレフではない、ということはすぐに分かった。明らかに異質だし、その上にもう一つの気配からは底知れぬ「悪意」が感じられた。悪意というよりも「憎悪」と呼んでもいいほどだった。

――「どうなっているのです。その場にいる『もう一人』は誰なんですか?」
――「……者が、我々の前に姿を……」
――「なんですか? 声が……」
テレパシーで何とか語りかけてこようとしているのが分かるが、集中が途切れているのか声はしょっちゅう切れそうになり、聞きとるのが精いっぱいだった。
――「死者が」
ランティスの声が、不意にはっきりと聞こえた。
――「……死者が、我々の前に現れた。アルシオーネ……導師クレフの弟子のひとりで、ザガートの配下だった者だ」
――「何ですって?」

イーグルは、ランティスの次の声に耳を澄ませながらも、考えを巡らせた。アルシオーネ、という名前は、クレフから聞かされたことがある。氷系の魔法を得手とし、精獣の扱いに長けたエメロード付の魔導師だったという。ザガートが内乱を起こした時には、ザガートに与し魔法騎士の敵となった。最後には、戦いの中で命を落としたと聞いていた。

そう、彼女はもう死んでいるはずなのだ。それなのに、チゼータにいるというのは、一体どういうことなのか。とある予感に、イーグルはぞくりとした。
――「ランティス、あなたのいる位置から『扉』は見えますか? 扉の色は」
――「『扉』は黒だ。導師からも同じ事を尋ねられた。どういうことだ?」
――「後で説明します。今は時間がない」
イーグルは慌ただしく考え続けた。『扉』が『黒』なら、まだ第一段階ということだ。第二段階では扉は『白』に変わり、この世にいる者が、扉を通してあの世に引きずり込まれる。そして第三段階になると『扉』は圧倒的に膨らみ、死者がこの世に逆流するとクレフは言っていた。それならば、現段階では、『扉』が原因でアルシオーネがこの世に蘇ったわけではない。

それならば―― イーグルは改めて、背筋が寒くなるのが分かった。自分が初めに抱いた予感が間違っていないことが、証明されてしまうのか。
――「イーグル」
彼の名を呼んだ、ランティスの声はかつて聞いたことがないほど苦しげだった。
――「アルシオーネが蘇った理由を、おまえは何と見る?」
――「……あなたも、知っているはずですよ、ランティス」
そう言いながらも、心の底では、そんな馬鹿なと自分自身が否定する声が聞こえる。しかし軍人としての経験を積んだイーグルには、自分の先入観は時として真実を知る邪魔にしかならないことを知っている。事実は、事実からしか導かれないというのに。
――「そんなはずはない……」
ランティスは、呻くように言った。
――「それならばなぜなのだ!? なぜ、アルシオーネはヒカルを殺そうとする。彼は、ヒカルに言っていたのだぞ。今、セフィーロに必要なのは『光』だと」
――「……ランティス」
――「これが……こんなことが、あの方の『意志』であるはずがないだろう、イーグル!」
血を流すような声に、イーグルはそれ以上、言葉を継ぐことができずに黙りこむほかなかった。他の選択肢はないのか。頭の中で必死に探すが、全て伸ばした手は空を切った。

移動していた気配が、突然静止した。距離が離れすぎていて追うことができないが、気配が乱れているのが分かる。戦闘しているのか? ランティスの声は途切れ、呼びかけにも返答しない。
――「イーグル」
不意に、ランティスの声が聞こえた。
――「見守っていてくれ。俺たちは、真実をこの目で確かめる。たとえ、それがどんなものであっても」


61 につづく

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