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レイアース二次小説置き場 (Last One)

「魔法騎士レイアース」クレフ中心の長編小説を置いてます。

2020.01.20
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2013.01.09
「愛する者を殺されても、相手を許せて……?」

本文は「つづきはこちら」からどうぞ。

――――――――――――――

頭の中がじわじわと、蝕まれていく感覚があった。今まで、自らの体を流れる血のように当然に思っていたことが、そうでないのかもしれないのだ。誰が味方で、誰が敵なのか。誰が生きていて、誰が死んだのか。自分の中にある「常識」が信じられない。恐ろしい――そうランティスは思った。戦いの中で、こんな感覚を覚えたのは過去になかった。

イーグルがこのタイミングで語りかけてきて良かった、と思った。彼はどんな事態にあっても、心の均衡を失わずにいられる男だ。軍人としての豊富な経験からというよりも、生粋の彼の気質だと思われた。今はもう話しかけてはこなかったが、彼の意識が、自分たちを見守っているのを感じる。イーグルのまなざしは、ランティスの意識を少しずつ、平静に近づけた。

隣にぴたりとつけている光の視線を感じた。
「……今の、イーグルか?」
「ああ。あの様子では、もう意識は醒めているのだろう」
「本当?」光は大きな眼を見開き、ランティスを見上げてきた。「よかった。会って話したいな、イーグルと」
「会えるさ」ランティスは微笑んだが、すぐに笑みを消して目の前の相手を見返した。「そのためには、今負けるわけにはいかない」
「……そうだね」
光は、唇を引き結んで、ランティスと同じ方向を見据えた。

アルシオーネは、地上から5メートルほどの岩の上に膝をつき、杖を手に二人を見下ろしていた。ランティスと何度も打ちあったために、その杖にはいくつも傷がついている。その額には汗が浮かんでいたが、疲れは見えなかった。周囲は乱雑に巨大な岩を積み上げたような地帯になっており、岩と岩の間に巨大な崖が姿を隠している。足を一歩踏み外せばただではすまない、危険な地形だった。
「……ごめんね」
光が、ゆっくりとアルシオーネに歩み寄った。左の手甲の宝玉が、赤く輝きだす。アルシオーネが眉を顰め、杖を構えなおした。
「確かに、ザガートを殺してしまったのは私だ。あなたには、私に復讐する権利がある」
「それなら……」
「それでも」
光の強い眼差しが、アルシオーネを正面から貫いた。
「待ってくれている人がいるから。私は今、ここで死ぬわけにはいかない」
宝玉の赤い輝きが最高潮に達し、その中からゆっくりと、巨大な剣の柄が現れた。光は左手で柄を掴むと、一気に抜きはなった。真紅の炎が辺りに散り、周囲は明るさを増した。

ランティスにとっても、その剣を見るのは三年前の戦い以来だった。その間全く使われていなかったはずだが、剣の力は失われるどころか、ますます増しているのを感じる。光の中で眠っていた剣は、彼女の成長とともにゆっくりと強くなっていったのだろう。
「……その剣で、ザガート様を」
剣の輝きに魅入られるように見下ろしていたアルシオーネが、ぽつりと言った。その視線は、ランティスに向けられた。
「どうしてなのです? なぜ、あなたは、そんなに平然としているのです? 己の兄を殺した女の隣で」
その言葉に込められた怒りが、光へのそれを凌駕しているようにさえ聞こえ、ランティスは返す言葉を失った。

「氷槍投射!」
アルシオーネが杖を前に構え、鋭く叫んだ。
「炎の矢!」
ほとんど同時に、光が剣先をアルシオーネに向ける。氷と炎の刃が互いを襲った。一瞬せめぎあい、炎が氷を打ち払う。氷が蒼い輝きを放ちながら砕け散り、周囲にもうもうと水蒸気が上がった。アルシオーネが舌を打ち、背後に飛び下がる。
「氷尖撃射!」
地上にいる光に続けざまに氷の飛礫を放った。しかし、飛礫が突き刺さった先にはもう、光の姿はなかった。アルシオーネが周囲を見まわした時、とん、と軽い音を立て、光がアルシオーネの真上に舞った。背後にある岩から岩へと乗り移り、一気に中空へと跳躍したのだ。まるで体重がないかのような身軽な身のこなしだった。
「……炎の矢!」
再び唱えた光の声に応え、何本もの炎がアルシオーネを襲う。アルシオーネはかわそうとしたが、いくつかが身を掠り、悲鳴とともに背後に転がった。

「ちっ……」
アルシオーネは一旦体勢を立て直そうとしたのだろう。しかし、飛び退こうとした時、背後にランティスが着地したのに気づいて、動きを止めた。前には光、後ろにはランティス。追い詰められたアルシオーネが、二人から距離を取り、杖を構えた。
「あきらめろ。おまえでは、俺たちには勝てない」
「……そうね」
アルシオーネの額が切れ、血が流れている。彼女はそれをぐい、と手の甲で拭った。そして杖を手に、とん、とは地を蹴る。一足飛びに、ランティスの懐に飛び込もうとした。ランティスは剣を振るい、振り下ろされた杖を打ち払う。
「退け! アルシオーネ。これ以上の戦いは無駄だ」
「お断りするわ。あなた。愛する者を殺されても、相手を許せて……?」
ちらり、とアルシオーネが、背後にいる光を見やった。その視線の意味が、ランティスにははっきりとわかった。アルシオーネは何を思ったのか、その時両方の口角を上げ、艶やかに笑った。その笑みが、ぞくりとするほど妖艶に見えた。
「……私を、馬鹿にしないでくださる?」
二人の体が飛び離れ、ランティスは剣を構えた。
「ランティス、私が……」
飛び込んできた光を、掌で制する。確かに、アルシオーネの言う通りだ、とランティスは光を見て思った。この娘と知り合う三年前までは考えられないことだったが、自分は確かに、光を愛している。もしも彼女の命が理不尽に奪われることがあれば、自分は復讐の鬼と化すだろう。

「……あの世に還れ、アルシオーネ。それしか、お前の安寧はない」
「そこの女の命を、一緒に連れて行くならば」
「そんなことは、絶対にさせない」
それ以上の言葉は、無用だった。同じ師のもとで、同じ教えを受けた弟子同士であっても、二人の心が交錯することはもう二度とないのだと思った。一瞬の沈黙のあと、ランティスとアルシオーネが同時に地面を蹴った。
「やめて!」
光の悲鳴が、その場に高く響いた。二人の体が交差し、金属音が高く強く鳴り渡る。その音の余韻が途切れた時、アルシオーネの体がゆっくりと傾いだ。そして、力を失い地面に倒れ伏した。その体が、あっという間に血にも似た色の炎に包まれる。
「……おまえは、見なくていい」
ランティスは光に歩み寄り、マントで彼女の視界を覆った。光は、目にいっぱいの涙を浮かべていた。

一体どうして、死んだはずのアルシオーネが再び現れたのか。イーグルの言葉が、頭をかき乱していた。その理由を、ランティスは知っているはずだとイーグルは言った。全く覚えがないと言えれば、どんなに楽だったかと思う。
「……今は、あの『扉』を破壊するのが先だ」
ランティスは、半ば自分に言い聞かせるためにそう言った。アルシオーネの復活の理由を推測できたところで、今は確認する術が無いのだ。それならば、それに心を煩わせるくらいなら、目の前にある『扉』の破壊に全力を上げるべきだ。

ランティスは、今やくっきりとその形を明らかにした、『扉』を見上げた。また大きくなっている、と思う。その色は、さきほどと変わらない黒だった。嫌な予感が、近づくたびに大きくなってくる。あれを破壊したら、精獣ですぐにチゼータからは一旦離れるべきだ、とランティスは判断していた。
「ランティス」
マントの下で、光がくぐもった声で呼んだ。もがくように、マントから顔を出そうとしている。
「なんだ?」
「ランティス」
二度目に彼を呼んだ光の声は、はっきりと恐怖をはらんでいた。
「……! 後ろだ!」
なにごとだ、と言う間もなかった。背中から脇腹にかけて、熱い何かが通り抜け、全身がしびれるような感覚が襲った。それが何か理解するよりも早く、ランティスは背後に向けて剣を振りおろしていた。黒い影が身軽に宙を舞い、その一撃をかわす。

「……!」
ランティスは、自分の背中から脇腹を貫いていた氷の矢を、歯を食いしばって引き抜いた。びしゃっ、と血の固まりが地面に落ちる。息を飲んだ光が、懐からハンカチを取りだした。そしていくつも細かく引き裂くと、その腰にぐるぐると巻きつけた。しかしその布は、あっという間に赤く染まった。ランティスが痛みをこらえて振り向くと、そこには、平然と佇むアルシオーネの姿があった。
「手加減したわね」
アルシオーネの脇腹には、ランティスが斬りつけた傷がくっきりと残っている。しかしそれは見る間に小さくなり、ランティスの目の前で霞のように掻き消えた。
「……傷が、消えた?」
ランティスを庇うように前に出た光も、唖然としている。
「ばかね。私はもう、一度死んだ身。この程度の傷で倒れるものですか」

「……なるほど。やはり、そうなのか」
「……ランティス。どういうことだ?」
光に聞かれたが、それを説明している時間はないように思えた。この脇腹の傷も、致命傷ではないが、すぐに血止めをしなければ出血多量で動けなくなるのは時間の問題だ。それまでに、アルシオーネとの決着をつけてしまわなければならない。
「ヒカル。アルシオーネを『殺す』ことはおそらく不可能だ。しかし、致命傷を負わせることでしばらく動きを止めることはできるはずだ」
光の視線を感じた。どうしてそんなことが分かるんだ、と思っているに違いなかった。しかし時間がないことは、光にもよく分かっているのだろう。何も聞かず、アルシオーネに剣を向けた。

頬に笑みを湛えながら二人を見返していたアルシオーネがびくりと痙攣するように動きを止めたのは、その時だった。まるで電流が流れたかのように突然身を震わせるのを、二人は理由が分からず見返した。
「あの方だわ」
びくり、と反射的にランティスの肩が動いた。アルシオーネの頬は紅潮し、身をよじるその全身から、歓喜が湧きあがるようだった。
「な……んだと?」
「待っていたのよ。きっと、来てくださると信じていたわ」
「どういうことだ。アルシオーネ……」
ランティスは、棒立ちになったまま、聞き返すことしかできなかった。アルシオーネはまるで酔ったような視線を、ランティスに向けた。そのまま、背後にふらふらと下がる。すぐ後ろは、崖になっていた。
「この時を、どれほど待ったことか」
ふっ、と全身から力が抜け、アルシオーネの体は、背中から崖下の闇へと吸い込まれた。それは、一瞬の出来事だった。

「ど……どういうことなんだ?」
光が、混乱しながらもランティスを支えながら、崖へと歩みよる。崖下は真っ暗で、アルシオーネの姿はおろか、何も見えなかった。どくん、と鼓動を聞いたような気がした。この世に新しく生まれおちる赤子を連想させるその鼓動に、背筋が寒くなる。
「―― 闇衝招撃」
静かな声が、闇から生まれた。崖下から迫って来た圧倒的な質量の「闇」が、一瞬で眼下に迫る。ランティスと光は互いに抱き合うように飛び退いた。
「い、今の魔法は」
光の声を、遠く感じた。耳鳴りが高く鳴り、聴覚を奪うかのようだった。そんなはずはない、と全身が拒絶反応を起こしている。その反面、心は命じていた。目の前に起きていることをしっかり見ろ。そうしなければ死ぬ、と。

「ランティス」
光が強く、黙ったままのランティスの腕を握った。
「逃げよう」
おおよそ、彼女らしからぬ言葉だった。しかし、その表情には恐怖だけではなく、ランティスを気遣う色が浮かんでいる。
「ヒカル、しかし」
「駄目だよ! こんなの。だって……」
そこまで言って、光は唐突に言葉を止めた。

崖下から、鎧が擦れ合う音と共に、ゆっくりと確かな足音が聞こえた。もう、逃げられない。それがはっきりと分かるような、相手を絶望に叩きこむような「音」だった。

ゆっくりと姿を現した男に、ランティスは思わず、呻いた。
「なぜだ……」
もう二度と会わないと思っていた。自然の理のなかでは、それが当然だったというのに――
「もう、死んだはずだ……なぜなのだ、ザガート!」

62 につづく

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